頸髄MRIの正常値

はじめに

脊椎が屈曲する際に脊柱管走行距離が脊髄全長よりも長くなり、相対的に脊髄が頭側に引っ張られ(正確には頭側尾側両方向に引っ張られ)、脊髄・延髄・脳幹に牽引ストレスをかけてしまい発症させる様々な不定愁訴の症状を脊髄・脊椎不適合症候群と名付けました。
この病態の研究は脊髄のMRIで実際に脊髄に緊張がかかっている所見を観察することで可能ですが、そうした研究を進めるには正常値を設定しなければなりません。
実際には脊髄の断面積(横径、縦径)の正常値を設定する必要があります。しかしながら脊髄は年齢と共に横断面積が変化し、性差もあり、しかも病的な場合は断面積が低下するという流動性があるのでその作業は困難を極めます。
今回私は2007~2011の間に外来に来院した10歳から35歳のMRI画像を無作為に98例抽出し、その画像データを元にC1/2~C7/8の横断面の正常値を作成しました。

計測法

横断面積は脊髄を楕円形類似とみなし、長径(横径)=a、短径(縦径)=b(単位はcm)、とし、abπ/4とする。ここでは簡略化するためにπ/4を削除し、横断面積=abとしました。計測は0.1mmの位まで行っています。断面積の正常値≧平均横断面積-0.5δで求めています(文末に記載)。

全体

頚MRI01

結果考察

脊髄を構成するニューロンの数は尾側に行くほど少なくなります。よって理論的には横断面積はC1/2>C2/3>C3/4>C4/5>C5/6>C6/7>C7/8となりますが、実際はC4/5,C5/6で逆転が起こりこの高位で断面積が増加します。この理由はC4/5,C5/6の高位から外部に出る神経線維(横走線維)の本数が多いからです。神経線維が脊髄から出る際、一旦線維は横走するので線維一本当たりの断面積が縦走の断面積の数十倍になります。よって横走線維が多い箇所での断面積が増えるのです。脊髄断面の横径はC4/5,C5/6でピークとなる理由は、この高さから上肢へ行く神経線維数が多いからです。逆に、C7/8では上肢へ行く神経線維の数が激減するので横径が減り、その結果断面積も激減します。
それに対して縦径はほぼ一次関数的に漸減していく様子がうかがえます。神経線維が横走しても前後径は多少しか変化しないからです。また、横走線維は脊髄の断面積を楕円形にします。断面積が正円とならない理由は横走線維があるからです。よって横走線維が多い椎間では必然的に長径のが長い楕円形になります。さらに、神経根に張力がかかると楕円はさらに横長になります(この理由は「背骨のお話し」に記しています)。

正常値について

この99例から正常値を求めることはできません。性差と年齢差で断面積に変化が出るので、それを混合させている全データの正規分布から正常値を得ても無意味だからです。よって全データから得られる知見としては「断面積は尾側に行くたびに漸減するのではなく、C4/5,C5/6で逆転する」ということのみです。 頚MRI02 ※横径と面積はC4/5,C5/6で一時増加する。

脊髄断面積の性差

脳の重量は男性の方が重く、同様に脊髄の重量も男性の方が多くなります。しかし、これは神経線維の数が「男性の方が多い」からではありません。男性の方が神経線維の強度が強いと思われ、強度を上げるために神経周膜の厚みが男性の方が女性よりもあるからであると推測します。
以下に断面積と横径、縦径の男女差を示します。 頚MRI03 頚MRI04 頚MRI05 頚MRI06

結果考察

断面積、横径、縦径共に男性の方が大きいことがわかります。興味深いことは縦径の男女差ははっきり存在しますが、横径の男女差があまりないことです。この理由は前にも述べたように、横径は横走する線維の数で決まります。線維の太さが男女で変化したとしても、横走する距離は男女共に同じであるから性差が出ないと推測されます。横走距離に太さは影響しないからです。

断面積の性差(椎間別)

頚MRI07

年齢による脊髄横断面積の変化

年齢帯を10-15歳、16-20歳、21-25歳、26-35歳の年齢帯で男女別に比較しました。
注)本来は5歳間隔で分類すべきでしたが、今回のデータに10歳と31歳以上のサンプルが少なかったので両端の年齢帯にまとめました。女性は26-35歳のサンプルが少数のためデータをとれませんでした。
  • ■男性の年齢帯別頚髄断面積
頚MRI08
  • ■女性の年齢帯別頚髄断面積
頚MRI09

結果考察

男女共に年齢帯が上がるごとに断面積が大きくなるという一定した傾向があることがわかります。しかしながら男女共に21-25、26-35と成長期を過ぎてしまっている年齢帯においても断面積が大きくなることは非常に興味深いことです。断面積の拡張が何歳まで起こり得るのかは今回の調査ではサンプルが少ないため不明です。
男性の10-15と16-20は差がありませんが、この理由はサンプルに偏りがあったからと考えています。サンプル数を増やせば年齢昇順の結果が得られるものと考えています。

脊髄横断面積の正常値データ表策定

横断面積は年齢帯と性差で変化します。よって性差と年齢帯にそれぞれ補正値を設定し、年齢・性差補正をかけた値を比較するという方法をとることにします。それぞれ平均値と折れ線グラフよりおよその補正値を設定します。ここでは女性21-25を1とし、各補正値を設定しました(データ数が少ないため正確性・信頼性に欠けます)。
真の正常値の策定には健常者のサンプルを年齢毎に多数のMRIデータ収集が必要であり、これらは国家レベルでの行政の協力が必要です。 頚MRI10
  • ※赤字は不自然な箇所です。断面積が小さいサンプルに偏ったために補正値が大きくなったと思われます。正しい補正値は年齢昇順、かつ他の列(左右隣)の補正値に近いはずです。よって暫定的に青文字のように修正することにします。
  • ※補正をかけることで異なる年齢帯、異なる性でも比較検討することができます。

全体補正後断面積

男性→女性補正、年齢帯補正を行い、全例を女性21-25に統一しました。これにより性差や年齢を考えず、各高位での横断面積を比較することができます。この補正により、精度の高い横断面積の正規分布が得られます。 頚MRI11 ※各年齢帯の値は、これらの数値を補正値で割れば求められます。暫定ではありますが、この値を参考に正常値を求めることが可能です。
本データのサンプルは何らかの頸椎症状を持つ者から収集したため、多くの異常値も含まれている中での正規分布です。また、異常者は健常者よりも横断面積が小さくなるという病態生理があることから、①正常値≧平均横断面積-0.5δ またはさらに厳しく、②正常値≧平均横断面積、とすることをお勧めします。①の暫定正常値を掲載します。
C12S C23S C34S C45S C56S C67S C78S
横断面正常値(女性21-25) ≧1.04 ≧1.00 ≧0.98 ≧1.02 ≧1.02 ≧0.91 ≧0.74
  • ※年齢・性別毎の正常値は上記補正値(グレイの表)で割ることで求められます。
  • ※各数値は脊髄横断面の縦径(cm)×横径(cm)です。
                   

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