第六十七話 ゴーストバスターズ(三叉神経痛「完治」話)

 最近は家に帰ると奥様と海外ドラマを見るのがほぼ日課となっています。私たちの仕事は極めて精神に負担がかかるらしく、家に帰ると風呂にも入る元気がなく、早い時刻に睡魔に襲われます。そしてHuluで海外ドラマを見ながら横になっているといつの間に寝ているということを繰り返しています。ですから、まともにドラマを見ることができるのは休日前夜くらいなものですが・・・その中で最近興味を持ったのは「コンスタンチン」という悪魔祓い系のドラマです。

 霊が人々に乗り移って悪さをしたり、悪魔が人々を苦しめたり、そうして起こるオカルト事件を解決する霊能者の話です。普通の人がこれを見れば、フィクションにしか見えませんが、奥様は毎日のように体験していることとこのドラマの内容がよく似ているのでリアルな話を誇張しただけのように思えるのです。

「このドラマ、うまくできている。悪魔が乗り移ったときに、顔がひくひくしたり、のけ反ったり、不吉な笑いをするところなんか、全く私と同じだ。」と奥様は言います。

 私も奥様に別の意識体が侵入する場面をしばしば見てきましたからこのドラマが現実を上手に再現していることはわかります。

「そうだね、このドラマ、ディレクションしている人は多分霊能者だよね。」と私も頷きます。

「でも、こういうゴーストバスターの仕事って絶対にやりたくないよね。身がもたないから。」と私は奥様に言います。

「そうだけどお役目だからな。」と奥様は考え深いようです。実際にはこうした悪魔祓いを奥様は毎日のように行っています。やらざるを得なくてやっています。まるでエクソシストです。

そんな中、今日は二人のSさん(イニシャルが同じで先輩後輩同志)が来院しました。30代の男性で学生時代の部活の先輩後輩だそうです。が、これまた症状も非常によく似ています。非典型的な三叉神経痛です。頭痛、目の奥の痛み、眉間の痛みなどが主訴で、頭全体が重く、仕事にもならないほど重症であり、しかし西洋医学では何をやっても治りません。二人の症状があまりにも似ているので奥様はこの二人が来院当初から何か良からぬものを感じていたと言います。

 奥様のご加持は頭痛をやわらげる効果がかなり強く、私も片頭痛を治してもらったことがあります。ですが、患者にもご加持の意味を理解していただくために、私は多少、波動や霊のようなものの話を、信頼関係を結べている患者には話します。それはいわゆる霊障を患者が背負っている場合があるからなのです。

 私はブロックで三叉神経痛を含むさまざまな頭痛を改善させるという特殊な技術を持ちますが、しかし、その原因が意識体(霊体)であった場合、そちらを除去できなければ永遠に再発を繰り返してしまいます。それを取り除くためには奥様のようなゴーストバスターが必要なのです。が、まずはそういうことに理解があるかどうかを患者にきいて確かめなければなりません。

実際、2人のうち1人は、8月からブロック治療を開始したものの、寛解と再発を繰り返し、なかなか完治しません。来院できないときはやむなく痛み止めを飲むが、それでも我慢できなく夜も眠れないレベルになるなど痛みが根絶できずにいました。

そこで、2017年8月から来院して三叉神経痛の改善にまでいたらなった1人に奥様が加持を開始。加持を受ける患者本人は

「目に見えない力は信じますのでお任せします!」興味津々のようだったといいます。

さっそく頭部の加持開始直後、「うわぁ~どんどん熱くなります!灼熱感ありありです。私が汗だくなる!」と奥様がびっくりした様子。

加持を受けている本人も「わわ!わかります!熱い熱い!頭が」と驚きをかくせません。すると、「あれ?鼻の奥のつまり感とだるさがなくなってます!」とうれしそう。奥様も「よかったですね!」と一緒になって喜びます。

ご加持を受けたほうのSさんは、毎月通よわなければ痛みに耐えられなかったのに、ご加持を受けた直後は2ヵ月後の来院でも良くなるまでに改善していました。本人も驚きと喜びに溢れていたそうです。なんせ、何十年続いた痛みですから。

奥様はSさんの驚異的な回復ぶりをみて「痛みを根絶する!」とますますがんばりに火がつきました。そして、奥様は別室でもう1人のSさんと2人に共通した霊的な現象がないかを探り出すことにしました。

そこで、「Kさん(奥様)はご加持で波動を送って治療できることは知ってますよね。ですが、波動と言うものは治す波動もあれば悪化させる波動もあるのですよ。悪化させる波動の中には意識(意志)を持つものがあるんです。それを一般の人は霊と呼んでいるわけですけどね。怨霊みたいなものもあるんです。たとえば平将門の首塚って知ってます?」と二人のSさんのうち、後輩の方に私は話しかけます。

「はい、知ってますす。実は心当たりがあるんです。」

と、この返答には正直驚く私です。心当たりなんてないのが普通です。

「実は以前後輩と二人で平将門の首塚に言って写真を撮って、ブログに上げてキック・パンチなんてふざけてたことがあるんです。その頃からこの頭痛が始まって・・・それで会社も辞めることになったんです。」と言い出すものだから私はびっくり仰天です。

平将門の怨霊は日本の上層部には認識されていて、大手建設会社さえ怨霊の土地を避けて周辺の土地開発を行わないことが暗黙の了解になっていることは前にも述べました。山手線が鉄の結界であり、怨霊の力を弱めるために作っていることも裏では常識になっているほどです。そうした強大な怨霊がこの病気のきっかけになっているとすれば、それはそれは厄介であり、下手をすればその除去に関わった者の命が危ないでしょう。

 私は奥様のところへ行き、「Sさんの症状は霊障かもしれないよ。本人も心当たりがあるって言ってるし。」

「わかった。さぐってみる。」と奥様。本当に勇敢な奥様です。

「もしかすると平将門の怨霊かもよ」と言うと

「いやあ、なんか違うと思う。」と言われてしまいました。さすが奥様。雰囲気でわかるらしいです。が、とにかく探ってくれるようです。

奥様はこの二人に共通した何かがあるのではないかと推理したようです。ただし、霊障系は個人のプライベートな部分に土足でつっこんで行っていろいろと聞きださなければならないので信じた者しか探ってあげることができません。

 過去の心痛い行いが原因となっていることが多く、例えば犯罪、例えば中絶、例えば生い立ち、例えば先祖の悪行などなど、それらを訊きださなければ解決できないからです。

「うわあ~すごい。すごい原因があった。やばいレベル。後で話しますね。」と。

 何事があったのか気になりながらも、外来が忙しいので詳しく聞いている暇はありません。ようやく外来が落ち着き

「さっきの話だけどSさんのこと教えてくれる?」と私は奥様に訊ねます。

「あの二人があまりにも症状が似ているので共通した事件がないかどうかを探ってみたんです。するとあったんです。同じ部活の親しくしている友達が交通事故で亡くなったんですって。その事故は停車中に猛スピードで追突されて、ガソリンに火がついて焼死だったそうなんです。」

「その亡くなり方は普通じゃないな。追突事故はそこらじゅうにあっても焼死っていうのはなかなかないよな。」

「それだけじゃなくて、お葬式の時にお母さんが息子の遺灰を全員に配ってその遺灰をなめさせたんですって。」

 後で調べたのですが遺灰を飲むという習慣は四国地方に残る稀な週間だそうです。故人を極楽浄土に導くために行い、そして故人との絆を深めるために親族が行うことだそうです。しかし、親族でもない者たちが故人と絆を作り、遺恨の念(波動)が他人に乗り移ったらどうなることでしょう。故人の死は焼死であり、おそらく強烈な苦痛を伴ったはず。その時に発生した念は極めて穏やかではないものであることは誰にでも想像できるでしょう。その遺恨の念を葬儀参列者に配ってしまったのか・・・。

「それすごい話だな」と、私は生唾を飲み込んでしまいました。

「二人がその話をした時に、全身がぞわぞわと来て、私に入ってきそうになったから間違いないと思う。」

「うわあ、最悪だなあ。」

「しかもね、その両親もその後すぐに亡くなったんですって。だから完全に血がとぎれたらしい。」

「それってたたられてるな。」

「そう。それでね明後日その二人をお寺に連れて行くことにしたの。二人とも納得したから。」

「そうか、護摩の火をあびてお払いできるといいな。」

明後日は8千枚護摩の最終日であり、練りこまれた強い波動のご利益がもっとも強い日です。なんとかその強い波動で成仏できていない二人の中の意識体を成仏させることができればいいのですが・・・

 怨念の強い意識体は生きている人間の力では払えません。平将門の怨霊は平安時代から現代にかけて、人間が誰も払うことができなかったことの証明でもあるわけです。お寺に連れて行くという奥様の発想は非常に正しいと思います。これを少々霊能力があるからといって払おうとすると、払った者に憑りつくことがあるでしょう。しかも、今回のケースは故人の先祖に極めて深く強い因縁があると思われ、下手に手を出すとその因縁も芋づる式に引きよせてしまうでしょう。

 この二人のSさんは他の人たちよりも波動(霊)への感受性が高かったために症状が出たのだと思います。

 奥様はこのように日常的にゴーストバスター業務を行っているわけです。何の因果かわかりませんが、海外ドラマのコンスタンチンのようなことは普通に毎日起こっているのです。本当に命を張って仕事をしているのです。

その後、最初のご加持で何十年と悩み続けた三叉神経痛が劇的に回復した1人は、お寺でのたった2回の護摩の火の供養と奥様の加持だけでなんと見事に「完治」させ、新しい職場への就職も見事成功させ、完全社会復帰に導きました。加持を受けてからわずか2ヶ月間の出来事です。奥様の師匠は最後の最後に残っていたSさんの頭痛の残りを綺麗に取り去ることができたのです。

もう1人のSさんは半分以上回復に導くことができましたが、身内の複雑な関係もあり、副鼻腔炎の手術を受けるために入院。その後はどうなったかはわかりませんが奥様は立派に治療に貢献しました。