厚生労働省の個別指導に暗雲

2017年治療成績

個別指導とは

厚生労働省により医療保険制度の健全な運営のため、国民のみなさまに対する良質な保険診療等の提供が行われるよう、保険診療の質的向上及び適正化のために保険医療機関等への指導・監査等の行政指導を行うことです。


個別指導に怒り

個別指導の中身は終止、「カルテに記載が不十分な場合、診療報酬詐欺になります」というものでした。犯罪者扱いです。記載不十分とは薬一つ出すにも、「患者の主訴を書く(いつ、何が、どのように、どれくらい、どうしたか)」「客観的に訴えを数値やテストで示す」「その症状に何の薬を出すか理由を考えて書く」「その薬をどの量でどのくらいの期間行うかなどの計画を立てる」「その薬がどのように効果を出しているか評価する」「患者に質疑応答を求めて、これでよいかの承諾を得る」などのことを一つでも抜けていると不十分だそうです。


十分か不十分かが指導の争点であり、不十分であれば「外来管理加算520円を請求することは不適切である」という言い分のようでした。カルテ記載が不十分であれば、520円を返金してもらいますと言われました。

患者が理解力のない高齢者の場合、主訴でさえ聞きだすことは簡単なことではありません。自分が病気と関係あるだろうと妄想していることを次々としゃべりだすからです。その中から、真に病気と関係あるものを探り出し、多すぎる情報を切り捨てていくだけで5分かかります。真に適切に外来で患者の話を聞きだし、上記のようなカルテを作り上げるには最低でも10分は必要になります。

カルテには患者のしゃべったことを全部書くことはありません。できるかぎり要約しますが、ようやくし過ぎたものは不十分と判断されます。内容は自分だけにわかればよいのではなく、他の医師が見てもわかるようにかかなければなりません。


それがよりよい医療であるという理想はわかります。ですが、カルテ記載のために5分10分を奪われた場合、1日に何人の患者しか診れなくなるでしょう? 私のように処置が中心の医師であれば、15人が限界です。一人に30分の時間がかかるからです。そのような理想を医師に強制させようとする姿勢自体はすばらしいことかもしれませんが、それをたったの520円で行いなさいというのは、私から見れば診療の破壊行為です。


私は今回の個別指導で決意しました。外来管理加算を今後は絶対に請求しないと。国が認める十分なカルテ記載をするためには5分以上の手間が必要で、私の人件費からすれば数千円かかります。これを520円で行いなさいと言われれば、毎回2000円以上の赤字を出すことになり経営ができません。


私は今まで通り、自分のスタイルでカルテに簡略化した内容しか書きません。520円をもらうために患者を診療する貴重な時間を奪われたくありません。それは患者にとって大きなマイナスなのです。これには異論のある医師が大勢いるでしょうから、これはあくまで私の立場です。私は極めて珍しい、「処置がメイン」の医師ですから。


早さを追求させることになる行政

私はブロック注射をメインに行っている医師です。いつも同じ症状でルーチンの患者に対してブロックの必要性を詳しく記載しようとすれば数分を奪われ、ブロックに割く時間を奪われます。これを挽回するために素早くブロックを行わなければならなくなりますが、「素早さ」を追求すると、ブロックでは患者が命を落とすこともあるほど危険になります。そして実際にブロックでは危険なことが毎日起こっています。

お役人はカルテを書かないと医療訴訟で敗訴すると脅すのですが、現場では逆のことが起こっています。カルテを記載してもリスクは減りませんし、ブロックでは1分でも時間短縮をしようとすることで莫大な命の危険にさらされます。

実際には、カルテ記載で自分を守ろうと必死になっている医師の方が医療ミスを侵します。医師の勘を磨き育て、一瞬で全ての情報をつかみとれる医師が治療を成功させます。それは瞬間芸でありカルテには記載できないほどの莫大な情報を一瞬でつかみとっていきます。


私は断言しますが・・・カルテが不十分であろうとなかろうと、訴訟を起こす患者は少しでも気に入らないものがあれば訴訟しますし、事故を起こす医師は患者の背景全体を見通せない医師です。カルテ記載で全てがうまく行くなどという考えは間違っています。お役人が言うには「カルテは訴訟の時に負けないための証拠」と何度も何度も言われました。証拠づくりに時間を割いて、医療事故で勝訴するよりも、私は治療に時間を割いて安全を死守して訴訟をおこされないようにする方を選んでいます。


ですが、私でさえ、「問題がある」と思った患者の場合はカルテ記載を充実させます。つまり、カルテ記載には寒暖をつけています。それが時間の有効な使い方です。問題がない患者にも、ルーチンの患者にもカルテを充実させる必要はなく、それは無駄です。決まって薬を出す患者にも、全てにおいてカルテを充実させなければお金を払わないと断言しているのがお役人です。その極めて大きな無駄が患者の貴重な治療時間を奪っているのだと思います。本来回されるべき安全確保の時間を奪っています。


激怒した膝注射の話

私のクリニックでは膝の注射をすることは赤字を生みます(1本800円にしかならない)ので、現在、膝の治療を放棄しようかどうか悩んでいるところです。膝の注射をすればするほど経営が傾くからです。しかも、私の膝注射は一度の治療で全治となる患者が多く、注射をすると通院患者が減ります。何もよいところがありません。奉仕活動と考えるようにしています。

奉仕活動では医業が成り立ちませんので、多くの整形外科では薬・湿布、リハビリの3点治療で患者を治さず延々と通わせます。私はそれがいやなので、膝患者は赤字を出してでも注射で素早く治してできるだけ通院させない方向にしています。


赤字を出してでも初回から注射を行い、患者を素早く全治へと導くということを行っているのですが・・・個別指導でこんあことを言われました。


「初回から注射をする医者なんていませんよ。まずは鎮痛薬で様子を見るでしょう? もしも初回から注射をするのだったら、初回から注射をしなければならない理由を書かないなら、注射の診療報酬を認めませんよ」と・・・激怒しました。


薬を出す処方箋料は680円、これに対し、注射をするというリスキーで責任を取らなければならない匠の技が800円。ほとんど値段が変わらないというほど極めて安い値段設定をしておいて・・・その値段設定に激怒しているというのに、さらにその安い報酬を覚悟して、ボランティアで患者が切望する注射を初回から行ってさしあげているというのに・・・「初回から値段の高い治療をするなら、その理由を書かないと報酬を認めない」とそう来たのです。私は耳を疑いました。「えっつ?値段の高い治療????」。それは一桁違うんではないでしょうか? 注射料金が8000円という設定なら、そういうセリフの意味が理解できますが、処方箋料が680円という中で、注射がたったの800円ですよ。「えーーーーっ???」。


初回から注射をすることが国の税金の無駄遣いというような逆の認識を持っているお役人たち。そして800円という治療費を「高い治療」と思っているその極めてずれた意識にあきれます。

こんな言い方をされたのでは、「患者に二度と注射をしない」「膝患者は最初からお断り」となるに決まっているではないですか。


「初回から膝の注射をするなら、膝の可動域、他覚所見、痛みの原因と理由、注射でなければならない理由などを明記しなさい」と来ました。800円でそれをするなら、私は、治療を拒否する方を選びます。

私のところに来院する患者は、そもそもここはペインクリニックですから、薬をもらうために来院しているわけではないのです。膝が痛い患者がペインクリニック来るのは、いろんな治療で治らないからであり、その患者に「初回から注射をするなら、その理由を書かないと報酬は払わない」と言ってくる指導員の話は真に受けるべきなのでしょうか? カルテを書かなければお金を払わないと述べて正当化していますが、真意は医師に面倒な作業をさせて、報酬を請求させることをやめさせていこうとしているわけです。私は見事にそれに乗ります。治療もしたくありませんし、報酬もいりません。その方が黒字になります。

もしも、患者がスポーツの選手だったら、初回から薬だけで様子を見ますか?私は相手が誰であれ、初回から全力で治療しますが、全力治療をするならその理由を書かなければいけないのですか? あなたが患者だったらどうなんですか?

 


他人事ではないんですよ

医師への個別指導は国民にとって他人事ではないということを知るべきです。こんな医療現場を考えない個別指導がなされていた場合、被害者は医師ではなく国民です。そもそも800円という注射の報酬では、人に針を刺すことの責任をとれる値段ではありません。しかも、それをするにはカルテに注射でなければならない理由を書け・・・と来れば、誰も注射をしなくなります。まさに薬とリハビリだけの治療となり、それで痛みがとれない患者は手術です。みなさん、本当にそれが望みですか? それが国への希望ですか?


ばね指は270円

ばね指の治療費は270円とさらに安い値段設定です。実はばね指への注射は極めて痛く、一つ間違えれば神経や血管を損傷することもあり、簡単な注射ではありませんが、それがたったの270円。これは明らかに値段設定が一桁違うと思いますが、こんなありえない診療報酬設定にもかかわらず、「初回から注射をするならその理由を書かないと報酬を認めない」などと発する役人の声が、いかに恥ずかしい叫びなのでしょう。こんな治療を医者の誰がするんですか? 親切にも初回からばね指の注射をしてさしあげて、そして指導員にこんなことを言われるわけです。

当然ながらばね指の注射をする医師はどんどん減っていきます。それは患者を、治りもしないリハビリや、リスクの高い手術へ向かわせることになるわけで、他人事ではないのですよ。


私たちは知りませんと捨て台詞

さて、鎮痛薬のロキソニンを処方した日のカルテ記載に私はこう書きました。「歩行ができないほどの腰痛、坐骨神経痛が出現。患者は硬膜外ブロックを切望するが、前回のブロックから1週間以内の来院のため、ブロックができない。よって鎮痛薬を処方する」と。


これを「薬を出す根拠として不十分です。外来管理加算520円をたったこれだけのカルテ記載で請求することは正しくありません」と。

「えっ? この方は歩けない程痛がっていたのを、あなたたちが「1週間以内のブロックはお金を出さない」と診療報酬を支払ってくれないから、やむを得ず薬を出したのですよ。それのどこが不十分なんですか???」

「支払いの有無はまた部署が違いますのでここではわかりません」と・・・

まあいい、ここで言っても無駄だとわかりました。外来管理加算520円というたったそれだけの金額で、ここまで医師の治療姿勢を型にはめようとする意図はよくわかりました。ならば私は外来加算を今後一切請求しません。請求しなければ指導の対象にならないというのも笑える話です。


指導時間2時間10分

気づくと私以外の全員が帰宅し、ホールには私たちしかいませんでした。私のクリニックは最初から目をつけられていたことがはっきりわかりました。通常は50分以内だそうです。なぜ私のような医師が日本では存在しないのか?の理由が行政にあるということを理解していただければ幸いです。

ただ、最後に指導員が私に対して激励してくれたのが印象的でした。なぜ激励?? 何を激励?? それは彼らのやっていることがおかしいことに指導員もうすうす感じているからではないでしょうか?


日本の医療は世界最高

日本の医療は比較的安値で世界最高の医療を提供しています。コストパフォーマンスは最高です。それはお役人がこのようにして医師を管理しているからです。たった520円で医師がお役人に逆らわなくなるのです。笑ってしまいました。「あなたたちはたったの520円でここまで医師をバカにできるのか!」すごい国です。たったの520円を捨てることもできない医師たちの国です。しかし、その反面、お役人のいいなりになっている医師たちに怖さも感じます。国が間違った方向に舵をとれば、それを正す医師はいないことを意味しているからです。どちらにしても、私は日本の医療行政を変えようとは思っていません。全てを自費ですれば何の問題も起こらないからです。

よって残念なことに私の治療はお金持ちしか受けられなくなるということです。それ以上でも以下でもありません。ただそれだけです。

お役人が悪いわけではなく、保険医療が破綻していることを意味しています。医師は医療従事者ではなく、全てカルテ書きの事務員です。全ての国民が事務作業で治るのなら、そんな幸せなことはありません。どうぞやってください。

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