レミケードで種々の副作用が出現した例

はじめに

慢性関節リウマチ(以下RA)を関節破壊が進む前に生物学的製剤を用いて治療しようという機運が世界的に高まっている。しかし、それにかかるコストと副作用はどちらも甚大である。RA治療の原点に立ち返り、破壊が進行している関節、滑膜全てに少量のステロイドを注射していくという地道な治療で症状の進行を抑制し、これまで以上に痛みを取り除き、日常生活のレベルアップをはかることに私は成功している。非常に手間がかかり地道な治療法ではあるが、しらみつぶしに注射を行う療法を行うことで患者は全ての抗リウマチ薬から離脱できた。たいへん手間はかかるが治療の原点に返り、副作用の強い抗リウマチ薬や生物学的製剤をなるべく使わずにRAを治療する方法があることを頭の片隅においていただきたい。

 レミケードの危険性

抗TNFα抗体製剤が近年RA治療に使用されるようになった(製品名:レミケードなど)。この薬剤はサイトカインの一種であるTNFを抑制するが、抑制しすぎることで様々な悪影響を人体に及ぼす。各国の製薬会社はこの副作用を過小評価し医師にプロモーションしている。彼らは安全性を訴え、どんな医師にでも簡単に使えるような印象を与えようとしている。それを信じた医師たちは次々とその生物学的製剤を使用し、その治療効果の高さに魅入られた。しかし、少なからず使用した患者に甚大な副作用が表れはじめている。
ふとRA治療の原点に返り、効果は高いが副作用もコストも甚大。そういう薬剤の使用に躊躇すべき医師としての良心を少しだけ芽生えさせてもよいのではないだろうか。自分がもしRAになったとして、この抗TNFα抗体製剤を自分自身に使用したいと考えるだろうか?今回はそういった問題点を考える一助としての症例報告をする。

症例

87歳 女性 両膝痛で22年前に当院を初診。精査の結果RAと診断される。当時、痛みは両膝関節にしかなく、NSAIDと物療だけで様子を見ていた。3年半前より右手指関節の腫れと痛み、左手関節背面の滑膜の肥厚などが出現したためDMARDs、PSLを開始。症状の増悪はなかったが寛解を得るために2年前(H21.7)より抗TNFαを開始した。2年半前から現在に至るまでの治療経過を報告する。
  • DMARDs=メソトレキセート(MTX)8mg、サラゾスルファピジン(SSZ)500mg
  • PLD=プレドニン 抗TNFα=レミケード NSAID=セレコックス400mg

レミケード(抗TNFα抗体)とLabo Data年表

  08/11/13 08/12/12 09/7/10 09/7/24 09/8/7 09/9/25 09/10/30 10/1/29 10/12/4 11/5/24
CRP 4.24 3.63 1.99 0.16 0.15 0.64 0.16 6.15 1.16 1.04
RF 556 548   521 334 240 344     411
RAPA 5120       5120 1280 5120     1280
MMP3     167.3 154.3 129.4 78.1 33.1 90.1   155.1
KL6     669   577 550 551 500    
抗CCP                 84.3 55.4
抗TNF     200mg   09/8/28 200mg 09/10/16 200mg 09/11/27 300mg 10/1/29 10/3/12 10/4/23 300mg      
  • RF:>40 関節リウマチの70~80%で陽性
  • RAPA:>40 関節リウマチの70~80%で陽性
  • MMP3:13.0~29.0 滑膜増殖を反映、関節破壊の予後を反映
  • KL-6:<500 間質性肺炎の活動期、肺・乳・膵・肺結核のマーカー
  • 抗CCP抗体:<4.5 関節リウマチの90%で陽性

 結果

リウマチの活動性をCRPとMMP3で観察すると、
  • CRPはレミケード200mg開始時1.99だったのが0.15まで低下。低値を維持していたが10/1/29のみ6.15と高値となった。リウマチ以外に原因があったのかもしれない。
  • MMP3も右肩下がりで低下の一途をたどり最低値33.1となった。
  • レミケードのリウマチ病変の進行を非常によく抑制していることがわかる。
  • 10/4/23でレミケードの使用を中止。そして中止後約1年ではCRP=1.04 MMP-3=155.1と上昇した。
 
 

経口薬使用状況

  • 08/11/13よりSSZ500mg/週 PLD10mg/日 セレコックス400mg/日開始、さらに
  • 09/6/26よりMTX8mg/週を追加
  • 09/7/10レミケードを使用してから症状が緩和されたので
  • 09/9/4にPLD5mg、09/9/25にPLD1mg 09/1016でPLD中止となる
  • しかし09/12/11、症状の増悪を認めPLD5mgを再開した。

 

レミケードによる副作用年表

  08/ 9/17 8/28 9/25 10/16 11/27 09/ 1/29 3/12 4/23 5/3 7/17 9/10 12/4
レミケード 200 200   200 300 300 300 300        
両手 肌荒れ     + + + + + + + + +
顔頭部湿疹     + + + + + + + + +
不正性器出血           + + + + +    
乳癌                   発見 手術  
 
  • レミケード使用開始後1か月より両手の肌荒れと顔面、頭皮の湿疹出現。これはレミケード使用を中止した後も半年続き、その後消失。
  • レミケード使用4か月後(トータルで1200mg使用)不正性器出血が出現。これは1/30、3/13、4/26、5/3、7/17と計5回出現。そのうち最初の3回はレミケード点滴後3日以内に起こっている。
  • 乳腺悪性腫瘍が09/7/17に発見され9/10に定乳切手術を行っている。

 レミケード中止後の動向

  • この症例の症状は右手指関節の腫れと痛み、左手関節背面の滑膜の肥厚、両膝痛、腰痛、両下肢坐骨神経痛である。私がこの患者を受け持つようになったのは11/1/7からである。この日より、
  • 右手第4、第5MP関節内注射 1%キシロカイン0.5cc+ケナコルト5mg
  • 左手関節背面に腱鞘内注射 1%キシロカイン0.5cc+ケナコルト5mg
  • 腰部硬膜外ブロック 0.5%キシロカイン6cc+ケナコルト10mg
  • 両膝関節内注射 アルツ+1%キシロカイン2ccを1か月に2回程度行うようになり、症状は以前よりも軽快している(レミケード使用時よりも痛みが軽減している)。
  • 11/5/17よりPLD5mgを中止、MTX8mgを中止
  • 11/5/24 よりSSZ500mgを中止しているが症状の増悪は一切認められていない。
  • 11/5/24の時点で抗CCP抗体は55.4と高くない。MMP3も155.1と若干高い程度。CRP=1.04と落ち着いている。
  • 今後は採血と臨床症状によりDMARDsの再開などを検討してゆく。もちろん症状(データ)が悪化するものにまで関節内注射のみという治療で行くことは考えていない。
 

考察

1)レミケードの副作用について

生物学的製剤は免疫抑制効果が強力であるが故に感染症(特に肺結核)では禁忌とされる。また、悪性腫瘍に対しても悪化させる可能性が高い。間質性肺炎の出現も問題であり、その他数え切れないほどのマイナー副作用がある。今回の症例ではレミケード使用後、左の乳房にしこりが出現。乳癌と診断されて手術を行っている。レミケードとの直接の因果関係は証明されないが、レミケードがきっかけになった可能性は否定できない。悪い言い方をするとレミケードは発がん物質と言ってもいいかもしれない。
皮膚の湿疹はもとより、子宮内膜にも重大な影響を与え、レミケード使用と明らかに連動して不正性器出血をきたした。この副作用を正直どう評価してよいかわからない。また、私の勤めている他の病院でも間質性肺炎の出現で使用中止となった症例を目の当たりにしている。どうもレミケードを患者に勧める気になれない。

2)しらみつぶしの注射療法(限局的ステロイド注入法)

この症例では担当医が私に代わってから、患者が訴える多関節の痛みを、関節内注射で徹底的に消炎鎮痛を行うという方法をとっている。患者の痛みの訴えはレミケード使用時よりもはるかに楽だとにこやかに答える。
私は今回の症例だけでなく、多関節にしらみつぶしで注射をすることにより、症状を寛解させ、すべてのDMARDsとPLDを中止するという治療法を過去も行ってきた。手間はかかるが関節破壊は進行せず、不思議なことに各種抗体、炎症所見も上昇をみない。「おまえさんの診た患者は皆軽症なんだよ」と言われればそれまでかもしれないが、そう、私がこれまで診たRAの患者では全員がDMARDsを離脱しながらも寛解している。
全身に免疫抑制剤をばらまくより、限局的にステロイド(ケナコルト)でワンショット治療をしたほうがどれほどからだによいことか。私が経験したRAの症例はほとんど全て、徹底的な関節内注射を1か月に1回ないし2回ですむ状態に軽快する(寛解導入までは毎週注射)。今後もRA患者を追跡調査し、このような地道な治療法が奏功するか?調べて行きたい。
だが、現時点で、痛みを訴える場所全てにステロイドの局所注射をすることは非常に有効であるという結果である。全ての指関節に注射をすることはかなり骨が折れるが、試す価値はあるだろう。そして注意深く観察し採血データと照らし合わせ、症状が進行するようならDMARDを再開すればよいと考えている。
もしも、自分自身が、またはあなたの母親が、RAになったとしたら、DMARDをばんばん使う医者と、私のようにDMARDを一切使わず、しらみつぶしに注射する医者のどちらを選びますか? まあ、私の方を選びたくても、私のように指関節や股関節にまで注射をしてくれる医師はめったにいないが。

3)診断未確定関節炎への治療

RAの診断基準を満たさず、RF RAPA、抗CCP抗体のどれも陰性で、しかし滑膜炎や関節腫脹は確かに存在し、MMP3だけが陽性である症例を私は何度も見ている。そのような症例の膝関節腫脹はしばしば化膿性膝関節炎と誤診されることも示した(「化膿性膝関節炎と誤診された自己免疫性膝関節炎の3症例」参照)。
MMP3が上昇している症例の主張した関節にステロイドを注射すれば、劇的に治癒した。これらのことから、MMP3陽性の診断未確定関節炎はいずれかの膠原病関連疾患の初期であろうと推測する。診断基準が満たされる前に寛解に導いてしまえば、どんな検査を行ってもその網にひっかかることもないだろう。
こういう関節炎に出会ったとき(出会う確率は低くない)、どう診断し、どう治療するか?に医者の真価が問われる。抗DNA抗体や抗核抗体などを調べても陰性。しかし膠原病関連の関節炎を疑わせるこうした関節腫脹にいきなりDMARDを使えまい。患者が承知しないだろう。しかし、ステロイドなら使える。だが恐らく、普通は無難なNSAIDを処方しておしまいであろう。そして患者の関節破壊が進むのである。
我々は診断基準を神様のようにあがめるが、RAの診断基準はオリンピックが開催される回数よりも頻繁に改訂される。世界中で診断基準がばらばらでRA専門医が迷走している。その中で常に特異性か感受性か?どちらをとるかで揺れている。これをばかばかしいと思うようでなければRA治療に英断を下せない。
診断基準を満たすころには関節破壊が進んでいるのだ。関節が破壊される前に食い止めるには、診断基準を満たすずっと以前に行動を起こさなければならない。その行動にDMARDも抗TNFα抗体もいらない。注射器1本と少量のステロイドがあればいい。MMP3は特異性は低いが感受性が高い。そうやって多くの関節腫脹患者のMMP3を調べてみるといい。想像以上に多いことがわかるはずだ。
 

この患者のその後

すべての抗リウマチ薬を中止、ステロイド経口薬も中止して2か月後、右中指PIPJと右小指MPJに腫脹出現、右手関節周囲に滑膜炎2か所、左手関節周囲に滑膜炎2か所出現したため局所にステロイド注射を行いプレドニン10mg×5日間を臨時で処方し寛解する。今後も痛みや腫れが出現すればこのような短期集中型の治療を行い対処していく。抗リウマチ薬を使用しなくとも寛解が得られる模様。ただし、これらで寛解が得られないのなら抗リウマチ薬を使用することも視野に入れている。そして総合的に抗リウマチ治療薬を最小限の使用にとどめて行く予定。

まとめ

RA治療にレミケードなどの抗TNFα抗体が今までのどの治療薬よりも効果が高いことは認める。しかし、その効果の高さは免疫システムの破壊を伴う諸刃の剣であり、私はレミケードの使用にはもっと慎重になるべきだと考える。使用ガイドラインが甘すぎるのではなかろうか。さらに、少しでも症状が軽快すれば、減量または中止とすべきであり、減量と中止をガイドラインに盛り込むことを早急にすべきではなかろうか。 悪性新生物の存在下では使用は禁忌であるが、今回のように、治療の途中で悪性新生物が発現する場合もあろう。
原点に返り関節破壊の破壊されている部分だけをピンポイントにステロイド注射で叩いて行く。そういう方法でも寛解を導けるのであるから、手間はかかるが注射で治すという方法もありうると思う(ただしそれをするには医師に強い精神力が必要)。ピンポイントであるからステロイドのトータル使用量はごく少量ですむ。薬を飲まないRA治療もあるということを頭のはしに入れておいても損はない。

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