炎症の自然消退
炎症を鎮めることは損傷組織をすみやかに修復に移行させるためにもっとも重要です。私が様々な症状の治療にブロック注射を用いるのは局所の炎症を鎮め、血行を再開(血管を拡張)させて組織修復を促すためです。痛みを止めるためではありません。しかし最近は無礼な患者が多く、「ブロック注射は一時的に痛みを止めるためだけの注射で、治すことになってませんよね!」と医師に向かって堂々と間違った意見を述べるようです。こういう患者が多いのは、マスコミにより患者が知識バカとなっているからでしょう。「医師は治療にもならないのに、患者から治療費をもらうためにブロック注射をしている」とでもいいたいのでしょうか? こういう患者への対処に非常に困り果てています。病院に来るや否や治療拒否をしているようなものですから。薬や注射がない場合、炎症を鎮める唯一の方法は安静でありさらなるストレスを与えないことです。そうすれば炎症はその炎の力を失い、自然消退していきます。運動して治す、歩いて治す的な考え方をしているスポーツトレーナーを多くみかけますが、これは諸刃の剣であり、悪化させる確率が低くないことを認識しておいた方がよいでしょう。
さて、この一見当たり前に聞こえる「自然消退の考え方」が非常に重要です。炎症自体は次なる組織損傷を加えない限り自然消退する定めにあるということです。 ならばこの逆を考えます。炎症が消退しない場合、その理由はどこにあるのかを考えることです。患者はその理由を「薬が弱いからだ」と言いますがそれは違うでしょう。患者が「損傷を起こすような行為をやめなから」なのです。
日常生活を送る上で普段は組織損傷とならない行動も、局所に炎症が起こっているときは、日常行動で自損行為になっていることを患者は理解できません。よって外来でそれを患者に教えても無駄です。生活指導して患者が全てを理解してくれる確率は相当低いものです。理解できない患者に対し医師が必死に生活指導をすることは医者不信を作り無意味なだけではなく有害です。よって生活指導は通常「あらゆる保存的治療法を行っても効果がない時の最終手段」と考えるべきです。あらゆる治療を行っていれば、患者がようやく医師を信頼するようになるからです。