第十話 エレベータの怪とお彼岸の母

前回の第八話の話から約2週間後のお彼岸の日。母に会うためにお寺に出向きました。遺骨を預けてから初めてのお彼岸です。奥様は玄関を出てエレベーターのスイッチを押しに行き、私は玄関のカギを閉めます。いつもの役割分担。


私がエレベーターに近づくと、エレベーターは下の階に行ってしまっていました。「来ることがわかっているのにどうしてエレベーターのボタンを押しておかないの?」と私は奥様に文句を言います。「違うの。押していたのに下に行ったの」「えっ! 意味が分からない。ずっと押してたの?」「そう!」と困惑していたらエレベーターが私たち10階の一つ下の階の9階に止まり、そして再び10階に上がってきました。その間、エレベーターには誰も乗っていません。


もともと最初は11階に止まっていた無人のエレベーターが10階に一旦止まったのですが、奥様が下行のボタンを押していたにもかかわらずそれを無視して扉が閉まり、おそらく誰も押していない9階に止まり、その後に10階に戻ってきたという誤作動が起きたのです。「わー 間違いない。Aのせいだ」と私は奥様にいいます。後日、奥様はオートロックの自動ドアを外から近づくだけで開けてしまうなんてことを起こします。科学では解明できない波動が奥様から出ていると考えざるを得ません。偶然にしては起こる確率が高すぎるからです。



桜並木を通り過ぎてお寺につき、住職とお話ししている最中からまたもや奥様に異変が。奥様の話では、目の奥や首に締め付けられるような重圧感と鈍い痛み発生。目も開けていられないそうです。私にはそれが降霊の予兆だとわかっていましたが「ここはこらえたほうがいい」と言って奥様に「憑かせないように」言いました。最近奥様は「憑かせない」ことができるようになってきました。こらえればトランス状態にならずに済むようです。そして奥様と私は本堂に向かいます。本堂の真ん中に骨壺を置き、私は右、奥様は左に正座し、住職がお経をあげます。


すると奥様の体が揺れ始めました。髪の毛が逆立ち、頭が振り子よう上下に動ごき、やがてぐるぐる旋回し始めました。憑く側の力が強くなると「憑かさない」ではいられません。奥様はなにやら言葉になっていない歌を歌い出します。住職はそのままお経をあげます。するとうめき声や嫌がるような仕草と奇声を発します。奥様はさらに大きくぐるぐる回旋します。が、不思議なことに倒れません。奥様いわく、とてつもない強い力で動かされてて倒れたくても倒れなく目が回りすぎて気分も悪く吐きそうだったそうです。


これには住職もそのままにせず、木剣(ぼっけん)祈祷を始めました。カスタネットのようなものを頭の周囲で鳴らし悪霊を払うものです。すると奥様の回旋運動が止まり、少し鎮まりました。住職は再びお経をあげ続けます。しばらくすると奥様が太ももを両手で叩き始めます。「あら、またなにか始まった」と思い私は横目で見ていると、今度は無邪気な子供のような声を発します。住職は「子供かなあ?」とつぶやきながら「お前は誰だ?」と訊ねます。奥様は住職の言葉をわざと無視するかのように鼻歌で歌って答えるのですが、とても楽しそうな声です。



歌を歌いながらしばらく駄々っ子のよう両手を太ももに打ち付ける激しい運動をした後に、今度は手をぶんぶんと左右真横に振り回す仕草をし始めました。ぶんぶんと手を振りながらお尻を軸にくるくると回っています。私はこれを見て奥様に降りているのは私の母親だと直感しました。そして、「卓球しているようだ」とつぶやいたのです。なぜなら、母親は生前、卓球のクラブチームを率い、三度の飯より卓球好きだったからです。さらに母親はカラオケ教室を経営していて歌を歌うことも大変好きでした。


「この手振りは卓球だと思います。母親は生前卓球がとても好きでしたから。たぶん母親だと思います」と私は告げました。そのうち、「○○ちゃん、○○ちゃん」となにやら私に声をかけるようになってきました。笑っている。喜んでいる。私は奥様めがけて「お母さんかな?」と訊ねるとまた、「〇〇ちゃん、〇〇ちゃん」と私の名前を呼びました。奥様がしっかりとわかる言葉を発したのは初めてでした。住職はもう一度「お前は誰だ」と問いかけました。すると今度は「〇〇の母だよ。」としっかり答えたのです。


これには正直驚きました。奥様の意識はまだあるからお母さまの意識と二重に重なっている感覚。私は奥様の手をにぎりしめました。奥様もしっかり握ってきます。そのうち、バタン!と倒れこんで号泣し始めた。住職がいうには、30年ぶりに落ち着けるところや意志を伝えられたことで喜んでいるらしい。奥様は自分もつられて号泣し、住職が再度念仏を唱え、奥様の額・頭・背中と触っていき、お払いをしてくれました。その直後、口から大きな蛇がでるような勢いでの長い嗚咽と叫び、激しい咳き込み。そして、奥様が我に返ったよう顔色が変わりました。咳と涙で顔はぐちゃぐちゃ。自分の意識が完全に戻ったことがわかったそうです。その姿が鮮明に私の目に焼き付きました。


奥様は前回初めて降霊したときと比べるとその能力は格段に上がったと感じます。私はただ驚くばかりでしたが、私の母の霊を奥様が自分の体に降ろすという奇妙な出来事を初めて目の前で見てしまいました。ほんとうに衝撃的でした。「たぶん母親だろう」とは感じたものの、本当にそうなのか不思議でたまりませんでした。


ですが、My奥様があんな今まで見たこともない異常な体の動かし方でしかもとても苦しそうな姿を自分の危ない首の疾患をかえりみずわざと見せるはずもなく(奥様は首に少し疾患があり危ないのです)、「霊?を降ろす」ということが奥様の能力として芽生えていることだけは信じざるを得ませんでした。