神経因性疼痛と治療

はじめに

神経因性疼痛とは神経に対する直接の損傷、疾病、機械的圧迫などによって痛覚伝道系そのものが障害された病態である(Belgrade 1999)。この定義が適切であるかは判断が難しい。その理由は神経が「障害される」ことがなくても疼痛メディエーターがいろんな方法(血行性・軸索輸送など)で遠隔地のシナプスに運ばれ、神経伝達システムを変化させ、痛みの伝わり方を変えてしまうこともあるからだ。そうした疼痛変換システムを最近では「感作」という。感作は炎症ではない定義している者がいるが、どこかに炎症が存在することがきっかけで感作が起こることを考えると炎症と感作は一連であり、その発言は不適切である。このように、疼痛学では定義自体が迷走しているので誰の意見も完全に適切とは言えない状態であることをまず覚えておく。ここでは一般的には知られていない疼痛のメカニズムとその治療について解説していく。疼痛のメカニズムは未だ疼痛専門家でさえ十分な知識を持ち得ていない。その理由は疼痛自体が現代医学でまだまだ未解明な部分が多く研究途上の課題だからである。疼痛メカニズムが解明されないまま治療の思考錯誤がなされるため、疼痛の根本原因が治療されず、枝葉である二次的に発生する疼痛場所への除痛処置ばかりが行われる。二次的に発生した疼痛場所にたまたま強度の変形などが存在すると、手術を勧められる場合もあり、こうした手術は当然ながら成功しない。このように神経因性疼痛は極めて誤解されやすい。ここでは誤解の多い異所性の痛みについて述べる。
 

神経因性疼痛の種類

  • 1、ニューロンへの直接刺激 2、自発発火、3、中枢神経の感作と再構築、4、内因性疼痛抑制システムの破たん、5、交感神経依存性疼痛 (Belgrade 1999)
このように5つに分類している学者もいるが私は同意しない。1と2と3に境界がなく、分類となっていないからである(理由:ニューロンの刺激部には侵害受容器がない。よって刺激部での生成物の軸索輸送が神経根に到達することで痛みが発すると思われるが、それは中枢感作の概念に近く、3との区別がつかない。また、自発発火は脱髄後に起こるが、通常痛覚のC線維は細く、もっとも脱髄が起こりにくい。脱髄が起こる前に麻痺が先に出なければならないが、実際は痛みが主体である。よって自発発火による痛み自体が信憑性に欠ける、など)。
 

■炎症箇所と痛みの場所が異なる例

炎症箇所と痛みの場所は異なる例(異所性の痛み)の3つを紹介する。
  • A:異所性の痛み(急性疼痛の例)
  • B:異所性の痛み(慢性疼痛の例)
  • C:神経が作りだす異所性の腫れ
 

A:異所性の痛み(急性疼痛の例)

 

症状

刺す、挫滅する、炎症を起こすなどの侵害刺激が発生した場所ではなく、そこから離れた場所が瞬時に、または少しの時間差で痛みや発熱、炎症を起こす。つまり火のないところに煙が立ち込める症状である。

病態

軸策反射(求心シグナルが軸索を介して遠心性に伝わり神経末端でP物質やCGRPなどを分泌させ、その場に炎症を起こさせる)、根反射(抑制を免れた活動電位が末梢に伝わり痛み刺激となる)などがこの病態に近い。だが厳密には種々の病態が絡み合っておりこれらは明白に区別できない、それどころか、治療現場では混同されている。ただ、軸策反射が起こるとその現象が不可解なだけに患者は医師から心因性(精神異常)と判断されてしまう可能性が高い。外傷部分とは違う箇所にも多数痛みを訴えるからだ。子供の成長痛も軸策反射の可能性がある。

 関連痛

関連痛は以下に示すが、自分の腕に針を刺して実験すれば誰にでも理解できる。刺した部分と異なる場所にも痛みを感じることが即座に理解できるからである。しかし、そうした疼痛モデルを「異所性の痛みの原理」と拡大解釈することはしてほしくない。直接損傷していないのに痛い、何もしていなくても腫れと痛みがある、というのは神経の得意技であることを理解して欲しい。その得意技を関連痛のみで説明して単純化してはいけない。

 関連痛の実験

棘突起間(棘上・棘間靭帯)に生理食塩水を注射し、仙骨部に痛みが放散することを示した実験(Feinstein)が整形外科医の間では有名である。私も自ら自分の上腕二頭筋に蒸留水を注射し、痛みをどこに感じるか実験した。その結果、注射即座に上腕二頭筋の長頭筋腱部に痛みを感じ、1分後に前腕の掌側に鈍痛を感じた。時間差で出現する痛みは軸策反射によって疼痛誘発物質が違う場所に分泌された結果かもしれない。このように軸索反射と関連痛の明確な境界はない。一般的に言われる関連痛は、狭心症が起こると同時に歯が痛くなったり、肩が痛くなったりする現象のことを言う。

 関連痛の例

  • 肩関節周囲炎:肩峰下滑液包の炎症による痛みだが上腕二頭筋全域に痛みが出る
  • テニス肘:上腕骨外上顆の炎症だが前腕の橈側に痛みが出る
  • 腰痛関連:仙腸関節の炎症で坐骨神経痛様の痛みが臀部から下肢へと放散する
  • 頭痛:肩こりから頭痛が起こる
その他:足の指をぶつけたのにふくらはぎから大腿まで痛くなる、などがあるが、これが関連痛なのか軸索反射なのかを現医学では明瞭に区別できない。など、挙げればきりがないほどあるが、これらは現在も理論整然と語ることは不可能である。一般的に「奇妙」と感じた痛みは神経因性と考えてほぼよいと思われる。心因性とするためにはあらゆる神経的な治療アプローチを行い、それでも無効である場合に最後の手段として精神との結びつきを考えるべきである。ブロックで治る痛みは心因性である可能性が低い。

 関連痛の誤診・誤解

例:仙骨部に痛みを訴える患者を即座に腰痛の関連痛だと診断してしまう医師は多い。仙骨部の痛みは坐骨神経痛で生じることの方が圧倒的に多いと私は推測する。その証拠として私はこれらを硬膜外ブロックなどで即座に完治させてきた。(ブロックすれば痛みはとれて当たり前と反論する者がいるが、原因箇所とブロック場所が異なると、痛みはとれても完治はしない)。ブロックで完治するのであれば、仙骨部の痛みは腰の靱帯や関節から起こる関連痛ではなく、神経の炎症による坐骨神経痛である。私は関連痛なのか神経痛なのかを判定するために、硬膜外ブロックをしばしば利用する。例えば、仙骨の痛みが棘間靱帯の炎症の関連痛として起こるのなら、硬膜外ブロックを行っても1時間程度痛みが軽くなるが、その後ぶり返す。ところが半日経っても痛みがぶり返さないのであれば、硬膜外ブロックは原因箇所にヒットしていると思われる。つまり坐骨神経の炎症により仙骨の痛みが発生してたのだろうと判定する。このように神経由来の痛みか?靱帯由来の痛みか?を判定するためには、硬膜外ブロックなど神経に効く治療を行い、それが長時間効果アリなのか無しなのかで判定するというやり方がある。また、関連痛を訴える患者は心身症を患っていて精神的に異常があるという認識を持つ医師が多いがそういう偏見を抱くことは誤診の元である。圧痛点があり、炎症所見があったとしても、そこが痛みの発生点ではない可能性があることが本文を読み進めていけばわかるだろう。
 

 痛い場所を撮影しても意味がない

医者はしばしば患者が痛みを訴えた場所のX線写真を撮影しようとする。そして痛みの部位には異常がなく、「レントゲンでは何ともないから大丈夫。」と言われて帰される。しかし、神経痛による痛みはその場所と原因箇所が一致しておらず、痛みのある箇所をレントゲン撮影しても異常がないのは当たり前となる。上の例では仙骨を痛がっているからといって仙骨を撮影しても仕方がない。最初から腰椎を撮影すべきである。学童の場合、成長痛と称して四肢のあちこちを強く痛がる子供がいる。子供が訴える痛みの場所を真に受けて「手が痛い」と訴えるから手を撮影・・・しても異常は出ない。撮影すべき場所は頚椎であることが多い。なぜならば頚椎が後彎することで神経根が過緊張を起こし、神経根が炎症したために手足が痛くなることがしばしばあるからである。痛みを訴える場所と実際に炎症が起こっている場所が異なることが、少なくないのだが、依然として「いたい場所を撮影する」という悪しき習慣が残っている。
 

軸索反射の解説

普通はAで侵害刺激が加わるとその信号は脊髄や脳の方へ伝わるのみである。しかし実際は他のBやCの神経末端でサブスタンスPやCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)が放出されて炎症が起こることがある。いわば「火のないところに煙が立つ」という現象が起こる。BやCでは皮膚温の上昇、脹れ、圧痛などが起こり、一見原因不明の炎症が起こったように見える。炎症物質が逆行性軸策輸送により末梢に送られることで原因箇所以外のところに腫れや痛みが起こるのであるが、このような「炎症反応を末梢に起こす機能」が神経にあることを知らない医師が多い。
神経痛01     Aの炎症が治癒した後もC、Bに圧痛が残っている場合、次にCやBをたまたまぶつけて痛みが出ると、それが原因で再び軸策反射が起こり、Aに炎症が再燃することもある。軸策反射や根反射はこうした痛みのキャッチボールを生じさせる原因となる。
 
  • ※根反射とは脊髄の後角で痛み信号の受け渡しをする際、抑制を免れた電気信号が再び末梢に伝わるという説(気温が低いと起こりやすい)である。
  • ※関連痛、一般的には内臓の痛みを上腕の痛みと誤認してしまうなど、脳の認識ミスと言われる。1954年に発表されたFeinsteinの「深部体性組織からの関連痛に関する実験(棘間靭帯に生理食塩水を注射して痛みがどのように現れるかの実験)が有名だが、関連痛に厳密な定義はないに等しく、原因と異なる場所が痛むことを総称して一般的な医師たちに用いられている。
 

軸索反射の現場での誤解状況

軸策反射が起こると、もはや原因がどこなのか?患者にも医者にも不明となることがしばしばある。それはそうだろう「火のないところに煙が立つ」のであるから。痛みの点(トリガーポイント)は毎日のように変化しても不思議ではない(神経の走行に沿っていることは確かだが…)。実際の医療現場で軸策反射のような症状が発症すると、医師はその病態を理解できないので患者を精神病者扱いし、治療に積極的にかかわることをやめてしまう場合が多い。軸策反射が起こった先に膝関節痛、肩関節周囲炎などの持病がある場合、その痛みは増強され、しかも治療に抵抗性を持つようになる(関節内注射が一時しか効かない)。
  ただし、軸策反射は疼痛モデルであって、臨床的にはこの用語の用いられ方は不適切である。なぜなら軸策反射はあくまで一時的な反射による痛みであり、耐えがたい疼痛信号を脳に送り続けられるほどのパワーを持たないと考える。そうでなければ、人は指先を少しぶつけただけで、死を選びたくなるほどの持続性の疼痛に悩まされてしまうことになる。しかし、そんなことはありえないわけで、激烈な異所性の痛みであるならば軸索反射が原因と考えるべきではない。臨床的には激烈な痛みが治療対象となり、軸索反射による痛みは軽いと思われるので治療対象にはならないだろう。よって私にとって軸索反射という用語は疼痛の理論モデルでしかない。実際の異所性の痛みはもっと激烈で複雑である。それは本文の最後に示す。
  軸策反射は炎症の起因部と異なる場所に炎症反応を起こす。そしてこの炎症反応が次の軸策反射の原因となる…というように痛みのハウリングを引き起こす可能性がある。ただし、これが耐え難い痛みになるためには軸索反射のシステムのみでは説明が付かない。耐え難い痛みのハウリングを引き起こすには神経が感作状態になっていなければならないと思われる。軸索反射や関連痛は痛みのあるポイントにトリガーポイント注射をすることでハウリングを絶つことができ、治ると思われる。逆に言うとトリガーポイントで治る痛みは軸策反射による痛みかもしれないと推測する。神経根が炎症を起こして痛みが出現しているのならトリガーポイント注射では治らないだろう。実際、トリガーポイント注射で治せる痛みはそれほど多くない。昨今、トリガーポイント注射をすればどんな痛みでも治るかのようにマスコミに吹聴している医師たちが存在するが同意できない。
   

軸索反射や関連痛による痛みの治療法

私は、軸索反射や関連痛は正常な神経に起こる生理的な現象と推測している。実際に、自分の腕に蒸留水を注射してみると、注射部位以外にも痛みが出現する様子がわかるからである。これらの痛みは、痛みが発生している箇所にトリガーポイント注射を行うのみでほぼ完治してしまうと思われる。痛みの強さは原因箇所の損傷の程度で変化する。つまり大きく損傷していれば疼痛メディエーターが多く分泌され、持続性の強い疼痛信号が送られる。それと同時に軸索反射による異所性の痛みも強くなる。しかし、神経が感作されていないので、痛みが慢性になることはほとんどないだろう。痛みが慢性的に残るのであれば以下に示すように、神経自体が炎症を起こしている(感作している)可能性を考える。
   

B:異所性の痛み(慢性疼痛の例)

 

症状例

思い当たる外傷の経験がないにもかかわらず、突然耐えがたい痛みが訪れ、その痛みは普通の鎮痛薬のみでは治らない。痛みの場所はある日突然変わることもあれば一定のこともある。神経が存在する場所ならどこにでも痛みが出るため、痛みの場所は不定で、痛む場所から原因を特定することも難しい。痛みの持続時間は短時間のこともあるが慢性化しやすい。寝ると痛い、立つと痛いなど姿勢や動作で症状が出る場合もあれば、触るだけで痛い(アロディニア)、冷えると痛い、低気圧が来ると痛い、など通常は痛みの原因とならないものが原因で痛むものまで多種多様。さらに、腕を挙げると痛い、膝を伸ばすと痛い、股関節を曲げると痛いなど、関節症の症状と酷似している場合もあり、痛みの根本原因がどこにあるのか?予測するのは極めて難しく、適切な治療がなされることはまずない(「膝関節内注射が著効しない変形性膝関節症患者の徹底調査」を参照)。  

病態

  •  神経根炎、後根神経節炎、末梢神経炎、脊髄後角炎など神経の炎症が原因となる。つまり神経因性疼痛とはこれらを意味する。

痛みの症状は、それらによって起こる広義のアロディニア(異痛症)と言っていい。一般的にアロディニアは触わった刺激を激痛と感じるというような現象を言うが、広義には触刺激以外にも振動刺激、圧刺激、位置覚などを激痛と感じることもアロディニアである。位置覚アロディニア、つまり、手や足を曲げたり伸ばしたりした時に、その位置情報信号を激痛と感じる症状は、ほぼ100%誤診され、関節炎や筋肉痛と診断されてしまう(病態生理のところで詳しく述べる)。位置覚アロディニアの概念は残念ながら現医学には存在しない。そのうち概念が確立されるだろうが、そのためには整形外科医がこれまで誤診をし続けていたことを認めなければならなくなるため、存在を認めるにはハードルが高い。
  神経根炎、後根神経節炎、脊髄後角炎などが起こる原理はヘルニアや肥厚した関節突起、黄色靭帯などによる機械刺激と考えられているが、MRIでそのような所見が皆無であるのに神経痛が続くという症例と我々は日常茶飯事に遭遇する。この原因は神経根に働く張力であるということを私はほぼ突き止めているが、今の脊椎学には張力の概念が全くなく、MRIで所見のない患者は、痛みがあっても適切な治療がなされないという状況が続いている(最近、ようやく脊髄終糸症候群という張力が痛みを作る概念ができあがってきた)。
   

神経因性疼痛の犬を用いた実験

神経因性疼痛の実験は世界中の整形外科医がこぞって行った(椎間板ヘルニアによる神経圧迫が痛みを起こす原理を説明するために)。実験には犬が多く使われた。犬の神経に特殊なリングで圧力を加え、神経を損傷させ、神経が破壊されていく時に、圧迫部位から活動電位が発されることを必死になって証明しようとした(異所発火説)。その活動電位が痛みの信号となることを証明しようとした。だが、この異所発火説はそもそも矛盾点だらけであった(詳しくは「異所発火説という因縁」を参)。一方、薬学系ではラットなどを用いて、分子レベルでの神経因性疼痛の研究がなされた。侵害受容器の発現を発見し、数々の疼痛メディエーターを発見し、疼痛抑性系のGABAが痛み信号を作り出すと言うアンチテーゼまで解明して見せた。そして、これまで難解であったアロディニアの仕組みが若干解明された。
   

神経因性疼痛の例

  • 慢性の肩こり・頭痛:神経因性疼痛である可能性が高い(症例報告を参)
  • 慢性の腰痛:神経因性疼痛であることを否定できない
  • 気温や低気圧で痛くなる:神経因性疼痛の可能性が高い
  • 関節内注射で治らない各種関節痛:神経因性疼痛の合併の可能性が高い
  • 成長期に見られる成長痛:おそらく神経因性疼痛であろう(症例報告を参)。
  • 脊柱縦弯症:頸椎アライメントの後弯変形は種々の神経因性疼痛の原因となる。頸椎アライメント異常は遺伝する。よって神経因性疼痛自体は幼少の頃から見られ、なりやすい体質がある。
  • 難治性疼痛:ブロックを行っても何をやっても痛みが全く軽快しない。近年私はこれをBICBと呼ぶことにし研究している。上位脊髄に原因がありそうである。現医学で全く論じられてもいない未解明分野)。
 

神経因性疼痛の誤診・誤解

血管を収縮させる命令信号(交感神経系)、関節の位置を知らせる信号、筋肉の動きによる圧覚信号などを、痛覚へと変換させるシステムが存在すると私は確信している。それらの変換システムが発現している時は種々の筋肉痛やコリ、つっぱり、関節痛など、普段は気にも留めない程度の痛みが激しい痛みとなって脳に伝わる。頚神経にこのシステムが起こると肩を動かしたときに痛みが走り肩関節周囲炎と誤診されてしまう(極めて誤診されやすい)。同様の理由で大腿神経痛が変形性股関節症と誤診され、坐骨神経痛が変形性膝関節と誤診される。変形性関節症やテニス肘などの持病を持っている人は、このような痛覚変換システムが存在すると痛みが倍化する。患者も医者も、この強い痛みの根本原因が神経の損傷が原因であるとは思わないため、治療は関節や筋肉などに対してのみ行われ、根本原因である神経根の炎症にはノータッチとなる。こうなると治らない。
   

神経因性疼痛の問題点

関節や筋肉に行われる注射処置でも痛みは多少軽減する。よって神経根への根本治療がなされないまま四肢への関節内注射やトリガーポイント注射が行われるという現状である。これではきちんと完治させることはできない。よって患者はリピートし、クリニックは儲かる(皮肉)。XP上、関節に変形があり膝が痛いと患者が訴えれば医師は変形性関節症由来の痛みであると思い込む。当然、医師は関節内注射などを行って治療しようとするが治らない。こうした場合、整形外科医は安易に人工関節置換術の手術を受けることを患者にすすめる。そして手術をするが痛みがとれないという悲惨な状況が世界中で起こっている。こうした悲劇は神経因性疼痛によって膝痛が増幅されている場合にしばしば起こる。この悲劇は現在も世界中で起こっている。特に股関節痛の場合、大腿(坐骨)神経痛との区別が全くできない場合が多い。よって手術を受けた患者は、股関節痛が治らなかった場合、手術の後遺症だと思い込み、痛みをあきらめるということが起こる。本当は神経因性の錯誤システムが原因であるので、神経根(硬膜外)ブロックを行えば痛みが完治する。
  私は股関節置換術後に「痛みがとれない」という患者を数多く硬膜外ブロックで完治させた経験を持つが、彼らは最初、腰への硬膜外ブロックを受け入れない。患者は股関節が原因の痛みだと思い込んでいるので、「その痛みの原因は腰にあります」と言っても信じてくれないからだ。このような間違った治療をなくすために、股関節や膝関節の置換術を行う前に、一度は患者全員に硬膜外ブロックなどを行わなければならないと痛感する。ブロック注射の一つや二つ、たいした手間ではないのだから。
 

神経因性疼痛の病態生理モデル

神経因性疼痛の仕組みは電気信号の切り替えによって起こると考えるのが理にかなっている。なぜなら神経が損傷した場合、痛みの信号を伝えようとしても神経自体に元気がないので信号を発することができないからである。この当たり前の理屈を覆そうとしてでっち上げられたのが異所発火説であると推測する(詳しくは「異所発火説という因縁」を参)。異所発火説が全くの嘘というわけではないが、痛み症状のほんの一部しか表現できていない仮説だと思われる。今では電気信号が切り替えられる仕組みの大半がわかってきた。以下のその仕組みを図解する。
  神経痛02     この図は「神経障害性疼痛におけるATP受容体とその役割」井上和秀Anesthesia21Century Vol.12 No.1-36 2010の図を元に私がわかりやすく改変しイラストを起こしたものである。
   
  • 1、AやBやCなどの箇所で神経線維自体が圧迫などの損傷を受ける。神経損傷を起こしやすいのは径の大きな有髄性線維(Aβ)である。神経が損傷を起こすと脊髄後角や後根神経節(DRG)でサブスタンスPやCGRPなどが壊れた神経細胞から分泌される。
  • 2、その炎症性物質に反応してDRGでは損傷を免れた他の神経細胞の侵害受容器にATP受容体が数多く出現する。DRGではATP受容体は主にP2X3というタイプのものが発現、脊髄後角ではATP受容体は主にP2X4というタイプのものが発現する。
  • 3、DRGでは交感神経終末やサテライトグリアから分泌されたATPがP2X3受容体を刺激し、神経細胞内で脂質メディエーターが産生される。
  • 4、この脂質メディエーターは痛みを伝える神経線維(図の赤で示した神経)にショートカットを起こし末梢からの電気信号を痛覚神経の回路に流す役割をする(ショートカットは仮説レベルであるが、すでにDRGで脂質メディエーターがアロディニアを起こすことは実験的に証明されている。私はこの仮説に同意する。ショートカットの役割を担っているのはDogiel cellと予想しているがこのcellの存在意味はわかっていない)。
  • 5、一方、脊髄後角ではニューロンやグリア由来のATPが後角に存在する活性型ミクログリアのP2X4受容体を刺激し、この細胞が脳由来神経栄養因子(BDNF)を放出する。
  • 6、BDNFが後角の痛みを伝える神経細胞に働くと細胞内の陰イオン濃度勾配を変化させる
  • 7、通常は触るという電気信号はシナプスでGABAを放出し、痛み信号が発生しないように抑性的に働いている(マッサージをしたりさすってあげると痛みが和らぐのはこのシステムによる)。
  • 8、ところがBDNFのせいでイオン濃度が変化すると、GABAの分泌により脱分極し、痛み信号が発生するという逆回転ギアのスイッチがはいる。これにより、触るという触刺激が痛み信号を発生させるという通常時と全く逆の現象を起こさせる。
  • 9、信号は脳に送られ痛覚として認識される。
  •  このように触るという触刺激はDRGでのショートカット、および脊髄後角でのGABAの逆回転ギアにより、痛み刺激に変換されて脳に伝わる。これが神経因性疼痛が耐えがたいほどの痛みとして脳に認識されるシステムである。
  このような疼痛システムが神経損傷がきっかけで起こることが最近になりわかり始めてきた。だが、医学の教科書にはまだ掲載されていない。
   

神経ブロック無効の特別な痛み

私は難治性の痛みを専門に診療するようになり、気づいたことだが、痛みの中にはブロック注射が全く効果がない疾患があることを知った。神経因性疼痛であればブロックが効くはずである。しかし、全く効かない患者が少数だが存在することを最近知った。ブロック無効の痛みを持つ患者はペインクリニック科に通院し、そして最後には担当医師に「心因性」という烙印を押される。ペインクリニックであらゆるブロックを行っても取り除けない痛みがある患者に対し、私もあらゆるブロックを最初は試す。なぜならばペインの医師のブロック注射が成功していないことがあるからだ。ところが私のブロックもやはり無効なのである。こうしてはじめて「ブロック無効の痛みがある」ことを知るようになる。
  全くお手上げ状態であるが、私は痛みを感じている神経根レベルよりももっともっと上位の胸椎に交感神経節ブロックや、硬膜外ブロックを行うことにした。すると痛みが改善されたのである。つまり、上位脊髄に起因する痛みが存在することを初めて知った。2014年の夏のことである。
   

C:神経が作りだす異所性の腫れ

現在、58歳の頚椎症性脊髄症の治療を行っている症例で奇妙な症状を経験した。この患者は左上肢が抜けるような痛みがあり、右上肢は肩の痛みと手の甲の痛みがある。私は毎週神経根ブロックをC5、C7に行っているが、このブロックを休止すると右手の甲が腫れるのである。この現象は神経が右手背に炎症を構築していると思われるが、軸索反射や根反射の仕組みで説明が付かない。このような現象が起こるのであれば、腱鞘炎、筋膜炎、関節炎なども神経が作り出せる可能性があるということになる。
  例えば後根神経節に炎症が起こるとその神経抹消に疼痛メディエーターを分泌させる仕組みが考えられる。伝達様式は不明。ただし、神経根が炎症を起こしたというだけで抹消に腫れが起こるのは考えられない。何かの条件が重ならなければこのような症状が発生しないと思われる。条件は不明。この事実はかなり衝撃的であるが、もしかすると、治りにくい四肢の腫れ(腱鞘炎や筋炎など)の中に、神経が遠隔操作で作り出すものが実在するかもしれない。そしてこの腫れは神経根ブロックで軽快するのであるからなんとも不思議である。

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