神経ブロックに対するステロイドの有用性調査

調査対象

外来通院している患者のうち、長期に渡り診療し、2種類のステロイド(ケナコルトとハイコート)を使用して治療効果を比較することのできた22症例(男性12名、女性10名)に関し、「注射後何日間ラク(痛みがおおよそ半分以下)な状態が続きますか?」の質問に対し回答した日数の平均を記載。

ケナコルトの硬膜外ブロックへの適用

ケナコルトの硬膜外ブロックへの使用の安全性は確立されていない。これまで私はケナコルトを硬膜外ブロックに用いて治療を長年行ってきたが、不具合が生じた例はなかった。しかし、このことが安全性確立を意味しているわけではなく、使用を推奨するものでもない。私の硬膜外ブロックの技術はそれなりに高度に訓練され、さらにステロイドの副作用を研究して細心の注意を払っているからこそ事故が起こらなかったのかもしれない。よって軽はずみな使用はしないように警告しておく。現在、硬膜外ブロックのほとんどはキシロカインの単独投与のみであり、ステロイドを用いていない。それでも十分な効果が得られている。ケナコルトを用いるのは特殊な場合のみである。
Epi:腰部硬膜外ブロック  坐骨:坐骨神経ブロック  root:ルートブロック(ブラインド)  Xylo:1%Xylocaine  ハイコート:ハイコート 4mg  ケナ:ケナコルトA 10mg  IMC:間歇性跛行
症状 手技 Xylo ハイコート ケナコルト
1 63F 腰痛・左下腿痛 epi 1日 5日
2 75M 尿意頻回 IMC epi 無効 尿意半減続く
3 54M 右下肢しびれ・だるさ epi 7日 7日 14日
4 49M 腰痛・左坐骨部痛 坐骨 1日 2.5日 5日
5 37F 両下肢痛・右足甲しびれ epi 3日 3日 10日
6 86M 右下肢痛・右下腿筋力低下 root 1日 1日 3日
7 68M 右大腿痛・筋力低下 epi 2日 6日
8 77M 両下肢だるさ・筋力低下 root 軽くなる 歩行速度6倍(患者申告)
9 76M 左殿部・下肢痛 epi 2日 8.5日
10 71M 両坐骨部痛(DM) epi 2日 14日
11 78M 右下肢しびれ・筋力低下 epi 2日 6日
12 30M 左坐骨・大腿後面痛 epi 2日 10日
13 70M 左上肢痛、筋力低下・RA root 3.5日 3.5日 8.5日
14 67F 両肩甲帯痛(DM) root 3.5日 2か月
15 73M 右頚肩腕痛 root 2日 4日
16 23F 両下腿のだるい痛み epi 2.5日 7日
17 87F 両大腿痛 epi 1日 2日
18 57F 頚痛・右上肢痛・筋力低下 root 5日 9日日
19 62F 右殿部痛・腰痛 epi 3日 5日
20 64F 両下腿痛 epi 3.5日 8日
21 66F 左下腿痛・だるさ epi 3.5日 5日
22 58F 両上肢痛・右前腕筋力低下 root 2日 4日 8.5日

結果

1)1%Xylocaine単独と1%Xylocaine+ハイコート(リン酸ベタメタゾンナトリウム) 4mgを比較し、単独では平均2.9日、混注では平均3.5日と効果日数が微増した。しかし、効果日数が変わらない症例が6例中4例であり、残念ながらハイコートでの効果日数増加効果はほとんどなかった言わざるを得ない。症例数が少ないので参考データとする。
  2)1%Xylocaine単独と1%Xylocaine+ケナコルト10mgを比較した。症例2、8、14はそれぞれ永続的に効果が表れたが、これを加算すると一般的な比較論が言えないためここでは計算に入れない。比較できる11例で計算すると、単独で平均3.1日、混注で平均7.1日。治療効果日数は倍以上であった。これに症例2、8、14を加えれば、治療効果日数はもっと多い。
  3)1%Xylocaine+ハイコート(リン酸ベタメタゾンナトリウム) 4mgと1%Xylocaine+ケナコルト10mgを比較した(症例2、8、14は計算に入れない)。比較できる14例で計算すると、1%Xylocaine+ハイコートで平均効果日数 2.9日、1%Xylocaine+ケナコルト10mgで平均6.9日。治療効果日数は倍以上であった。これに症例2、8、14を加えれば、治療効果日数はもっと多い。
  4)手技での差はない  腰部硬膜外ブロック、腰部神経根ブロック(ブラインド)、頚部神経根ブロック(ブラインド)、坐骨神経ブロックの4手技を行ったが、手技間での大きな効果の違いはなかった。

考察

1)長期持続型ステロイドの治療効果は圧倒的威力を発揮する
  今回、ハイコートという水溶性のステロイドを用いた場合とケナコルトという非水溶性のステロイドを用いて、その効果を比較したが、ケナコルト10mgを用いた場合、その効果時間は2倍以上あることが判明。圧倒的な威力を発揮することが証明された。一般的に「神経ブロックにステロイドの効果は証明されない」と教科書的に宣言される場合、それは水溶性のステロイドを意味し、ケナコルトなどの非水溶性の長期持続型ステロイドを意味しない。
  したがって、これまで「ステロイドに効果なし」と唱ってきた者たちは長期持続型のステロイドを使用した経験がなかったと思われる。長期持続型ステロイドの有用性は他の水溶性ステロイド治療と比較にならないほどに高い。
  ケナコルト、デポメドロール、リンデロン懸濁液などに代表される長期持続型ステロイドは基本的に硬膜外ブロックなどの神経ブロックに保険適応が認められていない。したがってこれらの効果を試そうにも使用できなかった背景がある。硬膜外への使用は安全性の面で確立されていない(適用外)という意見もあるが、私が5年間、5千例以上に神経ブロックとしてケナコルトを使用しているがささいなトラブルでさえ生じたことは一度もない。また実際に私以外にもケナコルトを硬膜外に使用している医師をしばしばみかける。しかし、これは硬膜外ブロックでの使用を勧めているわけでは決してない。私は厳重な副作用管理の元に可能な限りの有効最小限量を研究しながら用いており、安全性を自ら構築して使用している。軽はずみに使うことを推奨しない。
  2)長期持続型ステロイドの圧倒的効果と有用性
  ハイコート、リンデロン、デカドロン、オルガドロンなどの水溶性のステロイドの作用時間は36~54時間とされる。したがって効果時間も2~3日と思われる。ただし、Xylocaine単独使用との差は認められなかった。
  一方、ケナコルト、デポメドロール、リンデロン懸濁液などは固形のまま局所にとどまり、約3週間後まで有効濃度が持続されると言われる。ケナコルトの半減期は1.5日であるのに3週間も有効濃度が持続される理由はその固形成分にある。固形として局所にとどまるのでゆっくりと吸収されていくからである。
  今回使用したケナコルトは10mgであり、ハイコート=リンデロンの力価の半分であるにもかかわらず、その効果時間は倍以上であった。つまり、治療効果はステロイドの濃度よりも持続時間に依存するようである。ケナコルト10mgが3週間かけて均等に体内にゆっくり吸収されていくと仮定すると、1日に約0.5mgのステロイドを体内に投薬しているに等しい。これはプレドニンに換算すると1日に0.6.25mgの経口投与と同じ分量である。
  少量のステロイド量であれば健康体の人ではあまり副作用を心配しなくてもよい量である。副作用については(ステロイドの薬効・薬害を参)。ケナコルトを使用することに恐怖を抱く人がいるが、それはケナコルトの力価や作用を知らないから恐れるのであり、きちんとそれらを理解すれば過剰な不安を示さないで済む。
仮にケナコルト40mgを局所注射したとして、それが3週間かけて体内に吸収されるとすると、1日に2mgのステロイド投薬と同じ作用となる。つまり、ケナコルトはトータルのステロイド使用量としてはそれほど多くならないということを認識しておいてもいいだろう。よって問題となるのはそれが24時間×3週間持続的に投与した状態と等しくなると言うところにある。1回の投与で3週間連続と同じ意味になるので、投与後は取り返しがつかない。
ケナコルトが10mgという微量でもその効果が絶大である理由は、局所にとどまるからであり、微量でも局所濃度は高いと考えられる。濃度が高いものが局所で数週間持続すれば、その効果は絶大であるが、局所組織のターンオーバーが強力に阻害されることを考えなければならない。
一方、水溶性のステロイドは比較的速やかに血液内に吸収されて全身にばらまかれるため、その効果は経口投与と対して変わりなくなる。すなわちハイコート4㎎の注射投与は局所にはとどまらないので、プレドニン25mgの経口投与に等しい。結局これはプレドニン5mgの錠剤を5錠一気に飲むことと等しく、全身にステロイドの副作用をまきちらすに等しい。この単純なDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)を理解している整形外科医は少ないと思われる。それが証拠に、米国のステロイドの討論で水溶性と固形のステロイドの区別(議論)は一切なされていない。
  一般的に整形外科医はリンデロンやデカドロンなどの水溶液を安全だからという理由で好み、ケナコルトなどの非水溶性のステロイドを異物性が高いからといって毛嫌いするが、それは無知がゆえの真逆の行為である。局所にとどまるケナコルトの方がステロイドの総使用量を減少させることができる。しかも効果が高い。ただし異物であることは確かである。よってアレルギー反応のチェックは必要である。
薬品名(商品名) 薬理作用の強さの比較 ミネラル作用 血中半減期 生物活性の半減期
コートリル 強い 70分 8~12時間
プレドニン やや強い 150分 12~36時間
メドロール なし 150分 12~36時間
ケナコルト なし 200分 24~36時間
リンデロン 25 なし 200分 36~54時間
デカドロン 30 なし 200分 36~54時間
宇多野病院 リウマチ・膠原病内科HPより転載

ケナコルト使用の応用

症状が寛解する効果時間が倍以上というケナコルトの作用時間をどうとらえるかが治療方針を大きく変える。ハイコート、あるいはキシロカイン単独の効果時間3日とケナコルトの7日では大差がないように思われるかもしれないがそうではない。
通常、神経ブロックは週に1回行う。その上で効果時間が7日あれば、痛みが再発する前に次のブロック注射を行うことができる。つまり治療効果を重ねることができるわけだが、この重ねの効果を繰り返し行うことで神経痛の患者の多くを治癒(姑息治療ではなく治癒)へと導くことができる。そして私はこの方法で実際に他の医者が投げ出すような難治性の脊柱管狭窄症患者を次々と寛解に向かわせた。これにより手術をしないでも症状を改善させることができるのである。
  4日しか効果がない者に対しても、週2回のブロックを行うことにより神経痛症状を寛解に導くことができる。ハイコート使用では次の週までに症状がぶり返してしまい、結局治療には力不足だったという経験を何度もしている。それに対しケナコルトは治療の重ね効果によって、ブロックすればするほど加速的に治療が進む。その効果の高さは、おそらく使用した者にしか理解できない。
効果時間が長いこと=治療の重ね効果を期待できる=改善へ向かわせることができる、ことを意味する(治療実績を見てほしい)。そういう意味では同じステロイドでも、ハイコートとケナコルトとでは天地の差がある。

症例数が少ない理由

信じられないかもしれないが、ケナコルトを用いた神経ブロック治療を行うと、その多くが1~3回以内に完治に近い状態になる(治療実績を参)。したがってハイコートとケナコルトの効果時間を比べる機会がほとんどない(ケナコルトを使用すると比べる前に治ってしまい、通院が終了する)。たまたま治療が長引いた症例の場合、ケナコルトを毎週使い続けるのは望ましくないため、隔週でケナコルトを使用するようになる。そうした症例のみハイコートやXylocaine単独との効果比較ができる。よって症例数が限られてしまう。

ケナコルトの使用例

実際どのような使用量をどんな間隔で、どのくらい継続させたのかの使用例を提示する。  
  • ○ケナコルト10㎎の隔週使用:これは4週間の総ステロイド量がプレドニン換算で25mg(約5錠)である。健全な人でこの量なら副腎不全や免疫力低下などがおこりにくい。注意は必要であるが緑内障や前立腺肥大の患者にもある程度使用できる。1年間使用し続けたとしても骨粗鬆症や中心性肥満などのリスクが少ない分量と言える。つまりケナコルト10mg隔週であれば注意しながらならば長期投薬が可能であると考える。ただ、そうであっても女性の患者の体重増加などには十分気にかけておく必要がある。
  •  ○ケナコルト10㎎の週1回×4週投与:これは絶大な治療効果を発揮する重ね投薬であり、難治性の神経痛症状でもほとんど寛解に導くことができる。28日で40mg投与は、プレドニン換算で50mg=1日1.7mgである。使用3週目にはステロイドが累積されるので免疫抑制などにも注意が必要である。4週連続の効果は絶大でありしかも体内に吸収されるトータルのステロイド量はプレドニン(5mg)の10錠分である。ただしこの場合1クール終了後、私は次のケナコルト使用までに3週間以上の間隔を開ける。連続使用で2か月以上継続は種々の副作用を引き起こす可能性が高いと思われる。
  •  ○ケナコルトの使用応用例:私はリウマチの患者の経口ステロイド、DMARDsなどの使用をゼロに抑え、痛みが出現した箇所全てにケナコルトの局所注射を行い、全て寛解に導いている。
こうすれば抗リウマチ薬はゼロでステロイドの総使用量を極限にまで抑え込むことができ、かつ患者の関節破壊を阻止できる。レミケードなどの副作用の極めて強い劇毒薬を気軽に使用することを進める最近のリウマチ治療に警鐘を促す(「リウマチ治療で種々の副作用が出現した例」を参照)。おそらくそのうちレミケードの使用は社会問題を引き起こすだろうと予想している。
注意:上記の使用量はステロイド使用後のコルチゾール低下、ACTH低下を発見する以前の使用量である。高コレステロール血症がある症例では少量のケナコルト使用でもこれらが低下する事実を知ってからはケナコルトの使用量は4週間で10mgに抑えている。ただし、1回10mg投与と5mg投与では効果時間に差がある。5mgではおよそ10mgの6~7割の効果持続時間となる。

ケナコルトは使用方法が難しい

ステロイドには種々の数え切れないほどの副作用がある。この副作用をしっかり説明し、それでも使用を決意した患者にのみケナコルトを使用すべきであり、ケナコルト使用にはかなり神経を使う必要がある。なぜならば作用時間が長いからだ。一度副作用が出れば、その副作用も長期間健康をむしばむ。
健康体の者に使用する場合はほとんど問題がないと考えてよいが、耐糖能異常が進行している者や血圧のコントロールが不良の者にケナコルトを使用すると、血液のLabo dataは長期間異常を示すことになる。ここは整形外科であるが、内科的に全身管理をするつもりくらいの細心の注意と気配りが必要になる。よってケナコルトを使用した場合、その前後で患者に不都合な症状がないかを時間をかけて問診しなければならない。それを面倒だと思うのならケナコルトの使用は最初からするべきではない。
医師全体の傾向として、整形外科医は内科的な全身管理が不得意で無神経で、ステロイドの副作用に聞き耳を立てられるほど繊細に患者に問診ができる医者はほとんどいない。私は元、消化器外科医だったので全身管理教育をみっちり仕込まれた。
  よって、全身管理に留意できない医師にケナコルトの使用を勧めない。しかし、そのおかげでケナコルトを使用できる整形外科医と使用できない整形外科医では、治療の技術に格段の差がついてしまう。治療技術を上げたいのなら、この副作用だらけのケナコルトのさじ加減を会得し、患者の些細な症状変化を訊き出せる医者にならなければならない。それができないのなら、ステロイド使用反対派になり、ステロイドを使用する医師をののしる側に回るのが賢明というものだ。以下に副作用を記す。
A)生理不順:ケナコルトの作用は長ければ1か月以上と言われる。その間、ステロイドホルモンはエストロゲンの分泌を抑制し、排卵を起こらせないことがしばしばある。よってケナコルト使用後、2~3か月の間、月経が来ないことも珍しくない。このことは排卵のある女性には全員にムンテラする必要がある。とくに普段から生理不順傾向のある女性の場合、ケナコルト使用で異常生理が必ず起こると考えてよい。また、不正出血もよく起こる。例えば1ヶ月間性器出血が続いたなどということも稀ではなく起こる。逆にいえば、このことを承諾していない女性にケナコルトを使用してはいけない。若い女性にケナコルトを使用するには、そのハードルは意外にも高い。ひと昔前の能書きには異常生理のことは書かれていなかったが、最近の能書きには書かれている。ただし不正出血のことを詳しくは書いていない。
  B)性欲、意欲減退:これも教科書に掲載されていない大きな副作用の一つである。性欲、意欲が必要ないというのなら問題ないが、精神へ作用することは熟知しておく。その上で患者と親身に会話をし、うつがステロイドの影響であることも考えておかねばならない。
C)両足のむくみ:高齢者は突然両足にむくみを生じさせることがしばしばある。整形外科医は「むくみは根本治療が難しい」ことを理由に無視することが多い。しかし患者はなぜむくんでしまったかの理由がわからずおびえる。ここで忘れてはならないのがステロイドの静脈血栓作用である。ケナコルト使用時は当然ながら静脈血栓ができやすいことを念頭に置く。患者がむくみを訴えたとき、それをケナコルトのせいかもしれないと思い、患者にそのことを説明してあげ、安心させる必要がある。また血栓といえば大腿骨頭無腐性壊死の可能性も頭の片隅には置いておく。
D)かぜひき:冬になれば普通に誰もが急性上気道炎を起こすが、ケナコルト使用中の患者がかぜをひいたら、その原因はケナコルト使用による免疫力低下だとはっきり認める構えをしなければならない。その上でケナコルトの使用を中止し、かぜの治療を優先させなければならない。患者は整形外科では、少しの咳くらいならその症状を訴えない。だからケナコルトを使用している医師はその最中にはかぜ症状がないか?毎回丁寧に問診しなければならない。
E)皮膚のピリピリした痛み:ケナコルトを使用している患者が、体表の痛みを訴えた場合、それが帯状疱疹が原因であることがさっと頭に浮かばなければ医者失格である。高齢者の場合、帯状疱疹は決してまれな病気ではない。ケナコルト使用で長期に免疫機能が低下していれば、帯状疱疹が出現する確率は低くない。さらに、帯状疱疹は初期には皮疹がみあたらない。このことを知らない皮膚科医もいる(皮膚科医に何ともないと言われ、その後私が帯状疱疹を見つけた例が何度もある)。最初は1~2個の吹き出物程度である。これを見逃してケナコルトを使用し続けると、帯状疱疹が悪化して思わぬ後遺症を残すこともある。
F)肥満:これはケナコルトの使用が長期になりそうな場合には必ず先手を打ってムンテラしておく必要がある。ステロイドの満月様顔貌は有名であるが、整形外科医はどのくらいの期間ステロイドを使用すれば満月様顔貌が出現するかを知らない。毎週連続で2か月も経過すればそれは出現する。
G)白血球増加:実際のところケナコルトを使用していると白血球が12000くらいまで増加することがある。それとは知らない内科医が採血して驚き、患者にいらぬ恐怖心を植え付けることがよくある。優秀な内科医は高齢者であれば関節内にステロイド注射などをしていることを理解し、白血球増加を誇張して受け取らない。しかし、世の内科医はそんな優秀な者ばかりではない。この場合は患者に「それほど心配いらないこと」を先にムンテラしておかなければならない。そうでなければ患者が不要な精密検査をたくさん行われ、お金と暇と精神力を浪費する。
H)感染症、胃潰瘍、糖尿病、高血圧、緑内障、前立腺肥大、白内障などに悪影響を及ぼすことは常識なのでこれらは当然のことながらケナコルト開始前に、全てチェックするのが医者としての義務である。
I)発汗異常。これは普通によく起こる。ステロイドを使用する前にムンテラしておかなければ、本人は更年期障害と思い内科や婦人科にコンサルトすることが多い。整形外科医でこれを知っている者はほとんどいない。
J)副腎機能低下症。発汗異常を来した患者が内科を受診し、副腎機能検査をして判明するパターンが多い。ACTHなどが低下のパターンを示し褐色細胞腫などを疑われて精査ということもある。高コレステロール血症合併では高頻度に副腎機能低下、下垂体機能低下が起こることは世界的にまだ知られていない(2014年現在)。
  K)もっとも多い成人病…糖尿病、高血圧では実際にどの程度異常値が継続するかを知っておかなければならない。が、これは患者個人の不安定性により個人差が激しいことを知っておく。つまり、糖尿病治療薬を使用している人が必ずしも異常高血糖の副作用を示すわけではない。高血糖治療薬を使用している人でも、ケナコルトを使用しても血糖がほとんど上がらない人もいれば今までの倍の血糖値になる人もいる。私の経験からすると耐糖能が悪い患者の場合、血糖値は50~200mg/dlくらいの幅で上昇し、それが2~3週続く。しかし、それは一様ではないので糖尿病の患者にも細心の注意を払えば使用できることを忘れてはならない。
L)血圧:血圧も血糖と同様のことがいえる。ケナコルトを使用すると血圧が不安定な人は2割増しくらいになる可能性がある。これらは内科医と連携をとり、示し合わさないと降圧薬を増量されて患者が被害を受ける。よって患者にはそのことを事前にムンテラしておかなければならない。なぜ、そうまでしてステロイドを使用しなければならないのか?は後述する。これは糖尿病や高血圧の患者にも、治療を優先させる際にケナコルトを使用しなければならないこともあるということを意味する。症例10、14がそのような例である。
  M)ステロイドによる急性の骨軟骨壊死:ステロイドによって稀に軟骨を損傷してしまうことがあることは周知である(ここでは神経ブロックの話なので関係ないが)。しかし、それはていねいに患者を診察していない整形外科医に起こると付け加えておく。患者の症状が改善していないにもかかわらず、機械的にステロイド注射をするような医者にそういう事件が起こりやすい。ステロイドに過剰反応を示す整形外科医は、患者に「ステロイドを打つと骨も軟骨も靭帯もボロボロになる」と脅す。これが本当に正しいアドバイスか?良心に問うてみることをすすめる。いったい、どの程度の量をどのくらいの期間連続で使用するとボロボロになるのか?その許容量を学ぼうとしない医者がこういう発言をする傾向がある。私は当然ながら、どのくらいの量をどの程度用い、骨も軟骨もボロボロにならない許容量を研究している。誰もやっていないので自分で研究している次第である。何度も言うが、そういうリスクを冒してまでなぜケナコルト(ステロイド)を使用する価値があるのか?は後述する。
N)他の薬剤との相互作用:ステロイドは低K血症を起こす可能性があることを頭に入れておく。整形外科医がよく使用する芍薬甘草湯と併用すれば助長する。ただし芍薬甘草湯が低K血症を起こす可能性があることを知っている整形外科医はほとんどいない。ジゴキシンを使用している患者の場合、低K血症は作用を増強させる。また不整脈の患者にも注意が必要。また、ステロイドは筋弛緩剤の作用を弱めるので全身麻酔の手術を受ける前には使用中止が望ましい。インフルエンザのワクチンを接種する場合は抗体の産生を抑制することがあるので使用中止が望ましい。
  ケナコルトの驚異の治療効果 「驚異」という文字が医学的には使用すべきでないことは認識している。しかし実際に使用効果、有用性は「驚異的」であるのでこの単語をつかわざるを得なかった。それは教科書に掲載されている医学知識をはるかに超えた有用性なので実際にそれを使用し、ていねいにその効果を調査した者にしか実感できない。嘘や誇張と思うなら実際に使用してみるとよい。おそらく医者の世界観が変わる。だがそれ相応の知識と副作用への対応ができない者には使用してほしくないのも事実である。