痛みが天候で変わる理由

昔からその存在は理解されていた

「明日は雨が降る」ことを神経痛の痛み具合から予測できたり、低気温の時に神経痛が増強したりするなどの事例は昔から理解されている。しかし、それを医師に相談しても「ふ~ん、そうですか」と気のない返事だけをされるというシーンがいまだ全国で見受けられる。基本的に医師たちは天候で痛みが変わることを事実として認識してはいるが、そのメカニズムは解明されていないので全く興味を示さないし、そのことが病気とあまり関係ないことだと思いこむ習慣がある。しかし、真実は違う。神経痛と天候の関連性は重要であるし意味もある。そしてこれを治療しようという意志を医師たちに持ってもらわなければならない。特に整形外科医は天候と神経痛の関連に関して無関心であることが多く、麻酔科医(ペイン科医)は熱心にこれを取り除こうと尽力する傾向があり、両者の温度差はかなり激しい。  

ペイン科では交感神経の関与が早くから言われていた

交感神経をブロックすると痛みが緩和され、交感神経を興奮(ノルアドレナリン増強)させると痛みが増強する。ことは早くからわかっていたことであり、交感神経が痛みを増強させるシステムに一枚かんでいることは理解されていた。では、どうなると交感神経が興奮するか? 日常的には睡眠から覚醒するとノルアドレナリンが増強する。そして気温が低下することで交感神経は興奮する。気温の低下が起こると末梢血管は収縮を起こすが、すなわち血管の収縮は交感神経が興奮していることを意味する。つまり、気温の低下が疼痛を増強(疼痛域値の低下)させることは早くから理解されていた。
交感神経は睡眠中も起床中も無意識に作動している。気温が下がれば自動的に血管は収縮する。つまり気温の変化と交感神経の興奮は自動で起こる。そして実際に物理的に外気温を上げたり局所をあたためたりするとその交感神経が関与していた痛みはやわらぐ。また、ストレス下においても疼痛過敏は起こることが動物実験で証明されている。寒冷下ストレス下においたラットやマウスの疼痛域値は4日目から低下し、痛覚過敏となる。つまり、精神的なストレスも痛覚過敏を作る。抗うつ剤や、向精神薬が痛みに著効する例があるのは精神ストレスが疼痛過敏を作り出すからであろう。

神経損傷や炎症で天候変化による痛みを感じるようになる

神経が損傷を受けると、その中枢断端に生じる神経腫にα2アドレナリン受容体が発現し、神経腫は温度変化やノルエピネフリンに対して強い反応を示す。これは通常の侵害受容器でも同様に認められる。つまり、神経損傷だけでなく通常の筋肉の炎症などでも同様のことが起こるといえる。
神経が損傷を起こすと交感神経刺激(気温が低くなるなど)で痛覚過敏が起こるが、それは神経損傷に限って起こるものではなく、単に炎症を起こした皮膚や筋膜などでも同様なことが起こる可能性がある。だから気温低下による痛みを感じても、それはすなわち神経損傷によるものと決め付けるわけにはいかない。

ささいな傷が痛みを激化させる

気温の変化が痛みを激化させる仕組みは交感神経にありと言える。しかし、これと同様なことがささいな傷で起こりうる。例えば、坐骨神経痛(坐骨神経が後根神経節の部分で炎症を起こしているような場合)で慢性の嫌な疼痛を持っている患者がいたとしよう。その患者は足が冷えると膝が痛くなるという。この場合、坐骨神経の炎症により交感神経の興奮が痛覚として患者に伝わるようになっていると理解できる。だが、この患者は膝が痛いと言っているわけで足全体が痛いといっているわけではない。なぜ足全体ではなく膝なのか?それはこの患者が坐骨神経痛だけでなく、変形性膝関節症という持病もあるからだ。膝の持病があるから膝が痛くなるというのを当たり前と考えてはいけない。膝のささいな痛みは、それ単独であれば無視できるほど小さな痛みである。しかしそのささいな傷が交感神経を興奮させる。交感神経は小さな痛み刺激に対しても興奮し、その周囲の血管を収縮させる。そして交感神経を介した痛みの増幅が起こる。それはまるで気温が低下した時の痛みと同様である。
つまり、小さな膝の痛みが交感神経を興奮させそのシグナルが炎症を起こしている坐骨神経(坐骨神経の後根神経節)に伝わると、痛み刺激の回路を増幅させる(正常な坐骨神経なら痛みの増幅は起こらない)。坐骨神経の炎症があるから、ささいな痛み→耐えがたい痛みの変換を生じさせる。この場合、坐骨神経は交感神経に感作されていると考える。さて、ここで問いたい。あなたが医者だとしたら、この患者のどこを治療するか?である。膝を治療するのか坐骨神経を治療するのか?交感神経をブロックするのか?おそらく、もっとも愚は膝の治療、次に交感神経ブロック、そして真の治療は坐骨神経の治療である。そして現在の医療では99%膝の治療を選択している。だから治せない膝痛が存在する。

慢性痛は交感神経の関与が大きい

慢性の痛みにはさまざまな痛み増幅の回路が形成される。脊髄の後角という場所で軸索発芽と呼ばれる知覚から痛覚へのショートカット経路が誕生したり、交換神経が後根神経節まで軸索を伸ばし、交換神経→痛覚のショートカットができあがったりするとされる。増幅回路ができあがると気温が低くても痛い、触っても痛い、動かしても痛いというような状況が起こる。この状態であれば、ちょっとした急性の痛みが激痛をひき起こす。急性の痛みが生じたことで交感神経反射が起こるからだ。
増幅回路ができあがっている時の急性の痛みに対しては、誰もが急性の痛みを治療しようと考えるが、本当に治療すべきは急性痛ではない。治すべきは慢性の疼痛の原因である「増幅回路」そのものである。疼痛を商売としているパラメディカルたちは痛みを訴える場所を治療し、その結果治らない→再び治療しにやってくる、をハードローテーションさせ、それをビジネスとしている。その愚かな治療、痛みに付け込んだ商業を支えているのは慢性痛を治療できないでいる医師たちであろう。

慢性疼痛を治療して天候過敏を治療する

慢性疼痛が存在する場合、天候過敏、そして痛覚過敏などが起こる。慢性疼痛の原因は主に神経伝達の異常であることが動物実験などで次々と証明されている。慢性疼痛の原因は局所の損傷でも起こりうると考えられるが、むしろ局所が原因であることの方がまれであると理解しておいたほうがいい。
たとえば冷えると肩が痛いという場合、五十肩単独で痛みをきたしていると考えるよりも、頚椎神経根症も合併していて、そちらから肩の痛みの増幅が起こっていると考えるほうが真実である可能性が高いという意味である。ただし、これが真実であろうとも、多くの整形外科医にはそう理解されていない。
湿度や気温の変化で痛みが起こる場合は、原因としてまず第1に神経根の炎症を考えるべきである。そしてマレな例として局所の疼痛が原因となっている場合もあると考える。つまり、天候過敏が存在するならば、痛みの出現場所はひとまず無視して、「神経根が障害を受けている可能性」を考えるのが真の治療への道筋であろう。
しかし、患者が訴える痛みの場所を無視し、真の損傷部位である脊椎を診療することは非常に困難であることは私が経験し痛感している。肩が痛いのに頸椎を治療しようとすることを患者はなかなか許してくれない(このことは私の日誌に何度も掲載している)。私はそれでも慢性疼痛を治療する実績を積み上げてきたからこそ、患者の訴える痛みの場所を無視してでも痛みを完治させることを強気で行えるようになってきた。自信と実績がなければ、患者に真の治療を勧めることさえ困難であることを私が一番よく知っている。
「雨が降ると膝が痛くなる」こう訴える患者に腰部硬膜外ブロックをすすめることが正解だと知っているが、それを患者が受け入れない。膝が痛いのに腰に治療することを理解してもらうことは無理に近い。だが、それをしなければ根本治療にならない。
医者として「嫌われても治療を優先する」か「患者に好かれるために痛いと言った場所の治療を優先する」か?前者でしか根本治療はできないが、少しの治療ミスも許されない。ミスすれば最悪訴えられることもありうる。それは治療自体が患者の理解を得られないからである。
そして後者では治療にならないがひとまず患者へのサービスにはなる。訴えられることもない。そして多くの医師たちが後者を選ぶせいで医者以外のパラメディカルの懐をこやし、日本の医療費がどんどん膨れ上がっている。真の治療を選ぶことは医師にとって勇気と正義が問われることである。

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