第六十二話 苦しい副産物

 奥様は誰にも教わることもなくご加持を始めること、まだ2か月未満。そのやり方は教科書があるわけではなく「感じるままに」行っているだけです。

 奥様の師匠のお寺には師匠の甥っ子のもう一人の男性僧侶H先生がいます。H先生は

「手が勝手に悪いところに導いてくれます。意識して治療しようとしている間はまだまだです。」と奥様にアドバイスしていました。まさに奥様のご加持は感じるまま。アドバイス通りだ!と私は感心します。

 しかし、医師の私としては理論的に患部に集中した治療をしてほしいものですからレントゲン写真を見せ「ここの神経根の炎症をとるイメージで」というように注文をつけてしまいます。しかし奥様は

「先入観があるとうまくいかないので、説明はやめて」と言います。いくら医師であっても奥様のご加持には口を出せません。とほほ。

奥様がご加持する際は、まずは頭頂部に右手を当てて患者の発する波動を感じるようにします。

脳や脳幹、延髄などに異常がある方の場合、奥様の体は縦に揺れたり、横に揺れたり、回旋したりします。右に病変がある場合は右にゆれが傾き・・・というように具体的に脳のどの辺に病変があるかがわかります。

 また、揺れる速度、振れ幅も人それぞれで異なります。

私は奥様のこうした奥様の反応と、病気の部位・種類・程度との関連性を研究するわけです。しかし、まだご加持開始して2か月未満ですからデータが少なすぎて関連性が判明するには至っていません。発展途上です(2017年年末頃)。病気の種類は無数にあり、高齢者であれば一人で5つ6つもの合併症を持ちますので、病気が重なった時は揺れが複合となりますから診断が難しくなります。しかし、奥様は一つ一つをはがすように重なりを紐解きながら患者の波動を感じるという芸当ができるようです。

 そして今はご加持の情報収集のために来院患者のほぼ全員にサービスとしてご加持をしています。奥様の勉強のためです。しかしご加持は奥様にとって身を切る作業でもあるのです。例えばこんなことがありました。

 私どもに駐車場を貸してくださっている近くの患者Yさんは「耳鳴り」を訴えて月に数回治療に来ています。奥様は何の気なしYさんにご加持をします。特に大きな病気を持っておられないので普通ならば何事も起こらないのですが・・・奥様はその方の胸に異変があることに気づきます。それは頭に手をのせていると奥様は自分の胸が苦しくなってくるからです。

「あのう、胸が苦しいのですが胸に何かご病気がおありですか?」と奥様は質問します。

「いやあ、特に何もありませんけどねえ・・・そう言えば時々不整脈で胸が苦しくなることがありますけど・・・」

そうこうしているうちに奥様はまるで狭心症になったかのように心臓が痛くなり苦しみだします。これ以上、ご加持を続けることができない状況になってしまいました。あまりにも苦しいので一旦その場を離れ、お不動様のお札のところ(受付の後方)に逃げます。

 そしてこの男性患者の前に再び顔を出します。

「おそらく、あなた様が考えている以上に心臓は弱っていると思います。私の診断は本当によく当たるので決して油断しないでください。」

「でも油断しないって言っても、心臓の場合注意のしようがないよなあ。」

「そうですね。無理な運動や不摂生をしない、寒暖差のある場所は注意をするとかでしょうか」と私が代わりに返答しました。

「そういえば、車を運転中に心臓のあたりが痛くなったときはさすがに車をとめて痛みがおさまるまでじっとしていたときがありました。あの時はキツかったです」

なんと。奥様の診断はピタリ当たってたのです。

 Yさんが帰った後も奥様の胸は痛く苦しいままでした。仕事が終わるころになってもまだ4分の1くらいは残っています。

「あの方の心臓は少しやばいかもしれない。」と奥様は私にいいます。心臓は悲鳴を上げているのに自覚がないところがやばいということです。

「男性は症状があっても辛抱して押さえつけてしまう傾向があるので、本人も体の声を聞いてあげることができていないのかもしれない。あの胸の痛みはやばいと思う。」と心配します。 

 ご加持では男性に圧倒的にこのような顕在化しない細胞の強い悲鳴があることが多く、一見元気そうに見える患者が、実は根が深い病気を持っているということが多いようです。

 一見元気そうなだけに奥様は油断してご加持をするのですが、細胞の悲鳴とでくわし、その悲鳴を奥様が自分の体にコピーしてしまって体がおかしくなるということが何度もあります。

 この話は先日のことですが、今日は右の変形性股関節症の患者に奥様がご加持してさしあげてちょっとした事件に遭遇します。ご加持は何事もなく終わったのですが、昼食をとりに二人で出かけたとき、奥様が右足をひきずります。

「あれ? 右の股関節が痛い! 今頃になってさっきのご加持の影響が出てきた・・・」

「大丈夫? あんまり歩かない方がいいよ。」と私は心配します。

「大丈夫、大丈夫自分でご加持するから」と奥様は半分苦笑いで応えます。

「そうか、あんまり無理するなよ」とはいうものの、私の立場からは奥様に何一つアドバイスができません。

 また、昨日の話ではありますが、腰部脊柱管狭窄症で左下肢の麻痺を即座に改善させ、右下肢のしびれを半減させて差し上げた奥様は、その後半日、自分の右手がしびれていました。治療の際に患者の波動を自分に転写させてしまったからでしょう。

 ご加持の際に深く踏み込むか、浅いところで適当にごまかすか、は悩みどころです。踏み込み方を間違えば、患者の不健康を自分にコピーしてしまうことになるからです。

  さて、今回のお話は一見つまらない話に聞こえます。なぜなら、「奇蹟を起こすドラマチックな話」ではなく、「霊能者に特有の弱点話」に聞こえるからです。いいえ、そうではありません。霊能者はわずかな波動を短時間浴びただけでその影響が体にすぐ出ます。しかし、霊能力のないあなたでさえ、強い波動を長期間浴びれば同じことが起こるのです。今回のお話は奥様の話ではなく、あなたがこの世で実際に被っている健康被害について述べています。他人事ではありません。

 例えば、生前にリウマチだった父が亡くなり、その霊体があなたにずっとつきっきりだったらどうなるでしょう。あなたがリウマチになるということです。癌で苦しんだ祖父の霊体があなたにずっとすがっていたら・・・あなたは癌になるでしょう。長期間、病の波動を浴びせ続けられれば、霊能者でなくても病気がコピペされます。ここではそのことを詳しく述べても、まだあなたは理解できません。もう少し読み進めていけば、病気のコピペがいかに恐ろしいことかということが徐々にわかってきます。その時に、再びこの話題に触れることにします。