人の重心を正確に求める

はじめに

人の重心を正確に示すことは簡単のようで難しいといえます。その理由は人が全員異なる体型や姿勢で生きているからです。そこで私は人間の正しい重心線を調べ、姿勢悪化にともなって重心線から要所が外れることで起こる脊椎病を研究する必要を感じ、重心線を追究することにしました。2年余り、試行錯誤を繰り返し、ようやく人の重心の法則が判明して来ましたのでその途中経過を報告します。医学だけでなくロボット工学など、今後の生体力学研究のために役立ててくだされば幸いです。

真の重心を求める

重心はその点を支点として3次元的にどのように傾けても完全につりあいのとれる点です。以下のように吊り輪を支点としてバランスがとれている状態では、重心は吊り輪の中点を通る垂線上にあります(黄色のライン上にある)。
  •  重心の法則1:接地点の垂線上に重心がある
JS01 しかし黄色ライン上のどこにあるのか?はこの写真だけでは判明しません。ただ、おおよそ臍の高さにあることはわかります。しかし、重心は姿勢により変化しますので、水平の姿勢から立位姿勢の重心を求めることは、正確には不可能です。

重心は体勢によって変化する

次の図は重心を体の外に意図的に出した図です。起立した状態であれば、重心はおおよそ緑のです。しかし、実際の重心は赤付近と推測されます。赤は体の外にあり、この図のようにポーズを変えることで重心を体外へ意図的にずらすことが可能です。
  • 重心の法則2:重心位置は姿勢・体格により変化する
JS02 人の姿勢・体格は十人十色ですから、重心の法則2より「人の重心を定義できない」ことがわかります。そこで姿勢・体格でどう変化するのかの法則をみつけだすことが真の重心の研究の意味となります。

人の正確な接地中心の位置

重心は必ず接地点を通るので正確な接地点を求めることができれば、重心位置を求める第一歩となります。しかし、正確な接地点を求めることはたやすくありません。なぜなら、足の裏は点ではなく面だからです。 正確な重心を求めるためには、正確な重心線を求めなければなりません。そのためには正確な接地面重心を求めなければなりませんが、足の裏はそれには適しません。以下の図のように点で体重を支えることができれば重心線はすぐにわかります。 JS03 そこで私はフットビューを用いることを思いつきます。
JS04 フットビューのホットスポットより三角形を作りその三角形の重心を接地点と考える方法です。この図によると、接地点は側面図でLisfranc関節上にあると算出されました。しかし、フットビューを用いても、足先に体重をかける場合と踵にかける場合でホットスポットが変化します。また、この図のように3点がクリアにわかるわけでもありません。よってフットビューによる接地点の判断は正確とは言えません。ただ、おおよそ、Lisfranc関節付近にあるというイメージを受けます。
足の裏の接地面中心(接地点)を調べることが極めて難しい理由は、人がかかとやつま先に不均等に体重をかけることにあります(均等にかけるのは簡単そうで難しい)。また、均等にかけているつもりでも、それを「均等とする証拠」がありません。後述しますが、つま先に体重をかけるのと、かかとに体重をかけるのとでは、どのくらい重心線が移動するのかの実験を行っています。この実験の証明にはまず「仮の重心位置」が定義されること、第二に「姿勢を変えない場合は重心がほとんど移動しないこと」の二つを先に証明しなければなりませんので、ここでは言及しません。

足の裏の重心の求め方は難航する

人はつま先にもかかとにも自在に体重移動をさせることができるので重心は一定しません。そういった状況で重心線を求めるのであれば、つま先にもかかとにも均等に体重をかけた立ち方を意識しなければなりません。言うなれば「超自然体でリラックスして立つ」ことです。それが自然にできるのなら苦労はしません。「超自然体で」という注文は物理学からかけ離れた大雑把な条件であり、正確な重心線を求める方法としては適しません。フットビューでわかるように、「超自然体」とはかかと、足先の内側・外側の3点に均等に体重がかかっいる状態です。
そこで「他に重心線を正しく求める方法はないか」と試行錯誤します。私は「完全なバランスをとらざるをえない立ち位置」を作り出すことができないかを考え、その結果、「点で体重を支えざるをえない状況」を作り出すことにします。それが「円柱の上に立つ」ことです。本当は玉乗りの方がより正確に出ますが、側面図での重心線を求めたいので円柱で十分でした。

円柱の上に立ち正確な足の重心を求める

はしごの円柱の上に直立に立ち、正確なバランスをとらざるをえない状況を作り出した上で、バランスをとりながら撮影したのが下の図です。 JS05 これにより足の裏の重心線の位置がかなり詳しくわかるようになりました。重心線の位置は当初想定していたLisfranc関節上ではなく、Chopart関節上にあることが判明しました。私がフットビューで想定していた場所よりも約3cm後方でした。一般的には重心線はくるぶしを通ると思われていますが、「くるぶし説」は何の根拠もない誤りであることが判明します。この誤りは後に行う重心移動の実験において証明しますのでここでその詳細には言及しません。重心線の実際はくるぶしよりも数cm前方にあります。つまり現在、世界に流通している重心線の図は誤りです。
現医学で知られている重心線が誤りであることを証明するのに、私は2年もかかったわけです。さて、ここで重要なことは、上記の写真のように必ずまっすぐ立つこと、アキレス腱が緊張した状態にならないこと(背屈しすぎないこと)、足の裏が水平になることを意識することです。これらの条件を厳守すれば重心線が正確になります。重心線が正確に定義できて初めて重心の正確な位置を同定できるわけですから、これまで世界に流通していた重心の理論はほとんど誤りであったことが判明してしまいます。

頭部重心線の法則

ニュートンはりんごが木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見したと言い伝えられます。私は…電車内で居眠りしている乗客の頭を見て重心線の法則を思いつきました。頭は居眠り中(筋力を効かさなければ)、どの方向にもこっくり倒れてしまいます。そして再び頭を戻してバランスをとろうとします。この時の頭の位置がニュートラルの位置で、環椎と頭蓋底の関節部に頭の重心があります。バランスがとれている頭の位置にある場合に「頭の重心がどこにあるのか?を1ミリの狂いもなく知ることができる」わけです。
頭蓋底には後頭顆という弧状の隆起があり、その隆起を支点として頭が前後屈する仕組みになっています。よって後頭顆の弧状の最下端点(環椎の関節との接点)を通る垂直ラインが横から見た場合の重心線になります。具体的に言うとXP側面図で歯突起の後縁となります。よって頭の重心線は歯突起後縁と定義するべきでしょう。重心の研究をする際に、この定義は極めて重要になります。その理由は頭を少し前傾させるだけで頭の重心位置が前方に移動してしまい、体幹の重心も前方に移動するからです。正確な人体の重心を測定するには、頭の傾きによる重心誤差をなくすために「頭の重心線の位置を規定しておいたほうがよいわけです。
頭の総重量とてこの原理により、頭の重心線の位置は無視してよいほど影響が小さくありません。なぜなら「頭は重心から最も遠い位置にあるかなり重い(体重の約8分の1)物体」だからです。てこの原理では作用点が遠いほど支点に作用する重量が増えます。それは支点からの距離×質量となりますから頭の重心位置は人体全体の重心の位置を狂わすに十分な物体なのです。1cm単位で正確な重心を求めるのなら、頭の傾きを一定条件にするべきです。 下の図はバランスのとれた頭位であり、重心計測の際にとるべき頭の傾きです。 JS06 バランスがとれた頭位(バランス頭位)は、実際には真正面を向いているのではなく、頭部がやや背屈している(顎が突き出ている)ことがこの図からわかります。バランス頭位は頚椎周囲の筋肉の緊張を解いても、保持していられる脱力頭位であり、頚部の筋緊張を解く臨床的な鍵にもなっていますので理解しておくとよいでしょう。重心を語るのであればバランス頭位で計測するべきでしょう。真正面を向いて計測すべきではないということです。

バランス頭位の臨床応用

バランス頭位は臨床的に、各種の姿勢病の治療として極めて重要な意味があります。それは頸椎周囲の支持組織の緊張を緩めることのできる唯一の姿勢だからです。バランス頭位は筋の緊張を緩めてくれるだけではなく、頸椎がやや背屈になることにより、脊柱管の全長が短縮し、その結果脊髄の緊張を緩めることができます。脊髄の緊張がゆるむことにより、脳幹・延髄を栄養する血管も緩みますのでこの部の血流を増加させることができると思われます。よってバランス頭位を日常生活で可能な限りとることで脳幹や延髄由来の様々な難病を改善させることができる可能性があります。バランス頭位は治療に使える頭位ですので覚えておくとよいでしょう。めまいや耳鳴り、かすみ目、頭痛などが起こったときは、バランス頭位をとるように心がけるとよいでしょう。

バランス頭位の実例

下の図はバランスのとれた頭位です。つまり頭の重心●(黒まる)が歯突起後縁(緑まる)の真上に来ている状態です。青ラインは頭蓋底線です(この線で傾きがわかります)。黄色ラインは真正面を向いた時の頭蓋底線であり、バランス頭位はそれよりも約10°脊屈していることがわかります。黄色(黄色まる)は真正面を向いた時の頭の重心であり、バランス頭位の重心よりも前に移動していることがわかります。個人個人によって、頭の傾きには差異があるため、全体の重心を測定する際の「あいまいな誤差」を作ってしまいます。誤差をなくすためには、個人差を除去しなければなりませんので、頭の重心を定位置にしておく必要があります。それがバランス頭位です。 JS07   逆に言うと「人が正面を向いた正しい姿勢での頭の重心線は必ず歯突起後縁よりも前に存在する」ことになります。よって、真正面を向く=前のめり であり、人間は通常全ての行動を頭が前のめり重心で行っていることがわかります。当然ながら、姿勢筋は人が真正面を向いている時、頭を支えるために常に緊張していなければなりません。そして人間が失神して倒れる時はほぼ必ず前に倒れるのは頭の重心が支点(歯突起後縁)よりも前にあるからだということがわかります。頚部の筋群の緊張を取り除くためにはバランス頭位であることが必要であり、バランス頭位が種々の頚椎疾患の治療法として重要になります。

標準姿勢の定義

人は様々な姿勢をとります。お尻が出ている姿勢から背中が丸まった姿勢まで、無段階に姿勢が存在します。ですから重心の調査研究をする上で、「標準姿勢」を定義しなければ研究は一切進展しません。これは重心や姿勢の研究で最重要課題であり、標準姿勢の定義に手間取ったために、私の重心の研究は長期にわたって停滞してしまったと言えます。それほ標準姿勢の定義が簡単ではないのです。
重心の位置は姿勢でも体格でも変化します。だから「どれが正しい、これが標準」というものが存在しなかったわけです。しかし、研究・考察を重ねた結果、今年になってようやく「標準姿勢」なるものを定義することができました。それは「最大身長を記録できる姿勢」と定義します。身体測定の身長計測時に、しばしば「顎を引いて」と言われますね。これは顎を引くと頚椎がストレートネックになり、頸椎の高さが最大限に伸びるからです。このように、体格が異なっても、人には身長を最大にする姿勢が1箇所存在します。そのポイントを標準姿勢と定義すればよいわけです。ただし、重心計測の際、頭だけはバランス頭位とさせていただきますので、頸椎は「顎を引いて」ではなく「やや顎をつきだして」いただきます。顎を突き出すと最大身長になりませんが、頭の位置だけは例外とし、胸椎以下が最大身長になるように姿勢をとります。

姿勢による身長差

下の図は猫背から反らしまで変化させた図です。 JS08 A:Lordosisの姿勢、B:Kyphosisの姿勢、C:標準姿勢
このABCの図は骨盤の前後の傾き(緑のライン)が異なります。Aは骨盤がもっとも前傾し、Bはもっとも後傾しています。頭上にある黄色いラインはCの身長に合わせたラインですが、Cの標準姿勢の時に身長が最大になっています。この最大身長のポイントはA⇔C⇔Bと変化させてゆき、身長が最大に見えるところで停止とすることで、見つけ出すことができます。身長は骨盤の傾きで変化することがわかりますが、どんな体格の人でも、1箇所、身長が最大になるポイントが存在します。しかしながら、その時の骨盤の角度は体格によって変化します。よって決まった骨盤角度が存在するわけではありませんが、中肉中背の人では、骨盤傾斜が70°付近で最大身長となります。よって、標準姿勢とは「おおむね骨盤傾斜が70°付近の直立姿勢」ということができます。臍の高さから判断すると、骨盤傾斜が90°の時にもっとも高い位置に来ますが、90°では腰椎がLordosisになりすぎでかなり前傾してしまいます。前傾しすぎると身長が低くなりますので90°は標準姿勢になりえないわけです。

体格による標準姿勢の変化

下の図は自分のCGの細工ではなく、自分の肉体を長年にわたって改造したものを写真で記録した珍しい図です(2年前にネットから拝借した)。スケールや写真の広角や傾きが厳密に一定ではないと思われるため正確さに欠けるということを前提に解説します。ただし、体格が変化すると姿勢がどうかわるのか?を同一人物で比較できるため極めて貴重な写真です(普通はこんなことはできない)。 JS09 この図によると、肥満になるほど背骨の位置が重心から離れていく様子がうかがえます。赤(赤まる)が重心位置で緑のラインが骨盤の傾きライン(SIB line)です。SIB lineと重心は予想で描いていますので正確ではありません。が、骨盤が後方へ傾かない限り脊椎が後方へと移動することはできませんのでおおよその予測が立てられます。
この図では膝の位置にほとんど変化がないことに気づきます。膝はすべて同様肢位の伸展位ですから膝の位置に変化がない場合、大腿骨頭の位置も変化しないことを意味します。これらのことを総合して考察すると、大腿骨頭を中心に骨盤が円運動をし、体格バランスをとっていることになります。
体格が変化すると人は「大腿骨頭を中心として前後に回旋運動行って体重バランスをとる」ことを私は初めて発見したことになります。この発見は姿勢の病理を考察する上で極めて重要な定義となります。すなわち、立位において骨盤の回旋角度と体格は極めて密接な一次関数的対応があるからです。角度と体重の関係がどのくらい一次関数直線からかけはなれているかによって個々の脊椎病や脊椎の寿命を予測することができるからです。

骨盤の大腿骨中心運動

次の図は特殊な撮影条件での骨盤側面XPを2枚重ねたものです。その条件とは
  1. 立位側面の立ち位置はChopart関節上をフィルムと撮影機の中心線が通るようにとる
  2. 撮影機、フィルム、立ち場所の位置を全く変えずに姿勢だけを変えて2枚撮影
  3. 撮影時は足底に均等に体重がかかることを意識して微調整する
  4. 姿勢を変えるというのは、頭の位置を変えずに、LodosisとKyphosisの状態にすることを意味します。
JS10 結果:見事に中心線上に大腿骨頭が寸分の狂いもなく重なり、しかも2枚とも寸分狂いなく重なり、大腿骨頭が全く静止していることがわかります。緑のラインはSIB lineであり骨盤の傾きがわかりますが、これほど大きく骨盤を動かしているにもかかわらず、姿勢変化では大腿骨頭は全く動かないことを発見しました。
  この写真は極めて精密に撮影していますのでおそらく誤差は数ミリ以内です。また、赤は重心の位置ですが、重心位置は姿勢や体格の変化でいとも簡単に移動する(肉体を基準とした相対的位置が移動する)ことがわかります。この図ではL5/S1椎間関節上⇔L5椎体前下縁へと移動しています。
先ほどの体格変化の図の結果もまとめますと、結論として、 1、重心線は大腿骨頭の中心を通る 2、1の事実は姿勢や体格が変化しても変化しない 3、体重が変化しても重心線は大腿骨頭上を通る 4、体重が変化すると骨盤の傾き(姿勢)を変えてバランスをとり、重心位置が移動する
ことが定義されます。これらの定義より、中心線をChopart関節に合わせた骨盤XP側面で大腿骨頭の位置を調べるだけで姿勢維持のシステムが破たんしているかそうでないかを知ることができるようになります。なぜならば、脊椎の変形や奇形などによりこれらの姿勢維持システムが働かなくなると、大腿骨頭の定位置を維持できなくなるからです。このことを頭に置いてもう一度以下の図を見ます。 JS11 この図のAとBの膝の位置を見てください(クリックして拡大してください)。Aの膝は重心線(赤のライン)より後方にあり、Bの膝は重心線より前にあります。その理由は骨盤の前後の振り幅をより大きくさせ、姿勢を極めて大きく変化させたからです(Aでは必要以上にお尻を後方に突き出した)。膝の位置が変化するほどに大きく姿勢を変化させると、大腿骨頭の位置がどうやっても動いてしまいます。
つまり、人間は少しの姿勢変化では大腿骨頭の位置は重心線上に置きますが、膝の位置が変わらざるを得ないほどに姿勢を変化させてしまうと、大腿骨頭が重心線から外れることでバランスをとることがわかります。脊椎の変形などのために姿勢やバランスが大きく変わると、人は重心線上にまっすぐに立つことができなくなります。それを補うために膝の位置を変え大腿骨頭の位置を変えます。よって大腿骨頭の位置が重心線上にないことは、姿勢の安定維持システムが破綻していることを意味するわけです。

姿勢変化の回転中心

人は膝の位置が変化しない程度の小さな姿勢変化では大腿骨頭を中心として、骨盤が前後に回旋運動をしてバランスを維持することが判明しました。膝の位置が変化するほどの大きな姿勢変化の時は、重心付近へと回旋運動中心が移動し、さらに大きな姿勢変化を行えば回旋運動中心が重心を越えて胸椎の方へと移動します。先ほどの図は運動中心が上行する様子を示しています。AとBの回旋運動中心は黄色、AからCへの運動の場合は回旋運動中心は赤(重心)になります。
人間にとって重心位置を変えない運動は、エネルギー消費が少なくて済むため、無意識にしていれば、小さな動きのときは重心位置が移動しないように姿勢を変化させます。

おじぎ運動と重心

下の図はおじぎにより重心がどう変化するかを見たものです(クリックして拡大ください)。重心が赤、膝のお皿の位置が青です。 JS12 真ん中の3つの図は黄色を中心とした回旋運動を行っていることを示しています。この3つは膝の位置(青)が前後に移動しています。よって、すでに大腿骨頭を静止させることができない範囲で姿勢が大きく変化していることがわかります。大きい姿勢変化の場合、回旋運動中心が重心よりも上方に移動することを示しています。さらに大きく姿勢を変化させると、もはや重心が体の外にまで移動します。それが両端の図です。重心が外れると回旋運動中心は存在しなくなります。

重心線の可動範囲

前述しましたが、人は立位のとき、つまさきに体重をかける場合とかかとに体重をかける場合とあって、その度に重心線が前後します。以下の図は足底を地面につけた状態で、どの程度重心線が前後するのかを測定した実験図です。 JS13 左から順にまえのめり、中立、後ろのめりです。前のめりと後ろのめりはこれ以上傾けると地面に足をつけて立っていられないという限界まで倒しています。
この3つの図は姿勢に変化がありませんので、重心位置はほとんど変化がないことを利用し、重心線がどこにあるのかを予想しています。黄色ラインが重心から降ろした重心線です。この結果が示すことは、人の重心はつま先に広く移動できますが、踵の方にはわずかしか移動できないことです。理由は簡単です。踵には体重を支える足指がないからです。どんなにがんばっても重心線はくるぶしが限界点であり、それより数ミリでも後ろに移動させれば、人は後ろに倒れてしまいます。この実験により「重心線は足のくるぶしにある」とするこれまでの説は誤りであることが判明します。くるぶしに重心線を保つには、つま先を完全に地面から上げなければなりません(かかとのみで立つ状態)。この状態が自然な立位であるはずがないので、「重心線がくるぶしを通る」とする解説図は後方にかたよりすぎている間違った図説であることがわかります。真実は「くるぶしよりも数㎝前方(Chopart関節上」」にあります。

腹囲と重心移動

次の図は腹筋と肋間筋を用いて腹囲と胸囲を変化させて重心の変化を見たものです。左は腹をへこませ、胸を上方にふくらましています。右は自然体です。ふたつを比較しても重心の移動は全くありません。重心も骨盤の傾きにも変化がない理由はお腹をへこませて腹囲を小さくしても、その分、横隔膜が上昇して胸囲を前方に押し出すからであると思われます。黄色のラインは横隔膜が上昇して胸骨が前方に押し出されていることを示しています。この例より、お腹が出ている人もバストが豊満な人も同様に姿勢に影響すると言えます。

肥満による姿勢変化のシミュレーション

次の図は極度の肥満をシミュレーションするために重さ約7kgの荷物を持った状態で重心を調べたものです。 JS15 この図でも重心線は大腿骨頭を通り、荷物を持つ・持たないで全く変化しないことがわかります。つまり、人は荷物を持って重心が変わっても、大腿骨頭の位置はなるべく変化させないでいようとするバランスのとり方をすることがわかりました。
その際、膝の位置は前方に移動し、もともとの重心箇所が後方に移動します。この一連の運動は大腿骨頭を中心点とする円運動になっていることがわかります。体重が変化する・荷物を抱える、ことでは大腿骨頭の位置が変わらないという事実はちょっとした発見です。荷物を抱えた場合、背骨のS字状のカーブは荷物を持たない場合よりも急カーブとなり、背骨への負担が大きいことがわかります。肥満はお腹に荷物を抱えているようなものですから、体重が増えるとこのように背骨のS字カーブが増強し腰椎だけでなく、頸・胸椎をも傷めてしまう可能性が高いと思われます。

両手挙上時の重心の動き

脊柱側弯症のXP撮影は全脊椎を1枚のフィルムとして撮影するので極めて特殊かつ姿勢や重心を調査する上で極めて有用です。これまでの私の研究の結果、重心線が大腿骨頭を通ることが判明しましたので、脊柱側弯症のXPから学べる情報が多くなりました。脊椎が重心線からどのようにずれていくことが病的になるのかが理解できるからです。
しかしながら、そこには一つ難点があります。側弯症の側面写真は腕を「前にならえ」状態で撮影するからです。「前にならえ」をしたときに重心は必ずすれますから、どのくらいずれるのかを差し引いて考えなければ重心線の調査が不可能になります。そこで以下に「前にならえ」でどのくらい重心がずれるのかを計測したものが下の図です。 JS16 膝、大腿骨頭、重心、歯突起後縁の全てが後方に移動しています。そして頭部に近い点ほど移動距離が大きいことより、重心移動は接地点を中心として弧を描いていることがわかります。弧の中心角はおよそ3°です。よって側彎XPの調査は重心線を3°回転させて補正すれば真の重心線に近似します。この定義を用いることでようやく脊椎のアライメント異常の研究が前進します。つづく

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