難治性腰痛症BICBの新治療概念

はじめに

神経根ブロック、硬膜外ブロックなどを行っても、一時的にでも症状が軽快することのない“ブロック無効腰痛症(BICB)”が存在することを認識することができたのは今年2014年のことです。それまではブロック無効で診断がつけられない腰痛は全て“精神異常(ヒステリー)”が原因と断定されてきたという伝統があり、それに反論する医師はほとんどいませんでした。私も「どうブロックを行っても治らない腰痛」を深追いしませんでした。BICBが存在することを認識できた理由は唯一「痛みの取れない腰痛」を軽快させることができたからであり、軽快させるための治療法がこれまでの腰痛治療の概念からかけはなれたところにあったからです。以下に挙げる症例は“これまでのあらゆる治療で一度でも軽快したことがない腰痛”を持つ症例で、それらの症例の胸椎に加療を行い軽快させることができることを示したものです。胸椎(胸髄)には痛みを中継する神経核(後角細胞)が存在し、私はそうした神経核を標的に治療を行ったところ、ほぼ全てのBICBで効果を発揮したという驚きの結果を導きました。つまり、腰痛の原因は脊髄にあり、その正体は脊髄炎である可能性が示唆されるということです。
この事実はまた、“全く何をやっても治らない”背中の痛み、上肢や首・肩こり・頭痛の原因はかなり上部にある頸髄に由来する脊髄炎であることが示唆されます。この“脊髄炎”の新たな概念は既存の医学知識を大きく打ち破る内容であるだけに、世界の医師たちが認めることができるかどうかは私にはわかりません。ですが、医師が認めるか認めないかにかかわらず、実際にあらゆるブロックが効果を発揮しない難治性の痛みが存在します。その方々の苦しみを考えれば、一刻も早く、この新理論が広まることを願っています。少なくと以下のような治療を行えば、治る可能性があるのですから。

症例1 52歳 F

  • 主訴:右臀部~右下肢痛
  • 現病歴 20年前に両坐骨神経痛が出現、J医大のペイン科に3年間通院するが痛みは半分しか軽快しなかった。15年前に坐骨神経痛が急性増悪で1年間歩行困難になる。この時点から7~8年間、整形外科や鍼灸に通うが痛みはほとんど改善しなかった(この頃は両股関節痛)。仙骨硬膜外ブロックなども行ったが改善なし。3年前からは医師の診療を受けていなかったが、1週間前から右下肢痛が激痛になったため来院。
  • 現症:横向き困難、うつ伏せ不可。10年前から側臥位になったことがない。初診より数日後皮膚科で右下腿に帯状疱疹があることを指摘される。

  • 治療1回目 腰部硬膜外ブロック 無効
  • 治療2回目 右L4,L5神経根ブロック 無効
  • 治療3回目 右L1神経根ブロック 右下肢痛が軽減する
  • 治療4回目 右下肢痛が自然消退したとのことで治療を終了
  • 驚異的にL1神経根ブロックが著効した例。
考察:治療1~2回目でブロック無効であることが判明。帯状疱疹による神経痛とも考えたが、それにしては腰部硬膜外ブロックが無効であることはつじつまが合わない。よってBICBと判断し、痛みを訴える箇所とは全く異なるL1にブロックすると著効した。これも信じ難い結果である。BICBの原因が上位ニューロンにあることをうかがわせる。L1神経根ブロックは、L1付近の交感神経節ブロックにもなっている。これにより脊髄円錐の血行を改善して完治させ、それによる治療効果と推測。つまり、痛みの本態は脊髄後角細胞の損傷にある可能性濃厚。今回は急性症状のために著効したと思われる。帯状疱疹との因果関係不明。
  • 症例2 52歳 F
  • 主訴:腰痛、左股から大腿前面・左下腿外側・両足底・しびれと痛み、左膝痛
  • 現病歴:6年前から両足底(MPJ付近)に痛みとシビレがあり整形外科ではモートン病と言われ、数か所のペイン科で硬膜外ブロックなどを受けるが全く軽快しなかった。腰痛も慢性的に存在し、ペイン科でブロックを受けても痛みが軽くなることは全くなかった。ここ1年はリリカ150mg、トラムセット2Tで様子を見ていた。しかし、急に左下肢痛が増強したため私の外来を受診。

 
  • 治療1~8回目 L3/4より腰部硬膜外ブロック 左膝関節内注射 腰の痛みにはブックが多少・数日効果あり(無効ではない)、左下肢痛には著効(数日痛みが激減しかし再燃させるが徐々に軽快)、足底の痛みにはブロックが全く効果なし。
  • 治療9回目 腰部硬膜外ブロックをL1/2から行ったところ、6年間で初めて右足底の痛みが消失し、左足底の痛みは3日間消失した。よってこの日からL1/2またはT12/L1から硬膜外ブロックを行うことにする。
  • 治療11回目 胸部T12に交感神経節ブロックを行うが効果なし
  • 治療12回目 T12/L1硬膜外ブロックを行うが左足底痛は再燃する(右は軽快)。そしてハイレベルのブロックのため逆に左下肢痛が再燃。
  • 治療13回目 L3/4硬膜外ブロック(左下肢痛を軽減させるため)
  • 治療14回目 L3/4のブロックでは足底痛が再燃する→T12/L1硬膜外ブロック
考察:症状には2種類あり左の坐骨神経痛と両足底の痛み。これらは異なる病態生理から発症している。坐骨神経痛は神経根症が原因と思われるが、両足底痛はこれまであらゆるブロックを受けても、一時的にさえ軽快することがなかった。よって神経根症由来ではないと思われる。効果が高かったのはT12/L1/L2の硬膜外ブロックであり、これがS1の後糸と脊髄後角細胞とのシナプス付近の血行を改善させ、それが両足底の痛みを改善させたと思われる。ならば、両足底の痛みは脊髄後角細胞由来と推測できる。

症例3 77歳 F

  • 主訴:両臀部・仙骨部・腹筋・前腸骨部痛、腹部の強い冷え感、腰の強い冷え
  • 現病歴:右腰部~下肢痛を主訴に3.5年前、脊椎手術で著名なK病院でL5/S1右拡大開窓術を受ける。その後1年間は軽快していたが、上記痛みが2.5年前から出現。続いて腹部の強い冷え感が1.5年前から出現。腰の冷え感が1年前から出現。K病院では「処置の必要なし」と言われ、その後近くの整形外科をドクターショッピングするが、全てで積極的な治療を拒否され、精神科受診を勧められる。素直に精神科を受診したが異常なしと言われ、最後に偶然に私の外来を訪れた。

  • 治療1回目 L3/4より腰部硬膜外ブロック行うが痛みに多少の効果があったが、冷え感や前腸骨の痛みには全く無効だった。これによりBICBとして治療を考える。
  • 治療2回目 L1/2より腰部硬膜外ブロックを行う→前腸骨と腹筋の痛みは軽快した。しかし冷えには無効。両臀部痛にも無効(L1/2という高位に行ったためと思われる)。
  • 治療3回目 両臀部痛を軽減させる目的で再びL3/4高位に腰部硬膜外ブロックを行う。すると冷えには全く無効。両臀部痛には数日有効。
  • 治療4回目 T12/L1に硬膜外ブロックを行う。これにより、今まで無効だったおなかの冷えが2日間消失した。臀部の冷えは左側が軽快した。初めて冷えに効果があった。
  • 治療5回目 T12/L1に硬膜外ブロック。おなかの冷えに3日効果あるが持続しない。
  • 治療6回目 T10高位の交感神経節ブロックを行う。これまでのどの注射よりも最も効果が高く、冷えが軽快してきている。そして食欲が増進した。腹筋・腸骨の痛みは軽快。ただし、右股関節~大腿外側~下肢後面痛が新たに出現。腰痛も再燃。
  • 治療7回目 T10高位・交感神経節ブロック+右L5神経根ブロック 治療後これまでで最も軽快感があった。
  • 治療8回目 おなかの冷えと腰の冷えがほとんど感じられなくなり、夜中にトイレに起きることもなく熟睡が出来るようになり、食欲が完全回復、直腸膀胱障害も消失、2階と1階を行き来する筋力が急に復活した。ほぼ奇蹟と言える圧倒的な改善に、本人はあまりにも驚いていた。なぜならば、つい最近まで養護老人ホームへの入所を希望していたほど体調がすぐれなかったからである。今回もT10高位・交感神経節ブロック+右L5神経根ブロック。
      考察:腰部硬膜外ブロックで冷え感には全く無効、かつ腰周辺の痛みにもほとんど無効であったが、ブロック高位を上げていくうちに全ての症状に効果が現れ始めた。もっとも効果があったのはT10レベルの交感神経節ブロックであり、このブロックがこの高さの脊髄の血行を促進させ、症状が軽快したと思われる。すなわち、本症例も脊髄レベルの疾患である(脊髄炎)と思われる。このT10レベルの交感神経節ブロック後、症状が激変した。冷えがなくなり、食欲が改善し、直腸膀胱障害が消え、下肢~腰回りの筋力が明らかに回復し、カレーライスを食べられるようになったと喜んだ。この2~3年間、症状が続き、軽快しないことから養護老人ホームに入所を考えていたほどだっただけに、今回のブロックの効果には、本人が信じられないほどの喜びを隠せないようだった。これはブロック史上の快挙ではないかと思われる。また、この文章は誇張でもフィクションでもない事実であることを念押ししておく(2014.10.30.現在)

症例4 40歳F

  • 主訴:両下肢IMC 両下肢の一時的な脱力 両下肢のあちこちに出現する神出鬼没な痛み、しびれ、ホットフラッシュ、発汗、めまい、耳鳴り、難聴、鼻閉感、頭重感、三叉神経痛、嚥下困難、呂律が回らない、突然の上肢の脱力(左>右)、眼瞼の線維束攣縮
  • 現病歴:私の外来に5年間以上通い続け、コンスタントに様々なブロック治療を週に2~3回行っている。上頚交感神経節ブロック、星状神経節ブロック、頸部・胸部・腰部・仙骨部硬膜外ブロック、胸部交感神経節ブロック、神経根ブロックなどありとあらゆるブロックを多重に行っている。長年の多重ブロックの甲斐あって、症状の出現回数が全体的に3分の1以下になっている。
  • 治療経過 ブロックは数日有効であるが、社会生活を維持できないほどの強い症状が、ブロックが切れてくると再燃するため、治療回数を全く減らすことができない状態でここ数年間は多重ブロックを行っている。最近ではIMC5分、立っているだけで下肢に力が入らなくなるなどの症状も出現し、球麻痺症状も軽度あることから、筋委縮性側索硬化症の初期ではないかとも考えている。BICBであることを考慮し、T12高位に交感神経節ブロックを行ったところ、上肢の痛みやめまいが改善するという驚きの結果となる。よってT10~T12付近にブロックを集中させることを開始。するとそれまで5分で出現していた両下肢脱力感(つっぱりもあり)が、改善され、連続歩行距離が大幅に改善した。この胸髄レベルの治療により、長年ブロック治療で改善されなかった症状が軽快へと向かい始めた。
  考察:本症例は胸髄レベルの交感神経節ブロックで上肢や脳神経症状が軽快するという信じがたい治療結果となっている。この信じがたい因果関係を説明できるのは唯一、脊髄神経核の損傷による“炎症メディエーターの軸索輸送”である。近年アロディニアや中枢感作の誘発物質として知られるようになった脳由来神経栄養因子(BDNF)などが視床に軸索輸送され、そこで痛覚信号などの伝導異化を発生させるという理論。胸髄の神経核が損傷を受けるだけで視床に痛みの錯誤回路が生成されるという仮説である。

症例5 34歳 M

  • 主訴:腰背部痛 両坐骨神経痛
  • 現症:前後屈時に腰痛 立位が長いと坐骨神経痛 手足の冷え 尿意頻回
  • 現病歴:17歳時(1997年)組体操中にL2の高さに腰痛。その痛みが消えることなくその後も持続。2006年にギックリ腰出現し、関東逓信病院ペイン科で硬膜外ブロックなど行うが効果なし。2013年から両坐骨神経痛(臀部から下肢後面の痛み)がさらに出現。2013年~Nペインクリニックに通い神経根ブロックなどを行うが無効。
 
  • 治療1回目 腰部+胸部硬膜外ブロック 左右L4神経根ブロック 結果 治療した夜から痛みややや増強 数日で元に戻るが改善なし
  • 治療2回目 胸部(T12/L1)硬膜外ブロック+両L1神経根ブロック 両L1ブロック中に下肢後面に液体が流れていくような感覚あり。ブロック後ほぼ腰痛消失(ブロック後痛み消失は初めて体験する)、しかし数時間後には痛みが再燃
  • 治療3回目 不眠・イライラもあるとのことで上頚交感神経節ブロックも同時に開始。これにより数日よく眠れる。胸腰椎移行部へのブロックが多少効果ありとの情報を得、3回目以降、T12の高さにブロックを行うことになる。
  • 治療4回目以降 上頚交感神経節ブロック、胸部交感神経節ブロックをメインとし、除痛ではなく、脊髄の血行改善をブロックで行う方針に転換した。意外にも除痛効果があることが判明。腰痛には屈曲時痛と伸展時痛の2種類あることが判明。伸展時の痛みには治療効果が出やすく、屈曲時痛には無効。屈曲時痛は古くからある症状。初めて多少なりともブロックが奏功してきているので、繰り返し同様のブロックを行う。伸展時痛には効果あり。
  • 治療5回目 上頚交感神経節ブロック、胸部硬膜外ブロック(T10/11) ブロック数十分後、屈曲時痛の5割改善、伸展時痛10割改善。かつて受けたブロック治療の中でもっとも効果が出た(これまではブロック直後も全く痛みが改善しなかった)。ホットフラッシュが強く不眠。高い枕で寝ているとのこと、低い枕にするよう指導した。
  考察:歩行困難ではないが7年前から腰痛、両坐骨神経痛に悩み、ブロック無効であることから心因性と判断され、現在心療内科にも通院している。これまでブロックが一度も数分も効いたことがなかったが、下部胸椎レベルにブロックを行うことで初めて痛みが軽快し始めた。ただし、背屈時の腰痛はブロックで軽快しやすいが、前屈時の腰痛はなかなか軽快しにくいという特徴があり、この二つの腰痛は病態生理が異なると思われる。いずれにしても馬尾へのブロックは無効で、脊髄円錐よりも上部脊髄への治療で軽快することから、脊髄炎(脊髄後角炎)が根底にあると思われる。

BICBの正体は脊髄炎

原因不明の難治性疼痛の原因は“脊髄炎”である可能性が出てきています。これまで“精神異常(ヒステリー)”と診断されていた疼痛患者は、実は器質的な異常のある脊髄炎であった可能性があります。 脊髄炎は現在の科学レベルのMRI画像では映し出すことが不可能です(病巣が小さすぎるため)。また血液にも炎症反応は現れません。脊髄炎の原因として最多は脊髄・脊椎不適合症候群(脊髄が尾側に強く引っ張られることによって脊髄の神経核が圧迫を受けて血行不良になり損傷する病態)であると思われます。しかしながら高齢者の場合の脊髄炎は主に動脈硬化や血管炎、血栓などの血管因子によるでしょう。 ラクナー脳梗塞が高齢者に普通に発症するように、脊髄にも微小な血管炎、血栓、塞栓が起こり、脊髄神経核に微小な虚血性の変性が起こると思われます(画像には映らない)。難治性疼痛はこのような脊髄炎の結果発生した中枢感作、中枢性疼痛過敏、であると思われます。  

BICBの治療は簡単ではない

  •  このように難治性疼痛のシステムを私が多少解明できたとしても、治療には次の3つの壁があります。1、仮説であり証拠がない 2、症状と異なる部位への治療は患者に理解されない 3、リバウンドが起こると患者は不信感を持つ
1、証拠がない仮説は権威者が発表してこそ広まります。現在の状態では広まりません。2、脊髄炎がどこに発生しているか特定できません。よって治療は試行錯誤を繰り返す形になります。しかし、注射が痛いと患者は試行錯誤をすることを許容しません。しかも、症状がすぐに軽快するとは限らないので、試行錯誤すること自体に患者が不信感と不快感を持ちやすく、治療が成立しにくいのです。かつ、注射にはリスクがつきまといます。リスクを軽減させるには多くのブロック経験が必要であり、技術的にそれを的確にできる医師は多くありません。3、慢性難治性疼痛ではほぼ必ずリバウンドが来ます。しかしリバウンドは「死にたくなるほどつらい」ものなので、それを我慢してくれる患者は少ないでしょう。強いリバウンドが起こると患者は来院しなくなり治療が成立しません。
  •  これらの3つの壁を乗り越えるには、世にBICBの概念が広がり、民衆の一般知識として脊髄炎が確立され、きちんと治療できることが普及しなければなりません。そして多くの医師たちがBICB(脊髄炎)を研究し始めれば解決します。
 

難治性脊髄炎の厳しい治療法

BICBの正体が脊髄炎であることが世に広まれば、脳神経内科の治療方針が一変します。脊髄炎は脳神経内科の守備範囲だからです。そして難病と言われている様々な脊髄炎とBICBの間に明瞭な垣根がないことが判明するはずです。つまり、様々な難病である脊髄炎(筋委縮性側索硬化症、多発性硬化症など)の初期はBICBの症状を呈する可能性があります。現に、私のBICBの患者たちは視神経異常、球麻痺症状、上下肢の脱力感、fasciculationなどを合併する者が数名存在し、難治性脊髄疾患の診断項目にいくつかひっかかっています。よって、私は難治性脊髄疾患も初期のうちに私が行っているようなブロック治療を行えば、その進行を防ぎ、改善させることができると確信しています。例えば筋委縮性側索硬化症も初期であれば治せるのではないかと感じています。
しかしながら治療の道のりは簡単ではありません。私は痛くない、そしてリスクを著しく低下させることのできるブロック注射法を独自に開発し身に着けていますが、それでも、BICBの患者は薬剤の使用に極めて敏感で、0.5%キシロカインを1cc使用しただけで、めまいと吐き気で倒れてしまい意識ももうろうとなることがあります。つまり、患者自身が非常に高いリスクの宝庫と化していて、患者が薬剤やブロックへの拒否反応を示す状態の中、週に3回もブロックを数年間続けるというような強靭な精神力が必要になります。まさにリスクの中に自分を追い込む作業の繰り返しであり、医師に勇気と覚悟と信念が必要になります。重症の患者では少しのミスも許されない状況なのです。そして起こった全ての副反応に毎回対処しなければならず、ブロックを行う度に数時間、副反応の対処に追われます。ブロック自体も難易度の高い技術を要求され神経をすり減らします。それを週3回行います。そこまで精魂使い果たす治療を数年間継続して、やっと症状を改善させることができるというレベルです。もちろん、治る保証もありませんので出口の見えないトンネルを進むような作業です。私は先ほど、筋委縮性側索硬化症も治せると感じているといいましたが、治せるとしてもそのくらいおおがかりな作業を長期間繰り返さなければなりません。
  BICBの正体が脊髄炎であることがたとえ判明し、脳神経内科がその治療に乗り出したとしても、脊髄炎の治療技術を脳神経内科の医師たちが獲得し得ないでしょう。問題はそういうところにあるわけです。 唯一、私と同様な治療ができるのはペイン科の医師のみですが、彼らにとって重症脊髄炎の患者はリスクが高すぎる、手間暇がかかりすぎる、ことにより採算の合わない患者となります。そして実際、彼らも「ブロック無効の患者=精神異常」と言い放ち、治療を断念しています。これらを解決し重症脊髄炎を不治の病ではなくすためには、国家レベルで研究所を設置し、そこに少数精鋭の医師を集めて治療を行うしか方法はないでしょう。 BICBと脊髄炎と重症脊髄炎がごっちゃになってしまいましたが、要するにこれらにはおそらく垣根がないことを述べています。BICBを治療することができるなら、その応用で重症脊髄疾患も治療できるようになるという意味です。  

BICBの治療原理(仮説)

BICBは幼少から成長期は脊髄が背骨の成長速度(成長形態)に不適合であることから発生します。青年期から中年期は姿勢の悪化(仕事)などにより脊髄が過伸展→血行不良、これに自己免疫異常、代謝異常などが加わり発症します。中年期から初老期にかけては、脊髄の栄養血管が加齢により損傷し、血管炎や微小な血栓・塞栓を起こし脊髄炎が起こります。これによりBICBが進行し、重症脊髄炎となり、診断基準を満たすようになるとはじめて難病の病名がつけられることになります(ここまでになる方はほとんどいません)。軽度BICBでは重症脊髄炎に発展することはほとんどなく、難治性の痛みを持ち続けて一生を終えます。
これらの病態を治療するには脊髄の血行を改善させることが最良の策となります。場合によって寝具の指導、姿勢の指導で完治する場合もあるでしょう。通常、仕事をしている中年期のBICBでは仕事で悪化することは避けられません。よって、仕事中の悪姿勢により生じた脊髄の血行不良をブロック注射で血管を拡張させることにより手を打ちます。ブロックは痛みを取り除くためではなく、脊髄の血行を確保するためのものであり、考え方を180度変えなければなりません。どこの血行を拡張させるのか?を考えるとともに、どうすれば血行を改善させることができるのかを考えます。有効打となるのは交感神経節ブロックや硬膜外ブロックです。痛みを感じている部位はブロック高位の決め手になります。例えばS1エリアに痛みを訴えるのであればL1付近の脊髄円錐の血行改善を目標に置き、この高さをブロックします。同様にC7のエリアに痛みを訴える場合はC4~5の高さにブロックします。治療は神経根性の痛みをブロックするのではなく、脊髄後角細胞の血行改善が目標だからです。もちろん、神経根ブロックが有効な症例にはそのようなことをする必要はありません。根性の痛みはブロックが有効ですから。ブロック無効な場合にのみ、脊髄炎を考慮して神経根糸が脊髄後角細胞とシナプスを作る高さの交感神経をブロックします。  

BICB治療の今後の展開

BICBが脊髄炎由来であることが将来的には解明されると信じています。しかし、解明するには多くの科の医師たちのプライドを傷つけていきます。不可解な疼痛を「精神疾患」と決めつけてきた精神科(心療内科)、見当違いな手術を行ってきた整形外科、脊髄由来であるとわかっていても治療が出来ない脳神経内科などなど、これらの科の権威ある教授たちのプライドを傷つけることになるでしょう。よって彼らの存命中はなかなかこうした内容は普及しません。教授の年齢を平均的に50歳とすると、今後30年間は普及しない見通しです。勇気ある医師は果敢にBICBを研究し、治療技術を身に着けてくれることを切に望んでいます。治らない痛み=精神が原因、と決めつけることに疑問を持つ医師が増えてくれることを切に望んでいます。

難治性腰痛症BICBの新治療概念」への2件のフィードバック

  1. はじめまして、埼玉県在住の46歳男性です。
    インターネット検索でまずこちらの「ブロック注射を行っても治癒しない症例」のページにたまたま辿り着きました。そしてそこに挙げられていた女性の症例と自分の症状が似ていたことに驚き、先生の力をお借りしたくメールしました。
    これまでに5回のブロック注射を行いましたが、痛みの軽快を全く感じたことがありません。(リリカ・セレコックスなどの飲み薬も効きませんでした)そこで「神経根ブロック、硬膜外ブロックなどを行っても、一時的にでも症状が軽快することのない“ブロック無効腰痛症(BICB)”」という先生の治療概念を知り、適切かどうかは分かりませんが、このページにコメントさせて頂きました。

    現在の症状は一年ほど前から間欠性跛行というのでしょうか、5分ほど立つ、あるいは歩くと左足(主に脹脛のあたり)が徐々に痛みだし立っていられなくなります。座るあるいはしゃがんでしばらく休むと痛みはリセットされますし、自転車では痛みがでません。

    治療はH28.7に都内総合病院の整形外科で初診、MRIにてL2/3脊柱管狭窄を軽度とL5/S椎間板ヘルニアと診断されました。そして7/19 に神経根ブロック(左S1)8/10に神経根ブロック(左L5)をうちましたが、まったく効かず「治療法なし」とされました。

    次は知人に紹介され気功・鍼灸院に2か月ほど通いましたが、効果なし。

    その後H29.1に都内ペインクリニックで初診。左足の痛みが飛び火?(痛みの部位が神経のライン上に連続していない)していることから腰部硬膜外ブロックしましたが、効かず。その後、再度MRIを撮り画像から結局前回の総合病院整形外科と同じ診断で神経根ブロック(左S1)と神経根ブロック(左L5)を打ちましたが、これも全く効きませんでした。ペインクリニックの先生の治療方針は「もしブロックが効かなくても画像診断から次はオペ」とのお話だったので、それ以来通院はしていません。もう一度通院し、効かなかった旨を伝え整形外科に転院してオペの話を伺うしかないと悩んでいたところ、先生の当HPに出会いました。先生の病院で受診を希望しております。お忙しいと存じますが、宜しくお願い致します。

    ちなみに無関係かもしれませんが、H1に右大腿骨骨折で脚長差があります。また骨折時に脂肪塞栓(肺塞栓)になりました。

    • 腰椎が原因ではない腰痛は存在します。整形外科学会ではそれを「脳の誤作動」と分類し、精神病扱いしてきちんと治療しない(精神科薬でごまかす)ことにしています。私はこれを脳の誤作動ではなく、延髄から視床に至る部分での障害であると仮定し、これらの部位の血行を改善させるために上頚神経節ブロックを行うという方針で治療をしています。すると患者のおよさ3分の2は回復に向かうことがわかりました。

       しかしながら、血行を改善させることは痛みを取り除くことではないため、実際に治癒に向かうまでには治療との時間差があって当然であり、その時間差の期間中、「本当に治るのか?」不安にならずに治療を受け続けられるかどうか?が改善への鍵になることがあります。これらのことを了承くださるようでしたら治療させていただきたいと思います。

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