硬膜外ブロック後の遅発性脊髄麻酔に要注意

2017年治療成績

はじめに

硬膜外ブロック後、30分以上経過し、それまでは麻酔にかかったような兆候が全くなかったにもかかわらず、患者が動き出すといきなり脊髄麻酔がかかってしまって動けなくなり、不幸な場合には循環ショックにより意識消失となる例があります。これは単なる硬膜穿破の話ではなく、硬膜外ブロックが成功しているにもかかわらず、薬剤の拡散経路の癒着などの問題で起こる例であると推測しています。医師側の医療技術が介入できない不慮の脊髄麻酔なのでこういう事例があることを認知しておかなければなりません。遅発性脊髄麻酔の概念は現医学にはなく、急激な麻痺や意識消失が起こったとしてもそれは脊髄麻酔が原因とは推測されず、発作として無視されます。一刻も早く一般知識として遅発性脊髄麻酔があることを知っていただくためにここに提示させていただきます。


遅発性脊髄麻酔の3例

  • 80歳女性 腰部硬膜外ブロック(L3/4より0.5%キシロカイン5cc)後、20分ベッドレストとし、その後会計で10分椅子に腰掛けて待ち、歩行も普通にできていた。タクシーで自宅に帰る途中で下半身麻痺が出現。雨が降っていたがタクシーの運転手が玄関前に患者を抱きかかえておきざりにして行った。約1時間後には自力で歩けるようになった。遅発性脊髄麻酔は、硬膜外ブロック手技40分後に発生したと推測される。

 

  • 76歳女性 胸部硬膜外ブロック(T10/11より 0.5%キシロカイン5cc)後、20分ベッドレストとした。ブロック後20分の時点で麻痺はなく手足ともに動かすことができたので、独力でベッドの上に坐位となる。しかし、坐位になって数分後、服装を整えている最中に識消失30秒、その後意識を取り戻し嘔吐。自発呼吸あるが下肢は麻痺。姿勢を維持することもできないためベッド上で1.5時間仰臥位レスト。独歩帰宅した。

 

  • 66歳女性 腰部硬膜外ブロック(L3/4より0.5%キシロカイン5cc)後、会計を済ませベッドレストを行わずに帰宅。買い物を済ませバスに乗っている最中に下肢の脱力が出現(ブロック後約40分)。あわてて、バスを降りるがバス停にベンチがないため地べたに座る。その後30分経過後足が動くようになったため独歩帰宅。

 


0.5%キシロカインの効果のピーク

当院では0.5%キシロカインを5cc、硬膜外ブロックに使用しています。麻酔効果のピークは20~30分で、その後に徐々に薬剤が拡散して作用が薄れていきます(当院でのデータ)。

このピークタイムは薬剤の種類、濃度や量によって変わります。上記の3例は全例、ピークタイムでは正常に下肢が動いいました。しかしながらピークタイムを過ぎてから突然の麻痺が出現しています。通常ではピークタイムを過ぎるとキシロカインの麻酔作用が切れてきますが、3例はピークタイムの時点でそれぞれ麻痺は起こっていません。よってその後に突然に麻痺が起こるのは、何らかの理由があると考えます。


硬膜穿破との違い

注射針が硬膜を貫き、深く入った場合もその麻酔作用は20分後がピークとなります。ブロック後20分経過した時点で3例とも麻痺が起こらず、足を動かすことができていましたので硬膜穿破は否定的です。また、硬膜外ブロック時に硬膜にピンホールを開けてしまい、そこから徐々にキシロカインが脊髄内に移動したという推測もできます。ちなみに使用した針は25Gカテラン針であり、たとえ硬膜にピンホールを開けてしまっていたとしても、大きな穴ではありません。ですが、3例ともに、ピンホールからキシロカインが徐々に入っていったという効き方ではありません。遅発性にいきなり麻痺が出現しています。


キシロカインの髄内流入の3つのルート

硬膜外腔にとどまっていたキシロカインが脊髄内に流入する方法は3つ考えられます。

  • 1、硬膜にピンホールを開けてしまい、そこから流入
  • 2、硬膜に癒着などの異常があり、そこの脆弱部分に偶然亀裂が発生し流入
  • 3、中枢系リンパ管を介して脊髄内に流入

3の中枢系リンパ管は極最近になってその存在がわかってきました(「科学界に衝撃、医学界に激震、リンパ管組織発見」参)。このリンパ管をキシロカインが逆流して脊髄内に侵入することがあり得るのではないかと考えています。


硬膜外腔に癒着の存在

逆流経路は判明していても、遅発性にいきなり流入するということが起こるためにはキシロカインが嚢胞状にストックされていて(拡散せずに1箇所に溜まっていて)、それが突然髄内へと流入したと考えざるを得ません。

硬膜外腔内でキシロカインが拡散せずに嚢胞状にストックされるためには、硬膜外腔に癒着が存在していることが必要条件と考えます。そして何らかの動作で、ストックされていたキシロカインが上記の経路を伝って脊髄内に流入し、「突然の脊髄麻酔」という不慮の出来事を発生させると思われます。


技術的な介入は不可能

どれほど医師の硬膜外ブロックの技術が上達したとしても、上記のような症例を防ぐことは不可能です。硬膜外腔にキシロカインがストックされることは偶発的な出来事であり、技術で防ぐことができません。

患者が高齢であれば予期せぬ脊髄麻酔の副反応が現れます。もっとも危険なのは急激な血圧低下による循環不全です。遅発性の脊髄麻酔の場合、帰宅中に発生すると道端で倒れてしまうこともあるため、その際には適切な医療措置が受けられないため危険度はさらにアップします。そして、数多くブロックを行っていれば必ず起こることであると思われます。発生率はおそらく0.1%から0.5%の間であると推測し、誰が行ってもどんな施設で行っても発生率をゼロにすることは不可能と思われます。


遅発性脊髄麻酔の予防方法

予防することは不可能ですので、安全対策をとるとすれば二つあります。一つはブロック後、3時間以上ベッド上安静をとること。脊髄麻酔がかかると長くて数時間、下肢に力が入らなくなり、血圧が低下します。急激な血圧低下を防ぐにはベッド上安静を行い、薬剤を拡散させてしまうのが最善です。その安全性の確保には入院させてブロックを行うことが理想的です。

全国的に整形外科では「硬膜外ブロックは入院患者にしか行わない」とする施設がありますが、この方針は本症例のような事故を防ぐための理論として商業利用される可能性を秘めています。つまり、神経痛で歩行困難な患者を目の前にして「入院しなければ治療しない」と断り文句にし、入院させて硬膜外ブロックを行い、入院費を稼ごうとする医療法人に有利に働きます。


 

主に外来でブロックを行う開業医では3時間のベッド占有は経済的な不利益という負担をかけますので臨床現場では実施が難しいでしょう。ならば安全にブロックを行うためには1回の注射量を少なくすることが望ましいと言えます。万一脊髄麻酔になったとしてもショックが起こらないレベルの量にとどめることが安全策として優秀です。

0.5%キシロカインを2~3ccであれば万一の脊髄内ブロックとなったとしても大きな問題にはならないでしょう。つまり、高齢者や心疾患などがある患者に対しては、硬膜外ブロックなどを行う際には、できる限り少ない量でのブロックをこころがけるとよいでしょう。


ブロック後の副反応報告にはカウントされない

このような遅発性の脊髄ブロックはブロック後に時間差で発生するのでブロックによるものとは考えられず、心臓発作や低血糖発作、失神発作と誤認されます。よってブロックの副反応として臨床データに計上されることはありません。しかしながら実際は1%未満の発生率として普通に起こっているかもしれないことを念頭に置くべきです。高齢者のみならず、若い患者にも起こりえます。そして発生を防ぎようがありません。硬膜外ブロックを行う際には遅発性に脊髄麻酔がかかる可能性を認識しておきたいところです。

すでにこの事実が既知であるのでしたら、それは問題ありません。

硬膜外ブロック後の遅発性脊髄麻酔に要注意」への3件のフィードバック

  1. 素人相手に嘘ばかり書くのはどうかな。詐欺商法ですよ。
    臨床症状だけでエビデンスのない理論です。

    • 医学理論のほとんどにエビデンスがないことは多くの方が承知のはずです。次のブログでそのことを解説する予定でした。また、ここは患者を私のクリニックに導くためのサイトではありません。そんなことをしなくても普通に経営は成り立っています。ですから、ここのサイトは商業目的ではありません。そして、嘘と思われる部分は推測でかまいませんのでご指摘ください。その部分を再び考察することで理論が少しでも真実に近づきます。

       私の理論は全て推測であることは「常に」述べております。しかし、それが嘘である証拠を示していただくことが建設的な意見です。そして示していただいたことは、再び研究の材料にします。どうかご協力をお願いします。

       現医学で難治性の疾患を治すには、現医学理論が通じないわけですから、それを本気で治そうとすれば推測で治療する以外に方法がありません。推測が嘘か真実かは、現在では解明できません。解明できないことを「嘘」と断定することもまた嘘となります。私はあなたのような方の意見を決して無視しません。ぜひ建設的ご意見をお待ちしています。

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  2. 悪徳医療撲滅さん

    エビデンスを求め、エビデンスが確立された治療を求める支配意識に苛まれた人間と言うのは非常に残念な存在でしかないと思っています。10年~20年昔のエビデンスと、現代のエビデンスは如何ですか?

    仮に、それが臨床上有意義なデータの有無関わらず、目まぐるしく変化している事は現場に立って情報を仕入れていれば掌握出来るものです。現場に立ち結果を出す、その事に多数派で構成されたエビデンスと言う大義名分が必要でしょうか。

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