ブロック無効慢性腰痛(BICB)

はじめに

ここでは世界初の概念であるブロック無効慢性腰痛(Block Invalid Chronic Back Pain、以下BICBと呼ぶ)について述べる。私は難治性の痛みを神経ブロックなどありとあらゆる手法で改善させることに努めてきた。しかし、最近、ブロック注射が全く効かない慢性の激しい腰痛患者を立て続けに診療した。彼らは私を訪れる前に、すでにあらゆる「痛みを改善できる著名なペイン科の医師たち」の元を訪れ、そして全く痛みが軽快することがなく、「痛みの原因は精神にあり(脳の誤作動)」という診断がつけられ、根本的な治療を放棄されていた。私は神経根ブロックや硬膜外ブロックをいくつも重ねてブロックするという特殊な技術を持っており、腰痛を治せることでは少々天狗になっていた。ところが彼らに硬膜外ブロックや神経根ブロックを一度に何か所も重ねて行っても「全く痛みが軽快しない」状態だった。自分の小ささを知ると共に、ブロックが効かない本当の原因はどこにあるのか?を初めて真剣に考えるようになった。
というのも、これまでの自分の診療を振り返ると、BICBに該当する慢性腰痛の患者は確かに存在していた。慢性の経過なので痛みの強さはまちまちであったが、ブロックを行っても痛みが軽快しない患者は全体の2~5%の割合で存在していたと思う。これらのBICB患者には主に生活指導を行うにとどめ、ブロック注射を中止し経過観察としていた。まさに現医学でお手上げ状態のBICBである。BICBを治療することができるのか?その原因はどこにあるのか?について研究することを開始する(これまでは脳の誤作動とされていた)。

ブロック無効とはどういう状態か?

私がこれまでブロックを行ってきた経験上、急性腰痛でブロックが全く無効という症例は存在しなかった。しかし、慢性の腰痛、または慢性腰痛の急性増悪ではブロックが無効である症例が存在した。よって、慢性の腰痛と急性の腰痛では、「そもそも病態生理が全く異なる」と考えるべきという結論に達した。痛み症状は同じでも、病気自体が全く別物であるという意味である。
基本的に、どんな種類の腰痛(椎間板性、関節性、靭帯性、筋性、末梢神経性)であったとしても、痛み信号は一般的にその領域の神経根→後根→脊髄後角→脊髄視床路→視床→脳という経路で伝わる。神経ブロックはこのうち、神経根→後根の痛覚信号を遮断する。ブロックが無効ということは、この経路以外の非常時の痛覚回路があることを示唆する。しかし、現医学では「非常時痛覚回路がある」と考えるのではなく視床→脳のレベルで痛みが増幅されていると決めつけてしまい、精神異常の一部として扱うことが慢性疼痛ガイドラインに示されていて、これには強烈な違和感を覚える。
私はブロック無効=非常時痛覚回路が原因、と考えるが、世界では、ブロック無効=精神疾患、として扱うことが正しいと決めつけている。よってBICBの原因を非常時痛覚回路であると仮説を立て、器質的な原因を究明・治療しようとすることはこれまでにない試みである。

非常時痛覚回路

非常時とは何か? それは上に挙げた痛覚伝達回路自体が損傷(機能不全)を起こすことを意味する。伝達回路が損傷すると痛覚が脳に伝わらなくなる。シンプルに考えると痛みが軽くなるはずである。しかし、神経にとっては警報機が作動しないようなものであり重症である。よって通常とは異なる経路を新たに構築し、神経の破損を脳に知らせようとする。これが非常時の痛覚回路と定義する。
非常時痛覚回路は近年になってその一部が明らかとなってきた。例えば交感神経の遠心性ニューロンが後根神経節に伸びてシナプスを作る、例えば後根糸の触覚を担当する神経が伸びて痛覚伝導路とシナプスを作る、例えば脊髄後角に侵害受容器が現れて疼痛を抑制するはずの回路が切り替わって疼痛増強回路になる…など、トリッキーな回路が慢性疼痛時に出現する。トリッキーな痛覚回路はその全貌の一部しか仕組みが解明されていない。よってほとんどが謎のままである。
ここでいいたいことは謎だからわかりません、さようなら、ではない。謎が多いことを真摯に受け止めて研究し、謎のまま放置してはいけないということ。また、謎なのだからトリッキーな痛みを「精神異常」と診断することは軽率に行わないこと。

非常時痛覚回路の場所

非常時痛覚回路が構築される場所は神経根よりも中枢であると推定される。神経根ブロックが無効であることがその根拠になっている。つまり脊髄後角よりも中枢、つまり脊髄後角→脊髄視床路→視床→脳のどこかである。BICBでは一旦、脳が原因であることを除外して考えるので脊髄後角→脊髄視床路→視床のいずれかに構築されていると推定する。しかしながら、もし視床に非常時痛覚回路ができれば、痛みは下肢や腰などという小さな範囲にはとどまらないし、様々な脳神経症状も伴うはずである。よってBICBでは回路が構築される場所として視床を除外する。すると非常時痛覚回路が構築される場所は消去法で行くと脊髄後角にほぼ限定される。

非常時痛覚回路の原因

非常時痛覚回路は通常の痛覚回路が損傷(炎症)することをきっかけとして構築されると推測する。つまり、神経根→脊髄後角→脊髄視床路→視床のどこかに必ず器質的な炎症が存在していることが前提である。ニューロンが損傷して炎症が起こると炎症メディエーターが中枢にも末梢にも輸送される。そのメディエーターがきっかけとなり非常時痛覚回路が構築される。例えば神経根が損傷すれば、メディエーターは脊髄後角に移動して非常時痛覚回路構築を命令し、一方末梢にも移動して下肢の皮膚や関節に炎症を起こす。
例えば脊髄視床路が損傷すれば、メディエーターは視床と脊髄後角の両方に非常時痛覚回路構築の命令をする。構築された新たな痛覚回路は損傷しているニューロンを介することなく、バイパスを作って脳へと痛覚信号を伝達する。視床などの中枢で構築された非常時痛覚回路がどのような多彩な症状を引き起こすか?は現医学の知識を持ってしても推測すらできない。
いずれの場合も程度の差はあれニューロンに損傷(炎症)が起こっていることは必須である。炎症が引き金となって非常時痛覚回路が構築されると考える。この非常時痛覚回路を「中枢が感作している状態」という呼ぶ学者が多いようであるが、彼らは「中枢感作は炎症ではない」と断言しており、彼らのそうした考え方に違和感を覚えるため、中枢感作という言葉を用いたくないというのが私の心情である。

ニューロンが炎症する原因

  1. 物理的な損傷:圧挫、引きちぎり、摩擦などの外力がニューロンを傷つける
  2. 免疫異常:何かをきっかけに自己免疫が活性化し、炎症を起こしたニューロンに自己免疫が必要以上に攻撃を仕掛けてしまう。
  3. 脊髄内の微小梗塞:脊髄内の微小血管が塞栓によりニューロンが阻血状態となり炎症を起こす。
  4. ウイルス:ニューロンに潜伏していたヘルペスウイルスなどが再燃する
これらは残念ながらMRIの画像所見には現れない。よって現医学では画像所見なしとなる。ミクロの同定ができるほど科学技術は進歩していない。
上記の1,2,3は程度の差はあっても、重複する。きっかけが1,2,3のどれであるかは関係なく、炎症性に浮腫を起こせば血行不良が必ず合併し、物理的なストレスにもさらされやすくなる。炎症が慢性化すればマクロファージの活動閾値が低下し、自己抗体が攻撃性を増し、炎症が遷延しやすくなると思われる。さらに膠原病体質の人は症状が増悪しやすいだろう。最悪な場合はヘルペスウイルスが局所的に活動し炎症が激化する。
非常時痛覚回路による症状
  1. アロディニア:通常では痛みと認識しない(例えば軽く触れる)感覚を痛みと感じる。また、注射した部分を強く痛がり続けるのもアロディニアの一つと考える。
  2. 広範囲の痛み:皮節で言えば数本の神経根の支配領域にまたがる箇所に痛みを訴える。
  3. 感情の起伏に伴う痛みの増減:怒り時、ネガティブな思考時に痛みが増強する。交感神経との連動が関与していると思われる。
  4. 天候による痛みの増強:湿度、温度、気圧の変化など、普段は意識していない知覚信号が痛覚信号へと変換され流れていくと思われる。
  5. 非特異的痛み:針を刺すような、焼けるような、ジリジリした、バッドで殴られるような…多彩な痛みが出現するのは、様々な知覚が修飾されて痛覚回路へと流れ込むから。
  6. 頭部・上肢痛と腰下肢痛が交互に出る:脊髄視床路の損傷により、非常時回路が視床と脊髄後角の両方に構築されている可能性を考える。
これらの症状はしばしば「精神異常(脳の誤作動)」と誤解される。近年になりやっと、一部の医師たちにこれらの症状が脳の誤作動から来るものではないと認識されるようになったが、全ての医師がそう認識しているわけではない。

脊髄後角炎の守備範囲を考える

守備範囲というのは電気信号を拾う範囲。例えば右のL5の後根神経節が炎症を起こすと、右臀部~右大腿外側(裏側)~下腿外側(前面)~足背の知覚信号を痛覚に変換してしまえる。また、交感神経節への入力信号も痛覚に変換する。よって守備範囲は上記の右臀部~足背と交感神経である。しかしながら、交感神経の守備範囲は現医学で解明されていない。よって右L5の後根神経節炎で生じる痛みの範囲でさえ、現医学の知識が及んでいない。
よって、さらにその中枢である脊髄後角炎で、痛みを「どの範囲まで感じ得るか?」については全く不明である。守備範囲は後根神経節炎よりも当然広範囲になることだけは確かであろう。ここでイイタイコトは、守備範囲が不明であり、解明されていないことを真摯に受取れば、「教科書にない痛みは精神が異常である」というように決めつけてはいけないということである。脊髄後角炎が起これば、教科書にない様々な痛み方が出現して当然であり、それらを現医学で解明できないからといって、理解できない痛みを訴える患者を変人扱いするという考え方を反省すべきという意味である。そういう大前提の元に脊髄後角炎が生じた時にどの程度広範囲に痛みを感じるかについて想像してみよう。

脊髄後角炎時の求心信号の利用範囲

脊髄後角炎が生じると、炎症の中心から半径約10mm内に入力される求心性信号を拾って、それを痛覚回路に伝えることができると私は推測している。
例えばL5の神経根糸が脊髄後角へ接続する部分で炎症が起こったとする。すると、脊髄後角は上がL3,L4、下はS1,S2,S3,S4くらいまでの神経根の求心信号を利用して、それを痛覚回路に流し込むことができると推測する(現医学ではエビデンスが得られない)。例えばL3、L4の皮節領域に風邪が当たると痛みを感じる、例えば生理が始まると激痛を感じる、例えば便意と共に腰痛が強くなるなどなど、L3からS4の神経根からの求心信号を痛覚回路に流し込めることができると推測する。そうなると痛みの範囲は下腹部、腰から肛門付近、下肢の全て…となり、これらのどこにでも痛みを発現させることができる。
また、水平方向(横方向)10mm離れた箇所の入力信号も利用できると仮定すると、右の脊髄後角炎が起これば、左からの入力信号も利用できると思われ、右が悪くても左が痛いというトリックも可能かもしれない。おそらく炎症の規模が大きいほど多くのエリアからの入力信号を拾うようになる。拾ってそれらの信号を痛覚回路に流し込むのではないかと考える。

脊髄後角炎の炎症範囲は視床にまでおよぶ

さて、ニューロンは軸索輸送により炎症メディエーターを輸送できることは既に現医学で証明されている。脊髄後角炎がもしも脊髄視床路のニューロンに及んだ場合、炎症メディエーターが視床まで運ばれてしまう。視床に運ばれた炎症メディエーターは視床に非常時痛覚回路が構築されるカギになっている。ここで非常時痛覚回路がどう作動するか?は現医学でさらに不明。脊髄よりもさらに中枢であるため現医学水準では想像することさえ不可能に近い。だが、以下に想像してみる。

視床での非常時痛覚回路発現による症状

視床で非常時痛覚回路が出来あがってしまうと大変なことになるだろう。視床にはあらゆる知覚信号が集まるので嗅覚、視覚、聴覚、味覚などが痛覚に変換される可能性があるからである。音や光が痛みに変換されてしまう。実際にそのような人は少なからず存在していることに気づくだろう。大声で頭痛、キラキラ光る画面を見て顔面が痛くなるなど、そういう症状に悩む人は意外と多い。また、感情とも連動するので怒りで三叉神経痛が出るのも非常時痛覚回路が関与していると予測する。また、わずかな知覚情報が全てにおいて増幅し誇張される可能性があり、薬の副作用なども誇張されて出現しやすいと思われる。例えば多少のめまいが出るとされる薬を服薬すると、ふらついて歩行困難になる。注射液の内容に限らず針を刺した刺激で目が回るといった具合である。よって視床での非常時痛覚回路が発現している患者では、少量の薬剤でも大きな副作用が現れる可能性があり極めて注意を要するだろう。
さて、もう一つ予測する。ブロックの無効な腰痛持ちの患者が、これらの症状を併発していたら、医者にどういう病名で診断されるかを想像する。「精神異常」、ほぼ間違いない! 医学で解明できないものを精神異常と診断する癖を、一体いつになったら止めることができるのだろう? まあ、永遠に無理だとは思う。時代がどれほど進んで、医学がどれほど進んでも、その時代で解明できないものは「精神異常」と扱われてしまうことは、未来永劫不変であると思われる。

脊髄後角炎のメカニズム考察

ここでは脊髄後角炎が存在すると仮定し、そのメカニズムを考える。馬尾神経のうちもっとも引き伸ばし損傷を受ける機会が多いのはS1とL5、次にその前後である。その理由は前屈時に椎間板部の距離が伸びるからである。経由する椎間板の数が最も多いS1とL5が物理的に最も引き伸ばされやすい。ここでは仮に右のL5が前屈時に引き伸ばされるとしてシミュレーションする。もともと脊髄・脊椎不適合があり、右のL5は張力がやや高いことを想定する。
 
  1. 緊張が高いとL5の後根神経節は椎間孔で圧迫と摩擦を受けて炎症を起こす(ヘルニアなどの存在は不要)。
  2. この際に神経根ブロックなどの適切な処置をせず、鎮痛薬などで放置しておくと、後根神経節部で癒着が発生する。L5の硬膜袖は椎間孔でHoffmann靭帯により固定されているが、固定部はHoffmann靭帯の長さ分の自由度がある。しかし、後根神経節部の硬膜袖が椎間孔と癒着してしまうと、自由度は消失し、がっちり固定されてしまう。
  3. L5の硬膜袖が椎間孔に固定されてしまうと前屈時に常にL5の硬膜袖が巨大な力で引っ張られることになる(硬膜は伸びないことと、腰椎にかかる重力が椎間板を支点としたてこの原理が働くことで想像以上の巨大な力がかかる)。しかし、硬膜袖はかなりの力に耐えうる。
  4. 何かの拍子(整体を受ける、むち打ち事故に遭う、転倒するなどの時)に腰の前屈が強制されたときに硬膜袖は破損する。癒着部が破損するか、中枢の分岐部で破損するか?いずれで破損したとしてもL5神経根は糸の切れた凧のように自由に上下動が可能になる。
  5. 通常は硬膜袖が神経根の上下動を制限し、根糸が脊髄から引き抜かれることを防いでいるが、その硬膜袖が破損することで神経根が下方に引っ張られた際に、その力がダイレクトに“根糸―脊髄後角”部にかかるようになる。
  6. 根糸は前根糸と後根糸があるが、強い張力がかかるのは後根糸であるため(椎間孔との距離が長い)、まず後根糸の接合部が引き抜き損傷を起こす。損傷部には侵害受容器が無数に発現すると思われこれが激痛の原因となる。そして脊髄後角炎が発症し、非常時痛覚回路が構築される。
  7. 激痛があるにもかかわらず、患者が安静にしていなかった場合、引き抜きは前根にもおよび、運動障害が発生する可能性がある。
  8. 脊髄後角炎が引き金となり、この部でのマクロファージの活動性が高まると脊髄視床路のニューロンにまで炎症が及ぶことがある。マクロファージの活性には自己抗体の過敏性が密接に関与している。よって膠原病体質の人ほど脊髄視床路のニューロンにまで炎症が拡大すると思われる。つまり、脊髄後角炎が脊髄視床路にまで及ぶかどうかは、個人の自己抗体の過敏性による。誰もがなるわけではない。
  9. 脊髄後角での炎症が脊髄視床路にまで及ぶと、脊髄後角で生成された炎症メディエーターが軸索輸送により視床まで運ばれ、視床で炎症を起こす可能性がある。これが視床での非常時痛覚回路を発現させ、様々な脳神経症状、及び音や光に過敏になり様々な症状を起こす引き金になっていると考える。
  10. 硬膜袖が弛緩している場合(神経根の長さよりも硬膜袖が長い場合)、硬膜袖が破損しなくても引き抜き損傷が起こる。側弯症や、脊椎の捻りが早い速度で進行した場合、硬膜袖のたるみが生じる可能性があるかもしれない。


硬膜袖破損の他覚所見

これらの病態は仮説であるが、この病態生理が正しいとすれば次のような所見が現れる可能性が高い。
  1. やわわかいソファーなどでの座位や強前屈時に症状が増悪する傾向がある。SLR testはあてにならない。硬膜袖が椎間孔部で癒着しているので下肢を挙げても坐骨神経が引き伸ばされることはないからである(max挙上すれば腰椎が後弯となるので陽性となる)。
  2. 硬膜袖が破損しているので硬膜外ブロックを行うと、時間差で脊髄内に液体が流れ込み、下肢が完全に麻痺するなど不可解なことが起こる(毎回起こるわけではない。針の刺入部によって様々)。硬膜外腔造影+CTを行えば、硬膜破損を同定できることもある。
 

脊髄視床路の損傷機会

脊髄視床路は解剖学的にたやすく損傷しない。その理由は上端が視床、下端が脊髄後角。その間、どことも接合部がない。脊髄視床路は視床と後角を結んではいるが接合せず宙ぶらりんである。よって引っ張られて損傷することが物理的にほとんどない。さらにくも膜との癒着も起こさない。このニューロンはタフである!
損傷するチャンスは阻血とウイルスと自己抗体、そして物理的には頸部のヘルニアや脊柱管狭窄によって損傷することもあると思われるが、脊髄視床路が圧挫されるほどの狭窄があれば、側索も当然ダメージを受けるので、運動障害が必須だろう。以下に、タフなはずの脊髄視床路が損傷を受けるメカニズムを考える。

脊髄視床路損傷のメカニズム

脊髄視床路は前索と前側索にある。この場所が特異的にヘルニアで圧迫を受けるとすると、硬膜の緊張がほぼ必須条件である。ヘルニアだけなら脊髄は後方によける。よけるスペースがない場合は狭窄症となり、脊髄全体が圧迫を受け、前索と前側索だけが圧迫を受けるのではなく、側索も同時に圧迫されて運動障害が出る。しかしながら、硬膜が緊張している場合、後方の硬膜は最短距離を通ろうとして脊髄を前方にシフトさせる。よって前索を中心とした圧迫が完成する。側索はあまり圧迫されない。前索を中心とした圧迫は脊髄視床路の血行障害を生じさせ得ると考える。また、ヘルニアが存在しなくとも硬膜が緊張していれば後方の硬膜が脊髄を前方へ押し、脊髄を楕円形にする。こうした状態は胸椎でもっとも起こりやすい。脊髄が楕円形になるくらいに圧迫されると、脊髄視床路が血行障害を起こすのではないかと推測する。
血行障害を起こした脊髄視床路はその場で炎症メディエーターが生成され、それが脊髄後角と視床の双方向へ移動し、脊髄後角炎と視床炎を発症させるメカニズムを想像する。実際に脊髄視床路が血行障害を起こしている確証はないが、このような病態もあり得ないことではないと考える。

BICBの治療

ブロック無効ではあるが全く無効ではないことを確認している。それは、ブロック後は多少でも下肢が軽くなったり、冷えが緩和されたり、腰痛がわずかに軽快したり…と、無反応ではないからである。しかしながら翌日には元に戻っており、治療効果は持続しない。その理由は、「痛みの原因が神経根にあるわけではない」からと思われる(それを精神異常としてはいけない)。
例えば、BICBの原因の一部を脊髄後角炎であると仮定する。しかし、仮定したとして、脊髄後角の炎症消退・血行改善・組織の修復を叶えるために、現医療で何ができるのか?を考える。
  1. 姿勢・安静:良好な姿勢と重力からの解放を指導する。寝具から日常生活から仕事に至るまで指導していかなければならない。
  2. 脊髄後角部の血行改善:たとえ数時間でも脊髄後角の血行を改善させるために、胸・腰椎移行部への硬膜外ブロック、くも膜下ブロックなどを検討し、これを定期的に長期間継続する。
  3. ステロイドやTNFα阻害薬の使用:脊髄後角の炎症を鎮めるにはこれらの薬剤の使用を検討する場合もある。
  BICBのベースには先天的なもの、脊椎内での癒着などが存在していると思われ、かなり根深いと思われる。このような根深い疾患を治療するには根気よく定期的に繰り返し治療を行う必要がある。あせって手術などを行えばMOB(Multiple operated back)になりかねない。また、視床レベルでの症状がある患者では治療の度に意識低下が起こるなどの誇張された症状が出現しやすく、極めて慎重に治療する必要がある。これほど前途多難な難病はないと言える。だからこそ、治療に挑戦している。  

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