第七十九話 ルーツ その1

 ちょうど1年前のお正月(2017年1月1日)、奥様はN寺の護摩焚きの画像で自分では制御不能なトランス状態になり上半身がぐらんぐらん回転してしまいました。奥様はこの怪奇現象が一体何なのか?自分は何者なのか?を探し求めることがこの1年の意味だったと言えます。私はそんな奥様の1年を必死にサポートしてきました。

 そして、奥様の様子をじっと見守っていた師匠であるO先生は

「頭のてっぺんにあるチャクラが開いたんです。それから、眉間にある『第三の目』も開けることができました。普通はそう簡単に開かないんですよ。私の若いころによく似ていますね」と教えてくれました。

ですが、謎はまだまだ深まるばかり。お寺にいる他の信者さんたちに奥様のような激しいトランスに入っている人はひとりもいませんでした。やはり奥様だけは何か特別であり、なぜ特別なのか?を知りたいと思うのは人として当たり前の話です。

それでも、O先生のお話からは私たちの疑問はほとんど解決できませんでした。なにせ密教ですから、いろんなベールで被われています。そして人間がいくら考えても理解できない領域であるというのが真実なのかもしれません。

「出生のときに何かありませんでしたか?」とO先生は奥様に訊ねます。

「実は私は未熟児で生まれて「ちゃんと生きられるかどうか保証ができない」と言われていたそうです。だから両親は大変な思いをして私を育てたと聞いています。」と奥様は答えます。

「おそらくそのときに、強い願掛けをされたのだと思います。その力があなたに強い影響を与えているんでしょう。」

 願掛けと言われても、願掛けくらいでこんな力が宿るのでしたら未熟児はみんな霊能力者になってしまうではありませんか。ですからO先生のこの話は私にはピンと来ませんでした。また、O先生は奥様のことをこう言いました。

「普通の人は修行して霊格を上げていくのだけれど、あなたは最初からかなり高い位のところから始まっているようですね。」と霊格が高いと教えてくれました。O先生には霊格がわかるそうです。

 そういえば、「Aさん(奥様)から強い気を感じる」と以前診察室で言っていたのを思い出します。そしてO先生に

「家の近くの氏神様の神社をお参りして挨拶をしてきたほうがいいです。」

と言われ、奥様の実家のすぐ近くにあるK神社にお参りに行ったのが1年前(2017年1月)の話でした。

そしてちょうど1年後の今日(2018年1月7日)、奥様がこの1年で急成長したことをご両親に報告すべく私と奥様は再び実家に向かいました。

実家に到着したのは夜でした。私と奥様は腰痛に悩む父にご加持をして差し上げようと計画を立てていましたが、奥様は「お父さんは私のご加持を受けてくれるかなあ」と心配していました。

その理由は、彼女の実家は九州ということもあり、父権が極めて強く「娘に体を気安く触らせる」ことをしないほど九州男児な家だったこと。また、父は神・心霊の研究者であり、自身も気のエネルギーを信じて家族に施術していた経緯があり、奥様がご加持をすることで父のプライドを傷つけやしないかと心配だったことがありました。

「そういえば、父さんは昔ねよく私たちに独自の『気』らしきものをおくってくれてたことがあったの。『そこに座れ』といって皆を椅子に座らせて母や弟や私に吸い込んだ息を『フー!フー!』って一生懸命吹きかけられたんだけど、父の息ばかりがかかって何も変化はなくて私と弟が笑いをこらえるのに必死だったの。でも悪いからじっとがまんして受けていたの。そのことを思い出しちゃったな~」と奥様は私に説明してくれました。

ですが・・・意外にもお父様はすんなり奥様のご加持を受けてくれました。そして「かなりのパワーがある。体が軽くなった。」と奥様を認めたようでした。私は少し驚きます。

親であれば、娘がこんな力を身に着けて帰って来たらたいそうびっくりするはずなのに・・・びっくりしないことにびっくりです。奥様はお父さんにご加持ができたことに満足でした。親孝行出来てうれしかったことでしょう。

その夜は、О駅前のホテルに泊まりました。

屋上に大露天風呂のあるとてもきれいなJRステーションホテルです。ここで奥様は露天風呂を楽しみます。О市の夜景が見えます。

翌日の昼、実家に向かう途中K神社にお参りしました。

 「ちょうど1年前にここで2人でご祈祷を受けたよね。祈祷中にトランス入って体がゆれてたよね。」と私は奥様に話しかけます。

「今日はご祈祷は受けないよね」

「うん、今日はお参りだけでいい。」

と言って2人でお賽銭をあげて手を合わせて願掛けします。

 その後、向かって左のお稲荷様のほこらに手を合わせます。そして本堂の裏をまわって一周して今回は去年と違ってあっさり終わって奥様が戻ってきました。

「やっぱりあのお稲荷さんはビリビリ来る」と言います。強い波動が出ていると奥様は言います。

「帰ろうか」と言って神社にある大木を眺めると、枝が途中で折れていて大きな穴が開いています。

「たぶん雷かなんかが落ちて枝が折れたんだろうね」と私が言うと

「この木にはよく雷が落ちていたらしい」と奥様が答えます。と、奥様は大きな木の根元にそそくさと歩いて行き木の幹を両手で触ります。

「すごい。木からビリビリ来る」と言います。

「木からも波動が出てるの? それがわかるなら樹医になれるね。」というと

「なれるかも。」と言って奥様は笑います。

 実家はK神社から100mくらいのところにあります。とぼとぼゆっくり歩いて帰るのですが、ふと見ると実家の駐車場にお地蔵さんがあります。

 去年はこのお地蔵さんをあまり気にとめていなかったのですが、今年は奥様の目に止まります。奥様がお地蔵さんに近づき手を合わせると

「うわあ~~何かきてる」と顔をそむけ目を細めます。何か強い波動が出ているようです。奥様がそのお地蔵様に手を合わせ、般若心経を唱え始めました。するとお母さんが外に出迎えに来てくれました。

「このお地蔵さんから強い波動が出てる。」と奥様はお母さんに言います。

「あらそう?」とお母さんはよくわからないような、わかったような?表情をします。

「お地蔵様に着せてる服はお母さんが編んだの?」

「そうよ。私が編んでるの。それは冬バージョンよ。」と笑って言います。

奥様のお母さんは全く霊能力はありませんのでお地蔵さまと呼応する娘の姿に多少驚いたようでした。

 私は、こんなガレージの片隅に奥様と呼応するお地蔵さまがあることに興味を引かれ、家にあがるとお父さんにお地蔵さまのことを訊ねました。

「あのお地蔵さまはいつからあるんですか?」

「あれは、Cばあさん(父の祖母)が持ってきたお地蔵さんなんです。嫁入りの時に実家からもってきたんです。」とお父さんが答えます。

「へえ~、そのお地蔵さまはもともとどこにあったんですか?」

「Cばあちゃんのご両親は信仰深い人で大きな地主の種屋さんで四国に何度もお遍路をしてたそうなんです。そのときに譲り受けたと言ってました。Cばあさんは家で唯一の末娘でそれは大事に育てられたそうです。それで嫁入りのときに「このお地蔵さんは大変ご利益があるお地蔵さんでお前を守ってくれるから持って行きなさい。」と言われたそうなんです。そのときからずっとここにあるわけです。」

「それはそれはCばあちゃんは何があっても毎日拝んでお遍路さんの歌と般若心経を唱えてました。」とお母さんが横から口を挟みます。

「それでね。このお地蔵さんには春と秋にお遍路の人たちが拝みに来るんです。最初は30人くらいおったけど、今は15人くらになったかなあ。テレビから取材されたこともあるんですよ。」とお母さんが言います。

「へえ~~そんなすごいお地蔵さんなんですか。どおりでKさん(奥様)と反応するわけですね。行者さんが毎年念を入れるわけですから波動がかなり蓄積されているでしょうね。」

「それとある石があるんですが、Cばあさんはその石で腰をなでたりして痛みを治しておったんです。」とお父さんが付け加えます。

「そんなご利益のある石があるんですか? それって今もあります?」

「ありますよ。」

「それ、見せてもらってもいいですか?」

「いいですよ。」

「うわあ~この石すごい。」やはり石から強い波動が出ているらしく奥様の手がビリビリするようです。

 「そうそう、その石でばあさんは自分の体をよくなでっておったんです。でも男性に持たせるといかんそうです。女性専用と言っとりました。」

 「へえ~そうなんですか・・・」と、理由はわかりませんが女性専用というのなら女性にしか使えないなあと私はふと患者の事を考えてしまいます。

 私はこの石を奥様に譲ってもらえないかなあと思い、それとなく

「これ、Kさんが使ったら多くの難病の人を助けられると思いますよ。」とふくませておきました。

「そうやね。息子(奥様の弟)に渡しても面倒みきれんかもしれないからね。お大師さまと親しんでいた地蔵さまもそうでしょうな。」とお父さんもうすうすそのほうがいいと思っているのか、否定はしませんでした。お父さんはこうした神具は長男が家と共にひきつぐものと心に決めていたようですが、おそらく奥様の変身ぶりを見て、息子よりも娘に預けるべきだと理解されたのだと思います。

 「あのう、石を持って帰ってもいいでしょうか?」と私は大胆にお父さんに頼んでみました。

「ちょっと、それは待ってほしいですな。」とあまりにも悲しそうな表情を見せます。お父さんにとってこの石は亡き母の形見で心のよりどころの一つになっていたのでした。私は悪いことを言ってしまったなあと思い

「そうですよね。いきなりすぎますよね。すいませんでした。」と私は切り返しました。

 しかし、その瞬間、奥様が手に持っていた石が急に熱くなったそうです。

「この石、私のところに来たがってる。」と奥様がぼそっとお父様に聞こえないくらいの声で言います。

「じゃあ、石を元の場所に返しておきます。」と言って私は奥様に合図をし、部屋の奥に行くと、再び石が発熱して奥様に合図を送ります。

「この石、モンちゃんみたい。」

もんちゃんはうちで飼ってるインコの名前です。もんちゃんはいつも奥様の長い髪の毛の中に入り込み、うなじのところに居座って離れません。手のひらサイズの黒い楕円形のこの石もまるでなついたペットのように奥様に合図を送るようです。

 私と奥様は元の場所に行き、奥様は

「ごめんなさい。また必ずここにきて連れて帰りますから、もう少し待っててください。」と奥様は石に向かって話しかけ、そっと石を部屋の元の場所に置きました。

私も「時期が来ればかならずお迎えに参ります。約束します。それまでもうしばらくお待ちください。」と言いました。石が奥様になつくというのも変な話ですが、奥様にはその感覚がわかったそうです。

 私たちはこれまで意識体が生き物にだけ宿るのではなく、物体(石や仏像・絵など)にも宿ることを何度も見てきました。この小さな黒い丸い石にも意識体が宿っていると、私は奥様を通して感じました。そして病気の方々のために、そして奥様のために、この石は役に立ちたがっているように思えました。