神経根ブロックと傍神経根ブロックの違い

はじめに

私は神経根の近傍にX線透視と造影剤を用いずブロックする「傍神経根ブロック」の技術を完成させました。要するにブラインドで神経ブロック針を用いて神経根ブロックを行う手技です。本ブロックは様々な点において神経根ブロックよりも優れています。今後、傍神経根ブロック(PRB)を普及するにあたり、PBRの利点について、従来の神経根ブロックと比較しながら解説していきます。

神経根ブロックの長所・短所

神経根ブロック(以下RB)は狙った神経根に直接針を刺してブロックを行う手技でありDDS(ドラッグデリバリーシステム)の観点から、症状の主原因が後根神経節を含めた神経根にある場合、この手技が全てのブロックの中でもっとも優れた治療効果を発揮します。硬膜外ブロックでは注射液が浸透しない場合でも、RBなら確実にターゲット(後根神経節)に薬液を注入できます。しかしRBは神経根に実際に針を刺すこと、造影剤を必ず注入することが侵襲的であり、短期治療をするとしても連続3回が限度とされています。また、刺入時の痛み、薬剤の注入時の痛みは激烈であり、ブロックの度に患者は恐怖感を覚えます。よってRBのしきいはかなり高いと言えるでしょう。このしきいの高さがRBの最大の欠点です。

RBは診断ツールには使えない

優れた脊椎外科医は腰椎椎間板ヘルニアの手術前にRBを行い、症状を完全に消失させることで責任病巣を断定する作業を行います。これにより痛みの原因椎間を同定します。つまり、RBは診断ツールとしてMRI以上に信用度の高いものとして実用されていますので、RBは画像よりも診断レベルが高いといえます。しかし、RBは前述したように患者にとってしきいが高い手技ですから、「手術前の診断ツール」としてなら用いることができますが、肩こりや腰痛など日常的な症状の診断ツールとして用いることができません。
実はこれがRBの最大の弱点です。診断ツールとして用いることができないということは診断が確定している疾患の治療目的としてしか用いられません。と、なると、RBそのものを診断ツールとして用いることは不可能です。なぜなら痛み治療では原因が不明な疾患が多々あるだけでなく、原因箇所も特定できるとは限りません。RBはじゅうたん爆撃のようにターゲットがあいまいでもよい治療法ではなく、ピンポイントに狙うから効果を発揮するものです。よって原因と原因場所が特定できてのみ使用できるという制約があるため、実際は使用できる機会が大幅に限定されます。
不明な痛みにはRBが使い物にならないことを意味します。早い話が、痛みの原因がわからないけれど「とりあえずRBをやってみよう」と手軽に実行できないということです。日常の痛み(肩こりや腰痛など)において、確定診断を下すことができる症例は、外来にはほとんどありませんので、現実的にRBの用途は多くありません。腰痛一つをとっても痛みの原因は神経由来・関節由来・靭帯由来・筋肉由来など、何が原因なのかは確定診断が下せません。
これらのRBの不利な点をPRBは全て解決できます。その理由は、PRBはあらゆる点においてRBよりも桁違いにしきいが低いからです。しきいが低ければ試しにブロックするということがカジュアルにできるようになるため、診断ツールとして用いることができます。

硬膜外ブロックの導入役としてのPRB

硬膜外ブロックには同意書が必要であり患者の承諾を得なければなりません。よって肩こりや腰痛に硬膜外ブロックを行うことは臨床現場では不可能です。ところがPRBには同意書が不要です。問題となる大きな合併症がないに等しいからです。PRBは明らかに他のどの神経ブロックよりもしきいが低く、初めての患者にも勧めることができます。
そこでPRBは硬膜外ブロックなどの導入へのきっかけ治療として役立ちます。例えば、右の股関節が痛いと訴える患者がいます。この患者は真に股関節の炎症で痛いのか、大腿神経痛で股関節が痛いのか区別がつかないので硬膜外ブロックなどの治療ができません。そういう時に、まずPRBをL4ルートに行います。これで痛みがすっかり消えれば大腿神経痛であると判明します。そして何度かPRBを行って完治すればそれでよし。完治しなければ硬膜外ブロック、普通のRBなどを試します。このようにPRBは次のブロックの導入役になるわけです。PRBがあるおかげで、いったいどれだけの患者を根治に導けたか…その影響は計り知れません。

RBとPRBのしきいの高さの違い

 
RB(root block) PRB(para root block)
手技料 ¥30000- ¥1400- ※1
必要時間 15分~30分 数十秒~数分
患者の苦痛 激しい ほとんどない
神経損傷 損傷リスク高い 少ない(表在血管・表在神経損傷のみ)
原因の確定率 90%以上必要 ※2 25%以上必要 ※3
適応 痛みのみ 痛み・しびれ・麻痺・冷感
回数 3回が限度 無限
効果 100 60~80 ※4
 
  • ※1 経仙骨孔ブロック(S1 PRBに相当)が140点であることから¥1400-相当とする
  • ※2 侵襲を伴いコストも高く苦痛も強いので診断がほぼ確定(90%以上)が必要
  • ※3 原因確定率50%×場所確定率50%=25%
  • ※4 軽症ではどちらも1度で完治(差がない)、重症ならどちらも1度で治らない(差がない)、中等症ではRBの方が効果が高く出る。よってRBを100としてPRB=60~80とした
  •  ここで患者が受けるストレスを試算する。
  • RBのストレス=300(コスト)+10(時間)+300(手技時の痛み)+100(リスク)=710
  • PRBのストレス=14(コスト)+5(時間)+30(手技時の痛み)+5(リスク)=54
  • ただしコストは高齢者や福祉(全額免除)ではほとんど無関係となる。その場合はRBのストレス=410、PRBのストレス=40となる。次に患者の満足度を試算する。上記の患者の受けるストレスと満足度の方が等しい、または高いからこそ治療が成立する。よって満足度はストレスの2割増しと試算し
  • RBの満足度=710×1.2=852とする。PRBの満足度はその3割引とすると
  • PRBの満足度=852×0.7=596とする。
  •  これらより患者のメリットを試算する。
  • RB時の患者のメリット=852-710=142 支払が1割の場合412
  • PRB時の患者のメリット=596-54=542 支払が1割の場合556
  • と試算され、患者のメリットはRBよりもPRBの方が圧倒的に高いことがわかります。しかもRBは連続で多数回行うわけにはいきませんので3回以上治療が必要な症例の場合、途中で治療を変えるしかありません。
  •  ルートブロックを診断ツールとして用いるのであれば、そのしきいの高さは、満足度が度外視されストレスの強さとなります。RBのストレスはPRBのストレスの約14倍ですからRBを診断ツールとして用いることはまず不可能であることがわかります。

治療回数が多くかかる症状にはRBは不可能でPRBしか使えない

RBは連続3回が限界なのでそもそも3回以上の治療回数を必要とする疾患・症状には用いることができません。痛み症状は数回で完治することが多いのですが、しびれや麻痺・冷感・灼熱感などの症状は数回の治療で完治することはほとんどありません。よってこれらの症状にRBを選択することはそもそもありません。こういう症状の治療にはPRBが最適です。

難治・不明の疾患の多くをことごとく解明できる

線維筋痛症・リウマチ筋痛症・頚肩腕症候群…など原因が特定できなかったあらゆる痛みをことごとく解明できるのがPRBです。腰椎椎間板ヘルニアの責任病巣と損傷神経根を特定するために神経根ブロックをするのと同様に、上記の疾患にPRBを行うことにより一旦症状を完全消失させ、その責任神経根を同定することができます。
この診断手法に議論がある方は大勢いることでしょう。症状の完全消失は原因箇所から離れた(見当違いの)箇所にブロックしてもあり得るという反論があります。しかし、原因箇所から外れると「完全」消失ではなく、部分消失となり、その効果も数時間以内に切れて治療にならないというのが現場の臨床データです。実際に症状の「完全消失・完治」を経験したことのない医学者などが反論されますが、臨床現場はそれほど甘くありません。軽症の治癒期の患者はプラセボでも治りますが、重症の急性期の患者は、見当違いの治療では全く治らないものです(詳しくは「治療の医学」参)。
米国の痛みに関する各種学会で論争点は例えば上腕骨外顆炎が中枢感作が真の原因であるとかないとか、筋筋膜性腰痛が中枢感作が原因であるとかないとか…いろいろと話題が絶えませんが、そういった論争はPRBでほぼ解決できるのです。
例えば私は上腕骨外顆炎の患者の治療に実際にC6やC7の神経根にPRBを即席に行い、その場で痛みを完全消失させ、痛みの主体が上腕骨外顆にあるわけではなく、C7にあることを診断しています。確定診断を行うには上腕骨外顆にもブロックを行います。原因が上腕骨外顆にある場合は、C7ブロックでは痛みが完全消失しません。また、原因がC7にある場合は、上腕骨外顆のブロックでは痛みが完全消失しません(「近接効果の法則」参)。
また、診療日をずらしてC6にPRBを行い、C6とC7のどちらのブロックの方が効果が高いかをチェックし、原因となる神経根を同定しています。学会での論争を尻目に、私は彼らよりも一足先にPRBで病態生理を次々と解明しています。
PRBが解明した病態生理は数々あります。ばね指が神経根由来であること、肩関節周囲炎が神経根由来であること、肩こりが神経根由来であること、過活動性膀胱が馬尾神経由来であること、もちろん腰痛も神経根が由来であることなども次々と解明しています。
これまでどの医師たちにもできなかった「治すことで原因箇所を診断する」というやり方です。それはPRBの技術が可能にしました。通常の神経根ブロックでは「試しに治療」は不可能です。ばね指やテニス肘の患者に頸椎神経根ブロックを勧められる医師がいるはずがありません。このようにPRBには計り知れないほどの診断能力が存在します。この診断力を身に着けたいのならブラインドで、痛くなく、ルートブロックができるPRBの技術を身に着けることです。

PRBの治療力

私は以前、透視下のRBをよくやっていたものですが、現在は全く行いません。患者にとってメリットがないからです。PRBはダイレクトに神経に針を刺さない分、透視下のRBよりも効果が低いと思われがちです。が、実際は違います。
神経根は横突起の下方・腹側を通りますが(頚部は横突起直上)、PRBでは背中からのアプローチで横突起を超えた付近に薬液を注入します。術者の腕にもよりますが、この深さに注射すれば3人に2人はブロック後に麻痺が起こり動けなくなります。動けなくなる時点で薬液は十分に神経根に浸透しており、直接根部に針を刺すまでもなく十分な治療効果を発揮している証拠になります。それは針で直接刺した場合と効果がほとんど遜色がありません。
麻痺が来ない場合はPRBの治療効果は確かに低下します。しかし、それでもよほどの重症症状でない限り治療効果は十分です。もともと神経ブロックの目的は、痛みを麻痺させることにあるわけではなく、神経が浮腫や圧迫などで血行不良に陥っている状態を改善させて自己修復を助けるところにあります。つまり神経根(後根神経節)周囲の血管が拡張すれば目的が達成されています。周囲血管を拡張させるという目的だけなら、直接神経根に麻酔剤を注入する必要がありません。「きちんと神経根に注射しなければ治るはずがない」と考えるのはエビデンスのない空想です。
ただしPRBの短所は効果にムラがあるところです。そのムラは効果十分と極めて効果ありの間のムラであり、効果ありと無効の間のムラではありません。しかもPRBは毎週連続での治療を無限回行うことができるので、長期の重ね掛け効果が期待できます。長期重ね掛けはRBには不可能な治療法であり、PRBにはその分アドバンスがあります。
私の外来では腰痛、肩こり、上下肢のしびれなど患者は初診で、その場でPRBを行い、その6~7割の患者は1回通院のみで完治に近い状態になり、その後通院しません。PRBはそれほど効果が高いということです。

PRBの医師側のコストパフォーマンス

PRBは日本の保険制度のメニューに存在しません。効果的にはRBとほぼ同等ですが3000点を請求できません。内容的には経仙骨孔ブロックがこのPRBと同様の意味合いになりますので、私は140点の請求に留めています。つまり、3000点相当の効果がある手技をその20分の1以下の診療費で提供しますので、医師側にとってはコストパフォーマンスが最低最悪となります。さらにPRBはしばしば複数個所(左右2か所)に行いますが、2か所目以降の治療費は請求できません。2か所行えば1手技が70点です。よって医師にとってこれほどコストパフォーマンスの悪い手技はないと言っていいでしょう。施行する度に大損した気分になるため、精神的な苦痛が莫大です。その上、針を深く刺すわけですからトリガーポイント注射よりもリスクが高くその責任を負いつつこのコストでは奉仕活動です。さらに悪いことには、治療効果が高すぎるため、患者は1回治療で完治に近づき通院しなくなります。

PRBと星状神経節ブロックと上頚神経節ブロック

頚部のPRBができるようになれば、星状神経節ブロック、斜角筋ブロック、腕神経叢ブロックなどは不要になります。これらは全てPRBの治療効果より劣るからです。唯一、星状神経節ブロックのみが交感神経節をブロックできるという意味でPRBよりも血管拡張作用で勝ります。しかしながら、C7へのPRBでは同時に星状神経節へも表面麻酔薬が浸潤しますので、総合的に見てPRBに勝るブロックは存在しません。また、交感神経節ブロックで突発性難聴などを治療したい場合は、星状神経節ブロックよりも上頚神経節ブロックの方が効果が高いので、どちらにしても星状神経節ブロックの必要性はほとんどありません。C2,C3へのPRBは針先をやや前方に向ければ上神経節ブロックになります。

診断ツールとしてのPRBは別次元

  米国線維筋痛症学会では肩関節周囲炎、テニス肘、腱鞘炎などの疾患に中枢感作が隠れていることなどが激しく議論されています。つまり、従来のように局所への注射では治らないということが論争の火種になっています。が、それらの論争は患者を治せないから決着がつかないのであって、PRBで治してしまえば、「神経根症が合併していたこと」がすぐに判明します。
まさに米国線維筋痛症学会で議論され続けて、しかし一般的な臨床医にはあまり信用されていない中枢感作の概念ですが、そうした議論もPRBを実施すれば終わります。それほど別次元の診断ツールと言えます。
この別次元の診断能力を得たいのであれば、屈辱を受ける覚悟が要ります。すなわち、3000点のコストを捨て、140点の治療を行い、初診で患者を治し、患者に感謝される間もなく通院不要にしてしまい、ブロックのリスクを背負い、ブラインドでブロックできるという高等な技術を二束三文の手技として患者に奉仕するという屈辱です。サムライスピリッツがないとできないので、普通の医師にはできないでしょう。だからこそ価値の高い別次元の診断力が備わります。別次元の診断力が備わっても、あなたの下した診断は、他の医師たちに認めてもらえず、理不尽このうえないでしょう。それも大きな屈辱です。その理不尽を受け入れ、患者を治すことに専念して初めて、診断力が高みに昇ります。それはまるで禅の修行です。困難な道ですがやりがいがあることでしょう。  

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