硬膜亀裂による予測不能なブロック効果

はじめに

硬膜外ブロックを行うとその周囲の神経根に緩慢な麻酔効果が現れます。が、硬膜外に注入した液体がどのような経路をたどって麻酔効果を表すかについては全てが解明しているわけではありません。ペインクリニックなどで何千人と硬膜外ブロックを行っていると、その効き方が明らかに他の患者たちと異なる反応を示す者がわずかに存在することに気づきます。その中で今回注目するのは硬膜外ブロックを行っているのに脊髄麻酔になってしまう例です。普通に考えれば深く針を刺し過ぎて、硬膜穿破し、くも膜下ブロックになってしまったと推測されます。しかしながら、硬膜外ブロックを行う度に、毎回必ず軽い半身麻痺が出現する患者が存在します。そうした例では毎回硬膜穿破しているとは考えにくく、硬膜に亀裂があり、そこから脊髄内に薬液が漏れているのではないかと考えてしまいます。 今回、さらに不可解なブロック効果を示した以下のような例を経験しました。腰部硬膜外ブロック後から約1時間経過した後に、起き上がった際に急に脊髄麻酔効果が現れ、それまでは動けていたにも関わらず、急に半身麻酔が出現して歩行困難になった例です。2例ともにその30分後には歩行可能になりましたが、こうした時間差で半身麻酔がかかってしまう原因を「稀な例」と放置しておくことはブロック事故防止の観点から望ましくありません。そこで、これらの症例を硬膜亀裂によるものではないかと仮定して考察します。

症例1 40歳 女性

主訴:頭痛・顔面痛・外耳痛・耳鳴り・かすみ目・めまい・ふらつき・舌の違和感・呂律がまわりにくい・動悸・発汗異常・悪寒・両上肢痛としびれ・腰痛・下肢痛(しびれ)・間欠性跛行 現病歴 6年前から、上記のような主訴を訴え始め、神経根・硬膜外・交感神経節ブロックなどあらゆるブロックを駆使している。現在、週に2~3回の通院・ブロック治療でかろうじて通勤ができている。  

■遅発性(ブロック45分後)の脊髄麻酔

右の側腹部に強い痛みを訴えた為、この日は特別に硬膜外ブロックをT12/L1の高さで行った(0.5%キシロカイン6cc)。ベッドで30分臥床安静の後、意識清明、歩行可能であることを確認後、会計を済ませて薬局に行った際(ブロック後45分経過)、そこで下肢に力が入らなくなりクリニックに戻る。知覚は臍から下が鈍麻。1時間臥床で歩行可能になり帰宅。  

考察

硬膜外に注射した薬液が、ブロック後の歩行により脊髄内に急速に移行したこと推測。ブロック前に右側腹部痛を訴えた時点で硬膜に軽度の損傷を起こしていたと推測。ブロック後1時間後に椅子から立ち上がる際に弱くなった硬膜が裂け、同時に一時的かつ部分的な脊髄損傷が生じたと考える。さらに亀裂部より硬膜外に残留していたキシロカインがくも膜下に浸透し下肢の脱力が出現したと考えた。この後、胸髄のMRIを撮影して確認しましたが、異常所見はありませんでした。

■<症例2>上記と同症例

  • 頚部硬膜外ブロック後、知覚正常・運動麻痺
頚部硬膜外ブロックを行う(0.5%キシロカイン5cc)。C6/7硬膜外ブロック時に硬膜穿破をしていないことは何度も確認(髄液の逆流がない)。硬膜外ブロックは最初の1cc注入後3分経過観察し、脊髄麻酔になった際の「熱くなる感覚」はがないこと、上肢が正常に動き知覚低下がないことを確認。その後に残りの4ccを5分かけてゆっくり注入。注射後さらに10分経過後に、首から下が動かなくなる(知覚あり)が出現。自発呼吸可、意識清明であるので、経過観察し、注射後30分で上下肢が動くようになる。この患者は以前にも仙骨部硬膜外ブロックで同様に両上肢が動かなくなった経験があり、その理由は不明。仙骨へのブロックでなぜ上肢まで動かなくなるのか理解できない。今回も同様な反応であったため、硬膜穿破による脊髄麻酔が原因ではないと判断した。

考察

通常、硬膜穿破を100%認識できる手段がないため、薬液を1ccほど注入後、「熱いお風呂に入った時のような熱感」が出現していないかどうか? 運動麻痺と知覚の低下がないかどうかを確認し、それらがなければ残りの薬剤をゆっくり注入するというかなり慎重な硬膜外ブロックを私は常に行っています。さらに薬液注入に10分近くかけて、硬膜穿破がないことを念入りにチェック(患者問診と逆流チェック)しています。しかし、それでも上記の症例では首から下の運動麻痺が出現しました。 上下肢の運動麻痺は薬液注入後10分経過後の出現であること、念入りなチェックにもかかわらず発現していることを考慮すると、刺入時の針による硬膜穿破が原因ではないかもしれないと考えました。以前、仙骨部からの硬膜外ブロックで下肢ではなく上肢に麻痺としびれが出現していることから、キシロカインの拡散パターンが通常の人とは異なる可能性を考えます。硬膜に亀裂などの異常部位があり、そこからくも膜下にキシロカインが浸透していった可能性が示唆されます。

症例3 87歳 女性

主訴:腰部から腹部にかけて帯状に常に灼熱感、両前腸骨部~股関節の痛み、両下肢痛、両下肢の極度な冷え 現病歴:20年前から上記症状があり、様々な医師に治療を受けたが全く改善せずあきらめていた。2014年7月、私を初診。その後毎週、硬膜外ブロックや神経根ブロックを行うが全く改善がなく、刺入部位をやや高い位置に変えて硬膜外ブロックを行うことにする。

■腰部硬膜外ブロック1時間20分後の麻痺出現

腹部の灼熱感を改善させることを目的にT11/12の高さより硬膜外ブロック(0.5%キシロカイン7cc)を行った。1時間臥床安静後、めまい、ふらつきがないこと、歩行可能であることを確認し、待合室に移動してもらう。患者はその15分後、自力でタクシーに乗り自宅付近に到着した。しかしタクシーに乗り込んで数分後、急に下肢に麻痺が出現しタクシーを降車できなくなる。タクシーの運転手にかつがれてその場で道端に放置される(雨の中)。近所の人が彼女を助けて自宅にかつぎこまれた。その1時間後に麻痺は回復。  

考察

症例1と同様に遅発性に発症した麻痺であり、歩行がきっかけで脊髄内にキシロカインが急速に移行したことを示唆させます。しかし、その理由は謎です。症例1と同様、硬膜に亀裂があるのではないかと考えました。症例1との共通点は症状が慢性経過で難治性腰痛であるということです。慢性経過の難治性腰痛では硬膜が所々損傷している可能性があるという推測が成り立ちます。普段は損傷部位は癒着により閉じていて、そこから髄液の漏れは起こりません。しかし、硬膜外腔が陽圧になると、亀裂部から脊髄内に薬液が移動することがあるのではないかと考えました。こうした珍しい症例が短期間に2例も続くのは偶然ではないでしょう。

症例4 65歳 男性

主訴:右上肢痛、左項・肩甲帯、肩、腕、手の痛み、左肩関節自動不可 現病歴:2か月前から上記主訴が出現し、仰臥位になると激痛が走るため一睡もできないという状態。左肩の可動域はほぼゼロ。私の前に他の整形外科医にかかっていたが、リリカ、トラムセット、消炎鎮痛薬、抗うつ薬など大量に処方され、トリガーポイント注射を何度も行っていたが全く痛みが軽快しないため、私を紹介された。週に2回の割合で、数か所に神経根ブロック、左肩SAB注射+左肩関節内注射を行い、やっと4~5時間睡眠をとれるようになった。しかし、ブロックは著効せず、上腕の筋肉の萎縮が目立ち、早期の回復を目指すために頸部硬膜外ブロックを行うことにした。

■頸部硬膜外ブロック後の吐き気のみの症状(麻痺なし)

左上肢の痛みが強く、臥位がとれないため座位でC4/5より頸部硬膜外ブロック(0.5%キシロカイン2cc)を行う。刺入はほぼ完ぺきで、硬膜穿破をしていないと確信していたが、注入5分後(時間差がある)に肩甲帯に灼熱感を訴え、脊髄にキシロカインが流入していることが示唆された。同時に吐き気を訴える。両上肢・下肢共に自動可能で麻痺なし、または軽度。しびれなし。意識はもうろうだが会話可能。吐き気が強く、15分後に車椅子でトイレに行く。トランスファーは自力で可能。40分後に吐き気も回復。

考察

今回はブロック後に灼熱感が出現したため、脊髄内にキシロカインが流入したことは間違いないでしょう。しかし、出現した症状は吐き気がメインであり、手足は動いていること、知覚低下がないことを考えると、通常の硬膜穿破とは異なるようです。これまで私が経験した硬膜穿破では、薬液注入時に灼熱感が出現した場合、運動麻痺や知覚消失は必ず起こっていました。ところが本症例では麻痺がなく、出現した症状は吐き気のみというとても理解しがたいものでした。これを単に、「私の技術ミスによる硬膜穿破」であると考えるのではなく、何か特別な理由があるのではないかと考えています。つまり本症例も硬膜亀裂が原因で、そこからキシロカインが流入した例かもしれないと推測しました。もちろん、硬膜外ブロックの針が硬膜をわずかにつついてしまい、その針穴からキシロカインが脊髄内にわずかに漏れた可能性もあります。しかし、もしも硬膜の亀裂が、慢性の強い痛みを訴える患者に存在するとしたら、そういう患者は頸部硬膜外ブロックのリスクが非常に高く警戒しなければなりません。これまで、単に「硬膜穿破」と考えられていたブロック後の症状の中に、硬膜亀裂による症例が含まれていたかもしれないと推測することは、ブロック事故を未然に防ぐために重要であると思われます。

その他の症例

1、仙骨部硬膜外ブロック後の失禁

仙骨部硬膜外ブロックを行った際、サドルブロックのようになり、尿意消失、肛門周囲知覚脱出、失禁となる例と、私の場合100例に1例くらいの割合で遭遇します。これに該当する症例は、硬膜外ブロック後、「灼熱感を感じる」「正座した後のようにビリビリ痺れる」とほぼ必ず訴えます。私はこう訴えた患者には紙おむつを必ずあてるよう指示します。するとブロックして数十分~1時間後にほぼ必ず失禁し、粗相を未然に防ぐことができるのです。私は仙骨部硬膜外ブロックにカテラン針(25G)を用いますが、こうした症例に特に深くさしているわけではなく、ランダムに生じるようです。硬膜外ブロックの薬液がくも膜下に移行してサドルブロックになってしまう理由を考える時に、「硬膜穿破」としてしまうにはあまりにも不可解です。私は硬膜がどこかで小さな破損を起こし、亀裂がある可能性を考えてしまいます。  

2、仙骨硬膜外ブロック時の聴力・意識の低下

主として仙骨部硬膜外ブロックを行う際にキシロカインの注入時に意識が低下し、耳が聞こえなくなるという症状を表す患者が少なからず存在します。私の経験上、30~50例に1例くらいの割合でそのような患者に遭遇します。恐らく、ほとんどの医師はブロックを行う際に、患者にそういうことを問診しませんので、気づいていないことが多々あるでしょう。 理由として、恐らく、硬膜外ブロックが静脈注射になってしまって、症状を引き起こしていると考えます。仙骨部硬膜外ブロックでは、静脈叢をつついて静脈内注射になってしまうというミスが頻発しやすいのですが、私はそのことを述べているのではないのです。明らかに静脈叢を刺していないにもかかわらず、意識低下・耳が聞こえにくいという症状が出現する特殊例があることを述べています。 私が茨城県のS病院に週に1回勤務していた時に、仙骨部硬膜外ブロック(0.5%キシロカイン10cc)を隔週で行っていた39歳男性は、常に毎回意識低下と耳が聞こえにくくなるという症状を、薬液注入時に訴えていました。毎回100%訴えるわけですから、それが静脈叢を刺しているせいで静脈注射になっているのではないことは明らかです。ならば、なぜ上記の症状が出るのでしょうか? それは硬膜外腔から静脈内にキシロカインがダイレクトに移行する短絡ルートがどこかに存在するからであると思われるわけです。  

3、腰部硬膜外ブロック後の両下肢のビリビリ・ジンジン

48歳男性、5年前から慢性の頭痛、三叉神経痛、自律神経失調症、腰痛、間欠性跛行を訴え、様々なペインクリニックを渡り歩き治療をするが治らず(精神異常によるものと診断されて落ち込んでいた)、私の外来を訪れる。試しにL1/2より腰部硬膜外ブロックを2回行ったところ、2回とも、ブロック後に正座した後のようなジンジン・ビリビリしたシビレ感と、やや強い脱力感を生じ、脊髄内に薬液が侵入しているのではないかと思われました。通常、硬膜外ブロックでは“正座後”のようなピリピリ感を起こすことはほとんどなく、くも膜下ブロックの時に出現するものです。よって、この症例も硬膜亀裂がどこかに存在すると考えています。

ブロック時の硬膜穿破

ブロック術者は硬膜外ブロックでは、硬膜を穿破して脊髄麻酔になってしまうリスクを負います。穿破していても髄液の逆流が見られないこともあり、髄液の逆流がないことが「穿破していない」ことの確証にはなりません。よって、穿破しているかいないかは、常に術者の勘に頼るしかなく、勘が鍛えられていない医師が硬膜外ブロックを行えば、常に硬膜穿破のリスクがあることを意味します。 私は1年に2000~3000例の硬膜外ブロックを行いますが、腰部硬膜外ブロックでは4年前に硬膜穿破をして以来、現在まで一例も硬膜穿破をしませんでした。つまり通算で1万件以上、硬膜穿破をしていなかったわけですが、最近、ブロック無効の難治性神経痛患者(ペイン科の医師たちからも精神異常者扱いされ治療を拒否されている)という特殊な患者をブロック治療しはじめた途端に上記のような「医学的につじつまの合わない変則なブロック効果を表す患者」に立て続けに遭遇するようになってしまいました。 栄えある「硬膜穿破しない」という私の記録は、特殊な症例の前では見事に破れ、どんなに工夫しても、どんなに慎重にブロックを行っても、必ず理屈に合わない「効き方」をしてしまう症例にであってしまいました。しかも、硬膜穿破をしているかいないかを確かめるために、1cc注入しては数分待って、患者に異変が起こっていないことを確認しながらブロックを行っているというのに、ブロックが終了後の数十分以上経過してから脊髄麻酔になってしまうわけですから、手の打ちようがありません。 どんなにブロック技術を磨いても、上記のようにブロック後に薬剤が脊髄に流入してしまう例があり、脊髄への薬剤の流入は「穿破ではなく硬膜亀裂によるもの」ではないかと考え始めました。硬膜外に造影剤を入れ、その後に軽い運動をしてもらい、その後にCTやMRIを撮影して事実関係を調べるという方法もありますが、私は患者をモルモットにできる立場ではないため、そこまでの研究は不可能です。よってこれらの意見は空想・推測です。  

硬膜亀裂の症例数は多くない

硬膜亀裂が存在するのは恐らく慢性難治性の脊椎疾患があり硬膜やくも膜に癒着が存在する場合であり、普通に腰痛や神経痛の患者を診療しているだけでは、なかなか遭遇できないと思われます。彼らに共通する特徴は、ペイン科を渡り歩き、そこでブロック無効と診断され、「心療内科を受診しなさい」と言われてしまうレベルの「現医学では治せないレベル」の難治性患者です。もしも、硬膜亀裂の研究をしたいのであれば、「精神科送りにされた患者」に対して積極的にブロック治療を行わなければならないわけで、「医者が忌み嫌うタイプの患者」を進んで診ていく必要があります。それはたやすいことではないでしょう。ここに硬膜亀裂の研究が進みにくい理由があるわけです。髄液減少症も同様に研究が進まないのは同じ理由によるでしょう。

硬膜亀裂の特徴

硬膜亀裂という病態が存在するかしないか、まだはっきりしていない段階ですが、ここでは存在すると仮定した上で、硬膜亀裂の特徴を推測します。
  1. 硬膜亀裂の原因
硬膜亀裂は神経根が強く牽引されることによる硬膜袖の破損と推測。むち打ち事故や転倒事故など外傷から生じる場合と、脊髄脊椎不適合など脊椎のアライメントの悪さから慢性経過で生じるものとがある。   2、髄液減少症と硬膜亀裂の関連 むち打ち後に髄液減少症が発症する可能性が示唆されていますが、硬膜亀裂が入ってしまったとしても、そこから髄液が漏れるとは限りません。通常は癒着により漏れない状態と思われ、動作の拍子に髄液が漏れることがあると推測します。   3、硬膜亀裂の好発部位 胸椎は可動域が狭いので硬膜亀裂が発症しにくく(しないわけではない)、胸椎の両端で硬膜亀裂が起こりやすいと推測します。   4、硬膜亀裂の条件 硬膜亀裂は硬膜の緊張・神経根の強い緊張があることが条件となりますから、少なくとも神経痛などの症状が必発であり、無症状の人が自然に発症することはないと思われます。また、硬膜の緊張は骨格が原因ですから、簡単に治るものではなく、患者は慢性の症状を持っていることが多いと思われます。   5、術後の硬膜亀裂 脊椎の手術後は硬膜亀裂が必発であり、術後の患者の脊椎に硬膜外ブロックを行う場合は、脊髄内に薬液が流れ込んでしまう可能性を常に頭に入れておきます。   6、まだら効きと時間差効き 硬膜外ブロックを行った後に、時間差で麻痺が出現、知覚が正常であるのに麻痺のみ出現などのまだら効きがある場合、硬膜亀裂の存在を疑います。   7、硬膜亀裂と癒着 硬膜亀裂を起こしている付近では黄色靭帯と硬膜の癒着が存在する可能性が高いでしょう。つまり硬膜外腔が極めて狭い可能性があり、単純に硬膜穿破の可能性が高いことも頭に入れておきます。黄色靭帯を針先が通過した際、健常人ではプツッと音がしますが(恐らく圧差で音がする)、癒着がある場合は音がしませんので注意が必要です。   8、医原性硬膜亀裂 太い硬膜外針で硬膜穿破をすると、医原性の硬膜亀裂を作ります。ここから髄液が漏れて頭痛が発症することは、普通に起こる合併症として知られています。  

硬膜穿破を防ぐには

硬膜穿破はブロックのどんな達人であっても起こしてしまうものです。患者は黄色靭帯が肥厚し、脊柱管が狭窄し、硬膜外腔が癒着し、側弯症や捻りがあり、変形も強く…個人差が非常に激しく、きまったやり方が通用しません。 ただ、硬膜穿破を防ぐ方法として、以下のような王道があります。 1、1cc注入毎に数分間様子を見て、灼熱感がないかどうかをチェックする 2、薬液を少し入れては逆流を確認するという行為を多く行う。 3、逆流チェックの際、いろんな圧力でシリンダーを引いてみる(弱いと引けないことがある) 4、針が硬膜外に入った後、わずかに針を引き、薬液注入時にそこから針を進めないよう注意する。 5、あらかじめ、何ミリで硬膜外腔に到達するかをカルテに記載しておく(2回目以降の患者)。  

硬膜亀裂がある場合は上記のどれも無効

私は、上記の「硬膜穿破を防ぐ工夫」を毎回注意深く行っています。それでもここに挙げた症例では脊髄麻酔を防ぐことができません。硬膜亀裂から薬剤が脊髄内に流入する場合、時間差があるので予測不可能だからです。ただし、硬膜亀裂がある患者は、それほど多くないと思われます。上記の3例に共通するのは「他の医師たちが治せない難治性慢性疼痛」の患者であり、そういう患者は精神科に回されるのが常であり、「積極的なブロックの対象者」にはならないからです。よって必要以上にナーバスになる必要はないと思われます。しかし、難治性慢性疼痛と知りつつ、積極的にブロック治療をしようという向上心のある先生方は、こうした症例に遭遇する機会が増えますので注意しなければなりません。患者の苦痛を除去してさしあげたいと願う、高尚な精神の先生方は、果敢にブロックに挑戦するがゆえに、事故にも多く遭遇します。硬膜外ブロックを行い、患者が意識を失い、パニックになるというような経験もされるかもしれません。患者と訴訟問題に発展するかもしれません。ですが、その時に、自分の未熟さを責めるのではなく、こういった硬膜亀裂の患者が存在することも頭の片隅にいれておいてほしいものです。決してその素晴らしい精神が折れることがないよう願っています。 蛇足ではありますが、ブロックは病院経営者にとってはあまり歓迎されません。それは常にリスクと隣り合わせであり、事故が起こると病院の評判が落ちるからです。大学病院のペイン科では、そうした事故責任から医師を守ってくれるので、大学病院でブロックの修行をすることは許されますが、一歩外に出て、他院でブロックを行う場合、事故を起こせば医師の立場はかなり悪化します。しかもブロックには時間がかかり、現在の保険点数では採算が合いません。よって、医師がどれほど高尚な精神を持っていても、それは経営者に理解されることなく、むしろ嫌われる要素になります。医師の精神が高尚であればあるほど、立場が悪くなり、しかも患者のリスク責任も負い、ブロックを行う医師にメリットがほとんどありません。しかし、そうしたマイナスだらけのブロックの修行を積むことで、オンリーワンの存在になり、なくてはならない存在感を表すことになるでしょう。どうかブロックをして患者を救うという高尚な精神が折れないように願っています。

硬膜亀裂による予測不能なブロック効果」への2件のフィードバック

  1. 2017年5月8日に仙骨ブロック注射3回目か5回目を受けました。
    9日から右お尻の下から膝にかけて激痛が走り、今までなんとか、歩けて
    いたのですが、だんだん痛みがひどくなり、体を曲げて、すり足でも歩けなく
    なりました、何とかこの痛みをとる方法を教えてください、
    お願いします。

    • 最善の方法は「できるかぎり寝たきり」になることです。ただし、痛みが来ないような体勢で寝なければ意味がありません。クッションやまくらマットレスを創意工夫して、痛みが来ないように寝ます。しっかり守れば1~2週間で社会復帰できる可能性が高いでしょう。詳しくはこちらをごらんください。

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