認知症治療に光明(上頚神経節ブロック治療実績)

はじめに

認知症の根本的な原因は脳への血流不足(血管障害)です。よって、脳の血流を回復させることができるのであれば、認知症という病気は制覇できると言えるでしょう。また、ごく最近の研究で脳には神経芽細胞が大人にでも存在しており、脳神経細胞は再生することがわかってきました。つまり、血行を改善させることができれば、一度壊死した脳神経細胞でさえ再生の可能性があり、理論上は進行した認知症も改善させることができると言えるでしょう。

今回私は脳の動脈を拡張させることができる頚部交感神経節ブロックを認知症患者に行い、MMSE(ミニメンタルステート検査)で19点を24点まで回復させた例を経験しましたので報告します。超高齢化社会における世界中の困難の一つである認知症に対し、病初期に頚部交感神経節ブロックで治療を開始すれば抑止できる可能性があり大変期待されるところです。


症例 77歳女性

現病歴

数年前から徐々に道に迷いやすい、同じ言動を繰り返すなど認知症と思われる症状が出現。2015.11.9 息子が心配し77歳の母親を連れて私の外来を初診。

既往歴

網膜色素変性症 視神経乳頭浮腫あり、1年に3~4回ケナコルト注射を行っている

症状は目がかすんで見えにくい

現症

朝ごはんは覚えている 100-7=93 OK 生年月日OK 新しい場所は迷いやすい 3分前の同じことを言ったり聞いたり


治療

2週間に1回の上頚神経節ブロック(以下SCGB)を開始する。

当初、1%リドカイン2㏄をC2/3の高さの上頚神経節(頸動脈と頸静脈の間に存在する)をめがけてブラインドで左右両側にブロックする。


経過

治療後に視野が広がり、かすみ目が改善される 認知症は進まず2016.9の段階でMMSE22点

同様に2週間に1回のSCGBを行うが2017.3 MMSE 19点となり認知症が-3点分進行


症状の悪化の具体例

②「結婚させなきゃ」という話を1日に30回ぐらい言うようになった

③「妹から電話がかかってきた」という作り話

④「わたしのせいで・・・」と号泣するようになった


半年で-3点となったことに動揺しネットを検索

「MMSEでは23点が認知症かどうかの基準だが、アルツハイマーは治療しないと1年間に 3点下がる。例えば、20点の方は3年間で11点になる。10点は尿失禁が始まる平均値なので尿失禁が始まる可能性がある。早期に発見してアリセプトを投与すると、最初の2年間は1点程度しか下がらない。」鳥羽研二 独立行政法人国立長寿医療研究センター病院長 の内容を読み非常に動揺し、担当医に相談してアリセプト服用を開始する。 2017.5.末 よりアリセプト服用開始。


SCGB治療強化

2017.6より 1%→2%キシロカイン(薬液濃度を倍)にし、超音波診断装置を用い精密に頚部交感神経節を狙うことを開始。

上頚神経節ブロックを精密に行うと反回神経麻痺→嗄声・呼吸困難・むせるなどが起こるため、高齢者に対してはこの副作用を抑えるために敢えて神経節を直接狙わない。しかし、認知症が進行したため、副作用には目をつぶり、精密に直接的に狙うことを開始した。毎回反回神経麻痺が出現するため、ブロック後は必ずむせるようになったが、辛抱してもらう。


SCGB治療強化の結果

・日時(各1点):時間の見当識を評価

今年は何年ですか。

いまの季節は何ですか。

今日は何曜日ですか。

今日は何月ですか。

今日は何日ですか。


・現在地(各1点):場所の見当識を評価

ここは何県ですか。

ここは何市ですか。

ここは何病院ですか。

ここは何階ですか。

ここは何地方ですか。


の質問を息子さんが3月から毎朝患者にこれらを出題。2017.5月末までは1問もできない状態だったが、5月末にアリセプトを開始1週間後くらいに「今年は何年ですか。」の質問のみ「平成29年」と答えられるようになる。


2017.6末 治験の誘い

物忘れ外来の先生より「アデュカヌマブ」という新薬の治験の誘いあり。しかし、治験を受けるにはMMSEで24点以上を獲得しなければならない。


強化した上頚神経節ブロック注射を開始数回後から、「今は何月ですか。」の問いに、以前は「11月」などと大きくはずれていたのに、「5月…じゃなかった6月!」と正確に答えられるようになる。

2017.8月初旬にはさらに「今は梅雨」「東京都」「〇〇市」「〇〇病院」「2階」「関東地方」とすらすら答えられるようになる。

また同じ話は1日30回→1回に減り、作話をしなくなり、感情失禁は週に1回に減る。


2017.8.23 治療は大成功

アルツハイマー型認知症の治験(治験薬:アデュカヌマブ)のための1次検査が行われ

(MMSE)30点満点中24点以上必要という条件を見事にクリア、その後の別の2種類の知能検査もクリア。短期記憶MMSE19点→24点以上に数か月で改善し、感情失禁などその他の症状も劇的に改善した。


既往に網膜色素変性症があり、視神経乳頭浮腫があり、眼科で定期的にケナコルトの眼内注射を受けている(軽症ではない)。症状は視野がぼやけて見える。進行すると視野が狭くなり、視力を失うこともあるという難病であるが、上頚神経節ブロックをすると直ちに視野がクリアになる(これは治療当初から)。そして強化したブロックを開始して以来、視力は落ちるどころか向上した。視野の狭さを訴えることもなくなり、現時点ではブロックをしていない時でさえ視野がクリアになった。眼科の定期検診では「不思議なことに乳頭浮腫が改善しています」と言われ、眼内注射は中止となった。


考察

2017.3にMMSE19点が2017.8.23.には24点と認知症の症状が劇的に改善しました。この改善の要因として5月末からのアリセプトの開始が考えられますが、アリセプト単独でここまでの劇的な改善はあり得ないため、6月から行った上頚神経節ブロックの強化がこの改善に大きく寄与していると思われます。さらに、視野狭窄や視神経乳頭浮腫も治療が不要なまでに改善していることから、これがアリセプトの効果ではないことは明らかであり、この二つから、上頚神経節ブロックが大きく寄与していると思われます。


このように、SCGBは認知症に劇的な効果があるものの、強化前のブロックでは進行を抑止できなかったことから、「極めて精密に的確に狙うことができなければその効果は発揮されにくい」と思われます。つまり、認知症に効果を発揮させようと思えばSCGBは技術的に難しく施術には訓練を要するでしょう。


さらに、通常は頚部交感神経節ブロックを両側に行うことは禁忌とされるため、このリスクを避けるため、安全のガイドラインを死守必要があり、また、相手は高齢者で合併症も多いことから「医師ならば誰もがたやすく行える」ものではありません。今後私は後輩たちを指導しながら、この技術を広めていきたいと思っています。


奇蹟的な回復の裏に心のフォロー

2017.5月には患者と介護者伴に精神的に非常に落ち込んでおり、認知症の進行に対して深刻に悩んでいました。いわゆる「心の病」も認知症の進行を早めてしまうと思われ、患者・介護者ともに心のケアが必要です。

このため、当院では秘書が心のケアを担当し、ご通院中もカウンセリングしながらより良いご回復への道を指南しつつ、患者さまだけでなく介護者にも加持祈禱を行っていただく(息子さんのご希望もあり8/13にまずは息子さんから本格的ご加持実施)フォローをさせていただきました。心を支えることが回復にどこまで寄与しているのかはわかりませんが、私たちは本当の意味での心のケアも考えながら治療成績を高めていく所存です。非科学的ではありますが、心のケアも治療には重要であると思います。

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