積極的治療は困り度がリスクよりも高い時に行う

積極的治療は困り度がリスクよりも高い時に行う

これまで器質的異常がないからといって放置されていた症状に積極的治療を施していくのが日常損傷学です。しかし、積極的治療を行うに当たって次のことは必須条件となります。それは「患者の困り度が治療リスクの度合い」を上回ることです。 私はこむら返りや過活動性膀胱を硬膜外ブロックで根治させる治療法を確立しましたが、一般の医師たちに私と同じことを行えるかどうかは難しいところです。それは硬膜外ブロックにリスクがあるからです。
医学書的にはこむら返りや過活動性膀胱に硬膜外ブロックが著効することは知られていません。が、実際は著効します。さて、著効することを知っていたとして、あなたは次のどのような症状の患者に硬膜外ブロックを実施できますか?考えてみてください。
  1. 月に一度、夜中に右足がつって目が覚めるという程度の症状
  2. 一週間に一度、夜中に右足がつって目が覚めるという程度の症状
  3.  一週間に数回、夜中に右足がつって目が覚めるという程度の症状
  4.  ほぼ毎日、夜中に右足がつって目が覚めるという程度の症状
  5.  一日に数回右足がつって困るという症状
答えはありません。医師側の立場で治療の線引きをしてはいけません。1の患者は舞台のダンサーだったとして、公演中に足がつったら大変なので、月に1度でも足がつることは非常に困った悩みだというような場合があるからです。 よって患者の困った度を患者視点で考え、それが治療リスクを上回るのならブロックをするべきです。
さて、ここで考えなければならないのは、硬膜外ブロックをするにあたって、そのリスクを医師の技術力でどれだけ低下させることができるかという問題です。
私は腰部硬膜外ブロックを年間2000~3000件、仙骨部硬膜外ブロックを年間1000~2000件、頸・胸部硬膜外ブロックを200件前後行っており、ブロック後の合併症は些細なものを含めてもほぼゼロ。ブロックリスクは他の医師たちと比べれば圧倒的に低いでしょう。硬膜穿破して脊髄麻酔になってしまうミスも私の場合は1万回に1度くらいしかありません。 よって、そのような実績、ミスを起こさない技術があれば、少しでも症状に困っているのであれば上記の1~5のどの患者にも積極的に治療をすることができます。リスクを極めて小さくできるからです。
私はまた、注射を痛くさせない技術、血管や神経を傷つけない技術、感染を起こさない技術などを磨いてきましたので患者にとっては硬膜外ブロックがハードルの低い手技となっています。 しかしながら、そうした技術を持たない一般の医師にとっては1~5のどの患者にもブロックをすることができないと思います。 日常損傷学は患者視点で積極的に治療をするとはいえ、その実行には相当な技術力(リスクをゼロ近くにする技術)が要求されます。なぜならば日常生活の困難は命に係わる症状ではないからです。
おそらく、日常病は腕を磨かない限り、ほとんどの医師に積極的な治療の手を出すことのできない領域です。しかし、少しずつその領域に足を踏み入れ、治療を積み重ねて行けば、技術が身に付きます。 とにかく件数(修行)を積み重ね、ブロックが極めて困難な変形脊椎の患者に積極的に治療していくことで、腕が上がり自信がつき、手技のリスクを低くさせていけます。そして日常病である不眠や自律神経失調症の患者にもブロックが行えるようになるとこれらを根治させることのできる未知なる世界へ飛び込めるようにんります。

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