胸部交感神経節ブロックが奇蹟を生んだその治療効果とは?

はじめに

私は難治性疼痛を専門に治療をすることを志すこと約10年、ブロックでも治らない現医学に見放された痛みを治そうと志すこと半年。ペイン科の医師にさえ治せない痛み症状を治すことに挑戦し始めて3か月。「医師に心因性」と診断されて治療を放棄された患者の治療をするようになったのはこのHPのおかげです。本当に「どんな治療を受けても治らずにネットサーフィンしてやっと私のHPを見つけたような病気の強者が集まってきたからです。


それまで、私は「他の医師が治せない疾患を治せる」と少々天狗になっていたのですが、このHPに相談に来る患者たちは「本当にどんなブロックを行っても全く効果がない」人達ばかりでした。そして当然ながら、私もそうした患者をブロックで治せないことを認識し、かなり落ち込みました。ただ、私がペイン科の医師たちと異なるところは、ブロックで治らない患者を「心因性」とは扱わなかったところです。「絶対にどこかに器質的な理由があって症状が出ている」という考えを貫き、治す方法を模索し始めたところです。


私は実際にブロックが全く効果のないしびれや痛みや脱力、不快感と対峙したとき、「これまでの治療法を全て見直そう」と考えました。そして、これまでのブロック治療で「少しでも治りにくい患者(例えばブロック治療を毎週行っているが痛みが少ししか改善しない患者)」がいなかったかどうかを、振り返ったのです。すると、意外にも私の外来に毎週来院している患者の一部にそうした「ブロックがほとんど効果のない患者群」が存在していることに気づきました。「なかなか治らない」患者群は、ブロックですべてが治らないわけではなく、ある症状はブロックで治るが、ある症状はブロックをしても治らないと言います。つまり、これまで「ブロックがある程度効いている」と思っていた患者でさえ、しっかり問診すると「ブロックが無効である症状」を一つくらい抱えていたのです。この事実は知ろうと思えば認識できることであり、知ろうとしていなかった自分があることに気づきました。痛み症状の8割がブロックで治っているので2割が治っていないことを無視してしまっていたのです。


実は「ブロックが無効な痛み・しびれ・不快感などが少なくない」ということに気づいたのは恐らく私が世界で最初であると思われます。これは決して誇張ではありません。例えば、ブロックをすれば腰の痛みも、下肢の痛みも改善するが、足の裏の痛みだけは残っている、と訴える患者がいたとします。これまでの医者は「治りにくい症状もあるのだろう。足の裏もそのうち治る。」と軽く流していたわけですが、私の場合、「腰と下肢の痛みは神経根が原因の痛みであり、足の裏の痛みはそれとは異なる特殊な中枢性の痛み由来」である可能性を考え始めたということです。だから世界初なのです。


そして私は「ブロック無効の症状」の原因を研究するためにある仮説を打ち立てました。それが脊髄炎です。ブロックは主に痛みを感じている領域の神経根を狙うのがこれまでの医学の常識でした。私はその常識を打ち破り、神経根のさらに中枢の「脊髄の後角細胞に原因がある」という仮説を立て、そこに治療をすることにしたのです。「神経根を狙うのではなく、脊髄後角細胞を狙う」治療法です。すると驚いたことに、難治性の症状を訴えていた患者が次々と改善していくのです。それは奇蹟に近いものであり、患者が驚くとともに、私自身もあっけにとられるほどに驚いています。詳細は「難治性腰痛症BICBの新治療概念」に記載していますが、ここでは冷え症に悩んだ女性の1例を挙げます。


症例3 77歳 F

  • 主訴:両臀部・仙骨部・腹筋・前腸骨部痛、右下肢痛・腹部の強い冷え感、腰の強い冷え感、食欲不振、下肢脱力感、不眠、尿意・便意頻回、排便障害(一度便をするとその後に便意が止まらなくなる)

  • 現病歴:右腰部~下肢痛を主訴に3.5年前、脊椎手術で有名なK病院でL5/S1右拡大開窓術を受ける。その後1年間は軽快していたが、上記痛みが2.5年前から出現。続いて腹部の強い冷え感が1.5年前から出現。腰の冷え感が1年前から出現。K病院では「処置の必要なし」と言われ、その後近くの整形外科をドクターショッピングするが、全てで積極的な治療を拒否される。それでも冷え感は耐え難く、千葉在住であるが新宿まで通い漢方薬に頼る。しかしそれでも冷えは治らない。近医には老人性うつであろうと言われ精神科を紹介される。精神科を受診したが異常なしと言われ、最後に偶然に私の外来を訪れた。

  • 治療1回目 L3/4より腰部硬膜外ブロック行う。右下肢の痛みに多少の効果があったが、冷え感や前腸骨の痛みには全く無効だった。これによりBICBとして治療を考える。
  • 治療2回目 L1/2より腰部硬膜外ブロックを行う→前腸骨と腹筋の痛みは軽快した。しかし冷えには無効。両臀部痛にも無効(L1/2という高位に行ったためと思われる)。
  • 治療3回目 両臀部痛を軽減させる目的で再びL3/4高位に腰部硬膜外ブロックを行う。すると冷えには全く無効。両臀部痛には数日有効。
  • 治療4回目 T12/L1に硬膜外ブロックを行う。これにより、今まで無効だったおなかの冷えが2日間消失した。臀部の冷えは左側が軽快したが右側の冷えには無効であった。しかし初めて冷えに効果があったという快挙であった。
  • 治療5回目 T12/L1に硬膜外ブロック。おなかの冷えに3日効果あるが持続しない。
  • 治療6回目 T10高位の交感神経節ブロックを行う。これまでのどの注射よりも最も効果が高く、冷えが軽快してきている(持続性があった)。そして食欲が増進した。腹筋・腸骨の痛みは軽快。ただし、右股関節~大腿外側~下肢後面痛が強くなる。腰痛も再燃。
  • 治療7回目 T10高位・交感神経節ブロック+右L5神経根ブロック おなかの冷えと腰の冷えがほとんど感じられなくなり、夜中にトイレに起きることもなく熟睡が出来るようになる。食欲が完全回復、直腸膀胱障害も消失、2階と1階を行き来する筋力が急に復活した。ほぼ奇蹟と言える圧倒的な改善に、本人はあまりにも驚いていた。なぜならば、つい最近まで養護老人ホームへの入所を希望していたほど体調がすぐれなかったからである。

    考察:今回、2回の胸部交感神経節ブロックを行うことで多彩な症状のほとんどが劇的に(魔法をかけたように)消失しました。消失効果は1週間持続し、次の診察日まで継続。これまで腰部硬膜外ブロックで冷え感には全く無効、かつ腰周辺の痛みにもほとんど無効でしたが、ブロック高位を上げていくうちに全ての症状に効果が現れ始めました。もっとも効果があったのはT10レベルの胸部交感神経節ブロックであり、このブロックがこの高さの脊髄の血行を促進させ、症状が軽快したと思われます。すなわち、本症例も脊髄レベルの疾患である(脊髄炎)と思われました。改善した症状は非常に多彩であり、腹筋・腸骨の痛み、腰回り・下肢の脱力感、冷えであり、さらに食欲が改善し、直腸膀胱障害が消え、熟睡ができるようになったとのことです。この数年間、症状が続き、軽快しないことから養護老人ホームに入所を考えていたほどだっただけに、今回のブロックの効果には、驚きでした。これはブロック史上の快挙と思われます。また、この文章は誇張でもフィクションでもない事実であることを念押ししておきます(2014.10.30.現在)。


難治性脊髄炎に対するブロックの効果

今回の胸部交感神経節ブロックはT10レベルの胸髄の血行促進を狙って行いました。その理由は、こうした多彩な腰・腹部・下肢症状は原因が脊髄炎にあると考えたからです。脊髄炎の主な原因は血行障害であり、高齢者では血栓などで阻血性の脊髄炎が自然発症すると思われます。つまりそこには脊椎の変形や脊柱管狭窄はあってもなくても無関係に起こるということです。T10への交感神経節ブロックが効果を発揮したのは、T10レベルの脊髄を栄養する動脈をブロックで拡張させ、阻血性の炎症を解除したからではないかと考えています。おそらく、MRIで描出不可能なレベルの脊髄炎は高齢者には日常茶飯事に存在している可能性があります。よってブロックを行っても軽快しない症状がある場合、脊髄炎の存在を考慮し、脊髄の血行改善目的で胸部交感神経節ブロックや胸部硬膜外ブロックなどを行ってみる価値がありそうです。


難治性=脊髄炎と決めつけてはいけない

ブロック無効の理由が脊髄炎が原因である可能性論を私は打ち立てましたが、ブロック無効の全てが脊髄炎と考えるのは行きすぎです。物理的な神経根への圧迫が強ければ、ブロックが無効となることもあるでしょう。癒着が原因で血行不良が神経根に起こっている場合もあり、癒着はブロックでは解除されにくいでしょう。つまり、ブロック無効の病態には脊髄炎だけが存在するわけではありません。本症例はあくまでブロック無効であったにも関わらず、胸部交感神経節ブロックが劇的に効いた1例であり、すべてがそのようにうまく行くとは限りません。ただし、ブロックが無効の際は、一度、脊髄炎の存在を考え、脊髄の血行改善の処置(ブロックだけとは限らない)を促すことを強く勧めます。


胸部交感神経節ブロックの注意点

胸部交感神経節ブロックは交感神経節の存在場所を立体的に把握していなければ、気胸のリスクを負います。胸郭には接線方向から刺入するよう胸椎の4~5cm外側から刺入し、椎体を狙っていくイメージになります。少しでも刺入角度が立ってしまうと肺を刺してしまう危険性がありますので注意が必要です。よって、誰もが簡単に行える手技ではありません。


その後

気温が著しく低下した日に来院することができず、再び冷え感(お腹の冷えと脚の冷えの両方)が治療前レベルに戻ってしまいました。同様にブロックをするものの、効果は6日だったものが3日→1.5日と短くなり、結局、ブロックを行っても1.5日しか冷えが改善しない状態になってしまいました。おそらく、ブロックに耐性ができてきたと考えています。ブロックが1.5日しか効果が続かないのなら、リスクを侵してまで行う理由はありませんので、今後は症状が酷くなったとき限定で行うことにしました。こうしたブロックへの耐性問題を解決することが先決です。

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