神経ブロック後のリバウンドの病態生理調査

神経ブロック後のリバウンドの病態生理調査

要約

各種神経ブロック後に一時的に疼痛が増してしまういわゆるリバウンド現象はいまだになぜ起こるのかについての原因が全くつかめておらず、我々にとって単に治療後の忌まわしきアクシデントとして扱われている。リバウンドを系統立てて報告された例はほとんどなく、リバウンド現象が医療現場で無視されていること言わざるを得ない。リバウンドが起きた症例を、その後も注意深く観察していくと、その治療前症状と治癒過程において多くの共通点が認められた。それらからリバウンドの病態生理を推測した。するとリバウンドは神経が回復するときの過程としてのアロディニア(異痛症)ではないかと思われた。またリバウンドは痛み単独ではなく、凝り、だるさ、重さ、しびれなどを随伴症状がある者が多く、これらの症状からリバウンドが起こりやすい患者を前もって推測することもある程度可能と思われた。リバウンドが起こしていたさまざまなトラブルを事前に防止できる可能性が高まった。

対象・期間・人数

2010年1月1日~2010年12月31日の期間で当外来で神経ブロック治療を行った264名対象に調査した。ブロック後に、治療前よりも強い痛み、つまりリバウンド(以下Reと記す)を生じた21名(男性3名、女性18名)を追跡調査した。

 対象疾患

頚肩腕症(COB)、頚椎症性神経根症(CSR)、腰椎椎間板ヘルニア(LDH)、腰部脊柱管狭窄症(LSCS)

 治療方法

  • 傍頚椎神経根ブロック(CRB)、ブラインドで頚椎神経根、またはその近傍に注射する方法
  • 傍胸椎神経根ブロック(TRB)、ブラインドで胸椎神経根、またはその近傍に注射する方法
  • 傍腰椎神経根ブロック(LRB)、ブラインドで腰椎神経根、またはその近傍に注射する方法
  • 腰部硬膜外ブロック(EPI)、腰椎より硬膜外ブロック1回注入する方法
  • 以下略語使用
 

症例

Age Sex CC PI
1 37 F 肩凝り、強い頭痛 4か月前むちうち事故後発症。痛みのため不眠が続く。神経症で通院中
2 47 M 強い肩凝り、強い頭痛 2年前むちうち事故後発症。毎週トリガー注していた。歯肉癌あった
3 77 F 肩から背に重い痛み 15年前からあらゆる注射、向精神薬などで治療するも無効
4 80 F 両下肢・殿部だるさ 2年前から歩くと両下肢がだるくなる(間歇性跛行3分)
5 65 F 両殿部痛・重く痛い 昨日発症、LRB(S1)で10日軽快。3度目の注射でRe出現、神経質
6 77 M 激しい全身痛 20年前からペイン科などあらゆる医者にかかるが全く軽快せず
7 72 F 筋拘縮肩、上肢痺れ 10年前から石のように硬い肩凝り、緑内障あり
8 70 F 左殿部痛、重さ 10年前から発症、腰椎Opeしているが痛みはとれない
9 75 F 右殿部・下肢痛 2年前に発症、半年前に腰椎Ope、しかし痛みが再発
10 66 F 左殿部・下肢痛 3w前に発症、注射した部分を痛いという局所的Re
11 64 F 右下肢痛、間歇跛行 8か月前から発症、他医で相手にされず。性格に問題あり?
12 71 F 両脇腹痛, 1年前から発症、通院してもよくならない
13 37 M 腰痛 5年前から腰痛、半年前に追突され振り返り不可に
14 54 F 頚肩痛、両手だるい 頚肩痛は3年前、右手痛、左手だるさ1週前から、Reは左手に出現
15 52 F 右下肢痛・だるさ 1週前から発症、Reはジンジンしたしびれと痛み
16 71 F 両下肢痺れ・痛み 4年前から発症、間歇跛行あり、1年前から主に左に強い痛み
17 84 F 右膝・下腿痛 10日前発症、3分しか立てない、Reは初日は痛み、その後つっぱり
18 83 F 右殿部痛・だるさ 1か月前から発症、間歇跛行2分
19 64 F 左下肢痛、足痺れ 4年前から発症、間歇跛行10分、いろんな病院に行くが治らず
20 46 F 右頚肩、肩甲こり痛み 6日前から発症
21 73 F 腰・右下肢痛・痺れ 1年前から発症、右股THA Opeの既往あり
  ↓上記症例の治療とリバウンド現症とその後の経過
 症例 治療 Reboud出現時期 Rebound継続時間 Rebound後の痛み その後の経過
1 CRB(C6) 12h後 半日 3分の1以下になる CRBを5回繰り返し寛解へ
2 CRB(C7) 6h後 半日 ゼロが1w続く Reを7回経験後多くの痛みが消失
3 CRB(C6) 1日後 1w 激痛改善しないまま 2回目のCRB以降大部分の痛み消失
4 EPI 1日後 だるさ5日 だるさが消失 30分以上歩いても平気になる
5 LRB(S1) 1日後 1w やや重さが残る Reを3度経験後症状消失し終了
6 CRB(C6) 1h後 20分嘔気 痛みが2割減 6回行い2割減の状態へ、終了
7 CRB(C7) 6h後 2日嘔気 痛みと凝り9割減 5回行い痺れ(-)、背中の痛みも消失
8 LRB(L5) 1日後 半日 10日間痛み(-) 3回の注射で痛み(-)
9 EPI 1日後 3日 ほとんど痛みなし 痛み9割減が持続し終了へ
10 LRB(L5) 1日後 2日 痛み(-) 完治し終了、Reの理解得られず
11 LRB(L4) 1日後 1日突張る ほとんど痛みなし Reへの理解得られず、中止
12 TRB(T12 1h後 半日 ほとんど痛みなし 一度で完治し終了
13 EPI 12h後 1日 痛み7割減 大部分痛みが消失し残りは内服治療
14 CRB 1日後 5日 左握力・だるさ回復 3回行い頚痛、右手痛、左握力回復
15 LRB(L5) 2h 1日 ほとんど痛みなし 2回目にEPIを行い完治
16 LRB(L5) 1日後 2日痺れ 痺れ・痛み軽減 2回目にEPIを行いほぼ完治
17 EPI 1日後 3日 ほとんど痛みなし EPIを繰り返しほぼ完治へ
18 LRB(L5) 12h後 就眠30分 痛み(-) 一度で完治し終了
19 EPI 1日後 4日 痛み7割減 3回行うが完治には至らず
20 CRB(C6) 1日後 4日突張る ほとんど痛みなし 再発あるも10回でほぼ完治へ
21 LRB(L5) 2h後 3日むくみ ほとんど痛みなし 一度でほぼ完治
 

結果分析

1)対象者年齢 37~84歳 男性3名 女性18名

男女比では女性の方が圧倒的に多い。そもそも当外来を受診する者の男女比は1:3であるがここでの男女比は1:6よってリバウンド現象は女性の方が起こりやすいと言えるかもしれない。

2)リバウンド出現率 264名中21名 8.0%

これはブロックを行い、その後の経過を追跡しえた264名中の21名であり、調査母体に特に偏りはない。よって8.0%という数字はそれなりに信頼しうると判断している。つまりブロックを行った8.0%という高率にリバウンドが生じていると考えてよい。臨床的な経験では、リバウンド症例に遭遇するのはこれより低率に感じると思うが、それは患者の診察を丁寧に行っていないからだと思われる。すなわちさらに詳細に問診すると、極軽微なリバウンド現象が存在することも判明し、リバウンド出現率は些細なものまで含めれば20%くらいになるかもしれない。

3)疾患別リバウンド出現率

  • CRB 7名
  • LRB 8名
  • TRB 1名
  • EPI 5名
  • 胸椎へのブロックはそもそも症例数が圧倒的に少ないためここでは集計から省略する。
  • 頚疾患が7名、腰疾患が13名、 頚:腰=約1:2
  • 全264名中 頚疾患70名 腰疾患194名、 頚:腰=約1:2.8
  • よってリバウンド発現率は頚疾患のほうが多いが有意差はない。

 4)リバウンド発現時期

  • 1H~1日(24H)後 平均10.0H
  • 麻酔(1%キシロカイン)の作用時間は数時間、しかしリバウンドは数時間後にはほぼ起こらない。1日ないし半日経過してからという症例が15例で全体の71.4%を占める。
  • リバウンドの多くは注射後12hから24hに発現する。

 5)リバウンド継続時間

20分~1週間 平均継続時間2.48日
継続時間 1日未満 1日 2日 3日 4日 5~7日
人数 6 3 3 3 2 4
リバウンドが1週間以上継続した者はいない。しかし継続時間は散在しており個人差が激しい。長期(3日以上)継続するは9名(42.9%)と決して少なくないことを覚えておく必要がある。

 6)寛解率

  • リバウンド後 症状が治癒(8割以上治癒と実感)した者14名
  • 症状がほぼ治癒(7割程度治癒よ実感)した者4名
  • 症状があまり変わらない者3名
  • 治癒するかしないかは両極端である
 
  • リバウンドが生じた患者21名中18名は1度目のブロックで85.7%が寛解した。症状があまり変わらなかった3名中2名はその後のブロックで寛解した。1名はその後の治療においても奏功していない。
  • 1度のブロックでの寛解率は85.7%
  • 2回以上のブロックでの寛解率は95.2%
  • リバウンドを生じた患者は21名中20名(95.2%)が寛解する。リバウンドは治癒への通過点という考える。
 

7)症状別リバウンド発生率

  • 痛みを主訴とする者 5名
  • 痛み+凝り、だるさ、重さ、しびれなど複合症状の者  16名
  • リバウンドが発症する患者の多く(76.2%)は痛み単独ではなく、凝り、だるさ、重さ、しびれなどを随伴している。

 8)リバウンドに理解を得られない例

リバウンドのことを患者に説明しても理解を得られず、ブロックのせいで痛みが増したと被害者意識を持った者2名(約10%)。

考察

1)リバウンドの疫学

リバウンドがどのような患者に生じやすいのか?その特徴が事前にわかればブロックをする前に患者にアドバイスすることができ、患者に不安感や医者不信感、訴訟などのトラブルを起こさせないで済む。したがってリバウンドの疫学を調べることは非常に重要な意味がある。
各種ブロック後、リバウンドの発現率は8.0%と少なくない。私はこの調査にあたって1年間、全ての患者にこんせつていねいに診察した調査結果であるからして、多忙な外来の中、この調査には相当な根気と精神力を必要とした。これは私の自慢話ではない。こんせつていねいな診察によってはじめてこれだけのリバウンド症例を発見できたわけであるから、普通に診察していただけではリバウンド症例を発見することもない。
患者は、診察当時、すでに痛みがほとんどないわけであるから、敢えて訊き出さなければリバウンドがあったことも話さない。だから本来は5人に1人程度の高率に起こっているはずのリバウンド現象を、実は医師が気付かないまま診療していることがほとんどであると考えてよい。
また、リバウンドの症状は「注射部が痛いというものから、突っ張った、だるくなった」というものまで様々で、とてもていねいに問診しなければ、それがリバウンドであることさえも認識できずに見逃してしまう。
「注射部が痛い」という訴えからは、一見リバウンドには思えない。しかし、ていねいに問診すると、それは針を刺した後の痛みではなく、注射した付近にこりがひどくなったという状態であったという例がある。こういうリバウンドはたとえ患者が訴えても「あっ、そうですか…」と医者が無視するパターンとなる。そして実際にていねいに診察する医者が圧倒的に少ないことが、これまでリバウンドの調査がほとんど行われていなかったことが証明している。
おそらくリバウンドはブロックを行った患者の1割以上の高率で発現するものと思われるため、ブロックを行う患者全員に、事前にリバウンドの説明をしておくべきであろう。そうすることによりリバウンドが起こった患者に不信感を持たせないで済むだろう。
男女比では圧倒的に女性が多いが、実際のところリバウンドに性差があるとは考えられない。つまり女性は注射して痛みが増せば、そのことを医者にすぐに訴え、しかし男性患者は訴えずに「今、痛みがとれているならそれでよし」とする傾向があるからだと思われる。概して女性の方が医者にクレームをいいやすいという性差があることは認めざるを得ない。
年齢帯による発現率の差はない。しかし注意すべきは若年女性のリバウンドである。痛覚の感受性は若い方が高い。したがってリバウンドも激烈な症状となって発現する可能性がある。慢性に経過している患者であれば患者は精神的な崩壊も伴っていると考えた方がよいため、リバウンド症状が発現すれば医師に対するネガティブな感情が爆発し大きなトラブルが生じる。インフォームドコンセントのありかたが問われる(「インフォームドコンセントどこまでII」を参照)。

2)リバウンドの特徴

そもそもリバウンドとは何なのか?なぜ起こるのか?については全く解明されていない。定義もあいまいなため、リバウンドが発現しても医師にはそれがリバウンドであることさえ理解できないという現実がある。リバウンドの発現時期は明らかにキシロカインなどの薬効時間よりも後である。発現時期はほとんどが治療後6時間から24時間に起こる。これはリバウンドがキシロカインなどの血管拡張作用によって直接的に起こるものではないことを意味している。
ただし、6時間以内に起こるリバウンドは薬効が切れたことの反動の可能性がある。つまり、痛みが麻痺している時に無意識に組織を損傷させてしまうことの反動、そして血行が改善し血流量が増えたが、それが元に戻ったときの反動である。ここではそのようなブロック直後のリバウンドではなく、もう少し後で起こっているリバウンドについて述べている。リバウンド症状が落ち着いた後に大幅な改善を得られることがリバウンドの病態生理を解明するカギになっている。
参考にはならないかもしれないが、ある1人の患者のリバウンドの感想がある。「それはもう寝た子を起こされたような痛みでした。今までは痛くても、その痛みはしびれやだるさとともにごまかされていて、ぼうっとした痛みでした。しかし、注射の後から、触った感じも痛みもとてもはっきりして鋭いものとなりました。せっかく今までそれなりに痛みが鎮まっていたのに、目覚めさせられたという感じです。」
これは症例3の患者が私に訴えたセリフである。痛みは1週間続き、正直、私は彼女に恨まれた。しかし、それでももう一度注射を受けることを説得し、二度目の注射後は劇的に痛みが改善し、15年間あらゆる医者にかかって治らなかった痛みが消失した。私はこの「寝た子が起きる」という感覚がまさにリバウンドの機序と考えている。
私は主に神経根を標的にブロックする。神経根には後根神経節(DRG)がありここで痛みを調節する小さな脳があるといわれる(これを信じない学者もいるようだが)。痛みの情報はDRGに炎症が起こると増幅される。DRGに血流阻害が起こると予測不能な様々な知覚異常が起こる。ここではあえて知覚異常と書いたが、痛覚が過敏になることが圧倒的に多い。
私はリバウンドがこのDRGの阻血状態が改善することによる出来事だと確信している。それはまさに我々が正座した後、立ちあがる際に末梢神経の循環不全が改善され強い不快感を伴う痺れが出現するのと同じような仕組みであると。ブロック後に疼痛増強というアロディニア(異痛症)が起こるのはDRGの血流が改善されたサインではないだろうか。おそらく慢性的な阻血に陥った神経根は痛みを伝えるシステム自体も元気をなくし、鋭い痛みが出にくくなっている。しかし、その神経根の血流再開とともに痛覚増強システムが息を吹き返し、暴走し始めた結果ではないだろうか。
しかし、このアロディニア(リバウンド)が改善されるまでの期間は個人差がある。それは半日から1週間まで様々だが、1週間以上続くことはほとんどない。このアロディニアの時期が過ぎ去れば痛みと決別できる夢のような楽園が待っている。したがって、ブロック後に一時的に痛みが増強するのは、治療の通過点と考え、患者に辛抱と安静を促す必要がある。

3)リバウンド患者の共通点

ここではリバウンドが起こりそうな患者の共通点を見つけ、ブロックを行う前にリバウンドの予防処置を行う一助にと思っている。

A)疼痛の罹患期間

疼痛の罹患期間が1週間以内であるのは2名、19名は1週間以上であり平均罹患期間は46か月と非常に長い。つまりリバウンドは急性の患者には起こりにくいと思われる。

B)症状

純粋な痛みだけを訴える患者は5名と少なく、ほとんど16名(76.2%)で痺れやだるさ、凝りなどと混合の痛みである。混合の痛みを持つ者にはリバウンドのリスクを説明しておいた方がよさそうである。これだけの情報でリバウンドが発症しそうな患者を特定することは不可能。ただし、症状が慢性に経過しており、痛みだけでなく痺れやだるさなどの混合の症状がある患者にはリバウンドのムンテラと予防処置(以下に挙げる)を行うほうが賢明である。

4)リバウンド予防処置

リバウンドを未然に防ぐ対策としてロイサール(NSAID)の静脈注射を行った。上記症例のうち初回リバウンドの後、2回目以降のブロック注射時にロイサールの静脈注射を併用した。その結果使用した7名中7名(100%)でリバウンドが抑制または軽減された。このロイサールによるリバウンド抑制効果を発見したのは症例2の患者が偶然にも使用したロイサールによってリバウンドが起こらなくなったからである。使用しない時はリバウンドが起こり、使用した時はリバウンドが軽減された。それが繰り返し起こるのでロイサールのリバウンド抑制効果を偶然発見できた。
この症例以降、リバウンドが起こった患者には2回目以降はロイサールの投薬を行うようにした。すると見事に全例でリバウンドが抑制された。これはロイサールがDRG周囲で産生されるプロスタグランジンを抑制したからであろうと思われた。DRGでは近年、プロスタグランジンやキニンなどの侵害受容器の存在が相次いで発見されている(「痛みを担う後根神経節のメカニズム」参照)。ただし、経口のNSAIDでは一切リバウンド抑制に効果がない。

5)リバウンドのインフォームドコンセント

リバウンド現象はこれまで多くの医師たちに無視され続けてきた。ブロック後の診察で患者が「注射したら余計に痛くなった」と訴えればそれに担当医は立腹したり、困惑したりしたものだ。リバウンドは医者と患者双方にとって忌むべきことであったわけだが、リバウンドの原理さえわかればそれはむしろ歓迎すべきものであることがわかる。
今回の21例で紹介したように、リバウンド後の患者のほとんどは、劇的な軽快を遂げている。ならばリバウンドを耐えることは治癒への登竜門と考えてもいい。しかしながらリバウンドを経験した患者の一部はブロック恐怖症に陥る。増幅した痛みを根に持ち、そして「二度とあんな注射はしたくない」という。
患者は10年間、たった一度も治らなかった痛みが、リバウンド後に消失しているにもかかわらず、それは単なる偶然としか考えない。ブロックで治ったとは思わない不届き者が一部に存在する。こういう患者にブロックが成功したことを説明しても理解は得られない。残念ながらこのような「治療しても感謝されずに恨まれる」現象は患者の性格によるところが大きい。ただしリバウンドがどんなもので、治療の過程で現れるもので、これを耐えれば楽になれることを最初からムンテラしておけば問題は起こらない。多忙なペイン外来ではリバウンドのムンテラをする暇があるかどうか?いささか疑問ではあるが、リバウンドから生じるトラブルのことを考えると、ブロックを行う患者全員にムンテラすべきと考える。

リバウンドは越えなければならない

神経ブロックの注射後に出現する痛みの増強は「注射と痛み」を「原因と結果」であるという条件反射を患者に植え付けてしまう。よって患者は注射のせいで痛みが増強したと考え、以降、ブロックを受けようと思わなくなる。しかし、この思考パターンは大半が誤りであることを患者に対してブロックを行う前から教育しておいた方がいい。その理由は以下である。
「リバウンドは自然治癒の過程においても必ず通らなければならない通過点であり、治癒に向かう時はどんな場合も避けては通れない」と思われるからである。 多くの場合、リバウンド後、症状はほぼ必ず軽快する傾向があり、リバウンドは治癒の通過点として存在している。よって恐らく、自然治癒の場合も改善する際の通過点があると思われ、その通過点を通る際にリバウンドと同様の痛みが出現すると推測される。もちろんこれは推測の域を脱していない話しである。が、通過点であるなら、治癒するためにはどんな治療方法を用いようとも一旦痛みが増強することを避けることはできない。
リバウンドは誰にでも起こるものではなく、慢性の痛みシステム(中枢感作など)が出来あがっている患者にのみ起こる現象と考えられる。つまり慢性疼痛の患者は、治る過程で一旦痛みが増強することを避け得ないので覚悟しなければならない。それはブロックの有無によらない。 自然治癒の場合はそうした通過点がいつ訪れるのかが判明していない、が、ブロックを行うと通過点が強制的に出現する。よってブロックによるリバウンドを逃げていたのでは治療にならない。慢性の疼痛患者には治療を開始する前にこのことを告げておくと信頼感を損なわずに済むと思われる。

リバウンドは治療がヒットしている証拠

ブロック後のリバウンドは、ブロックで血行障害が改善されることにより、中枢感作が作動している箇所の細胞がその活動を増すことで起こると考えている。中枢感作システムの作動点に治療がヒットしていなければ、活動増加は起こり得ないので、リバウンドが起こる時、治療箇所は原因箇所に近いと考えている。
よって、私は患者にリバウンドが起きた時、うれしさを隠せない。しかし、患者は怒りを隠せない…。この時、私と患者の間には大きな溝が生まれている。患者は不信感に満ちている。よって、たいてい患者は来院しなくなり治療の継続が不可能となる。リバウンドが強い場合は決まって慢性の強い疼痛を持っている患者である。痛みがトラウマ体験となり、私が説得したところで来院しなくなる。
リバウンドが来た際に、なぜ私が喜ぶのか?考えてほしい。それは「中枢感作は得体の知れないモンスターであり、その所在地さえもはっきりしない」からである。現医学では中枢感作の起こっている場所は同定できない。さらに中枢感作自体が正しく理解されていないと断言する。そうした現状で慢性疼痛を治療するわけだから、ブロックするにしてもどこに何を目的で行うのか、思案に暮れる。だが、リバウンドが生じた場合、治療の糸口が見える。中枢感作システムの原因箇所にヒットしている可能性があるからである。リバウンドを嫌悪してはいけない。
だが、何度も言うようにリバウンドが起これば患者との信頼関係は崩れる。私がリバウンドのことを詳しく患者に解説したところで、「ブロックミスの言い訳」としか患者は受け取らない。なぜなら、慢性疼痛の患者はすでに多くの科の医師に診察を受け「あなたの痛みは教科書にはない痛みである。心療内科を受診しなさい」とさんざん言われて医師不信に陥っているからである。よって、現在、リバウンドが生じて患者が治療を拒否することに対応策はなきに等しい。対策としては本文を印刷して患者に配布するくらいである。配布しても、すでに患者の精神力は痛みで疲弊しており、リバウンドを耐えるモチベーションが損なわれている。これが現実である。

神経ブロック後のリバウンドの病態生理調査」への11件のフィードバック

  1. お世話になっております。
    前回のメールから3か月、坐骨神経痛が再発?してしまいました。
    右足の麻痺もほとんど治りかけていたところへ

    3月8日頃 腰にいや~な違和感(また炎症かな?)⟶的中⟶激痛までは行かないまでも、筋肉がロックされた感じになり、その後の坐骨神経痛の進行スピードが速かったのです。2~3日でふくらはぎまでの痛みに達し、直立姿勢、ちょっとの歩行での痛み(20~30mでかがみたくなる位)、(座位では楽)となり、3月13日、なじみの整形外科へ。
    診察、ラセーグテスト後、仙骨ブロック注射。

    今回は、大元と思われる腰ではなく、下の馬尾あたりに打ちました。何故そこなのかは分かりませんが、いつもより痛かったのと、副作用が出ました。耳鳴りと痺れです。10分程度で消えました。
    いつものことですが、注射直後の腰痛、坐骨神経痛はたいして減少しません。1~2割程度です。

    そして最も悪いのは、私が注射後に安静にせずに仕事に行くことです(できることなら休みたい 笑)。
    その日の就寝後、朝方に、注射した馬尾当たりに激痛が起こり、何度も痛みで起きました。先生の言う「リバウンド」かと思い、乗り切り、それは2~3時間後に消えました。
    注射翌日も仕事に行きましたが、痛みは元通りになっていました。
    次の就寝では、無理な歩行のせいか、両足のサイドの中殿筋?あたりに激痛があり、目の覚ますと言うことが起こりました。これはとてもキツイものでした。。
    現在は治まっていますが、寝ると分かりません。。

    「リバウンド」は先生の言うように、100%成功したことが前提であれば、あちこちの部位で起こりうる事もあるのでしょうか?

    前回、「脊髄の血行を良くする」と言うアドバイスを頂きましたが、うまく出来なかったようです。申し訳なく思います。

    私は腰痛や坐骨神経痛の「克服」というより、「再発防止」をどうするか?に興味があります。
    先生の「教科書外」の考えに期待します。

    • ブロック注射の効果は一様ではりません。悪く出る場合ももちろんあります。悪く出る場合はリバウンドとは言いません。仙骨からブロックした理由は、ふくらはぎが痛いと訴えたからでしょう。ブロック直後に除痛が不十分なのは「難治性」であることの証拠になります。私はこれをブロック無効慢性腰痛(BICB)と呼びます。HPのどこかに書いてあると思いますので参考にしてみてください。再発防止の有力な方法はベッドのマットレスをムアツ布団(西川)やトゥルースリーパーなどにすること、枕をかえることなどです。これは私の一番最近のブログに書きましたので読んでみてください。

  2. 再発防止の強力な味方の一つはムアツ布団ですね?4種類もあるようです(笑)。少し高めなので、同じ効果で安い他のメーカー物も探してみます。
    「腰痛には堅い布団がいい」という考えが未だにはびこっております(以前テレビで堂々と紹介されたせいでしょう。)
    インターネットが普及した今の世の中情報は本当に恐ろしいと思います。

    お忙しい中、本当に申し訳なく思いますが、もう一つだけお願いします。
    腰に「あ、やばそうだな。」と直感した時に、病院へ行く前に初期消火的に何を行えばよいですか?

  3. 数年前から坐骨神経痛の再発を繰り返していますが、去年秋から現在までのものが期間も最も長く痛みも強いため2週間前と本日腰部硬膜外ブロック注射をペインクリニックでしていただきました。2週間前の初回の際にはあまり感じませんでしたが、今日は帰宅後(注射後2時間ほど)から腰痛と歩けないほどの下肢痛(注射前はそこまで痛みは強くありませんでした)になり、横になっていましたがまったく改善しませんでした。1回目の注射後は1時間ほど後にロキソニンを服用しましたが、今回は直後に服用せず、痛みが強いため注射から8時間ほど経った夕食直後に服用、それから4時間ほど経った現在は痛みやしびれはあるものの軽減されている感じです。これは先生の言われるリバウンドでしょうか。また、ブロック注射の繰り返しにより元々の痛みそのものが徐々に軽減、また、注射のたびにリバウンドが起きてもその痛みも注射を重ねるに連れ減っていくのでしょうか。情報が少なく的確にお答えいただくのは難しいかもしれませんが、どうかお教えいただきたいと思います。

    • これはリバウンドではありません。おそらく、ブロックを行って、痛みを除去している無痛の間の2時間に、腰に悪い運動(行動・体勢)をとっていたために、ブロックが切れた後に症状が悪化したパターン。または、注射液が神経を圧迫し、炎症を強めてしまったパターンと思われます。痛みのない姿勢をとっておとなしくやりすごすのが手だと思われます。

      • 早速ご返信いただきありがとうございます。今回の注射では1回目の時とは異なり、注射液注入時に注入による痛みがあり、注入直後からも神経痛の減少をあまり感じず、その後強い痛みとなりました。昨夜コメントを投稿した後に就寝、先ほど起床しましたが、痛みやしびれは注射前と大きく変わらないように感じます(強い痛みは治まっています)。しかし、先生の書かれた記事ではブロック注射には効果があるとおっしゃているように思いますので、やはり定期的に注射をしてもらうのがよいでしょうか。また、先生のご指摘にある「痛みのない姿勢をとっておとなしくやりすごす」についてですが、痛みを感じなければどのような姿勢でもよいというわけではなく、このようなものはダメ、ということがありましたらお教えいただきたく存じます。いろいろで申し訳ありません。よろしくお願いいたします。

        • 日常生活の指導は医師に尋ねるのではなく、痛みという先生に逆らわないことが重要です。そして正解を自分でみつけださなければなりません。痛い時はその体勢が必ずどこかに対して悪いことをしているので、体勢をいろいろと変えて痛みが薄らぐ点を見つけ出すということを常に行わなければなりません。私がここで2~3行書いて、あなたの痛みをコントロールできるのであれば、世の中に医師も鍼灸師も整体師もいりません。日常生活の指導は、各個人にそれぞれ答えがあり、万人に通ずるものが、あなたに通ずるはずがないという認識をしておいてください。

  4. はじめまして、74歳の母のことで相談させていただきます。
    ・2年前、脊柱管の手術、20日後退院するも坐骨の痛みがひどく再入院。原因不明との診断。
    痛みにナミがありお尻の痛みがある時は座っていられない状態が続く。
    ・昨年8月 JCHO仙台病院にて仙
    腸関節のズレとの診断で入院し、
    8回のブロック注射をするが改善せず。
    ・昨年10月、横浜市立脳血管神経脊髄センターに入院。陰部神経に神経根ブロック注射を2回受けて、痛みはなくなったものの2回目より陰部の不快、肛門の不快が出始める。退院後も2回受けたが、現在も陰部の不快と肛門の痛み、さらに腰の痛み、足首より下の痺れが続いている。

    主治医からは陰部神経に打ったブロック注射による薬の影響とのことですが、薬が抜ければこの不快はなくなるのでしょうか?
    ブロックを受けた後遺症となると今後続けていくことに不安を感じています。
    長くなりましたが、今後の治療法についてアドバイスをよろしくお願い致します。

    【服薬】
    リリカ…朝夕
    トラムセット…朝昼夕寝
    デパス…朝
    *疼痛剤、座薬…ジプロフェナク

    • ブロックに用いた薬剤や、正確に「どこにブロックしたのか?」の情報が含まれていないのでアドバイスすることができません。不快という言葉も「抽象的」で私に意味が伝わりません。ただ、起こっている全てが「現医学で解明されていないこと」であることは確かですので、私を含め、世界中の医師に質問しても正しい回答は得られないと思います。まずは率直に、医師に現在の状況を伝え、それでも医師が治療を続けようとするかしないかで今後の治療を考えることをお勧めします。なぜなら、すでに担当医師は「一般的ではない特殊な治療」に手掛けてくださっているわけで、その事実だけで「常人を超えた技術を持つ医師」であることが判断できるからです。そういう医師を信頼せず、誰を信頼するというのでしょう? 誰も手を出せなかった治療に手掛けてくれているのですから敬意を払うべきです。よって、担当医師に最終的に判断してもらい、「一旦治療を休みましょう」と言われれば休まざるを得ないと思います。その医師が「治療を続ける」というのなら、任せてもよいと思います。ただし、責任は全て患者側にあることを絶対に忘れないことです。なぜならばこれは「必ずよくできる病状」ではなく、「あわよくば改善するかもしれない症状」に対する「果敢な挑戦」だからです。挑戦するのは患者であり、医師はその勇気に対して「手がけている」にすぎません。医師の義務をはるかに超えているのです。そういった敬意がないのなら、医師は恐らく治療してくれないと思います。治療は仕事でも義務でもなく挑戦であることを忘れないでください。

      • お返事ありがとうございました。
        陰部の不快というのは下着が挟まったような感覚で、肛門は痛みがあるので座ることがつらいようで30分ぐらいしか座位がとれません。
        先生がおっしゃってるリバウンドを乗り越える…と、おっしゃってる意味がよくわかりました。
        ブロックが効かない、ブロックの影響で痛みが増してる…という結論は早かったということですね。
        まだ回数も少ないので、主治医の判断に任せて治療を続けていってみようかと思います。

        • 今回のブロック後の痛みの増強?(改善している?)はリバウンドかどうかはわかりません。実際に悪化させている可能性もあります。ただ、悪化しているにしても、それがたまたまなのか? 今後も起こりうることなのか?誰にも判断できません。リバウンドだから辛抱しなさいという意味ではなく、この治療は挑戦であるので、担当医に「今後も挑戦していく意志があるのかないのか?」を伝え、総合的な判断は担当医にお任せすることしか方法がないと思います。患者の判断で治療を終わらせるのではなく、担当医の判断を仰いだほうが、うまくいく確率が高いということです。すべては確率ですが、確率の高い方を選んだほうが、患者が幸せになる確率が高くなります。

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