頭部を切断して別人の体に移植する頭移植手術(脊髄性筋委縮症)

 

はじめに

脊髄性筋委縮症(SMA)は私が主にブロック治療をしているALS様疾患とは病態生理が異なり、その病気の主体が脊髄の前角細胞にあるとされていますがALS同様運動ニューロンの障害が原因です。そして第5染色体に病因遺伝子を持つ劣性遺伝病であり(遺伝子以上がない場合もある)、およそ先天病です。SMAでは遺伝的に神経細胞のアポトーシスを抑制する能力が低いことが考えられています。しかし、基本的に「どんな組織も血流が多ければ修復されやすい(アポトーシスが起こりにくい)という原則が適用されると思いますので、私は脊髄性筋萎縮症でさえ、ブロックにより前脊椎動脈の血流量を増加させてあげれば、前角細胞の壊死することを食い止めることが可能であり、場合によっては進行を停止、または改善させることができると考えています。その矢先に「頭を移植する」というニュースが世界で話題となったので医の倫理や、今後の運動ニューロン障害系の疾患の将来の展望について触れることにしました。


頭の移植ニュースの詳細

頭を切り離して別人の体にくっつけるという頭移植手術プロジェクト、コードネーム「HEAVEN/GEMINI」を現実のものとしようとしているのは、イタリア・トリノにあるアドバンストニューロモデュレーショングループの研究者セルジオ・カナベーロ博士。セルジオ博士は、2013年に発表した研究論文の中で頭移植手術についての概要と実現可能性を説明していました。(出典:コモンポストhttp://commonpost.info/?p=70998)


この頭部移植手術を受けるのは、ロシア人男性ヴァレリー・スピリドノフ氏(30歳)。第5染色体に病因遺伝子を持つ劣性遺伝性疾患である神経原性の筋萎縮症「ウェルドニッヒ・ホフマン病」を患っているスピリドノフ氏は、1歳のころに診断を受けてから全身の筋肉が動かなくなりました。さらに筋肉が骨格を補助しないため、成長とともに骨格が大きく歪んでしまいました。


スピリドノフ氏は、体をほとんど制御することはできず、介護がなければ生活することはできません。通常、ウェルドニッヒ・ホフマン病の患者は20歳まで生きることができず、スピリドノフ氏は常に死と隣り合わせの状態です。そのためスピリドノフ氏は、今後も生き続けるために頭部移植のチャンスに賭けたいといいます。

スピリドノフ氏は、セルジオ博士の頭部移植手術に関する記事を読み、2年前にトリノ大学を経由してセルジオ博士に連絡をしたとのこと。その後は電子メールを介して情報交換を行い、手術の計画を立ててきました。


「怖いかだって?もちろん」と語るスピリドノフ氏。「でも怖いだけじゃなくても興味深いものでもある。私には多くの選択肢がないことを分かってください。私がこの頭部移植手術のチャンスを逃せば、今後の私の運命は悲惨なものとなるでしょう。私の病状は刻一刻と悪化しているんです」と述べました。


セルジオ博士によると、1970年代にアカゲザルを用いた動物実験で世界初の頭移植は成功しているといいます。しかし当時の技術力では、背骨を脊髄を上手くつなぐことができず完全に成功したとは言えませんでした。そしてアカゲザルは、8日間を生き延びたものの合併症によって死んでしまいました。


ところが現代においては、体を低体温状態にする技術を用いて頭を切断して体に血管を縫合する時間を確保し、「シーラント」と呼ばれる特殊な膜融合物質を用いることで、脊髄をつなぎ合わせて頭と体を合体させることができると説明しています。


手術中、体の頭は”眠った状態”となり、頭は12℃~15℃という低温保存されます。また、首の切断にはメスを使います。手術の手順は、まず体と頭が低酸素状態で生存できるように、45分間かけて体温を18℃にまで下げて患者を低体温にします。次に、頭の提供者と体の提供者の首を同時に切断します。このとき、血管などの首の組織を丁寧に切り離し、最後に最小限の損傷となるように慎重に脊髄を切り離します。頭部と体が完全に分離されれば、異なる頭部と体を結合。この際、脊髄には組織の修復を助ける「シーラント」と呼ばれる膜融合物質のポリエチレングリコールが塗られます。そして最後に、接合部分の血管と皮膚と縫合します。


患者は脊髄が繋がるのにかかる3週間~4週間の期間、絶対に体が動かないように固定され、昏睡状態を保ち続けます。この期間、脊髄の接合を促すため電気刺激が与えられ、頭と体の拒絶反応を防ぐために薬物が投与されます。セルジオ博士によると、治療後、患者はリハビリをすることで言葉を話し、1年以内に歩行することができるようになるといいます。


この手術を行えば、体が全く動かせない筋ジストロフィー患者などが自由な体を手に入れられることはもちろん、遺伝子疾患者、ガン患者、治療法が見つかっていない疾患を患う患者など、臓器移植で助からないような容態でも体の交換によって健康を取り戻すことができます。また体を提供するドナーは、脳死状態となっている患者を用いるといいます。セルジオ博士によると、この処置には100人以上の医者が関わり、全ての処置に36時間を超える大手術になるとのこと。治療費は、850万ポンド(約12億5000万円)を要するといいます。


セルジオ博士は、このプロジェクトを実現するためにアメリカ・メリーランド州で行われた神経学と整形外科の学会で計画を発表し、賛同者を募集しました。もちろん、多くの医者から非難の声が上がり、技術的にも倫理的にも大きな論争を巻き起こしました。多くの非難を集めるセルジオ博士ですが「非難する専門家たちは35年間にわたって身体麻痺の治療に失敗し続けてきた」「彼らこそ”危険な科学者”だと確信している」としており、批判の声に全く動じてはいません。


頭部移植だというアイデアだけ聞くと、突拍子もなく非倫理的な手術だと考えてしまいますが、具体的にスピリドノフ氏の状況を知れば頭部移植に否定的な人でも一理あることを認めざるを得ませんね。頭部移植という野心的プロジェクトを「心臓移植や腎臓移植と同じで倫理的なもの」「300通りの失敗を超えて301通り目の挑戦で宇宙空間に飛び出した世界初の宇宙飛行士と同じ」と語るセルジオ博士。単なる移植手術というだけではなく、人間というものの存在の根底とこれからの人間の在り方を見極めるうえでも、今後も頭部移植手術には注目です。


治療は成功している、見ていないだけ

セルジオ博士は「非難する専門家たちは35年間にわたって身体麻痺の治療に失敗し続けてきた」「彼らこそ”危険な科学者”だと確信している」」と述べていますが、私は少なくとも四肢脱力(身体麻痺)の患者たちと関わり、ブロックを行って麻痺を改善させることが出来ています(詳しくは「ALS様症例の1年間の治療成績」をご覧ください)。私に言わせれば「身体麻痺の治療に失敗し続けてきた」という発言は「井の中の蛙」であり、成功者がいたとしても信じないのはセルジオ氏の方でしょうと言いたくなります。自分が12億5000万円もかけて手術をしようと考えている時に、ブロック一つで身体麻痺が治る可能性があることを他の医師が忠告したところで、聞く耳を持つはずがありません。しかし、自分が同じ病気にかかったとしたら、「ブロックで改善する可能性」「ブロックで延命できる可能性」を知ったらどうでしょう?


新たなからだに脳を攻撃される

現代医学はまだまだ発展していません。脳神経細胞が再生することも最近になって言われ始めているくらいです。それほど私たち人間はまだまだ無知です。脊髄性筋委縮症は遺伝子が関与していると言われていますが、明らかな遺伝子異常がない場合もあります。遺伝子異常があったとして、アポトーシス抑制がうまく作動しないとして…それでなぜ「前角細胞だけが壊死していくのか?」も説明できていません。そのくらい無知だということです。無知であるということを知れば、脊髄性筋委縮症3型(軽症型)に第5染色体異常がどの程度関与し、何が原因で軽症となるのか?さえもわかっていないことを認めるべきでしょう。


それほど「何もわかっていない」状況であれば「頭部移植をすれば、前角細胞のアポトーシスの問題が解決する」という思考があまりにも浅はかでしょう。確かに、頭を移植すれば下肢を動かす神経の前角細胞は全て他人の細胞となるので下肢機能はアポトーシスを起こさないでしょう。しかし、例えば首の切断をC5/6で行えば、前角細胞のおよそC1からC7は本人のものとなりますから上肢のアポトーシスは抑制できません。上肢筋を支配する前角細胞のアポトーシスを防ぐには延髄付近で切断しなければならず、それでは脊髄を接合する縫い代が足らなくなるでしょう。


また、拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を投与し続けなければなりませんが、その場合、宿主は肉体の方で、脳が異物とみなされます。その理由は造血する骨髄のほとんどが身体側にあるからです。つまり、生体肝移植などとは明らかに拒絶反応の現れ方は異なり、免疫によって攻撃されるのは、「脳である」という歴然とした事実が立ちはだかります。免疫抑制剤は肝臓や腎臓など、体の一部を移植した際に、大量に投与されますが、その標的は「たかが腎臓、たかが肝臓」です。しかし、頭の移植では、全身の血液が「脳」を攻撃するわけですから、想像を絶する地獄のような苦しみを味わう可能性があります。この手術が成功するかしないかにかかわらず、術後の患者の苦しみは地獄となる可能性を予想します。


急激なアポトーシスの進行

遺伝子に異常があるのであれば、神経細胞のアポトーシスは普通の人よりも過敏であることが予想されます。脊髄性筋委縮症は「前角細胞に特有」とされていますが、アポトーシスになりやすい状況は、前角細胞だけにとどまらず、上位ニューロンも普通の人と比べればアポトーシスをおこしやすいと考えてよいでしょう。そういう体質を持つ患者に、身体を移植すると、血液が頭部の神経細胞を攻撃しやすくなるので、アポトーシスに拍車がかかる可能性があります。つまり、手術が成功したとしても、新たな上位ニューロンのアポトーシスが起こる可能性が高まると考えます。セルジオ博士は頭を移植して自分が歴史に名を残すことしか考えていないでしょう。だから、患者の病的な体質に関しては全く気にも留めていないと思われます。


患者を選出する際に「移植を承諾してくれる患者であれば誰でもよい」わけであって、患者の病的な体質は全く考慮にいれていないと思われます。なぜなら、この患者がわずかに1週間生き延びただけでも、歴史に名を残せるわけであり、この患者が免疫に「脳細胞が攻撃される」ことや「攻撃された際に他の一般の人よりも神経細胞が死滅しやすい」ことなど想像していないと思います。人として幸せを感じて生き延びることなどどうでもよいことであり、ただ単にセルジオ博士にとっては「頭と体を接続して数週間生き延びた」だけでいいわけです。


患者はアカゲザルではない

セルジオ博士はアカゲザルで頭を移植し、1週間生存させたことで一躍有名になったわけですが、アカゲザルは健康な頭と健康な身体の接合です。しかし、脊髄性筋委縮症の患者の場合、健康な身体と遺伝的に不健全な脳(神経細胞)との接合であり、移植された後に脳が障害を起こしやすいということを計算に入れてないと思います。


ナチスドイツを彷彿させる

戦争中は医学が発達すると言われます。捕虜を用いて様々な人体実験が可能だからです。倫理的に許されない手術や実験が平気で行われ、そのおかげでこれまで不明だったブラックボックスが解明されて医学が大きく進歩すると言われます。私たちは「治すために治療」するのであれば、倫理的に問題はないと思われます。しかし、今回の手術は「実験するための手術」と言われても否定できません。それはステップを踏んでいないからです。


「どの血管とどの血管を吻合させるべきか?」「手術の手順の優先順位はどれがベストか?」「人工心肺などを用いるタイミングやどことどこを人工心肺につなげるか?」「低体温でどこまで耐えられるか?」などなど、一つ一つの安全性確認があまりにもない状況で手術をするわけですから、それは治療ではなく「実験」なのです。さらに、患者は遺伝子異常のために、普通の人よりも脳細胞が死にやすいはずです。そうしたことをセルジオ博士は考えておられないでしょう。まさに、彼は実験したくてうずうずしており、その昂揚感でいっぱいで、「患者の幸せ」など考えている様子はないのではないでしょうか。


自殺願望と実験願望

医師は患者が承諾しなければ治療することができません。余命があまりない、からだが動かない、治すための選択肢がないという状況では一か八かのかけを考えるでしょう。しかし患者がこの手術を受けることは、今の医学レベルでは「自殺願望」とみなされ、セルジオ博士にとっては治療ではなく「実験願望」とみなされます。互いに「命を軽んじていること」という意味で共通しています。人の痛みがわかる医師に、このような手術はできません。


治療と呼ぶにはステップを踏まなければなりません。最低限、安全性に関するステップを踏むのが治療なのです。手術自体を非難しているのではなく、現医学水準では安全を確保することが不可能という時代にこの手術をすることに無謀さを感じます。


今ではアメリカ合衆国がアポロで月に着陸したことは、国家戦略的な嘘であったことは衆知のようですが…。もしも本当にあの時代にアポロで月に向かったら、どうなっていたでしょう? まずは月に向かう前に放射能汚染された宇宙帯を通らなければならず、飛行士は大量に被曝しておそらく死亡したでしょう。また、月の引力は地球の6分の1ですが、それでも、月に着陸してしまうと、月の引力からは脱出できない(脱出するほどの燃料を積むことができない)ので地球に帰ることは不可能だったでしょう。それ以前に、着陸の衝撃を耐えるだけの逆噴射できる燃料もなかったでしょう。つまりあのころの科学は月に行けるほどの水準ではなかったのです。


今回の頭の移植手術も同様です。100年後には行えるようになっているかもしれませんが、今はまだ医学の水準が頭の移植手術ができるほどに発展していません。


身体麻痺はブロックで

私はいまだ進行する前の軽症の段階での身体麻痺に対し、ブロック治療でそれなりの成果を挙げています。しかしながら、進行しきって筋電図や髄液検査、MRIなどで異常を認めて確定診断がつくところまでに達した患者の身体麻痺を治せるかどうかはわかりません。できるなら、身体麻痺は進行する前に早期加療を目指すべきだと思います。そして早期加療としてブロックが有効であることを世界に知らせて行かなければならないと痛感しました。

頭部を切断して別人の体に移植する頭移植手術(脊髄性筋委縮症)」への3件のフィードバック

  1. ニュースをみて冗談かと思いました。
    信じがたい手術が行われようとしているんですね。
    知人が、スキー事故で
    首から下が全く動かなくなってしまいました。
    そんな人にとっては
    夢のような話だと思いましたが。
    先生のおっしゃる通り、
    まだまだ未知の事なんですよね。
    推し進めるのは自分の名前を残す為だけなのでしょうか…
    患者となる方は
    実験台でもかまわない
    未来のために
    自分の身体を捧げて
    英雄的な存在になれるんだよ。とでも
    導かれたのでしょうか。
    本当に自殺志願者と同じ事ですね。
    私にはとても難しく理解できない
    内容ばかりですが
    それでいても
    間違っている実験手術だという事は
    わかりました。
    頭が良い人は本当に羨ましいと思う反面
    倫理的にかけてる方が多くいるようにもおもいます。
    医学の進歩と同時に
    倫理面を一番大事に
    考えていてもらいたいものです。

  2. どうか助けてください
    私の母親が
    2年半まえに認知症と言われ
    父親が薬漬けにして
    母親は自然治癒力の人で平熱も7度近くあり、人の為にばかり生きる人でDVで浮気症の父親に振り回され、一途に尽くしてきましたが、
    父親は薬から自立支援介護をすすめましたが、自分の考え以外排除して、
    誤嚥性で入院し、そこの先生がすぐに退院し自宅で娘さんがお母さんの好きなご飯をつくり自立支援介護行きなさいといったのに、無視をしてケアマネに病院をさがさせ、そのまま食べれなくなり、住まいは大阪市なのですが、父親が米子の鳥大病院に検査入院させて、容態が急変し
    人工呼吸器をつけ気管切開し胃ろうをしています、
    母親は本当に心の綺麗な穏やかな人で純粋で美人でかわいくて、
    薬をのみだしてから首がまえにでてきて、すっぽんみたいに、それからだんだん頭がまえにまえにいくから1人で歩くと転倒するので、だんだん歩けなくなりオムツになり、わたしはお見舞いにいくと、お母さんの口に水を入れます、するとお母さんは口を閉じます、口があいたままだし喉が渇いていて、しかもうつろうつろな目がだんだんしっかりと意識がしてきます、
    母親は食べることが大好きで私たちが食べ残したものもきれいに感謝してたべて、本当に感謝の深い人なんです、
    父親のやり方がお母さんを余計に苦しめてる、わたしはまだ治るとおもっていて、
    お母さんにはまだまだ自然治癒がのこっています、
    母親は延命治療はしたくない、人間らしく生きたいといっていました
    母親が辛そうで無念でなりません、
    わたしは母親を助けたい
    母親の努力を無駄にしたくありません、
    生き物すべてに優しく平等なお母さんを助けてください、よろしくお願いいたします、ご連絡ください、よろしくお願いいたします。

    • 厳しいようですが、助けるのは私たちではなくあなた自身です。認知症を改善させた確かな実績があり、私たちは治す力を持っています。ですが、どんな病気にもタイミングがあり、タイミングが遅すぎる場合、普通の尽力では無理で、家族も親戚縁者も巻き込んでの人生も財産もなげうっての大尽力でなければ改善させることができなくなります。その大尽力をするかしないかの責任を負うのは私たちではなく、あなた自身です。可能性はもちろんありますが、その可能性を芽生えさせるために、家族や周囲の人たちに多大な労力や経済力を強いることになります。それができるかできないかという話になっています。

       行動を起こすのが遅すぎた代償は取り戻せません。時間は巻き戻らないからです。本当に私たちのところに来て治療を行うのであれば、とてつもなくお金と労力がかかるでしょう。私たちに支払うお金よりも、交通費や宿泊費、移動させるための人件費などですが。よって親戚縁者総出であなたの行動は反対され、ここに来るまでもなく撃沈します。親戚縁者全員と戦うことは、おそらく人生をかけた戦いとなります。それほど周囲の人たちは冷徹です。

       だから「助けるのは私たちではなくあなた自身です」と述べたわけです。そしてなんとか私たちの元に来ることができたとしても、そこからが本当の試練の始まりです。全ては「行動を起こすのが遅すぎた」という因縁から来ています。さあ、どうしますか?

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