第八十五話 人間誕生

 今日は日曜日。2018年の1月から日曜日に診療をすることにしました。社会人は日曜日にしか来院できない場合があるからです。さらに今日は2018年1月28日でN不動寺のお不動様の縁日なのでここから約1時間30分かかるお寺まで夕方までに行かなければなりません。そこで本日の予約数はもともと減らし、午後は診療を早く切り上げることにしていました。

 今日の午前の患者様はVIPのT先生御一行のみです。T先生は以前ここで紹介しましたが、奥様を「巫女」であることを予言した強い霊視力をお持ちの先生です。日蓮上人を仰ぐ先生で、日蓮上人の霊と会話することもできる方です(息子さんは禅宗の僧)。我が診療所は仏門と本当に縁があります。

そのT先生がご親戚夫婦をお連れになって3人の御一行が来院しました。名古屋からの来院です。

 T先生は私の治療と奥様のご加持を前回受けた後、耳の聞こえ、目の調子、ふらつきなどが改善したことを教えてくれました。T先生のすごいところは、T先生自身が除霊や霊視、ご加持をいろんな方々にされているというのに、奥様のご加持の能力に敬意を表して受けに来るところです。

 普通ならばプライドが邪魔して同業者のご加持を意地でも受けないものでしょう。しかも奥様はこの能力に目覚めてまだ1年、ご加持を開始してまだ3か月。T先生は数十年も先輩ですから奥様の能力をすんなり認めるというのには器の大きさを私は感じました。「柔軟性のある先生だなあ」と私は思うわけです。

T先生の能力は波動や意識体の可視化です。一般人が見えないものが見えることです。そして意識体と直接話ができます。いずれ奥様もそうなるのでしょうか? 霊能者がどのようにその能力を向上させていくのか?私には想像もつきません。

前回、名古屋に私たちがお邪魔した時にT先生は

「信者さんが家に霊をつれてくるんです。それが何人も何人も大勢ここに居座るものだから、夜中にトイレに起きたときには廊下に大勢いて怖くなります。」と言っていました。見えないものが見えるのは想像以上に恐ろしいようです。

そのT先生が、今日は奥様のご加持を最初に受け、次に私のブロックを行いました。そのときにT先生が私に話をしてくれます。

「今日はね、お不動様がそこの左の角に立ってますよ。カーッとした顔で立っています。ほら、今も立っています。まだ立っています。」今回は結構長い時間お不動様の姿が見えるといいます。T先生は

「Kさん(奥様のこと)はすごいですねえ」と言います。しかし、奥様の何をすごいと言っているのか私にはよくわかりません。想像するに、お不動様に守られているところがすごいという意味だと私は推測しました。奥様をほめられて嬉しくなった私は

「そうなんですよ。Kさんはご先祖様もすごくて、ひいおばあちゃんは信仰心の高い方でお大師さまの分身のお地蔵さんをいただいたそうなんです。それが実家にあるんですよ。すごい家系です。」と私はT先生の前で自慢をしてしまいました。親バカというか奥様バカです。

「お不動様だけじゃなくて観音様もいますよ」とT先生。

「観音様が体の向きを変えるんですよ。それがKさんの動く方向に体を向けるんです。きっとKさんを見守っているんですね。」と。

この話からすると、奥様は前回のご加持の時よりもパワーアップしているということでしょうか。お不動様の大きさと姿を表していた時間、観音様が奥様を見守る姿・・・前回よりも具体的で、かつ動きがあるようです。

私の注射治療の後、奥様がT先生のところへ行き、再び仕上げのご加持を行いました。その時に「N不動寺の行者が木曽の御嶽山に今修行に行ってるんですよ」という話になったそうです。するとT先生も御嶽山に縁があることを奥様に話しました。

「実は私のひいおじいちゃんの碑が御嶽山にあるんですよ。御嶽山の霊力は非常に高いんですよね。私の娘が子供の頃、ポップコーンで顔中にやけどを負ったことがあってね。そのときに御嶽山に行ってそこのお水で顔を洗ってあげたんです。そうしたら4~5日でやけどがすっかり治ったんですよ。Kさんが御嶽山の話を出したのは、ひいおじいちゃんがお参りに来なさいということかもしれませんね。今度一緒にいきましょう。案内しますから。」

「え~っ、本当ですか?」と私も奥様もびっくりしています。

 この頃の私たちは御嶽山が神々の住む聖域であるということも知らず、ちょっとしたパワースポットくらいにしか思っていませんでした。ですがなんとなく興味を引かれたことは事実です。

その後、私が仕上げの注射のためにT先生の横に座った時に、T先生がこんな話をしてくれました。

「私の息子は僧侶になったんですけどね」

「はい、禅宗の僧侶だそうですね。」

「息子が小さい時に御嶽山に連れて行ったんです。

御嶽山

その時に参拝で大勢の方がいるところで息子が暴れまわるもんだから、叱りつけたんですよ。するとね、そこにいた僧侶の方が

「この子の天性はすばらしいものを持っているから叱ったり怒ったりしてはいけません」と言うんです。私は

「人様の前で暴れることは悪いことですからどうして叱ったらいけないんですか?」と訊いたんです。するとその僧侶の方は

「天性の能力を伸ばしたいのなら、叱りつけてその能力を委縮させてはいけないんです」とおっしゃったんです。」

 私はこの話を聞いたとたんに大変な衝撃を受けました。

そう言えば、奥様をつい先日、診療所で激しくしかりつけた時、突然パソコンのDVDのトレイが開き、PC画面が変わったことを思い出したからです。その動きはまるで「奥様を叱るのはやめよ!」といさめられているようなタイミングでした。本当にすごいタイミングでPCが変な動きをしたので私はその場で恐ろしくなりました。見えざる力を感じたからです。

奥様は天性の仏徳、霊格があります。その力が開花し、強くなりこれから大勢の人々を救えるかもしれないというときに、私が奥様を叱りつけて委縮させてはいけないのかもしれないということを、T先生の話を聞いて感じました。

「T先生、そう言えば、今日も私はKさん(奥様)を叱りつけてしまいました。私にとっては許せないことだったんですけど、Kさんが大勢の方を救う能力を高めるメリットと比べれば、どんなに些細なことで叱ってしまったことか・・・T先生、私はこれからKさんを叱りつけないようにします。ここで誓います。」と思わず口から出てしまいました。

するとT先生は私のその言葉を聞いて、なんと、涙を流したのです。私は少し戸惑いました。そしてT先生は話し始めました。

「私もね継母で育ったからよく叱られたんです。それはそれは小さくなって委縮して、怖かったんです。叱られるとせっかくの能力が萎縮してしまって発揮できないんです。Kさんよかったね。先生がわかってくれたよ。」と奥様に向かって言います。

奥様もT先生のこのお話を聞き、涙を流しています。「なんか俺、悪者だなあ。生きていてごめんなさいって感じだよなあ。」と心の中でつぶやき、さすがに私も心が傷ついてしまいます。でも、「それほど奥様が尊い人なのだ。だから俺は引き下がろう。」と決意し、私はとにかく反省することにしました。叱る方にも理はあると思いますが、私の理は浅知恵で愚かだということなのでしょう。

「T先生、今日この話が出たのは偶然ではないと感じました。おそらく、T先生がこの話題を出したのは私が気付きを得るために必要だったのだと思います。本当にありがとうございます。」と私は受け入れました。そして不思議にも、私はプライドが傷つくよりもすがすがしさを感じ、このときT先生に本当に心から感謝しました。

T先生の話を聞かなかったら、今後も些細なことで奥様を叱り、そして委縮させ、奥様の大勢を救うことのできる能力を委縮させていたかもしれなかったとそう思えるからです。

T先生は私に向かってこう言いました。

「今日はあなたが生まれ変わった誕生日です。ちょうどお不動様の縁日です。いい日です。」

こう面と向かって言われると、じゃあ、これまでの私は非人間だったと言われているようで、正直落ち込みました。が、「きついなあT先生」と思いながらも、おそらくこれを受け入れることが私の精進なのだろうと考えることにしました。

そして最後にT先生はとどめの一言をいいます。

「Kさん(奥様)は前世は相当高い位の方だったと思いますから」と私が奥様につきあえているだけでも幸運と思いなさいくらいのことを言われてしまいました。今世で私は医者ですが、そんなことは奥様の霊格から見れば足の裏の米粒のようなものだということです。

何を言われても私はこれまで仏徳のない生き方をしてきた「ならず者」ですから、せめて今日から生まれ変わるぞと決意しました。

その後T先生は自分自身のことを「私の前世は牛だった」と突拍子もないことを言い出しました。「う、うしですかあああ??」

「村の英雄的な牛で、だけど小さな女の子を後ろ足で蹴飛ばして殺してしまったんです。でもその牛は村で奉られることになったんです。その村は大分にあって、私がその村を訪れたことがあるんです。村にある牛の像は私が透視した通りだったので、村の人々が全員で私を迎えてくれて、その時に私が来たことを記した牌が立てられたんですよ。」

 と、まるで日本昔話みたいなことを体験しているのがT先生でした。

 そんなすごいT先生が奥様に向かって

「N不動寺に一度行きたいです。K神社(奥様の実家のすぐそば)にも行きたいです。お地蔵様(奥様の実家の)にもお会いしたいです。」と目を輝かせておっしゃるのに私は大変驚きました。信仰心の高さと修行を続けたいという思いをこのお歳までいささかも衰えさせずに持っておられるからです。

器の大きい方です。普通ならば信者にちやほやされてこれだけの高い霊能力を持っていれば、僧侶といえども上から目線になるものだからです。そしてこんなすごい方に支持される奥様の潜在能力の高さにも驚かされてしまいます。

 あくまで私の想像ですが、T先生は霊視力が高いがゆえに、奥様の潜在能力や霊格の高さを見抜いておられるのかもしれません。だからこそ、本来は駆け出しである奥様にこれほどの敬意を払えるのだと思います。霊能の世界は年功序列が関与しない不思議な世界なのかもしれません。

 ちなみにT先生は人との縁を読むための神器をお持ちで、その神器で私に治療を任せることが吉か凶かを占っているそうで、それでは吉と出ているそうです。よかった。

 そして名古屋にT先生と親しい外科医のS先生がいるのですが、その先生と私の縁も吉なので紹介したいと言ってくれています。

 私は今後、弟子を作ろうと思っているのですが、その外科の医師との縁があれば、名古屋に弟子を持てるかもしれません。私はそう考えて2月の連休にT先生のお宅にお邪魔することを約束しました。