神経脆弱状態での神経損傷について

はじめに

神経ブロックをキシロカインなどの局所麻酔薬を用いて行った場合、もっとも頻繁に起こり、かつ問題となるのは神経損傷でしょう。神経損傷の原因の基礎は、実は多岐に渡る(神経の走行異常、血行不良、圧挫、交感神経性、自己免疫性、代謝異常など)のですが、それを思い浮かべることのできる医師はほとんどいないと思われます。私は神経ブロック後に一過性の麻痺が起こり、それが長時間回復しなかった例を経験しました。この麻痺は再現性があったため、本人の体質が原因であると判断しました。麻痺が起こりやすい体質(状態)というものがあるのなら、神経損傷の概念は変わらざるを得ません。なぜ人によって麻痺の時間に差があるのでしょう。


症例 62歳 男性 主訴:両上肢(左>右)のしびれと痛み

数年前から上記主訴に悩んでいたが近くの整形外科では薬の処方と物療のみであった。H27.2.私の外来を初診。左右の第7頚神経に傍神経根ブロックを行った。注射直後から左上肢に麻痺が出現、全く力が入らなくなる。本人には「薬が狙ったところに入った証拠です」と説明し帰宅していただく。しかし、帰宅後も麻痺は回復せず(知覚低下は数時間で戻る)翌朝も同様に麻痺していた。その後徐々に麻痺は回復したが、完全に麻痺が回復するまでに約3週間を要した。


経過

2度目の治療を行う。前回の麻痺を踏まえ、今回は神経をダイレクトに狙うことはせず、神経根から10mm以上距離を置いた箇所に1%キシロカインを1.5cc×2(左右の第7頚神経根近傍)を注射する。ブロックの際、神経を刺した時のような電撃痛はなく、今回はほぼまちがいなく神経をわざと外した。


結果

今回はブロック後両上肢に8時間麻痺が出現した。後遺症はない。この患者は「しびれと痛みは緩和されたが怖いのでもうやりたくない」と述べた。


考察

1%キシロカインは神経根ブロックに用いると、1時間~数時間の麻酔作用を発現します。しかしながら8時間の麻痺はキシロカインの作用以外の要素を考えなければなりません。いったいどのような作用とどのような体質がこういった麻痺時間の延長の原因となるのでしょう? 2度目のブロックは神経を損傷しないように愛護的に行い、注入圧(水圧)もかけないように行いました。よって水圧や手技で麻痺時間の延長が起こったとは考えにくいのです。今回は2度目の麻痺ですので再現性もあり、しかも左右両上肢に同じような麻痺が現れていますから、原因として患者の体質を考慮しなければなりません。


麻痺時間遅延の原因考察

  1. 局所癒着のため麻酔薬が拡散しない
  2. 無血管野が広がっていて麻酔薬が吸収されにくい
  3. 神経虚血のため浸潤した麻酔薬がwash outされにくい
  4. 麻酔薬への耐性が極めて弱い
  5. 神経が圧に対して極めて弱い

 


などが挙げられます。1~4と5は明らかに原理が異なります。1~4はキシロカインによる作用であり、正確にはneurapraxiaではありません。5は注入圧によりneurapraxiaが発症したと考えます。しかし、臨床的にはneurapraxiaとキシロカインの作用が混在していると思われます。


※neurapraxia: 神経伝導に一部障害を認めるが、器質的には全く異常がないか、あるいは髄鞘の一部にごく軽度の異常を認める状態で、軸索には異常がない。神経回復には損傷部からの再生神経の伸長を必要としないため、麻痺筋は解剖学的位置とは関係なくほぼ同時に完全に回復するが、回復に要する時間は髄鞘の損傷の程度により、数分から数週である。


病的nuerapraxiaの存在

今回の麻痺遅延にキシロカインがどのように影響したとしても、注入液圧がどのように神経を圧迫してしまったとしても、神経がそのストレスに対してneurapraxiaを起こした状況は病的です。神経がストレスに対してかなり脆弱な状態であるといえるでしょう。このような「神経がストレスに対して病的に弱い状態」が存在することは現医学では認識されていません。神経の脆弱な状態は、些細な刺激であらゆる病気に発展する恐れがあり、しかも脆弱な状態はMRIなどで一切描出されないので臨床現場では不可解なトラブルを起こすことがたやすく想像できます。


神経の脆弱な状態では、ささいなストレスではneurapraxiaが発生し、これは可逆ですが、中等度のストレスでaxonotmesis(軸索断裂)を起こしてしまう可能性も考慮しなければなりません。脆弱な状態では「これくらいのストレスでは損傷しない」と思われるようなストレスで軸索断裂が起こる可能性があります。例えばむち打ち損傷や居眠りでの屈曲姿勢などです。軸索断裂が起こってしまうと、回復までに数か月から1年を要することから、患者も医師も回復不可能と誤解してしまう可能性があります。


また、医師の行う注射、針灸での処置などで局所に出血を起こし、血腫が神経を圧迫してaxonotmesis(軸索断裂)が起これば、医療過誤で後遺症が出現したと誤解されるでしょう。よって神経の脆弱な状態は社会であらゆるトラブルを起こす原因になります。少し背中を押しただけなのに、その後に半身不随が出現したというような事件に発展する可能性を秘めています。これまで、神経の脆弱な状態に言及した論文は世界になく、私が初めて提唱しています。しっかり認識されれば、民事訴訟の判例も変わってくる可能性があります。


神経の脆弱な状態

私は脊髄・脊椎不適合症候群が神経の脆弱な状態であると考えています。脊椎のカーブ(軸)が先天的・および後天的に悪く、ちょっとした動作や姿勢で脊髄が尾側にひっぱられてしまい、延髄や脳幹まで下方に引っ張られ、過度な緊張が発生しやすい状態を言います。神経が緊張している状態=脆弱な状態、と推測しています。神経の緊張は現医学にはない(最近になって言及されはじめてきた)病態生理であり、医師の多くが理解していません。


脳神経の脆弱な状態

私は現在、少し立っているだけで、歩いているだけで、椅子に腰かけているだけで、パソコンをしているだけで…めまい・脱力・呼吸困難・耳鳴りなどが発症する患者を6~7名抱えています。これらは脳神経が脆弱な状態に陥っていると推測します。診断名はつきませんので心因性とされ、精神科受診することが一般的です。脆弱な状態にあると、日常の動作で神経が損傷・炎症を起こし様々な症状を起こします。


神経の脆弱な状態の治療法

脆弱な状態に陥る理由は、必ず血行不良が存在しています。原因が骨の変形・自己免疫・腫瘍・代謝異常であったとしても、最後に血行不良を起こして脆弱な状態へと移行していくと思われます。よって治療法は脆弱な状態に陥っている箇所の血行再開です。交感神経節ブロックが最大の効果を発揮すると思われます。


治療リスク

神経の脆弱な状態を改善させる目的で行ったブロックの薬液注入圧で容易に神経が損傷すると思われます。つまりブロック治療の恩が仇になる可能性が高いでしょう。正義感と良心に満ち、勇気を出してブロックした医師の治療が原因で症状が悪化するわけで、そうなると医師の心は激しく傷つき、上司にも「ブロックをするな!」と警告され、「もう二度とブロックをするまい」と思うでしょう。数週間後に患者の症状が回復したとしても、医師の心のトラウマは消えません。私は、そうした正義感にあふれた医師がブロックを行わなくなることに心を傷めます。今回、神経の脆弱な状態に言及したのは、それが医療過誤ではなく、患者の状態でなっているという場合があることを知っていただきたかったからです。


ただし、被害者にこのような内容を説明しても、理解することはなく、憤ることでしょう。医師と患者、あるいわ被害者と加害者は理解しあえることはなくトラブルを避けられないでしょう。セカンドオピニオンを他の医師に求めると、こうした内容を理解できる医師はいないと思われますので、さらに事態が悪化するでしょう。


まとめ

神経の脆弱な状態では病的neurapraxiaや、最悪の場合病的なaxonotmesisがたやすく発生すると思われます。そのきっかけが医療行為であれば医療過誤とされ、きっかけが第3者行為であれば傷害罪が適応されることがあります。しかし、現実的にはそこに神経が脆弱な状態があり、日常の行為で損傷する可能性を考えなければならない状態があるかもしれません。神経の脆弱な状態はこれまでの医学の概念にはなく、今後も訴訟トラブルメーカーとなることが推定されます。その時に、本症例のような事例があることを思い出していただければ幸いです。

神経脆弱状態での神経損傷について」への3件のフィードバック

  1. 唐突ですが、先生のお考えの下で、現場で学ばせて頂く事は出来るのでしょうか。

  2. コメントは公表しないでいただけませんでしょうか。アドレスで直接できませんか。

    • 私は個人的に診療のやり取りをするためにこのホームページを開設しているわけではありませんので、この手の要望にはお答えできません。たいへん申し訳ございませんが、他の医師とコミュニケーションをとってくださることを希望します。

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