ステロイドの薬害を考察する

はじめに

ステロイドは体に生じている炎症を治療するための万能薬である。古くからある薬で薬価も安く、よって近い過去の医学界では特効薬として使用され、ステロイドの副作用が十分に認識されないまま濫用されるに至った。そして現在はその薬害がいろいろと報告され、効果は高いけれども使用を自重する時代となった。


しかしながら、ステロイドは医療関係者(医師・歯科医師・薬剤師・獣医)にも一般人にも誤解されているようだ。副作用や合併症のことを考慮し、用法用量を考えて使えば怖い薬ではないが、用法用量とは無関係に副作用だけが誇大に報告され、これを使用する医師たちが無法者と思われ不信感を抱かれ、ステロイドを使用する医者が犯罪者のように扱われてしまうまでに至っている。


もともとステロイドは体内から分泌されているものであり各自の体に不可欠なホルモンである。私はステロイド賛同者ではないが、誤解が蔓延している状態は医学界にとって非常に不利益である。まずはステロイドを知ろうというコンセプトである。無知だからこそ怖いのである。怖さは無知の証であろう。


ステロイドは普通に体内で分泌されている

ステロイドを悪者扱いするのはまずやめなければならない。なぜならばコルチゾルと呼ばれるステロイドは、毎日体内の副腎皮質というところで生産・分泌されているからだ。これを悪者扱いすることは生命体自体を悪者扱いにするに等しい。ステロイドは善でも悪でもなく体内で必要な時に必要な量が作られて分泌されるものである。必要なときとはどんなときか?それは人がストレスを受けた時である。


精神的ストレス・肉体的ストレス・打撲・やけど・炎症などの物理的ストレス・ウイルス感染・不眠などなど、生体にとって「不利なこと」があった時に、炎症して燃えている個所を消火するために分泌される。だから定期的に分泌されるわけではないし、分泌され続ける期間も一定していない。「いやなこと」が長く続けば、ステロイドはずっと分泌され続ける。短ければ短期間しか分泌されない。


分泌される量もまちまちである。全身やけどを負った時などはステロイドが超多量に分泌される。満員電車のストレスはステロイドを少量分泌させる。気分とも連動し、強い嫌悪や強い不快感は多く分泌させる。よってステロイドを悪者扱いすること、怖がることをまずやめよう。ステロイドは薬を服用しなくても、自分の体内から分泌されているのだから。


しかし、ステロイドが開発された初期の頃に誤解されたエピソードとしてこういうものがある。ステロイドはストレスを受けた時に多く分泌されるという、ストレスとステロイドの関連性が発見された当時、このホルモンは「ストレスホルモン」と呼ばれ、「ストレスの原因となるホルモン」という汚名を着せられたという経緯がある。医者とは愚かで無知である。どれほど勉強していてもそれほどでしかない。ストレスによる体内の炎症を鎮静化させるためにステロイドが分泌されているというのに、当時の医者たちにはストレスの原因と誤解したのである。


ステロイドは救世主

ステロイドは悪ではなく、救世主に近い。ストレスがある時、体内のどこかでは火事が起こっている。火事という言い方は非科学的であるように思えるが、実はとても科学的である。なぜならば、そこでは実際に酸素が消費され熱が作られ化学反応が起こっているからである。深く悩んでいる時は脳で火事が起こっているし、足をぶつけたらぶつけたところで起こっているし、食べ過ぎた時は胃腸で起こっている。それらの火事は炎症箇所を生体に警告するためのものであって、適切な処置として火事がおこっているわけではない。


生体は傷ついたところを修理するために脳に対して「動くな、じっとしてろ」という警告をする。その警告のために炎症を起こして痛みを起こし、脳に苦痛を与えようとする。それが炎症であり、炎症を放っておくと隣接地帯にも延焼が起こり炎症が拡大する。


 

そこでステロイドが登場する。副腎皮質から分泌されたステロイド(コルチゾル)は血液に乗って各所に行き、現場で消火作業を行うのである。自分の不注意や不摂生で体内のどこかを傷つける→傷つけられた箇所は怒り狂ったようにその場に火事を巻き起こし脳に罰を与える→その罰を断ち切って脳に安らぎと赦しを与えてくれるのがステロイド。これが救世主と呼ぶ理由である。


ステロイドは風邪の諸症状を劇的に改善させる

インフルエンザにかかり体内にウイルスの感染症が起こると、炎症は全身で発生する。のどや気管支、肺や腸だけではなく、全ての内臓(心臓も含む)、脳、脊髄、そして全ての関節で炎症が起こる。炎症は実際の火事と同じで、局所に熱が発生し体温が上昇する。熱が出るのは炎症による物理的な熱エネルギー発生のためである。


さて、私がまだ医者になりたての頃(20年前)は感冒症状にステロイドを投与する内科医がまだまだ全国にざらに存在していた。なぜなら、ステロイドを注射すると熱も痛みも苦しみも、まるで魔法をかけたごとく瞬時に治ってしまうからである。かぜが嘘のように吹き飛ぶのである。ところが、ステロイドの副作用がその頃から取り沙汰されるようになり、ステロイドを感冒症状の改善に使用する医者は「悪者である」と犯罪者のように扱う風潮に変わった。よって現在は感冒症状の改善のためにステロイドを使用する医者はまずいない。


さて、この状況を素晴らしいことであると考えるのは賢明ではない。ステロイドは風邪をひいたとき、体内からは多量に分泌されていることを忘れてはいけない。炎症が起きている時は必ずステロイドが多量に分泌される。それは必要であるから分泌されるのである。ウイルスに感染し熱が40℃近くになっているときは、ステロイドの分泌量が追い付いていないと思われる。ならば補ってやるのが真の医学というものである。


40℃の熱は脳を実際に焼き切ってしまう熱である。熱があるほどウイルスが死にやすいという学者もいるがウイルスが40℃程度で死滅すると考えるのは浅はかすぎるだろう。 ステロイドは炎症を抑えるとともに免疫機能も抑える。よって免疫機能の抑制こそがウイルス感染を増長させると考えるためステロイドは禁忌とされる。


だが、もう一度言う。実際にはウイルス感染の際、副腎皮質はフル回転してステロイドを生産している。それが足りていない分を補うことを普通に治療であると考えなければならない。しかし、補いすぎると免疫抑制の反動が来る。そのさじ加減が研究されていないから「ステロイドが悪者扱い」されているという真実に目を向ける必要がある。 真実はとても複雑で、今の医学でも解明できていない。だから触らぬ神にたたりなしとステロイドを触らぬ神扱いしている。さて、問題になるのは副腎皮質の機能が低下、または下垂体機能の低下している人がインフルエンザでウイルス感染したらどうなるのかである。


副腎(下垂体)不全の患者はウイルス感染で死亡もあり得る(推論)

ウイルスが感染し全身に炎症が起こると過剰な炎症が起こる。適当な炎症ではなく過剰な炎症であるので過剰分はステロイド分泌で抑える必要がある。しかし、ステロイド分泌が不十分であると熱が上昇し炎症が拡大、全身のあらゆる組織が炎症性の浮腫で血行不良となり、組織が壊れてゆく。副腎(下垂体)不全があるとテロイドが分泌されないためウイルス感染で突然死しやすいと思われる。


よって、こういう状態の患者を救うにはステロイドを投与する以外に方法はなく、ステロイド治療が唯一の救命行為となる。一昔前なら、こういう状態の患者にステロイドを投与する医者はごまんといたであろう。しかし現在は皆無である。よって救命できずに死去することになる。


問題は副腎(下垂体)不全を想定している医者がほぼゼロに近いことである。副腎(下垂体)不全はごく少量のステロイドでも長期(2週間以上)に使用すると発症しうることを私は受け持ち患者のACTHやコルチゾルを測定することではじめて認識した。しかも、高コレステロール血症との関連があり、コレステロール血症の既往がある者はごく少量のステロイドでもACTHが0になる確率が4割もあることを知った。 問題は、「少量だから大丈夫」と思って長期間ステロイドを投与していると高コレステロール血症の人では下垂体機能低下、副腎機能低下となる可能性があることである。


 

副腎不全や下垂体機能低下症は症状が全く現れないことも多く、そうした患者がウイルス感染を起こした時に、体内のステロイドが分泌されないまま重症化(最悪の場合死亡)する可能性がある。


 

高コレステロール、ごく少量のステロイドの2週間以上の投与、の3つがそろうと、副腎不全や下垂体機能低下症を来し、他の病気にかかると重症化する可能性がある。ステロイドが体内から正しく分泌されなくなると、人間にとっては致命傷であることを知っている医者は多くない。よってアトピー性皮膚炎の治療、ぜんそくの治療、アレルギー性鼻炎、経口避妊薬の使用などでステロイドを常用していると、インフルエンザで死亡することもあると考える。これは若い年代でも危険である。


機転をきかしてインフルエンザで症状悪化の患者にステロイドを服用させることのできる医者はほとんどいないだろう。そこまで度胸と診断力のある医者は稀にしかいない。だが、実際に体内ステロイドの分泌不足でインフルエンザ感染が重症化して死んでしまった人は世界じゅうに多々いると思われる(特に高齢者)。ステロイドを使用すれば救えた命だったかもしれない。


ステロイドを使う医者は悪者なのだから、もしもインフルエンザの患者にステロイドを使用しても患者を救えることができずに死亡させてしまった場合、おそらくその医者は「ステロイド使用で感染を悪化させて殺した」と言われ、訴えられる可能性が十分にある。このような状況でステロイドを使用の英断を下せる医者は世界にいないだろう。


水虫治療にステロイド軟膏という常識・非常識

水虫(白癬)では真菌の繁殖のせいで皮膚にトンネルができる。そのトンネルから細菌が侵入し、しばしば足に感染が起こって膿がたまる。この膿は静脈炎やリンパ管炎を起こし、悪化すると感染が下肢全体に広がり重症化する。下肢の化膿(白癬二次感染)を治す方法は局所の安静と抗生剤の点滴しかないかのように思われている。しかし実際は抗生剤だけではなかなか治らない。その理由は足が腫れ過ぎて血行不良が起こり抗生剤が局所に到達しにくいからである。


では賢明な医者はどうするかというと、水虫で脹れた足全体に、まずはたっぷりステロイド軟膏を塗るのである。白癬にステロイド禁忌といわれているが、そんな定石は無視してステロイドを塗る。そうすると腫れは劇的に改善し抗生剤が局所に行き渡るようになり、結果的に劇的に下肢の感染が治る。こういった、教科書に禁忌と書いてある手法で劇的に白癬二次感染を治せることを知っている医者は何割いるのだろうか?と考えてしまう。


整形外科領域でのステロイドの誤解

ストレスの時に分泌されるホルモンなので「ストレスを起こす」と誤解された経緯をもつこのホルモンは、整形外科領域でもいまだに誤解されたままである。整形外科領域では腱鞘炎などで痛みと腫れが強い時に、ステロイドを局所に注射して痛みと炎症を抑えるという治療をする。しかし、炎症が長く続くと腱は弾力性を失い、硬く肥厚し容易に断裂する。硬くなって劣化したゴムと同じ原理である。引き伸ばすと切れるのである。


ところが整形外科では腱はステロイドを注射することで細くなってきれやすくなると誤解されたまま、いまだに修正されていない。確かに腫れた腱にステロイドを注射すると、腫れが引いて細くなる。だからといって、細くなったのが切れる理由ではない。再三の炎症で腱が硬化して弾力性を失うために切れるのである。これが真実であることはアキレス腱が断裂する経過を観察すればよい。


患者のアキレス腱は炎症と共に太くなり硬くなり、そしてステロイドを使用しなくても断裂する。ちなみにステロイドを使用すると腫れているアキレス腱は腫れが引いて細くなる。ステロイドは炎症を鎮めているだけで、切れやすくしているわけではない。アキレス腱は細く弾力性があったほうが切れにくい。


もともと炎症が極めて強い人にのみ腱にステロイド注射を使用するわけであるから、ステロイド使用と腱の炎症(硬化)程度は相関し、ステロイド使用と切れやすさとも相関する。よって統計学的にはステロイド使用と腱の切れやすさは相関ありということになる。これが誤解の原因である。ステロイドは炎症を抑え、腱を切れにくい方向に進めているのに、ステロイドが腱を断裂させると思われている。


膠原病内科でのステロイド誤解

膠原病内科では治療薬としてステロイドを使用することは今も行われている。膠原病の患者は自己抗体の活動が活発であるがゆえにあらゆる組織のターンオーバーが早い。ターンオーバーとは、細胞が生まれてから死亡してマクロファージに食されるという細胞の一生のサイクルである。ターンオーバーが早いと皮膚は薄くそして赤ん坊の肌のように透き通る。白魚のような肌になる。


ところが私の知っているとある膠原病内科の女医は「この方は長年ステロイドを使ってらっしゃったので皮膚が薄く弱くなっているんです」と私に説明してくれた。この医者はステロイドが皮膚を弱くしていると思っている。 一応、真実を述べておくと、ステロイドと皮膚や腱の非薄化や弱体化は科学的に証明されているわけではない。関連が推測されているだけである。推測が正しいとは限らない。


誤解はこの他にも整形外科領域では多々ある。ステロイドを注射していた患者の膝の骨壊死を示し、「これがステロイド性関節症である」と述べていたりする(真の因果関係が解明されていない)。もともと骨壊死を起こしそうなほどに重症な人にしかステロイドを使用しない。また、問題はどれくらいの量を使用してそうなったかであり、「使うな」と述べるのではなく、どのくらいの使用量なら骨壊死が起こらないのかをきちんと研究してほしい。


ステロイドが分泌されないと…

もともと人間の細胞は一つ一つが協力し合って生きている。だが、主が細胞にとって悪い行い(傷つける行い)をした場合にはその場で炎症という火事を作って主に罰を与えるというシステムを持つ。逆に良い行いをした場合は快感ホルモンを分泌させて報酬を与える。これが罰と報酬のシステムであり、生体は罰を避け、快を求めようと自動的に動くと子孫が増えるという仕組みを持つ。人間に限らず動物全体がおそらくそうであろう。


 

傷ついた細胞が引き起こす火事はかなり悪質で、これを無視していると火事は拡大する。それでも無視をすると全身に火事が起こり死に至ることもある。ステロイドは全身がまる焼けになる前に消火器として働くのだが、もしもこの消火器が働かないと…人は簡単に突然死する。あなたの周囲に突然死した人はいないだろうか? もちろん突然死の原因は不明だろうが、そこにはステロイド分泌が正しく行われなかった可能性がある。インフルエンザにかかって体のあちこちで炎症が起こる。もしその時にステロイドが分泌されなかったら…おそらく様々な突然死にステロイドホルモンの分泌異常がかかわっている。


癌の末期の救世主

ステロイドは癌の末期患者にも元気を取り戻させることは有名な話である。なぜなら、癌が体を破壊するおかげで消せない大火事があちこちで起こるが、その火事をステロイドが消してくれるからだ。癌末期の体中火事だらけの状態を悪液質と呼ぶが、そこにステロイドを与えると一時的に火が消えて元気になる。だが癌の火は休むことなく燃え続けるので、やがては消火活動が追い付かず、最後には死に至る。


ステロイドホルモンという歯車

「ステロイドホルモンは○○の役割がある」と一言では言えない。なぜならそれは体内の歯車の一つであり、一つの歯車が回転すれば、それに連動してあらゆるホルモンが連動して動くからである。よってステロイドの副作用を述べようと思ってみたところで、ステロイドの影響は体内のあらゆる器官に及ぶので全てを言えない。それは現医学の水準でさえ、全てを把握しきれていない。医師によってステロイドの理解力に大差がある理由もそこにある。歯車の回転の先に何があるのかまで考えるか考えないかで差が出る。


たとえばステロイドは下垂体にネガティブフィードバックをかける。つまり下垂体の歯車の動きを止めるわけであるが、これが果たして下垂体で分泌される他のホルモンにどのような作用を及ぼすかを考える医者と、そこまで考えられない医者とで理解力に大きな差が出るわけである。考えるか考えないかは、その医者が教授であるとか博士であるということとは無関係である。地位があって知能指数が高い医師でも、考えない者は考えない。なぜならここから先は医学が追い付いていない領域であり、考える医者は妄想と言われかねないからである。 よってステロイドホルモンの全てを理解することは現医学では不可能に近い。


ステロイドホルモンの下垂体へのネガティブフィードバック

ステロイドホルモンを長期大量に投与すると副腎の機能が抑制される。ステロイドは(コルチゾル)は副腎で作られるホルモンであるから、それが体内に増えると「副腎での生産をやめなさい」と命令が下るのは理解できる。下垂体のACTHはステロイドを分泌せよという命令を下す副腎皮質刺激ホルモンであるが、ステロイドを多量に投与されると下垂体へのネガティブフィードバックがかかり、ACTHが分泌されなくなる。


心配なのは分泌されなくなるのはACTHだけなのかということろである。若い女性がステロイドを服用すると生理が止まることを考えると、最低限、FSH(卵胞刺激ホルモン)も同時に抑制されていることがわかる。こう考えると分泌が低下するのはACTHだけではなく、下垂体機能の多くにかかわると思われる。


私は、高コレステロール血症の人が少量のステロイド投与でもACTHが激減することを発見した。これは大変な事実である。高コレステロール血症の人にごく少量のステロイドを使用しても下垂体機能低下症が起こり、長期間そういう状態が続けば体内のいろいろな歯車が狂いだすからだ。こ高コレステロール血症が下垂体に与える影響を考えると、無視できない恐ろしい病気である。文


ステロイドの安全使用量を考える

ステロイドの長期大量投与で様々な悪影響があることは既知であるが、大量とはどの量なのかの認識はないに等しい。ステロイド性骨粗鬆症の定義は3か月以上1日5mgないし7mgを毎日投与されていることを定義としている者が多い。これより長期投与の概念は5mg以上を毎日3か月以上と考えることにする。つまり、1日に5mg未満では少量と考えられているという医学界の常識があることがわかる。


 

しかし、これが誤りであることは多くの内科医が感じている。1日5mg以下でも副腎皮質機能不全が起こりうることを知っているからである。いや、知っていてほしい。またケナコルト(トリアムシノロンアセトニド)ではステロイド3週間持続投与と同じ効果が現れるため、副腎抑制も長期間起こることが知られている。


 

一般的に5mg未満が安全投与圏と思われているが実情は違う。患者の個々の感受性により副腎抑制の程度が異なる。このことは私が調査した(後述する)。さて、ここで大切なことはステロイドの副作用は、二段階に考えることである。中等量以上で出現する副作用と少量で出現する副作用である。一般的に言われている副作用は中等量以上の使用で言われているものが多い。


例えば高コレステロール、高血糖、高血圧、電解質異常、骨粗鬆症などは中等量以上の使用で現れやすく、少量投与では現れない。実際、私は糖尿病の既往のない整形外科に通院している患者にプレドニン換算で1日約0.8mgというステロイドの極少量持続投与を行った場合、高コレステロール、高血糖、高血圧、電解質異常などはほとんど認められなかった。つまり少量持続投与では一般的に語られているような副作用は出現しない。


しかしステロイドの少量投与でも合併症を持つ患者では異常が現れることがわかった。それはコレステロールと血糖である。糖尿病治療中の患者ではステロイドをごく少量用いても血糖値が上がることは既知であろう。しかし高コレステロール血症の者がごく少量のステロイドでもACTHが有意に低下することを発見したのは私が初めてかもしれない。


別に私が世界で初めてかどうかは私にとって関心はない。それよりも、ステロイドは合併症を持つ者にとっては少量でも副作用が発現するということを認識しておかなければならないという点が重要なのだ。これまで、ステロイドは糖尿病を悪化させることは言われていたが、高コレステロール血症でも下垂体機能が低下するということが判明するとステロイドの使用についてはとても慎重にならざるを得ない。


なぜならば高齢者のかなり多くの割合に高コレステロール血症の既往があるからだ。糖尿病の比ではない。全国で2000万人を超えると言われる。さらにステロイドホルモンが体内で他のホルモン(甲状腺ホルモンや副甲状腺ホルモン、MSHなど)にどういう影響をおよぼすかなどの詳細はまだまだ全てが解明されていないので何が起こっているのか得体が知れないところがある。


ここでイイタイことはステロイドの安全な使用量というものが存在しないことである。他の内分泌異常との組み合わせで少量ステロイドでも副作用が現れる。よって安全量は個々の患者で設定する必要がある。ただし、そんな面倒なことを誰がするのかという問題点がある。ケナコルトなどは1度の使用でも3週間持続投与と同じ意味を持つのでたとえワンショットであっても、安全量の設定のためにACTH、コルチゾル、血糖、コレステロール、電解質などを測定しておくべきであろう。


ステロイド副作用の2段階

ステロイドの副作用は2段階に分けて考える。一つは単独で起こる副作用。もう一つは合併で起こる副作用である。単独で起こる副作用は中等量以上の使用で起こる。他の内分泌異常との合併で起こる副作用は少量でも起こる。以下に少量でも起こる副作用と、中等量以上投与で起こる副作用を列挙する。

少量でも起こる副作用 中等量以上で起こる副作用
顔の火照り、発汗異常、かゆみ、生理不順、注射部の毛細血管拡張、皮下出血、意欲低下、倦怠感、種々の疾患の重症化、糖尿病既往者の血糖上昇(膵炎)、むくみ、中心性肥満、血圧上昇 静脈血栓、コレステロール値上昇、電解質異常、骨粗鬆症、骨の無腐性壊死、感染症、消化管出血、動脈硬化、尿路結石、精神異常

そして最後に少量長期投与で下垂体機能低下が起こり得る。とくに高コレステロール血症の人で生じる(これは私が発見した)。まず、ステロイドの副作用は誤解も多いことを認識しておきたい。ステロイドと症状の因果関係は現医学知識で解明できるほどシンプルではない。何度も言うようにステロイドは歯車の一つであり、ステロイドが他の異常な歯車と噛み合うことで症状を起こすので、ステロイド単独の仕業ではないことも多いからだ。


私はこれまで低用量のステロイドを臨床現場で持続的に用い、その副作用を長年観察し続けた。その結果、低用量でも起こりうる症状を挙げたものがこの表である。つまり実際に経験している。少量でも起こる副作用は、おそらく他の基礎疾患との絡みで出現するものと推測する(解明されていないが)。副腎不全や下垂体機能低下は敢えて記載しなかったが、少量で起こる副作用に含まれる。左の欄の症状は副腎不全や下垂体機能低下と関連しているものが多いと思われる。


右の欄の症状は中等量以上で起こる副作用であるが、当然ながら左の欄の症状も起こる。つまり中等量以上の使用ではこの左右の欄の両方の症状が起こる。あえて、二つに分けた理由は「少量のステロイドなら大丈夫だろう」と過信していると危険であるということを示すためである。


下垂体機能低下症は物言わぬ

下垂体機能低下症のホームページに「ステロイド使用による下垂体機能低下」という項目がないことに驚いている。さらに某有名な書籍「今日の治療薬」のステロイドの副作用の欄にも下垂体機能低下は見当たらない。ステロイドでACTHが低下することは「医学の常識」ではないようである。私の調査では少量のステロイドを使用しACTHが低下することを全体の約20%の割合で出現することを確かめている(高コレステロール血症と下垂体機能低下症の関連調査参)。しかもACTHの低下は一瞬ではなく長期化することも確認している。


しかしながらステロイドが原因と思われる長期間ACTHが低下し続けていたであろう症例は見た目に非常に健康で副作用の発現も全くなく、一般的な生化学的検査においてもほとんど変化がなかった。ただACTHとコルチゾルが低いのみである。つまり、症状は何もない。


そしてステロイドを中止してからACTHが復活するまでに2か月以上を必要とするところが非常に気持ち悪い。もしも、この症例がACTHが正常になるまでの2か月間に肺炎や腸炎などの感染症に罹患したらどうなるだろうと危惧してしまう。ACTHはおそらく無反応であるため副腎皮質ホルモンは分泌されないだろう。そうしたときに感染症による炎症を鎮める手段がなく、症状が重症化することが予想される。


症状が重症化した場合の唯一の治療法は副腎皮質ホルモンを投薬するのみである。しかしながらこの勇気ある英断に踏み切ることのできる医師は少ない。各学会でこれほどまでにステロイド叩きが行われている現在、ステロイドを使用することに踏み切る医師は異端児扱いされて破門されるおそれがある。


まとめ

  • ステロイドは副腎から分泌されるホルモンで怖いものでも悪者でもない
  • ステロイドが起因している副作用は事実かどうかの確実性が低く誤解が多い
  • ステロイドの副作用は少ないから大丈夫という安全域がなく個人で異なる
  • 高コレステロール血症の人では少量ステロイド長期投与で下垂体機能低下となりやすい
  • ステロイドを適切に使用しなければ感染時に高熱で死に至ることもある
  • ステロイドの副作用は少量なら大丈夫という神話は崩れた
  • ステロイドを使用するのであれば最低でもコレステロール、ACTH、コルチゾルの計測を義務付けるべきである。特にステロイドを多用する皮膚科や耳鼻科で。
  • 概してステロイドを使用する医師にステロイドのことを教育していく必要があると思われた