第七十二話 遠隔の臭い

 私と奥様は釜寅の釜めし(出前サービス)が好きでよく注文をします。休みの日は外に出かけたくないので(引きこもりです)最近は釜寅(デリバリーサービス)の利用頻度が増えています。

 今日はその出前のときにおもしろい現象が奥様に起こりました。釜寅の人がやってきてマンションのオートロックの扉を開錠してから玄関まで上がってくるまでのできごとです。

「あら、釜めしのにおいがする。おもしろい。」といきなり言い出します。普通に聞けばこのセリフは精神異常者の発言です。するはずもないにおいがするのですから幻臭です。ですが私はそう考えません。

「多分波動を感じる力が強くなったんだね。もともと臭いなんてものはこの世にないものだからね。神経が臭いの粒子に反応しているだけであって、K(奥様)の場合は波動を感じる脳を持っているんだから釜飯の波動を感じ取って臭いとして脳がとらえるのはあり得るよね。T先生が波動を視覚でとらえることができるのと同じ原理だよね。」とあっさり私は肯定します。

「まあ、気のせいかもしれないけど。」と奥様は少し自信なさそうでしたが、私はそんなことはない、そのうちT先生のように波動を視神経(視覚野)でとらえることができるようになると思っています。

 私は波動の話をするときに、よくコウモリの話を持ち出します。コウモリは光のない暗闇の中を自由に動き回ることができますが、それは私たちと違って光の波動を感じ取って見ているのではなく、音の波動を感じ取って物体を見ているからであることがわかっています。コウモリは音で物体を見ているわけです。超音波診断装置のように。

 これと同じようにこの世には波動を視覚としてとらえることができるのがT先生やO先生ですし、波動を温覚がとらえれば温かく感じることができます。普通の人でも奥様の波動を温覚がとらえていますから、奥様がご加持すると「温かい」と言われるわけです。本当に温度が上がっている必要はありません。温覚が興奮すれば温かく感じるわけですから。

 釜めしが発する波動を脳が感知して奥様の嗅覚を刺激するということは、奥様になら普通にありうることです。

 波動に関してはまだまだわからないことばかりです。仮に釜めしの波動が奥様に伝わったとして、その波動は壁を貫通するのか? 距離との関係は? など不明な点が多いのです。ただ、推測できることは、波動はそこらじゅうにあるのだけれど、ラジオのように可変コンデンサーがあり、周波数が同調しなければその波動を受信しないと考えます。しかし、強烈な波動はコンデンサーを無視して強制的に脳に入り込んでこびりつく。そして距離を飛び越えて伝わる可能性があると考えています。波動による遠隔治療ができることがその証拠になっています。 まあ、真実の解明にはまだまだかかりそうですが、すでに英国の分子生物学者や物理学者が解明に取り組んでいるという話もあります。この物語がそのヒントになればいいと思っています。