炎症

炎症

損傷を起こした場所には必ず炎症が起こります。損傷が起こっていなくとも寿命が訪れた細胞は食され処理される時に炎症が起こります。寿命が訪れていない新しい細胞でも、自己抗体が活発すぎると新しい細胞を食してしまい炎症が起こります。炎症は24時間365日常に体内で起こっており、体の組織や細胞が新陳代謝で生まれ変わる一連のシステムが炎症です。
強い炎症が起こると1、炎症メディエーターが産生され、これがきっかけで痛み信号が脳へ伝えられる、2、組織の取り壊しのためのマクロファージを動員、3、損傷拡大を防ぐための孤立化、出血の防止などを行うために局所に浮腫を作るなどが同時に起こりますが、炎症が弱い場合は感じません。 興味深いことは、「炎症は常に誇張される」という特徴があるところです。特に問題となるのは痛みという警報です。これは損傷組織が脳に対し安静を強要するために送る半強制信号です。痛みが耐え難い理由は、脳にたやすく信号を無視されたのでは困るからです。つまり理性に無視されないくらい強い信号を送るために炎症は常におおげさに誇張されるのです。
誇張されていると推測する理由はいろいろとあります。鎮痛薬で誇張された痛み信号をやわらげてあげると、人は動けるようになりますが、そのようにして動いたところで炎症部分の損傷が広がるとは限らないからです。痛みがあっても動かすことで痛みが和らぐという経験もそうです。痛み信号は必要以上に強く脳に送られていることがわかります。
我々医師は常に炎症反応は誇張されていることを考えなければなりません。だから薬を使ってその誇張分を取り除くと回復が早まるでしょう。しかし、取り除き過ぎると、人々は安静を守らなくなり、症状を悪化させるでしょう。症状を軽減させる治療を施すことが実際の健康に吉と出るか凶とでるかの判断は簡単ではなく、ガイドラインを学んだくらいでは個々の患者に対応などできないと言うことを認識しておくことが大切です。症状を軽減させることと治療をすることは別次元のものであり、本当に患者のためになる治療を施すには、医師としての長年の修練が必要です。

炎症抑制の是非

炎症を抑える治療が生体にとってよいか悪いかは現医学をどれほど猛勉強しても答えが出ません。出ていると思っている医師たちは多いと思いますがそれは真実ではありません。 例1、 インフルエンザ感染時に座薬などの強い抗炎症薬を用いると免疫が低下して髄膜炎を起こし死に至らしめる場合があります。しかし、40度以上の高熱を放置すれば脳細胞が熱によって死滅します。あまりに高すぎる熱は放置するリスクと髄膜炎になるリスクを天秤にかけると、熱で脳細胞が破壊される確率の方が高いかもしれません。どちらの判断で患者の命を本当に救えるか? 教科書を読んでも答えは出ません。
例2、白癬(水虫)からバイ菌が侵入し、感染を起こして足が腫れた時、ステロイドを用いて腫れを引かせた方が治りが早いか? ステロイドのせいで免疫力が低下して感染が拡大するか?どちらが実際に治りが早いか知っていますか?正解はステロイドを用いて腫れを引かせ、血行を促進させる方が、感染が素早く縮小していきます。これは教科書ではなく経験で学びます。
炎症を抑えることが吉なのか凶なのか?は様々な症例に対しあらゆる抗炎症剤を局所に投薬したり全身投薬したりし、その上で患者視点で症状の経過を真剣に観察し続けた医師にのみ経験上答えられるものなのです。よって患者視点で教科書にないいろんな治療を試みた医師は上記のような究極の選択の正解をどんどん体験から学び、素晴らしい医師へと育ちます。しかし、保身に走る医師はガイドライン通りの治療しかしないため、「機転を利かす」ことができなくなり、トラブルや例外的な症状に対処できません。すばらしい医師になるために、炎症について次のことを頭に入れておきましょう。
  1. 炎症は常に必要以上に誇張されている
  2. この誇張によって死に至る場合もあるので抗炎症で人命救助ができることもある(アナフィラキシーショックがそうである)。
  3. 炎症を抑えることは局所の循環を改善させる
  4. 炎症を抑えることは免疫力を低下させる。しかし、たいてい局所の循環を改善させる方がメリットが多い。循環不全では免疫がそもそも働き得ない。感染箇所に抗炎症薬を用いることの是非が問われるが、ほとんどの場合、ステロイドなどでの抗炎症をしっかり行う方が、行わないよりもはるかに感染箇所を改善させる。つまり、免疫抑制のデメリットと浮腫改善で血行改善のメリットを比較すると後者の方が圧倒的にメリットが多い。
  5. 炎症が長引くと組織が不可逆瘢痕化しやすく、局所の変性(老化)を進める
  6. 炎症を強力に抑えて全身の免疫力を低下させることは行うべきではないがリウマチ科、皮膚科などでは危機感なく行われていることがある。レミケード、エンブレルなどは湯水のごとく使用すると、その副作用のために後に社会問題に発展する可能性を秘めていることに注意しておいた方が身のためである。
  7. 抗炎症と感染と免疫力低下の問題はおそらく永遠に解決しない。よって無神経に抗炎症薬を用いる医師は非難される。しかし、抗炎症をしっかり行えば患者を劇的に改善させることができる。この非難と効果と患者幸福のバランスの中に抗炎症治療があることを認識し、時に英断が必要となる。しかし、無神経に使っていると事故にあう。英断で患者の人生を救えるが、患者の人生を救うことに興味のない医師は多い。
  8. 抗炎症をしっかり行うことで外科的治療をしなくても症状を軽快させることができるが、外科医には都合の悪い話となる。
  9. 抗炎症で組織の新生が促され、機能が回復するとは思われていない。が、私の経験上、局所の抗炎症を徹底すれば、痛みが消えるだけでなく、ほとんど変性(老化)が進まない。つまり将来的にも手術の必要がない。
  10.  抗炎症の手段としてステロイド、特にケナコルトを用いると法的に守られなくなる恐れがある(ケナコルトを適量をわきまえずに使用し、局所の萎縮を起こさせた医師たちが世界に大勢存在するため、ケナコルトは悪者扱いされていて、法的に守られない)。しかし、レミケードなどステロイドよりもさらに副作用が強いと思われる薬剤は現在いくら使用しても非難されない。この状況に危機感を感じる。
  11.  抗炎症を適時、適材、適所に用いると患者の命を救える場合、手術を回避できる場合、難治性の病を完治させられる場合などがある。が、そのためには英断が迫られる。私はかつて一度も裏目に出たことがないが、裏目に出ると集中非難を浴び、破門される可能性もある。外科医にとっては手術以外で治る方法が存在すると、医師生命が絶たれる恐れがある。よって外科手術で失敗しても非難はされないが、内科治療で失敗すれば、医師生命を抹殺されるほどの非難を浴びる運命にある。 例えば、化膿性膝関節炎と診断されて大学病院に入院した患者が、退院後も膝の腫れが全く治癒しないため、私は自己免疫性疾患を疑い、ステロイドを少量注射(患者にリスクの説明はして了承を得ている)したところ、一度で完治した。 化膿性膝関節炎と大学病院で診断されているものにステロイドを用いることには相当の英断を要する。私は同様の症例を3例も経験した。3例経験したというよりも、ステロイドを用いて治療しない限り、診断は化膿性膝関節炎と誤診されたままだということ。また、私のマネをすることは勧めない。
  12. 抗炎症薬を全身投与する場合、局所投与の何倍もの量を投与する必要がある。すなわち経口NSAIDなどの抗炎症薬はほんのわずかしか消炎効果がなく局所の浮腫を軽減させる効果がない。全身投与で局所の浮腫を改善させたいの出れば最低でも2倍量の座薬などが必要になる。よって消炎効果を求めるのならNSAIDは不適格である。
  13. DDS(Drug delivery system)において、局所の浮腫改善のための薬剤としてステロイド懸濁液(ケナコルト、デポメドロールなど)ほど優秀なものはない。これらの薬剤は局所に留まり、全身のステロイド血中濃度を高めない。その上2~3週間の持続抗炎症効果を発揮する。しかし、残念なことにこの薬の用法用量を考察しない医師たちのせいで多くの薬害を発生させ(局所に萎縮を残す)、今はこれを用いる医師は破門扱いとなりかねない。副作用が出ず、効果が発揮できるためには用法用量の研究が必要でありそれをしない医師は使うべきではないと私も思う。が、それを差し引いたところでステロイド懸濁液は治療薬として優秀である。真実を見よ!

炎症を放置(無視)していると

痛みや腫れ、熱感、違和感はよほど強いものでない限り我慢が出来ます。経口薬のNSAIDは炎症を抑える効果はほとんどありませんが痛みを緩和します。したがって腫れや熱感はひかなくても、NSAIDを服薬していれば日常を送ることができます。 我々医師はNSAIDやその他の鎮痛薬が局所の炎症を鎮めるために役立っていないことを真摯に認め、NSAIDの処方は治療ではないことを認めなければなりません。
局所の炎症は局所の循環不全を生じさせるだけでなく、組織損傷の閾値を下げてしまいます。よって組織損傷スピードは相対的に上昇します。 炎症局所では壊死組織の除去、細胞の新生が起こり回復作業も当然行われていますが、局所循環不全はこの修復スピードを低下させます。 炎症箇所が治癒していかないのは損傷スピードと回復スピードがつりあった状態であることを意味します。こうした概念を持つことにより、炎症箇所を治癒させるためには何をしたらよいかが明確にわかってきます。
経口薬は治療にはならないこと、NSAIDは痛みを無視させてしまい逆に炎症を悪化させてしまうこと、循環不全の改善のため物療をすることは多少はよいこと、などが明確化してきます。 私はこうした治療のメカニズムを常に明確化しながら診療を行ってきましたから、炎症を改善さるために何をすべきかを知っています。それは局所に注射をすることです。DDSと血行改善を考慮すればステロイド懸濁液と局麻薬の注射以上に効果があるものはなく、しかも全身に対する副作用も低いわけで、メリットからデメリットを差し引くとこれに勝る治療法はありません。
また、生体内に炎症が一度でも起これば、そこにはたとえわずかでも不可逆変化が必発であると考えるべきです。つまり取り除くことのできない炎症の燃えカスが残るということです。活性酸素もその一つと考えられています。生体は損傷→修復の過程で必ず取り除ききれない燃えカスを残すと考えます。そして燃えカスだらけになった状態が老化です。 燃えカスは組織損傷の程度に比例して蓄積するでしょう。さらに循環不全の範囲に比例して蓄積するでしょう。そして罹患期間にも比例するでしょう。 炎症はこれらすべてに対し燃えカスの蓄積量を増加させる方へ向かわせるため、できるだけ早期に炎症を取り除く方が抗老化によいのです。長引かせると局所の老化速度が進むということです。 現在、組織の老化を防ぐためにできるだけ早期に炎症を取り除こうとする考え方は残念ながら現医学にありません。よって捻挫や挫傷、骨折などで生じた炎症部位を局所の注射で早期に消退させる治療を行っている医師は私以外にはおそらくいないでしょう(冷やしたり、湿布したり…くらいでは炎症は消えません)。外傷に注射はタブーという非理論的オカルト通念が医師の常識となっていることを残念に思います。

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