感情を導入した新たな治療概念

感情を導入した新たな治療概念

西洋医学ではもっとも毛嫌いしているのが治療に患者の感情を導入することです。患者の感情で治療方針が振り回されると、治療ガイドラインの根底が崩れるからです。 現、西洋医学では、この病気にはこの検査、この手術にはこの検査、この症状にはこの薬…というようなガイドラインが世界共通ですが、患者の感情の多くは「ガイドラインには従いたくない」というところに収束しています。
お金がかかるから検査を受けたくない、時間の浪費だから通院したくない、副作用があるから薬は飲みたくないなど、患者は診療に対して常に種々の感情を持ちます。この感情に応えていたら診療にならないので「治療に感情を導入する」ことは医療従事者にとってマイナスとなることがほとんどです。
しかしながら私は人の感情よりも優れた知能はないと常に思っています。人の感情は自分にとって損か得かを瞬時に計算できるたいへん優れた超精密計算機能だと思っています。しかも計算のベースになる変数入力が数百項目にも及びますが、それでも瞬時に答えをはじき出せます。 例えば、注射治療に対して「やりたい」という感情が起こったとします。そこには次のような計算が動いています。注射の効果、注射の痛さ、注射の事故への不安、通院のわずらわしさ、待ち時間の長さ、会社を休むことで印象が悪くなること、医者との信頼、お金、今日の体調、注射後の遊びの予定…こうした変数を計算式にあてはめ、「得」と思ったときに「やりたい」という感情が芽生えます。
実に、それらを計算する能力は人間のもっともすぐれた知能と比喩してよいほど高性能です。私は、この高性能さを毎回必ず治療に利用しています。 VASを質問するよりも、薬の効果時間がどれほど長かったか訊くよりも、前回の治療をもう一度やりたいかやりたくないか?を訊くのがもっとも適切な治療指針を作っていけるのです。
治療は押し売りであってはいけません。治療も検査もしないという選択もあるのです。 患者の感情は患者の幸せ度と直結しており、医師の利益と重なる場合もあれば、医師側の損失となる場合も多々あります。損失を許さないというのは医師側の勝手な考えです。
さて、患者の感情には医師の努力では補えないものがあります。例えば恐怖症、待ち時間の長さ、性格の臆病さ、依存体質、経済面、社会面などです。 これらを考えないで診療しようとするのがこれまでの医療体制でした。今後の医療はこれの真逆をいくことを強く勧めます。 すなわち注射の恐怖、待ち時間、権威による安心、患者の性格などの要素を治療指針に加え、総合的に患者に対して満足度を高めてあげる医療を提供することを目標に置くことです。
私はこれまで、注射の恐怖を取り除くために「痛くない注射の方法」を開発努力し、待ち時間が長くならないように努力したり、患者の正確に応じて説明方法を変えていったり、患者の満足度を高める努力を常に行ってきました。 そして患者にこう質問します。「また注射がやりたいですか?」これが治療指針の全てです。 治療というものは、効果が1日しか効かなかったり、逆に痛くなったり、良く効いたが副作用が出たり、毎回ほんのわずかずつしかよくならなかったり…今後も同じ治療を続けるべきか、治療を強化すべきか、一旦休止すべきか…で常に悩むものです。それらを深く悩むのではなく、患者の感情に任せてしまいます。 今後の治療指針を決める上で、患者の感情を導入することがもっともすぐれた治療ガイドラインとなることは、まじめに臨床医をやってきた医師には理解できると信じています。

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