日本医療の難題3 混合診療のデメリットを深く考える

前回は保険診療がすでに崩壊しているありさまについて述べましたが、今回は混合診療、自由診療のデメリットを考えます。


混合診療のデメリット

  • 1、安全性や有効性が十分に確認できていない薬や治療法を利用する人が増える
  • 2、悪質な医療の増加。
  • 3、副作用や医療事故の増加 4、公的保険で取り扱えるまでの手続きが煩雑であることから、自由診療のままでよしとする薬や治療が増える
  • 5、医療格差が生じる 6、公的保険の財源不足を理由に、現在公的保険が使える治療も自由診療に見直されてしまうおそれがある 7、自由診療が増えることで、医療保険の「先進医療特約」等の保険料が値上がりし、長生きする人が増えれば生命保険の保険料全体が値上がりする。同時に介護費の負担も増える

臨床現場での自由診療の真のデメリットを詳しく考える

1、自由診療では安全性や有効性が不十分

自由診療では安全性が確保されていないことが問題になります。ところが実際は保険診療の安全性も確保されていません(引き合いに出すのはおかしいかもしれませんが)。大学病院や教育研修病院では手術やブロック注射などを技術が未熟な医師が行うことが常です。したがって実際は保険診療で数多くの医療事故が起こっています。自由診療の場合、確かに安全性がしっかり証明されていない手技や薬剤が用いられる機会が増えますが、未熟な医師がそれらに携わることはまずなく、経験年数も多く腕の立つ医師のみが自由診療を行います。なぜなら、自自由診療で医療事故が生じた場合、その責任を負うのは実行した医師だからです。自由診療を行う際には、医師は極めて慎重に安全性に対して神経を使うため、未熟な医師が保険診療を行って事故を起こす確率よりも、自由診療の方が低くなります。事故が増えるとは言うものの、自由診療の場合は担当医が命がけでその診療を行い、責任を持つわけですから、緊張感が桁違いなのです。


一方、保険診療の場合は医療事故の責任を国や組織が負っている形になっていますから油断が生じ、実際は医療事故がとても多いのです。また、現在でも、安全性の確保されていない新薬を用い、新しい器械を用い、新しい治療法を行うのは開業医ではなく、大学の教授クラスです。一般の開業医がそうした新薬に真っ先にとびつくことは考えられません。

開業医が保険で認められていない新治療を行って医療訴訟を起こされれば、人生が奈落に落ちてしまうからです。安全性が確保されていない治療薬・治療法を使用できるのは、大きな権力の傘に守られている場合です。自由診療が増えたところで一般開業医が無造作に新薬に手を出すとはとても考えられません。また、手を出す勇気ある医者がいたとしても、それは患者や家族が懇願した場合です。


もともと自由診療にかかりたいとする患者は、保険診療では治らないことを理解した患者です。それでも今の苦痛をどうにかしたいという一心で自由診療に賭けてみるわけで、むやみに自由診療が広がっていくことはありません。また、自由診療のほとんどは、実は安全性や有効性が確保されています。というのも、自由診療で実際に開業医が行うのは、治療回数を増やす場合に、2回目を自由診療で行う。注射の際にX線透視を使う場合に、透視料として自由診療費をいただく。ゆっくり時間をかけて安全に行うために、その分の手数料を多くいただくのを自由診療費で追加する・・・などだからです。全く新しい無謀な治療が自費診療なのではなく、既存の安全性の確保されている治療を少し時間をかけ、最新の診断機器を使ってていねいに行うこと、回数を増やすことなどが自費診療なのです。


2、悪質な医療の増加

自由診療が悪を生むという考え方もわからないでもありません。患者をそそのかして高額な自由診療に導く悪い医者が増える可能性があると言います。しかし、自由診療は実際にはそんなに甘いものではなく、はっきりとした効果を出すことが出来なければ、患者は来院しなくなり、金儲け主義の悪い医者は淘汰されます。それは鍼灸や整体と同じです。彼らは高額な治療費をとりますが、実際に保険診療よりも効果が高いからこそ営業していけるのです。確かに鍼灸や整体での医療事故も散見します。しかし、それでも彼らはきちんと責任をとり継続して経営しています。自由診療は明らかに保険診療よりも3~20倍も高額なので、患者を満足させずにお金をだまし取るような悪質な医者は淘汰され、経営が成り立ちません。よって悪徳医師が増えて行くとはとても思えません。自由診療は「明らかに保険診療よりも効果の高い結果を出せる医師」にしか実行することが不可能だと思います。また、安全面でも同様です。自由診療が解禁になったところで、誰にでもできるものでは決してありません。


3、副作用や医療事故の増加

副作用や医療事故は確かに必ず増えると思います。その理由は、自由診療は保険診療ではなかなか治らない重症な症状を持つ患者のみを対象として行われるからです。医師は保険診療の時よりも「この患者を治してあげなければならない」というプレッシャーを強く持つことが確実です。したがって、安全よりも効果を優先させる傾向になるため「濃度の高い薬剤」「薬剤の分量を増やす」「治療回数を増やす」などの懸命の努力をすると思われます。すると副作用や医療事故が増えることは必須なのです。普通では治らない無理難題の症状にトライするからこそ事故が増加すると考えます。普通に単純比較で事故が増えるとは思いません。


しかしながら今まで保険医療では決して治ることのなかった患者の症状が自由診療では治るという幸運な例が、医療事故で悪化した人の何十倍も何百倍も存在するようになります。治らないとされた難治性の症状も治せる可能性が広がります。そのメリットと差し引いて、「どちらが日本国民にとって有益か?」を考えるべきです。保険診療では1万人に1人でも悪化する人がいれば、その治療を禁止しますが、自由診療では100人中99人が幸福になるのなら、1人の悪化は目をつぶるということもあり得ます。しかし、その責任はそれを行った医師にあり、きちんと責任をとるのであれば法治国家として可であると私は思います。患者側もリスクを承知で自由診療を受けるのですから、そこには契約が成立しています。事故は増えるでしょうが、その責任を個人の医師と患者自らが負うのですから、無造作に事故が増えるとは思えません。


4、自由診療のままでよしとする薬や治療が増える

恐らくこれが自由診療の拡大時の最大のデメリットと思われます。自由診療として広まった治療が保険診療にとりこまれることはないと考えている方が大勢おられますが・・・これは自由診療を開発した医師によって変化します。大学の教授が考え出した治療であれば自由診療のままになっていることはまずないでしょう。なぜなら、教授は実績を築き広くその治療が普遍的であり自分が有名になることを望むからです。自分の開発した診療技術が自由診療のままでいるのは教授らのプライドが許しません。教授のプライドにかけて保険適応をとるでしょう。自由診療のままでよいとするのは、世に貢献するよりも、名を残すよりも、お金が欲しいと考える開業医です。


では少し考えてみてください。名もない開業医ごときが教授たちをしのいで優れた治療法を編み出したとして、その治療法がどれほど世の中に貢献できるでしょう? 恐らく、保険適応が通ったとしても貢献度の低い治療法である確率が圧倒的に高いでしょう。ならば、そのような治療が保険適応となる必要性はありません。また、開業医が考え付いた自由診療では、「もともとエビデンスが得られにくい」ということを忘れてはいけません。エビデンスが得られない治療は、開業医がどう努力しても保険適応にはなりません。唯一、開業医の開発した治療法が保険適応となる方法は、その治療法が一人の開業医だけにとどまらず、多くの開業医に広がり、有用性が自然と判明してきた場合に限られます。つまり、どの道、その治療法が広まるためには自由診療を介さない限り無理なわけですから、自由診療の広がりが保険適応を阻止するという考え方は理屈に合いません。


また、本当に有用な治療法であれば、国民が保険適応を求める声を発しますので、そうすれば官僚はすぐにでも動かざるを得なくなります。心配いりません。友の会の会員が全員で一致団結して署名をとれば、官僚は保険適応へと動かざるを得なくなります。それから…自由診療は新しい治療、新しい薬剤・・・と想像しているようですが、その想像は大半が誤りです。名もない開業医がいきなり新しい治療を試すというような大胆不敵な行動は、身の破滅を招くのでまずしません。そういうことをするのは常に大学の教授クラスです。大学ではすでに先進医療として混合診療が認められているので、それが自由診療の拡大というものではありません。


一般の開業医が行う自由診療とは、現在、保険で認めているブロック注射を、「週に1回のものを2回に増やす」「1日に1箇所と制限されていたものを1日に数か所にブロックする」「透視を用いて注射する」「保険診療では不当に安い値段設定の治療を正当な値段で治療する」「高い技術を高い値段で提供する」などです。加えて言わせてもらえば、「X線透視を用いて注射する」真に大衆に必要とされる手法は、将来的にも保険診療に組み込まれることは絶対にありません。現在だって絶対に認めようとしないのですから。よって開業医レベルには本項目は考えすぎの一つです。


5、医療格差問題

医療格差は現在の保険医療ですでに生じていることは前に述べました。高齢者、無職の人、生活保護者などは、1週間に何度も病院に通えるため、働いて収入を得ている人たちの何倍も質の高い医療を受けられることになっています。現在、保険側は1日に1か所のブロック治療という制限を設けているため、週に1回しか来院できない労働者は1種類のブロックしか受けられないのに対し、週に2回通院できる高齢者は、2か所に2種類のブロックを受けられるという逆医療格差が生じています。さらに、保険の制限は都道府県で異なるため、医療の地域格差が歴然として出ており、現在の医療ではすでに弱者逆優遇・地域格差(東京では受けられる治療が大阪では受けられないなど)の不平等医療が行われています。


自由診療を認めたとしても、これまでの医療を受けられなくなることはありません。それよりも、保険側が不当な支払い拒否をしているために生じている不平等問題を直視するべきです。平等をうたっている保険診療が、実は平然と不平等を生み出しているからです。そして医療が発展する方向へと進める自由診療を、妬み(自由診療ができる腕の立つ医師は教授や学会の権威者に必ず妬まれます)で阻止するべきではないと思います。自由診療が増えても今の医療水準が落ちるわけではないのですから。


6、現在公的保険が使える治療も自由診療に見直される恐れ

自由診療が広がった状態をシミュレーションすると、なんと医療費が現在の半分で済む可能性があります。つまり20兆円規模の国家予算を確保できる可能性があります。こうなれば日本は貧乏ではありません。だから逆です。公的保険治療を自由診療に見直す必要性が激減します。余った財源で先進医療をどんどん保険に取り入れる予算も生まれます。自由診療は、高齢者が蓄財したお金を動かし、経済を活性化させる力があります。高齢者は年金暮らしで貧乏とは限りません。自由診療にお金を支払えるくらいの余力を持っている高齢者は少なくありません。また、重要なことを見落としてはいけません。保険診療は官僚が医師を、医療界を支配するために存在しているということを(後のシリーズで述べます)。


日本の医療は共産主義医療であることを前に述べましたが、医師が官僚に従順でいるのは保険側が医師を完全に養い、逆らうと点数改正で倒産させられるほどの痛手を食らうことがあるからなのです。つまり医師は厚生労働省に首根っこをつかまれています。官僚は常にその力を医師に誇示し、医師は彼らにびくびくしています。そうした官僚の権力を彼らが手放したくはないでしょう。保険診療を減らし、自由診療に移行させていくことは、官僚が自らの権力を縮小させて行くことに等しいのです。


東大出身のエリートたちで作られた巨大な白い巨塔が、その権力を手放していくと・・・本当にそんなことがあり得ると思いますか? 官僚たちは医療が国家予算をどれほど食いつぶそうとも、その権力を逃さないために、国民皆民保険を守り続けてきました。国家の債務を縮小させるために厚生労働省の官僚たちが自らの権力を捨てて保険医療を自由診療へと移行させていくことなどあり得るでしょうか? 真相はその反対ではないでしょうか? 自由診療へと移りそうになってしまっては困るので、保険点数を引き上げ、先進医療を取り入れ、多くの開業医が保険を利用するように画策しようとするのが筋だと思います。そうしなければ白い巨塔が崩れるのですから官僚たちも必死で保険診療を利用する開業医の比率を確保しようとするはずです。自由診療が広がり、財源が豊かになれば、保険点数はプラス改正にし「保険を使う医師」を増やそうと官僚たちが画策するのが筋です。


7、自由診療が増えることで、医療保険の保険料が値上がる

保険料が上がるのは当たり前です。むしろ、日本ではお金があるのによい医療を買うことができないというあまりにも資産家をバカにした医療を行っています。お金があるのに、医療を買えない世界にしていることを正しいとする考え方に私は疑問を感じています。共産主義医療にもメリットがあることはわかりますが、経済は共産主義では発展していかないことは中国でさえ認めていることです。医療は経済ではないとして切り離す姿勢はとても格好がよいのですが、経済を医療で回して財源を確保しなければ、国が債務で倒産するレベルになっています。いつまで共産主義医療にしがみつくつもりでいるのでしょう。


日本は江戸時代から資産家をバカにすることが美学であるとしてきました。士農工商という身分制度も商人(資産家)をバカにするための制度です。武士道から生まれました。しかし、良い医療を受けたいのにそれを全く買えない状態にしていることにも罪悪感を持っていただかなければなりません。資産家の健康を守れない日本にはしたくありません。今のような全員平等で、資産家にさえ質の低い医療しか受けさせない体制には賛成しかねます。資産家も大衆病にかかり、資産家も腰痛・膝痛・神経痛・認知症などに悩みます。そしてこれらを治そうとしても、ホームレスと同じ治療しか受けられません。大衆病に関しては、全員が平等に低いレベルの治療しか受けられないようにされているからです。

 

 

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