正しい生理的後弯の定義

はじめに

頸椎の側面単純XPを撮影すると少なからずストレートネックや後弯ネックがある患者と遭遇する。これらの形態は正常ではないと言われつつも以下のような理由で病的意義を見出せないでいた。それは
  • 1、異常がなくても姿勢や重心移動の変化で後弯化する
  • 2、痛みのある患者が一時的に防御姿勢をとって後弯化する
  • 3、後弯ネックの診断基準がなく見た目の直感で決めつけている
などである。よってXPでストレート(後弯)ネックを見つけてもそれが病的なのか生理的(姿勢が悪いだけ)なのか? 一時的なのか慢性的なのか? 後弯であると何がどうからだに悪影響するのか?全くわからないのに適当な自論(推論)を患者に吹聴するといういい加減な状況が続いている。これらのいい加減な医学を脱するためには後弯のメカニズムを調査し、正常と異常の区別をするための診断基準を作成しなければならない。

頚椎側面機能撮影 by 筆者

正中側面から弱・中・最大屈曲した4段階のXPである。 SK01   黄色線:頭蓋底線、青線:環椎上縁、緑線:軸椎、赤線:C7上縁 青の縦線:軸=歯突起後縁とC7椎体中心を結んだ線  
正中 弱屈曲 中屈曲 最大屈曲
C0/7角 50 28.6 14 1.4
C0角 21.2 13.6 -2.3 -9.8
軸角 -6.0 0.0 -12.9 -19.0
軸C0角 27.4 13.6 -10.6 -10.5
軸C7角 23.3 13.6 -2.5 -8.4
C2/7角 29.3 7.2 -6.5 -24.8
注釈)軸角:垂線と軸のなす角度、軸C0角:軸に対する垂線と頭蓋底のなす角度、   軸C7角:軸に対する垂線とC7上縁のなす角度
上記の表をグラフ化 SK02

ストレートネック解説

病的ではなく生理的なストレートネックを調査するために筆者の頸椎を4段階の屈曲で撮影し、それぞれの角度を計測した。筆者はアライメント異常、際立った変性などがなく、正常頚椎のモデルとして今回使用した。撮影は正中(Neutral)、弱屈曲(Slight flex)、中屈曲(Medium flex)、強屈曲(Strong flex)。頸椎を徐々に前屈させ、最後には最大屈曲で撮影している。4枚のXP写真より、ストレートネックはSlight flexとMedium flexの中間に位置するであろうことがわかる。よって上のグラフのSlight flexとMedium flexの中間にラインを引き、そのライン上をStraight neckとした(アバウトではあるが大きく外れることはない)。
グラフよりStraight neck のライン上の各角度を計測する。以下に記載。
C0/7 C0 軸C0 軸C7 C2/7
18.2° 6.5° -7.0° 0.5° 5.2 0.0
+は伸展(前弯)方向 -は屈曲(後弯)方向への角度
ここに示した角度は生理的にストレートネックとなるポイントを意味する。頸椎のアライメントが正常な人(筆者)も上記のような角度になるまで頸椎を屈曲させるとストレートネックになるということを意味している。つまり筆者は正中位で撮影すればLordosis neckであるが、例えばC0(頭蓋底角)が6.5°になるまで頸椎を前屈させて撮影するとStraight neckになる。したがってXP上Straight neckに見えたとしてもC0が6.5°以下だったならそれはストレートネックと判定してはダメで、屈曲で撮影したために(poor studyで)ストレートに見えているということになる。
逆に、例えばC0/7が20°であって、かつXP上ストレートに見えるのなら、それはアライメント異常(ストレートネック)と診断してよいということになる。
ここで問題になるのは「ストレートネックに見える頸椎」の定義である。この問題はかなり複雑(微妙にS字カーブ、逆S字カーブ、W字型カーブなどの形態のストレートネックがあるため)なので考察は先送りとする。

グラフから読み取る頸椎の生理的な動き

SK02 このグラフはC0/7をy軸にとり、各々がどんな動きをするのかを比較したものである。まずC0/7は最大屈曲でも0°以下にはならない。y軸の右端は0°で止まっている。Kyphosis neckの場合、C0/7が0°以下になることが有意に多いことは「頸椎機能撮影と臨床意義の調査」で示した。
  • C2/7(オレンジの線)は椎間板の動きの総和を意味する。C0/7とほぼ一致して一次関数的に30°から-25°までスムーズに動く。ストレートネックとなるポイントではC2/7は0°となっている。つまり生理的な動きではC2/7=0°となった時に頸椎はストレートネックになる。

実際に2011.1.1~2011.12.31に来院して頸椎XPを撮影した2歳から35歳の患者全88症例の調査におけるストレートネックとカテゴライズした10名(うち3名はpoor studyのため実際は7名)のXPを下に示す。 SK03
この7症例のC2/7の平均は-0.2°±3.3°(1δ)であり、ストレートネックではC2/7がほぼ平行になる(C2/7=-7°~6°(2δ))と言える。
さて、C2/7のオレンジのラインはMedium flexからStrong flexにかけて急勾配になっている。この理由は滑膜関節であるC0/2が奇異運動を起こしているからだということは述べた(「頚椎奇異運動についての調査」を参考のこと)。
  • 軸(青のライン)はC2歯突起後縁からC7椎体中心に降ろした重心線である。この軸は頸椎全体の傾きを表している。青ラインは最初、右上がりであるのは、撮影時に「その場で曲げる」ことを意識したため頸椎を弱屈曲する際に重心を若干後方に移動させてしまったためで大きな臨床的意味はないと考える。
普通に首を曲げていくと軸は徐々に前方に倒れていくのが自然である。よって青ラインは通常、一次関数的に右下がりになると思われる(ビデオ撮影すればこの辺の問題はクリアとなるだろう)。  
  • 軸C7(Slope)(茶色のライン)これは上記の軸に対する垂線とC7の角度、つまり軸に対するC7の傾きを表している。C7は頸椎のボトムである。このボトムが頸椎を屈曲させて行くと軸に対して何度傾くか?を示した線である。マイナスは前傾、プラスは後傾。つまり、首を曲げれば曲げるほどC7は予想に反し背屈することがわかる。
ここでは首を前に曲げるとC7は背屈するという生理的な運動があるということを覚えておく。
およそC0=0°が軸C7が前傾か後傾かの境界(軸C7=0°)となる。立位側面を撮影すれば全例でC0は必ずC0>0°となるので軸C7がマイナス値(後傾)であることはそれだけでAlignment異常と診断してよい。この意味を下に図解する。 SK04
  左は正常、右はアライメント異常。軸C7(Slope)は立位側面像でマイナスとなることはない。Slopeがマイナスになっているものは異常と判断する。ちなみに私が調査した正常アライメント群24名(2-44歳)の軸C7 (Slope)の平均値は19.9±6.4(1δ)であり、最低値でも10.5°であった。よってSlopeはマイナスでなくとも10°未満であればアライメント異常と考えてよさそうである。Slopeは姿勢の悪さによる影響を受けにくいため診断指標に適する。ただし、Slopeが10°以上あるからといってそれを正常とは言えない。逆S型のアライメント異常などでは下位頸椎が前弯となるのでSlopeは10°を越える。からである。
 
  • 軸C0(緑のライン)軸に対するC0やC7の角度は姿勢による誤差が少ないため過屈曲を判定するための指標として使える。このグラフからわかることは、頸椎を最大に屈曲させたとしても軸C0は決して0°以下にはならないということ。
グラフは屈曲終盤でフラットになっている。つまり「これ以上屈曲しない」という限界点がある。この限界点を越えると頸椎の構造が破損すると思われる。
次のXPは21歳女性の屈曲撮影であるが、C0/7<0°が明らかであり、過屈曲頚椎であることがわかる。 SK05
過屈曲であっても軸C0は決してマイナスにはなっていない。軸C0がマイナスとなると脊髄は過伸展となり、脳幹まで損傷する恐れがある。おそらくそうならないために軸C0はどれほど過屈曲になってもマイナスにならない構造であると思われる(要検証)。

まとめ

ここに挙げた角度の値が生理的後弯の条件である。つまり、上記を逸脱する動きや角度を異常とするあらたな診断基準を作らなければならない。これまでの医学では全体の頸椎の動きを無視し、頭蓋底の角度も計測しないまま、ストレートネックを見た目で判断していたというずぼらな状況であった。今後、未来の医学がそうであってはならない。ここに挙げた法則を元に、正しいストレートネックの定義を作成するべきである。ここに挙げた症例は筆者の頸椎のサンプルなので、正常とは言えない。よって、正常値を作成していくには何千人ものデータが必要になる。また、S字、逆S字、W型などの形態もあり、データ作りは想像以上に複雑である。残念ながら私にはそこまで研究する時間的がゆとりがないため、後輩に後を任せるとする。いち早く、見た目で漠然と「ストレートネック」と診断するずぼらな時代が終わってほしいと思っている。

正しい生理的後弯の定義」への1件のフィードバック

  1. 頭蓋頸椎角の前彎後湾の定義に大変興味があります。
    先生のシェーマが大変役に立っています。
    よろしければ、もっとお話を伺いたいのですが、どのように
    すればよいでしょうか?

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