脊髄くも膜下麻酔時の薬剤神経内注入による馬尾症候群発症の脅威

2017年治療成績

はじめに

脊髄くも膜下麻酔では局所麻酔薬(リドカイン、ブピバカイン、テトラカインなど)の神経毒により馬尾症候群を発症する可能性が1万~5万分の1の確率で起こりうることが言われており(日本麻酔科学会HPより)、その症例報告が散見されるようになっていますが、その原因は医療過誤であるのか、神経毒により偶発的に起こる事故なのかあいまいにされ、かつ、自然治癒する症例と永続する症例を区別することなく、後遺症を残す実数を明示していない現実があります(2017.7.23現在)。


こうした状況の中、脊髄くも膜下麻酔では神経内注入を行ってしまった場合、重大な後遺症を残す馬尾神経障害が必発する可能性があることがささやかれているというのに、その可能性が一般医師や市民に伝えられていません。医療過誤は神経内注入を行わないように情報を拡散させ、医師を教育することで防ぐことができます。しかし、現時点でこの情報は医師たちに共有されておらず、危険な状況にあると思われます。


1)脊髄麻酔で薬量が2割多いと発症する馬尾症候群

馬尾症候群の症状は、直腸膀胱障害、会陰部の知覚障害、下肢の運動・知覚障害などです。脊髄くも膜下麻酔を行った患者に馬尾症候群が発症する可能性があることは1991年Rigler MLらの報告がはじまりで、比較的新しい報告です。


2001年Viannaらの報告では9人の脊髄くも膜下麻酔の症例中6例に馬尾症候群が発症し20年間後遺症が不変のままでした。この原因として薬剤(テトラカイン)の製造ミスと結論付けられており、1アンプル20㎎のはずが24㎎となっていたとのことです。この報告から脊髄くも膜下麻酔では薬剤の濃度や量と神経障害には密接な関連性があり、体質に関わらず、本人の持つ合併症とも関係なく、麻酔薬は許容量を超えると誰にでも後遺症になる重大な神経障害を起こすことがあることが示されました。


この報告で重要なことは薬剤の量と濃度がたったの2割増しというだけで9名中6例に後遺症になるような重大な障害が起こったことです。「局所麻酔薬の神経毒性は可逆性で安全」という神話が崩れました。

問題はたったの2割増しというところにあります。5倍や10倍というのなら理解できますが、2割増しでこのようなことが起こるのであれば、この薬剤はそもそも「障害を残すかどうかのぎりぎりラインで認可されていたことになる」わけであり、薬剤の安全性という意味で問題点があります。


薬量がわずか2割増えただけで、普通の患者に永続的な後遺症を残すという報告がなされているわけですから、もしも患者が小児であったり、合併症を持つ者であったりすれば、正常量であったとしても高確率で障害が起こる可能性があると考えます。小児に1㏄で麻酔するところを、誤って1.2㏄にするだけで重大な神経損傷を残すようであれば事態を重く見る必要があります。


2)脊髄麻酔の体位で起こる一過性の馬尾症候群

1993年にShnider Mらによって脊髄麻酔下に砕石位で手術を受けた4名に「臀部、大腿、ふくらはぎの外側に放散する痛みや異常感覚が麻酔後24時間以内に発症、数日~1週間以内に回復」する症状が報告されました。一過性であることから問題提起されることは少ないでしょう。しかし、体位により発生するということは、馬尾神経が体位により張力を30分以上受けると、麻酔薬の毒性によって神経障害が起こることがあることを念頭に置くことは重要です。これは張力に限らず、神経に血行不良や炎症、脊柱管狭窄による圧迫などがあれば、そこに通常量の麻酔薬を注入すると、その神経毒により発症する可能性があることを意味しています。ただし、一過性であり、臨床的には問題にならないことを強調しておきます。


3)脊髄麻酔中の手技(神経外傷・神経内注入)で起こる馬尾症候群

Auroy Yらの報告によると、

A)脊髄麻酔後に末梢神経障害発生が9例、馬尾症候群発生が3例で合計12例でした。

B)12例中 9例は穿刺中に痛みも感覚異常も認められませんでした(すべて3週間以内に完全に回復)。この 9例のうち5人が5%リドカインを使用。

C)12例中3例は穿刺中に感覚異常を呈しました(ブピバカイン使用)。この3例全てに永続的な神経障害が残りました。

D)脊髄麻酔40460例において麻酔後に34例の神経障害が発生し、その3分の2にあたる21例は穿刺中に感覚異常がありました。3分の1にあたる12例は穿刺中に痛みも感覚異常も認められませんでしたが75%の症例が5%(高濃度)リドカインを使用していました。


脊髄麻酔後の永続的神経障害の発生頻度

Horiocker TTらの1997年の報告によると脊髄麻酔を行った4767例中、穿刺時に異常感覚を生じた例は298例(6.3%)。そのうち6名が永続的な神経障害を伴う神経損傷の発生したとあります。つまり1万人の脊髄麻酔で12人の永続的な神経障害が起こることを述べており決して少なくありません。


永続的な神経障害を起こす例、起こさない例

上の論文をまとめたものが下の表です。

永続的神経症を起こした例 一過性のため回復した症例
原因:薬量1.2倍 Viannaらの報告 原因:砕石位 Shnider Mらの報告
原因:手技的 Auroy Yらの報告 原因:高濃度 Auroy Yらの報告
原因:手技的 Horiocker TTらの報告

薬量1.2倍:製薬会社の製造ミス

砕石位:マホメット体位と呼ばれるイスラム教徒の拝礼の姿勢

手技的:穿刺時または注入時に患者が異常感覚を訴えた

高濃度:5%リドカインが使用された


上記の表から脊髄麻酔時の神経学的合併症には次のような結論が導き出されます。

  1. 通常濃度、通常量の麻酔薬での神経障害の報告は少なく、安全な使用量を超えない範囲の麻酔薬の神経毒では大規模な調査においても永続的な神経障害は起こっていない
  2. 安全量を超えた薬剤でのみ永続的神経障害が発生しているが、通常使われている量での局所麻酔では永続的神経障害の発生がない
  3. 通常の脊髄麻酔(製造ミスを除く)で永続的神経障害が発生しているのは、全例で手技的なミス(馬尾を刺す・馬尾神経内注入)が関与している。
  4. 高濃度の麻酔薬を使わず、通常使用の麻酔薬で穿刺時の異常感覚もないにもかかわらず永続的神経障害が発生する確率は、恐らくありえないレベルの低さであり、そういう例は患者の身体的な特殊な事情があると思われる。それは麻酔薬の神経毒性に依存しているのではなく、肥満・糖尿などの既往に依存していると思われる。

局所麻酔薬の神経毒性で永続的神経障害発生はほぼあり得ない

海外の大規模な脊髄くも膜下麻酔の合併症調査の結果、上記1~4の結論が導き出されます。つまり、「局麻剤が通常量で使用され、患者に特記すべき持病やアレルギーがなく、通常の体位で、ミスなく脊髄麻酔が行われた」場合において、永続的な神経障害が発生したという報告は私の調べた範囲では存在していません。


「局麻薬の神経毒性が原因で永続的神経障害が発生する」=「通常量、健全な患者、通常体位、正確な脊髄麻酔で行ったにもかかわらず永続的な神経障害が発生した」ということになりますので、そのような症例は私の調べた範囲ではありませんでした。

万一、そのような症例があったとしても、「患者に穿刺時に異常感覚があったにもかかわらずそれを認識できなかった」場合であると推測します。

痛みを誇張して表現する患者の場合、針が皮膚を通過するだけで過剰に反応しますので、穿刺時に異常感覚があったとしても、それを正確に認識することが不可能な場合があると思われるからです。


海外の文献を分析しますと、永続的な神経障害発生の背景にはほぼ必ず脊髄麻酔時に神経に針を刺す、または針を刺した上で薬剤を注入するという医療過誤が発生しており、神経毒が主原因となって永続的な神経障害が起こることはほぼあり得ないと思われます。この見解は私の個人意見ではないという証拠を以下に挙げます。


麻酔科医たちの率直な見解

「麻酔科トラブルシューティングAtoZ:高崎眞弓ら著」では「なお、穿刺ではなく局所麻薬の注入の際に痛みを訴えた例では、神経組織内への注入を生じた可能性が高い。直ちに注入をやめ、穿刺針を抜去する。残念ながらほぼ確実に神経障害を生じる」p.538。


「麻酔科医のための周術期危機管理と合併症への対応:横山正尚ら」では「穿刺時の放散痛のみでは一過性で神経損傷は軽いが、その後に麻酔薬注入で痛みが出た場合は(神経内注入を意味する)長期にわたり神経障害となる可能性が高い」p.238。

というように私と同じ見解を示す麻酔科の教授たちが少なくないと思われます。


麻酔科学会の見解

麻酔科学会が公表している脊髄くも膜下麻酔の合併症は以下のようです。

馬尾症候群・一過性神経症状(神経根刺激)

脊髄は腰椎上部までで、それより下の脊柱の中は馬尾といい、細い神経が縦に走っています。脊髄くも膜下麻酔は馬尾の部分に麻酔薬をいれるので、通常、太い脊髄は傷害を受けません。しかし、1万人から5万人に1人程度の頻度で、下半身の知覚異常、運動障害、膀胱直腸障害など(馬尾症候群)を生じることがあります。脚の痛みや知覚異常は、通常、24~72時間以内に回復します。(一過性神経症状)が、中には症状が長期間持続する場合もあります。


通常は回復。中には○○の場合もあります」という書き方は○○が起こり得る確率がマレな場合に使う表現です。マレとは統計学的には5%以下に起こることを意味します。よって仮に5%として計算すると、日本麻酔科学会の見解では「脊髄麻酔後に一過性神経障害の起こる頻度は1万~5万分の1、長期神経障害が起こる頻度は20万~100万分の1」と発表していることになります。以下の表に海外文献のデータと日本麻酔科学会の見解の相違をまとめておきます。

日本麻酔科学会 海外の文献 最大格差
後遺症の表現 長期間 永続的
一過性の頻度 1万~5万分の1 1万分の8 40倍
一過性の期間 3日以内 3週間以内 7倍
永続的障害の頻度 20万~100万分の1 1.3万分の1、1万分の12 1200倍
針刺し外傷の頻度 記載なし 6%
神経内注入の頻度 記載なし 8000分の1

医療過誤の実態を暴露することは社会に混乱を巻き起こすおそれがありますので、興味ある者が上記の数字を心にとめておけばよいでしょう。しかしながら外科医は最低でも脊髄麻酔では公表されている合併症の数字は氷山の一角であり、実際は馬尾神経内注入を行うとほぼ確実に永続的な神経障害が起こることを知っておかなければ、医師が告訴される側に立ってしまいます。こうした実態は一部の麻酔科医のみが知る「落とし穴」です。Horiocker TTらの報告によると、こうした医療過誤が起こる確率は8000分の1という高い確率です。知らなかったでは済まされません。外科医は脊髄麻酔に不慣れであることが多いと思われますので我が身の危険と知り、十分に注意しなければなりません。


医療過誤がもみ消される実態

脊髄麻酔の際に患者が異常感覚を訴えた場合、一過性の神経障害が起こる確率は低くなく、神経内注入をしてしまうとほぼ確実に永続的な神経障害を残してしまう可能性があることを全ての医師の共有知識として普及させなければなりません。


医療過誤であれば保険会社から慰謝料が支払われますので被害者が少しは救われます。医師のふところも痛みません。しかしながら、PMDA(医薬品医療機器総合機構)によって「薬害」と認定されてしまいますと、一連の事故は医療過誤ではないとされ、被害者は十数万円の見舞金しかもらえず、訴訟を起こすことさえも封じられてしまいます。


これは事実上、医療過誤のもみ消しとなり、被害者の恨みは一生、脊髄麻酔を行った医師や医師をかばった病院に対して向けられ続けます。恨み続けられる医師も恨み続ける患者も共に不幸な人生を送ります。それよりも医療過誤であることを認めて謝罪し、被害者と和解したほうが医師と被害者の両者ともに幸せになれる道であることを断言します。


脊髄麻酔後の後遺症として足に力が入らないという状況が一生続けば、どれほど悔しいことか少し想像してみてください。走れない、重いものは持てない、スポーツはできない、山にも登れない・・・そういう人生にされた場合、慰謝料はいくらが妥当かを少しだけ考えてみてください。PMDAによって十数万円という金額をはじき出された場合、おそらく恨みは一生消えません。あまりにも残酷な話です。PMDAによる薬害認定は被害者の人生を引き裂きます。加害者の医師は胸をなでおろすと思いますが、真実はそうではないと思います。一生恨まれ続けていることによる因果は巡ってくると思います(科学的ではありませんが)。


PMDAの誤認定

可能であればPMDAにこれまで認定した脊髄麻酔後の神経障害の件数を公表していただければとてもありがたい話です。Auroy Yらの報告によると、後遺症が残った場合、その全例で穿刺時に異常感覚が生じており、「薬剤の神経毒ではなく医療過誤によって起こった」ことが言われています。脊髄麻酔時に真に薬剤の神経毒のみの理由で後遺症が出現した例は一例も報告されていない現状を考えますと、これまでPMDAが認定してきた全ての症例が誤認定である可能性も否定できません。その誤認定の数だけ、医師と被害者の人生を引き裂いてきたと思われ、その遺恨を考えますと一刻も早い対処をお願いしたいところです。


世界レベルの隠ぺいであり誰も悪くありません

海外では脊髄麻酔時の重大な合併症の調査が行われ、その実態が報告されて20年近く経ちますが、薬害ではなく人為的に後遺症が発生することは未だに伏せられたままであると感じます。一部の麻酔科の教授たちは、しっかりと著書の中で神経内注入を行うとほぼ確実に後遺症が出ることを伝えていますが、その事実はPMDAさえ認識していないことから、広まっていないことがわかります。


彼らの著書を読んだ麻酔科医のみが手技ミスで永続的な神経障害が出ることを知るのみであり、脊髄麻酔を行うことがある外科医たちにこの事実は周知されていません。

医療過誤は率先して公表する者がいないせいです。さらに言うと、海外の勇気ある麻酔科医が全力を尽くして医療過誤を報告したにもかかわらず、20年間も「原因をあいまい」にされ続けています。


これは世界レベルの消極的な隠ぺいです。よって、厚生労働省にもPMDAにも麻酔科学会にも施術した医師にもその責任がありません。責任は世界に存在するからです。ただただ、隠ぺいを続ければ被害者は毎年一定数ずつ増えていくだけです。どうか、麻酔科の先生方! 勇気をもって真実を公表し、日本での正しい実態調査を行っていただきたいと願っています。なぜなら、脊髄麻酔は多くの人が一生のうちに一度は経験することがある麻酔だからです。8000分の1に起こるのであれば大変なことです。ことの重大さを理解していただければありがたいです。


脊髄麻酔中の注射手技による馬尾神経障害が「薬剤神経毒が原因」と誤判断された一例

症例 49歳女性

既往歴

H8年に帝王切開。H26年に子宮頸がんの手術で脊髄麻酔(0.5%マーカイン使用)を受けるが異常なし H28年2月 全麻下に縦隔腫瘍・の手術を受ける(持続硬膜外麻酔併用)

現病歴

以前から左膝外側に痛みがあり、整形外科で左膝外側円盤状半月板を指摘されており手術目的でH28年6月入院となる。入院翌日、膝関節鏡目的に脊髄くも膜下麻酔を受ける。その際L2/3より23Gルンバール針を用い0.5%マーカイン高比重液2.2㏄を受けたが、その際、以下のような現象が起こった。


ルンバール針が進み脊髄に達したと思われた時に激痛が刺入部に出現。その数秒後に体が反射的に勝手によじれて飛び上ってしまう衝撃があり、痛みが腰部仙骨部全体に瞬間的に走った。その後痛みは消え3分間左側臥位になり、その後仰臥位に体位を変えて手術を開始。手術は特に問題なく39分で終了。しかし手術翌日左下肢(足関節・足趾関節)がほとんど動かない、また異常感覚に気づく。


現症

左足関節:伸展・屈曲 MMT3~4 左足趾関節:伸展・屈曲 MMT3~4

左L5,S1-5領域の異常知覚 左下肢荷重時に疼痛 長時間歩行不可 膀胱直腸障害として突然の尿意と失禁

腰MRI:L4/5正中にprotrusion typeのヘルニアのみ 他の所見なし

腓骨神経・脛骨神経の神経伝導速度に左右差なし


診断名:以上より医原性馬尾症候群と診断され 身体障害者4級に相応

PMDAに麻酔薬の神経毒性による馬尾症候群と認定され約12万円が振り込まれる予定


消極的な隠ぺいが明らかにされる経緯

今回の私の脊髄麻酔後の合併症の調査は上記の被害者からの投稿がきっかけです。私は神経ブロックを日常に行う医師であり、合併症の実態を独自に調べなければ「わが身が危ない」と考えたために積極的に調査を始めました。


世界レベルで隠ぺいされているものには、隠ぺいされる理由があり、それが明るみになれば西洋医学の信頼性自体を失墜させるがゆえに明るみにされません。しかしながら、実態を知らなければ、明日は私が加害者になっています。そして被害者は莫大な遺恨を生みます。


今回の論文は被害者の方が必死に集めた資料を分析したものであり、被害者の悔しさがいかに莫大であるかがわかります。その悔しさ・恨みが結局私を動かしたと言えます。


麻酔科のハンドブックには本症例のような脊髄麻酔の合併症のことが書かれ、「神経内注入を絶対にしてはいけない」と警告されていますが、それを認識している麻酔科医が多くないことが伺えます。例えば「かけだし麻酔女医の忘備録http://masuiii.com/archives/833」では、なぜ学会のホームページに載せていないのでしょうかと疑問をなげかけています。


また麻酔科専門医試験の口頭試問に「脊髄くも膜下麻酔で手術後の神経障害の考えられる原因を列挙してください。」という質問がありますが、その原因として神経内注入としっかり回答できる麻酔医は多くないと思われます。


このような状況をできるだけ早く打開しなければ被害者は増える一方です。それよりも、このような合併症を医師が知らされていないことに恐怖を覚えてしまいます。私は患者になりたくない・・・脊髄麻酔を受けたくない・・・正直にそう思います。麻酔をする医師がそれを知らないことは恐ろしすぎます。知らなければどんな名医であっても偶発的に合併症を一定確率で起こしてしまう可能性があるからです。


脊髄くも膜下麻酔時の対麻痺、その他の原因

ついでではありますが、脊髄麻酔時に脊髄の栄養血管を損傷し対麻痺を発生させるリスクがあることも赤石ら(日臨麻会誌Vol.71008,2011)により報告されています。馬尾を栄養する大根動脈がL3~5レベルで脊髄に入ってくる例が0.5%の確率で日本人に存在し、脊髄麻酔時にこれを損傷すると対麻痺が起こることがあるという報告です。これも医療過誤の一種であるがゆえになかなか周知されない運命にあると思われます。


神経根ブロックでの神経障害例

神経根ブロックでは神経内注入が原則です。脊髄麻酔時の神経内注入では「ほぼ確実に神経障害を残す」と言われるわけですから、神経根ブロックを行えば、「毎回被害者が出現してしまう・・・」という恐怖と不安がよぎります。

以下に上記Auroy Yの報告を掲載します。

脊髄麻酔(40640例) 末梢神経ブロック(21278例)
神経損傷 24(5.9) 4(1.9)
神経根障害 19(4.7) 4(1.9)
馬尾症候群 5(1.2) 0
対麻痺 0 0

( )内の数字は10000人あたりの発生数

このデータは一過性のものと永続性のものが混同されており、臨床上問題になる永続性神経損傷の実数が不明ですが、一応の合併症の目安になります。


仮にHoriocker TTの報告にあるように6%に馬尾への針刺しが起こるとします。すると脊髄麻酔40640例中244例に針刺し事故が起こっていると推定されます。神経障害の起こる脊髄麻酔のうち3分の2が異常感覚を伴うという報告より上記脊髄麻酔後の神経損傷48例のうち32例が異常感覚があると推定します。


この二つより、脊髄麻酔では244分の32という確率(およそ8分の1)で「針を刺す・または注入する」という行為で神経障害が発生すると推定されます。ただし、そのほとんどが一過性で問題にはならず、しかしながら、そこで薬剤を注入すれば100%に近い確率で永続的な神経障害が起こると考えられています。末梢神経ブロックでの神経障害発生頻度が1万分の3.8であることと比較すると、神経内注入で障害が起こる確率は

脊髄麻酔:末梢神経麻酔=100%:0.04%となり、発生確率は2500倍の差となります。

同じ神経内注入であるにもかかわらず2500倍もの発生率の差が出る理由は神経周膜の強さによると思われます。脊髄内の馬尾は丈夫な神経周膜が存在しないため、注入圧、刺入の外傷などに脆弱。対して末梢神経では神経周膜が頑強であるため神経内注入を行っても神経障害が発生しにくいと思われます。


この考察をさらに発展させると次のような推測が成り立ちます。

「脊髄麻酔後に神経障害が起こる原因として、局麻薬の神経毒性が問題になることはほとんどなく、実際は刺入外傷や注入圧外傷という物理的な要因が主である」

局麻薬の毒性で神経障害が出るとするのであれば、脊髄麻酔と末梢神経麻酔の比較において、2500倍もの発生頻度の差が出ることは考えられないからです。


この考察を真摯にとらえれば、現在PMDAが認定している局麻薬の神経毒性による神経障害のほとんどは見直しが必要という結論に至ります。実際は刺入の外傷や注入圧による損傷で発生している可能性(医療過誤が原因)が高いとなるでしょう。


当サイトに投稿された神経障害の例

Auroy Yらの報告では末梢神経ブロックで馬尾症候群の発生は0でしたが、おそらく真実は0ではないと思われる例です。


例1

「L5神経根ブロックによる、施行前には無かった臀部の強い違和感やだるさが続いています。また、便意がなく便秘が続いています。さらにEDと思われる勃起障害も有るように思われます。ブロック直後から、このような状態で大変不安に思っております。主治医や他の整形外科医もあり得ないとの見解です。」


例2

「神経根ブロック注射後それまでに無かった左足に痺れが少し残りかれこれ一年以上が経ちますがいっこうに直りません。特に指先足裏がピリピリピリする感じです。何回も刺して探したせいか神経根ブロック注射した時の刺した部分もずっと違和感が残っている状況です。あぐらをかくと左足がすぐに痺れる状況です。病院で見てもらいましたが薬とか、痩せるとか、でまったく改善されません。一生このままなのでしょうか?」


例3

母が神経根ブロック注射を打ったのですが痛みが増して眠れなくなりました。 多少痛みを和らげる方法はないでしょうか?


例4

腰部の神経根ブロックなのですが「痺れや頭痛が良くなるといいね」と会話しながら診察台で、お腹の下に座布団を敷きブロック注射を始めました。針を刺すまでは、普通に会話をしていたのですが薬液が入ってきたのか? 胃が熱くなり激痛に それが下がるような感じで腸辺りが激痛に。そのあと両脇腹が激痛に。先生は「足に来んね」って言ってましたので 足にビビッと少し来た時に「来ました」と返事をしたら注射が終わりました。 直ぐに起き上がりましたが、座っているのもダメなぐらいの腹痛 そのあと横に寝て直ぐに嘔吐してしまい看護婦さんが、血圧を計ったり 採血したりしながら お腹を押さえ転がり右に左になり4日間点滴していました。


例5

神経根ブロック後、足のモモ内側斜め上が縦に物凄く痛く一向に治りません。ここは以前から痛みがあり、1年前から感じ無くなつていたのですが2回目ブロック後、特に体を動かした後に酷くなるようになりました。


おわりに

麻酔が安全であるという神話は崩れています。よって手術は安全であるという盲信も正しくはありません。リスクに遭わないためには可能な限り手術を避ける、ブロックを避ける必要があります。西洋医学では「何でもかんでも手術で治す」という傾向にありますので「麻酔は危険」という主張は反社会的に扱われがちです。手術は今や国家を支える産業化しており「麻酔が決して安全ではない事実」は隠ぺいされる傾向にあります。各自が真実を見る目を持たなければ、医療過誤に遭遇するリスクが高まります。どうかご注意ください。そして私のようなブロックを多用する医師たちへの忠告として、安全に関するデータは他人の報告を信用せず、自分の体でリスクを察知する感性を磨いていただきたいと思います。落とし穴はそこらじゅうにあり私でさえ穴に落ちる可能性があります。ブロックをする際にはいくら注意してもし過ぎることはないと肝に銘じておきましょう。神経ブロックで被害に遭われた方々の投稿をお待ちしております。

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