健康貯金を考えましょう

2017年治療成績

体の細胞は常に新品

私たちの肉体の細胞の一つ一つは高齢者であっても、生まれたばかりの赤ん坊であっても、両者とも常に新品の細胞で埋め尽くされていることをご存知でしょうか? 90歳のおばあさんの皮膚細胞でさえ、生まれてから1か月しか経過していない細胞で作られているのです。ただし、新品だからと言って「健康な細胞」ではありません。新しい細胞が分裂する際に、十分な栄養が行き届いていないと不健康な傷つきやすい細胞が生まれてしまいます。細胞は新しくても不健康なので、美しい張りや肉厚を作ることができず、強度も弱くなります。よって皮膚は薄くしわくちゃになります。一方、赤ちゃんの細胞は分裂する際に十分な栄養を血管(血液)からもらい受けるので、とてもつややかで健康な細胞が出来あがります。そして健康な細胞から次の細胞が生まれるので、次もその次も健康な細胞が生まれます。しかし、分裂する元の幹細胞が不健康であると、そこから生まれる細胞も不健康となり、次もその次も不健康な細胞で埋め尽くされていきます。不健康な細胞が徐々に多くなっていくことを老化といいます。


細胞は入れ替わる

ここで忘れてはならないことがあります。それは不健康な細胞でさえ、常に「できるならば今よりも健康的な細胞に生まれ変わろう」と努力しながら細胞分裂しているということです。体内にどれほど多くの「健康な細胞」で満たすか?が健康貯金です。不健康で悪質な細胞で満たすことが「負債を抱える」ことを意味します。


悪質な不健康細胞とは

血行が悪いところで、大量に細胞が死滅すると、その死体処理をするマクロファージの手に負えなくなり、マクロファージ自身も死んでしまい、そこには死体の山ができます。死体の山は邪魔にならないように、線維化、粥状硬化、硝子化などと形が変わり、その場所に処理できないゴミとして貯まります。こうした細胞はさらに血行障害を作り出しますから、ゴミの周囲は新しい細胞を作ることができない不毛地帯になります。このように悪質細胞を増やしていってしまうと、時に死に至るような病気を起こし、そして人は死んでいきます。悪質な細胞は健康にとって負債であり、この負債をどうやって返済するかが健康にとってとても重要な概念となります。


医者は貯金、患者は負債

医者は患者の中に健康貯金を作ってあげるためにあらゆる手を出します。悪質細胞を除去し、健康細胞を増やすアドバイスをします。しかし、考えてみてください。この世に生きているだけで負債が増えていきます。これを老化と言います。にもかかわらず、不健康な肉体で、旅行やショッピング、仕事、掃除洗濯炊事を無理に行えば、医者がどれほど努力しようと、健康細胞の数は減り、悪質細胞の数が多くなっていきます。患者が負債を作ることをやめなければ、医者がどれほどお健康の預金を貸してあげたところでそれ以上に消費すれば健康は蝕まれていきます。


薬のほとんどは借金

医者は魔法使いではありません。治療のためにどこかの血行をよくしてさしあげれば、他のどこかの血流量を奪うことになります。治療というものはどこかを健康にした分、一時的にどこかを多少不健康にします。どこかを強力に健康にしようとすれば、どこかが強力に不健康な場所が生まれるものです。つまり、どこかから借金をし、不健康な場所に一時的に健康を補ってあげているだけです。痛みを除去する薬は「痛みという警報」が鳴らないように、警報器の線を切る作業であり、健康細胞に置き換える作業ではないことがわかります。しかし、患者が「痛みがなくなった。健康になった。」と勘違いして、体を酷使してしまえば、実際は悪質細胞が体内に増えて行き、健康貯金を消費していくことになるわけです。


血行をよくする作業=貯金作業

健康細胞で体内を満たすには、血液の流れを良くすることが基本です。なぜなら血行が良好になれば健康な細胞分裂が行われるからです。私はブロック注射を駆使し、不健康細胞が多いと思われる箇所の血管を広げてあげる作業をしてさしあげます。血行さえよくなれば、人の体は健康細胞を作ってくれるので健康細胞貯金が増えます。血行が良くなれば、痛みの警報装置も鳴らなくなり、実際に痛みも消えます。しかし、不健康な細胞が増えた箇所には、ブロックの薬液さえ入りにくく、注射はかなり難しいものとなります。さらに、不健康細胞が多い高齢者では血行を一時的に良くして差し上げても、すぐさま悪化します。必死になって健康細胞の貯金をしても、その貯金が次の日には消えてなくなってしまうのです。


 貯金を何日で使い果たすか?

最近私は患者様に怒りを覚えることが多々あります。健康貯金をふやして差し上げるために他の医者が行わない程(保険の範囲を超えた治療で)手厚くブロック注射をします。保険を超えた分は私が自腹を切ります。そこまでして健康貯金を増やすにもかかわらず、その預金を患者様が数日で使い果たしてしまうからです。次の診察時に、私はさらに多くの預金をしてさしあげようと、さらに多くの自腹を切ります。しかし、いくら多く預金して差し上げても、患者様はその分多く無駄遣いしてしまい「恩を仇で返す」のです。旅行に行ったり、趣味をしたり、買い物に出かけたりして、普段はできないことをめいっぱい楽しみ、そして不健康な体になって次の診察に現れます。私はいったい何のために苦労して保険外のブロックをやってさしあげているのか?わからなくなり虚しくなります。より強力な治療をするほど、より大胆に羽を伸ばし、元の症状に戻るまで、健康消費をやめません。このいたちごっこは「医療」といえるのでしょうか?


おとなしくしていれば貯金は貯まる

私のところに来院された時と変わらない生活をしていただければ、健康貯金が貯まるくらいに、私は患者に全力治療を施します。しかし、患者様は少し良くなれば羽を伸ばし、その預金を全額使い果たしてくれます。酷い場合は借金まで背負ってきます。そして患者様は、毎週毎週私に高額な健康預金をせがみます。すでに保健医療では補えない程の高額な預金をせがみにきます。それでも私は必死に預金額を増額して提供します。もちろん保険外の自腹です。するとその分だけ使い果たしてくれます。これを半年も繰り返していれば、仏さんでも怒るでしょう。


お金の無駄遣いを癖にさせてしまう

私は明らかに他の医者と違い、自腹を切ってまで患者を治して差し上げます。その恩に感謝するのではなく、無駄遣いをエスカレートさせていく不届きものがいます。私は本来、健康の維持方法を患者に指導しなければならない立場ですが、逆に私は患者に「少々体を壊すようなことをしても、注射してもらえれば治る」という観念を植え付けてしまい、結果的に患者を私に依存させてしまっているようなのです。放蕩息子に5万円、10万円、15万円とお小遣いを与え、放蕩息子がお金を大切にせず、平気で無駄遣いする人間に育ててしまうことに等しいのです。


 

私の外来はパンク

すでに私の外来はパンクしています。一人の患者が次から次へと「膝を治して!、足首を治して! 肩こりを治して! めまいを治して! 神経痛を治して!」と私にせがむものだから、1回の診療で5~6箇所の注射をすることがざらであり、そのため、一人当たり最低でも15分要し、その患者が私に毎週かかろうとするものだから、新しい患者が一人も来院できません。私が患者を甘やかすのが悪いのかもしれませんが、このようなずうずうしい患者が私の外来を占有するおかげで、本当に診察して差し上げるべき急患を一人も診察できません。よって、私の外来は全予約制ですが、新患受け入れはゼロ。つまり、まるで完全会員制の病院クラブになっています。そして酷いことに、私の外来を卒業する患者がほとんどいません。なぜなら、治しても治しても、その健康預金を毎週使い果たすものだから、現状維持のままループ来院となるからです。私の外来は予約券の奪い合いが起こっており、見るに耐えられません。


 

優良な患者は早期に卒業

健康管理が自分でできる優良な患者様は、1回から数回の治療で完治するので、私の外来からすぐに卒業します。しかし、これまで健康管理をしたことがない、患者様のみが私の外来に残り、半永久的に私の元をはなれてくれません。なぜなら、私はそうした彼らの身体の一部と同じだからです。私は彼らになくてはならない健康グッズの一つです。


私がいなくなれば寝たきりになる

私は常日頃、患者たちに「私はいつまでもこの病院にはいませんよ。私に頼りすぎると、私がいなくなったときに寝たきりになりますよ」と強い口調で忠告します。しかし、「先生、どこにも行かないでくださいね」と言うだけで、健康管理をしてくれません。そして残念なことに、私が病院を転勤すると、そう忠告した患者は1年以内に本当に寝たきりになります。なぜそれがわかるかといいますと、転勤しても私を追いかけてくる患者様がいますので、その方々から情報を頂けるからです。結局私は患者様に、健康預金を無駄遣いする方法を教えたことになり、無駄遣いをやめない患者様は、私がいなくなったあとに寝たきりになるようです。私が毎週、自腹を切って、どれほど高額な健康預金をさしあげていたかがわかります。そうした必死の治療で寝たきりを防いでいたわけです。だから私がいなくなれば、他の医師にはそんな治療ができるはずもありませんので、寝たきりになります。


治療が仇になる

私はこのような患者様たちに憤りの感情を抱くと共に、「自腹を切ってまで高額な預金を提供し続ける医者としての姿勢」に疑問を持ち始めました。どんなに忠告しても聞き入れない患者様に、それでも必死に自腹を切る治療をすることが、善なのか悪なのか? わからなくなってきました。医療は国のお金で受けられるものであり、有限なもの。そしてハイエナのようにそういった医療にすがる患者に対して、湯水のごとく治療をすることがこの国のためになっているのだろうか?と真剣に考えてしまいます。やはり、外来で患者とけんかしてでも、どんなに患者に嫌われようとも、健康管理を自分で行うように指導すべきなのでしょうか?


腕がいくら上がっても悩みが尽きない

私は年々、治療の技術が上がっています。寝たきりになるべく患者様も寝たきりにさせないで日常生活を送り続けさせることもできるようにもなりました。しかし、そのためには多額の医療費を消費します。多額すぎる分は自腹です。そして他の医者ができないような保険外の卓越した治療をして差し上げても、感謝もされず、当たり前と思われ、そして挙句の果てにその健康を毎週毎週全部使い果たしてくれるのです。人間の欲は限界がなく、特に健康には「預金している」という意識がなく、患者様本人は「健康を浪費している」イメージを持っていません。おそらく、私が腕を上げても上げても、ますます好き勝手に行動範囲を広げ、健康を消費してくれます。それがわかってしまった今、この虚しさをどうすべきか悩んでいます。医療は無限でも無尽蔵でもなく、ぜいたく品です。贅沢をさせれば患者様の自立力を奪ってしまうのです。私のやっている「必死の治療」は患者様から健康への自立力を奪うことになっているわけです。


健康預金の教育

この超高齢化社会を乗り切るには、無尽蔵に医療を患者様に提供するのではなく、健康預金を自分で作る方法を教えていかなければなりません。預金がたまってきた時に、それを遣いたくなる衝動を抑える教育です。人は周囲に迷惑をかけたくないあまり、頑張りすぎて健康預金を使い果たし、結局寝たきりに迷惑をかけます。そうではなく、健康になった時に「さらに預金を積み立てるにはどうすればいいか?」を考える患者様になってもらいたいのです。それを教えていくために、私は患者様の前で悪役を演じなければならないでしょう。不健康なまま生き長らえることは、もはや個人の問題ではなく、周囲の家族に迷惑をかけ、国にも迷惑をかけます。健康預金を使い果たす放蕩高齢者を放置していれば、やがてこの国はつぶれてしまいます。高齢者の健康は個人の問題ではないのです。どうしたらよいのか本当に悩んでいます。

健康貯金を考えましょう」への2件のフィードバック

  1.  半年以上前に膝痛が生じて以来、腰痛、肩痛その他の関節の痛みに悩まされております。
     それまでは、肩こりがあるくらいで、特に不健康な生活をしていたわけではありませんでした。
     町のリウマチ科では、線維筋痛症と診断され、大学病院を紹介されました。
    しかし、痛みは一向に良くならず、精神的にも参っております。
    その中で、こちらのサイトを発見しました。
     ページを拝読していくなかで大変ご多忙と理解しておりますが、診察やご指導賜りたく思います。

    • 私は多忙ではありませんよ(笑)。多忙にならないために、自分の情報を隠しているわけですから。それに、外来は混雑させる前に、治してしまうので、それほど混雑しないんです。後でメール差し上げます。

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