確実な腰椎高位診断法

はじめに

放射線科の医者と整形外科の医者が腰椎にナンバーリングする際に、お互いの意見がかみ合わないことがしばしばあることは世界中で見られる日常茶飯事な現象である。そしてあってはならないことであるが、高位(手術の場所)を誤って腰椎の手術をされたという患者も決して少なくない(毎年必ず起こっている)。おもしろいことに、これだけ問題にされている腰椎の高位診断のミスを、まともに研究し、それをなくそうとする動きがない。今回私は腰椎の破格について全年代において調査をした。すると今までの医学的知識では腰椎の高位が診断できないことを発見した。腰仙部の破格はこれまでの教科書に掲載されていた割合よりもはるかに多く、しかも移行椎が各種存在する(これについては追加報告する)。
おそらくこれまでの常識では、高位診断のミスはめったに起こらないと認識していたことだろう。しかしながら実際は、はじめから完全に誤診しているにもかかわらず、誤診していることさえもわからずに治療が進められているケースが多いと推測する。

要約

2011/1/25から2012/1/24までの1年間に来院した41歳から46歳の86名患者の腰椎の単純XPを調査した。腰仙椎のナンバーリングは仙椎に開いている左右4対の仙骨孔と中心にある仙骨裂孔を下から数えて行く方法で行った。すると約4分の1にあたる23名という高い割合で移行椎が存在しており、これらの中には従来の方法では全く高位診断ができない症例があることがわかった。今後は以下に提唱する計測法で高位診断を行うことを勧める(完璧ではないが)。そうでなければ診断ミスの多発は防ぐことができないだろう。
 

移行椎の存在を予測する

まず腰仙部移行椎をにおわせる第一印象の特徴がある。それは第5腰椎の位置が高いというもの。私はそれをHigh L5と呼んでいる。位置が高いというのは両腸骨の上端を結んだライン(Jacoby Line)よりも高い位置にL5があることを言う。私はHigh L5の定義を「Jacoby LineにL5の棘突起が重なる、または少しでも接触するもの」とした。以下に図示する。と今回規定して調査を行った。しかし、その後、腰仙部の生体力学的な研究を行った結果、Jacoby line を基準とすることが不適切であることが判明した。正確には力学的な基準線であるSIB lineを基準にすべきである。SIB線よりも高い位置にあるL5のことをL5高位と認識する。この研究はそれ以前のものなので若干正確さに欠けるがあしからず。
Koi01
  この図が示すように黄色のラインにL5の棘突起が重なっている場合を「High L5」とする。これをL5とする古典的な根拠は
  • 1、第12肋骨を認識する(白の矢印、上)
  • 2、肋骨のない一つ下の腰椎をL1とする
  • 3、そこからナンバーリングして5つ目がL5
  これをL5とする考え方を、世界中の放射線科医も整形外科医も誰も疑わないだろう。だが真実は…この第5番目に見える腰椎は「第4腰椎」なのである。今までの教科書的知識ではこれを第4腰椎とする根拠は全くない。だが仙骨孔の数を数えるとつじつまが合わないことが起こる。次に示す図はこの症例の仙骨孔に着色したものだ。
Koi02
この図は同様の症例の仙骨部の拡大である。注意深く仙骨孔を同定していく。黄色の矢印が仙骨孔で右にのみ青で着色した。この仙骨孔から出るであろう神経根にナンバーリングすると、最上部がL5でなければつじつまが合わない。ということは薄くオレンジで示したS1に見える部分は、実際はL5である。L5が仙椎化を起こしたAnomalyであるという診断がつく。ではL1に見えた椎体は、実際は第12胸椎だと高位診断がつく。よって当初L5に見えた椎体はL4であることが判明する。

側面XPではS1 Lordosisが特異的

同症例の側面XPを示す。 Koi03
仙骨は通常S1からS5そして尾骨も含めKyphosis(後弯)となる。しかし本症例のように仙椎が6つある(最上部はL5と思われる)場合、最上部の椎体はLordosis(前弯)となる。(自験例ではLordosis率100%)。そしてよく見るとL5/S1にはスペースがある。残念なことにこのXPでは尾骨まで撮影出来ていない。通常腰椎の撮影では尾骨までフィルムの範囲を広げること少ないので仙椎が6つあることを確認することができない場合が多い。したがって今後、腰仙部の移行椎が疑わしい場合は尾骨まで含めるように撮影しなければならない。そうでなければ高位診断も誤診する。
症例2:41歳女性の腰仙部移行椎 次の症例もまたL4をL5と誤診する例である。写真には患者の右手が映っており、当診療所のずさんな撮影が見てとれる(放射線技師が不在)。不幸中の幸いで、そのずさんさがゆえに腰椎撮影にもかかわらず尾骨までしっかり映っている。 Koi04
本症例でも常識的にはT12をL1と読んでしまうためにほぼ誤診が必発する。しかし尾骨から順番に下から数えて行くと先ほどL1と読んでいた椎体はT12だとわかる。赤の矢印に示したがT12には肋骨遺残が見てとれる。しかしたいへんまぎらわしい。この症例でも「High L5」「S1 Lordosis」の二つが認められる。
つまりこの二つのサインがあるのなら「High L5」ではなく、その椎体はL4であると疑わなければならない。たった今まで誰もそういうことに気づいていなかったわけであるから、恐ろしいことに高位診断ミスは世界中で起こっていたことがわかる。この症例は珍しい稀症例ではない。なぜなら1年間に来院した腰椎疾患患者のうち4分の1の患者に腰仙部移行椎が認められたのである。高位診断があいまいな例は想像以上に多い。これまで想像以上に誤診が多かったと思われる。

L5仙椎化の臨床的意義

L5に仙椎化が起こるとL5/S1間はLordosisのままで固定されているのと同じ意味を持つ。これによる弊害はL4/5の椎間関節、椎間板、靭帯の劣化が急速に進行するということ。生まれつきL4/5は脆弱であり重労働への就労、スポーツ選手などには不向きであるということ。さらにS1以下の仙骨神経はL5/S1間がLordosis固定のためにこの場所でクランク型に折れ曲がり、神経炎が発症しやすいと思われる。また二分脊椎と同様、神経根の奇形や硬膜管の異常もわずかなものも含めると必発と思われる。よってS1以下の神経根症状(馬尾症状)が正常な人よりも発症率が高まると思われる。このことについても現在研究を進めている。

破格と腰椎疾患の関連性

これまで破格は臨床的意義が少ないと思われていた。しかし、目を皿のようにして細かく破格を調査すると41歳から46歳の年代の調査では、ほぼ正常と思われる者が86名中24名しかいなかった(変性疾患は正常とカウントしている)。誇張した言い方をすると生まれつきのなんらかの脊椎異常が原因で腰椎疾患を持つと思われる症例の割合が72.1%(ここでは側弯症も含めている)となる。これについては各年代別に破格について現在調査中であり、追加報告する。が、現時点でさえ、腰椎疾患の多くはベースに先天性のものがあると言わざるを得ない。今後の報告には幼児の腰椎も併せて報告し、先天疾患との関連を明らかにしていく。

86例の移行椎調査結果

対象:2011/1/25から2012/1/24までの1年間に来院した41歳から46歳の86名  
  • 1、High L5の症例数35/86例(41.2%)
 
  • 2、High L5 35例中
移行椎(-)12/35例(34.3%)→A群とする L5 Sacralization 21/35例(60.0%)→B群とする 移行椎(+)と思われるがXP不鮮明で判別困難2/35例(5.7%)→C群とする S1 Lumbarlization 0/35例(0.0%)  
  • 3、S1 Lordosis調査
A群で S1 Lordosis (+) 1/12例(8.3%) B,C群で S1 Lordosis (+) 23/23例(100.0%)  
  • 4、A群(High L5+移行椎(-)群)12例の仙骨形態異常調査
Kyphosis(正常)Sacrum 7/12例(58.3%) Straight Sacrum 4/12例(33.3%) S1 Lordosis Sacrum 1/12例(8.3%)  
  • 5、B,C群(移行椎(+)群)23例のL5/S1 Fusionの調査
L5/S1 Fusion(+)19/23例(82.6%) L5/S1 Fusion(-)4/23例(17.4%)  
  • 6、胸腰椎移椎(+)High L5(-)例 (腰椎がL6まであるように見える例)
4/86例(4.7%)  
  • 7、B,C群23例(High L5+S1 Lordosis)の胸腰椎移行椎の調査
胸腰椎移行椎(-)1/23例(4.3%)→腰椎がL4までしかないように見える例 胸腰椎移行椎(+)22/23例(95.7%)

調査結果考察

1年間365日間に訪れた全腰椎疾患患者のXPを調査した(41歳~46歳の年齢帯)。年齢帯については特別な意味はない。人数的に多い年齢帯であり、かつあまり変形が進行していない年代を調査した。その結果High L5を有する症例の60%以上にL5の仙椎化(Sacralization)が認められることが判明した。つまり、High L5(第5腰椎がJacoby Lineよりも高い位置に存在する)症例の60%は実はL4を高い位置にあるL5と高位の誤診をしていたことが判明した。これは正確にはHigh L5の定義にあてはまらない。
そしてHigh L5+S1 Lorodosisの症例では全例(100.0%)でL5 Sacralization(仙骨化の意味)が認められたという驚愕の結果となった。この全23例は腰椎XP正面写真で腰椎の高位診断が不可能。そして側面写真で高位診断が可能であったものが4例(17.4%)しかなく、82.6%の症例が腰椎単純XPの側面でも正面でも判別不能であることがわかった。
このうち、胸腰椎移行部の移行椎が(-)の者は1例しかいない。つまり腰仙部移行椎が存在する症例はほぼ全例に胸腰椎移行椎が存在すると考えられる。胸腰椎移行椎単独の症例は腰椎が6つあるように見えるが、そういう症例4例と腰仙+胸腰部移行椎合併の23例を併せると27/86例(31.3%)が肋骨のあるなしで高位診断ができないことが判明した。
この事実は数々ある整形外科の教科書を根本から修正しなければならない結果を生む。すなわちL4すべりL5すべり症、L4/5椎間板ヘルニアなど、その高位の疫学が根本的に間違っている可能性が少なからず存在するからだ。解剖学では坐骨神経のネットワークの形態が(大腿神経がL2,3,4から構成される率が90%であるなどの疫学が根本的に間違っている可能性も秘めている)間違っていることを考える。
どちらにしても、数分間読影しただけでは判別できないような、高位診断が大変困難な症例が86例中23例(26.7%)にも上るということを真摯に受け止めなければならない。これは今後、様々な整形外科治療指針を塗り替えなければならないほどの事実である。

仙椎の腰椎化についての考察

また、蛇足ではあるが仙椎の腰椎化は86名中0名であるという事実は重く受け止めなければならない。というのも、腰椎があたかも6つあるように見える症例は決して少なくないがそれは胸腰椎移行部の高位診断ミスからきていると思われるからだ。腰椎が6つに見えるのはS1がLumbarlization(腰椎化の意味)を起こしたという以前の考えは間違いである可能性が高い。
むしろ、真にS1が腰椎化を起こすのならL5の位置がJacoby Lineよりも高い位置に来る。よって今回の調査でHigh L5+腰仙部移行椎(-)であったA群が発生学的にS1 Lumbarlizationの予備軍ではないかと思われる。そしてそれを示唆するようにHigh L5単独の12症例のうち5例が仙骨の形態異常(ストレートやロードシス)を伴っていた。

 終わりに

腰椎のナンバーリングをする際には第一胸椎から数えていかなければならない。しかし、それでも椎体が多い場合があり、L5とS1の区別がつかないことが多々あることを認識しておくべきと思われる。

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