第五十五話 手をかざすだけで

奥様は患者様の波動を感じ取り、病状を自分の体に再現することができます。咽喉が苦しい、胃がもたれる、吐き気がする、などといった症状を患者様からコピーし、自分の体にペーストしてしまえます。よって、患者の症状を患者以上に自分の体で感じることができ、患者の体細胞の苦しみを瞬時に患者以上に感じることができます。

 この能力は霊能者の優れた能力であると共に奥様を悩ませる能力でもあります。病気の人に近づくと、奥様がその病の気を受けてしまうからです。このつらさやきつさは霊能者にしか理解できません。

「最近は真言を唱えなくても、手をかざすだけで分かるようになってきた」と奥様は言います。

「本当に毎日毎日能力が上がってるね」と私は感心します。それまでは奥様は意識を集中させるために「のーまくさーまんだ・・・」と不動真言を唱えながら手をかざしていたのですが、それをしなくても自然にわかるようになったようです。

 真言を唱えながらご加持を行うのは魔法で言う「呪文」の役割をしています。それはハリーポッターの世界です。

エクスペクト・パトローナム 聖なる呪文

しかし霊能力が高まると、その呪文さえ不要になっていきます。すると見た目はとても地味となり、患者から見ると「何もしてもらっていない」ように感じます。おもしろいですね。能力が高ければ高いほどご加持は地味になり、患者の見た目の満足度が減るわけです。逆に言うと、パフォーマンスが大きい霊能者は能力が少ないことを表していると言えそうです。

 ただし、奥様の能力で症状や悪い場所がわかっても「なぜ悪くなっているのか?」の根本がわからなければ治療に応用ができませんし、奥様が感じた変化に「医学的に何の意味があるのか?」を研究しなければ治療への応用が難しいでしょう。

これまでのご加持治療から、奥様は難聴・耳鳴り・めまいの方に手をかざすと上半身が回転運動し、貧血性のめまいのときは横揺れし、ALS様症状やパーキンソン症候群のように延髄や大脳基底核の障害の場合には縦ゆれすることを奥様は把握しました。こうした揺れの変化には何かの意味があるはずです。

 揺れの意味は共鳴であり、奥様の体自体がタウジングロッドと同じ役割をしていることは波動医学の研修で少しは理解できました。しかし、動き方に様々なバリエーションがあるので、それらが何を意味するのか?まではわかりません。

 もし、それらのを意味を解析できて、診断に役立てることができれば奥様の診断能力は世界中のどんな精鋭診断機器よりも優れていることになります。

そんな奥様がある難聴の男性患者に手をかざすと

「先生、見て! 回転が速い!」と言って私を呼んで揺れ方を見せます。

「うわあ、本当だ、こんなに早い回転は初めて見たよ。でも回転の速さが何を意味するのかわからないなあ。多分、細胞の再生や炎症の活性が盛んだということかなあ。」と推測します。私たちの研究はこのようにして患者様を治療しつつ、病状と揺れ方の共通点を探ることでその意味を解析していくしかありません。

 だから私はご加持後の奥様に「どうだった?」と必ず訊ねるようにしています。

例えば「回転性の揺れだけど、ゆっくりしていて穏やかだった。」と奥様が言った時は、

「すでに治療開始後時間が経過し、症状が軽くなっていることを意味する」というように奥様も考えながら関連付けて行きます。揺れがゆっくりな時は細胞の再生や炎症が収束しています。このように奥様の揺れ具合で現在の病期を推測します。病期を参考にして私のブロック注射の回数や頻度を決めて行きます。これがご加持と西洋医学のコラボです。

奥様は短期間ですさまじい速さの成長ぶりです。成長しているのはご加持の能力だけではありません。

 霊体を降ろす能力も確実に上がってきました。

今日はこんな話がありました。1か月ぶりに突発性難聴の女性Kさんがオージオグラム(聴力検査結果)を持参で来院しました。奥様との会話でKさんはなぜか、自分の亡くなった父のことを話題にします。「父が亡くなって、今年の3月で七回忌です」と。

多くの患者は奥様の前で必然的にそういう話題をだしてしまう傾向にあるように私は思います。

すると奥様はKさんにご先祖の霊が一緒にくっついてきていることを察知します。

「さっきからぞわぞわしてるんですけど、多分お父様がきてらっしゃいます」と奥様。

 私も気になって、Kさんに横から質問します。

「差支えなければ、宗派は何ですか?」

「えっと~何宗だったっけえ~え~っと、天台かなあ?」Kさんが言うやいなや

「天台だ!そのくらいしっかり覚えておきなさい!」と奥様が突然しゃべり出しました。

奥様の口を借りてお父様の言葉が出てきたようです。

奥様はこのように霊体を憑依させるときは、以前はトランス状態にならなければできませんでした。しかし今回のようにトランス状態にならず、すとんと瞬時に憑依させて霊にしゃべらせることができるようになったのです。Kさんはまだ何が起こっているのか理解していないようです。きょとんとしていました。

「ちゃんと布団をかけて寝ないとだめだ。布団をちゃんとかけなさい。」とかなりの早口です。この時点でKさんは奥様に自分の父の霊が降りたのかなあ?という雰囲気に気づきました。奥様も「寝ているときに布団をかけてないから心配しているみたいですよ」とKさんに伝えます。

すると、Kさんは「私は寝るときに布団を剥がして寝るくせがあって、それで風邪を引いたのだと思います。当たってます((笑))」と言いました。

Kさんは生まれて初めて降霊の現場を体験したようです。また、Kさんは奥様にこのような能力があることも知りませんでした。まあそんなことを患者様に教える必要はありませんから。

「お父様はやけに早口ですね」と奥様が言います。奥様はトランス状態ではないため、お父様の意識体にしゃべらせながらも、自分の意識もしっかりあり、自分とお父様の二人の言葉を交互に発することができるわけです。これが奥様の能力の成長の証です。

 私のブロック注射が終わり、私は部屋を離れましたが、奥様はこの女性のそばに移動します。お父様が自分の娘ととても話したがっていることを悟ったからです。

奥様はお父様の意識体を憑依させたまま、Kさんのそばに寄ります。

そのまま、奥様は女性患者の手をなでてさしあげると、お父様はとても嬉しそうに、その手をぎゅっとにぎりしめました。

「お母さんはどうしてる?」

「元気にしてるよ。」

「お母さんに会いたい。」と悲しそうに自分の娘に訴えました。少し不思議だったことは、今、お父さんはどちらの世界に存在するのだろう? お母さんを見守ることのできない世界にいるのだろうか? というところでした。

Kさんは涙を浮かべ、奥様ももらい泣きしてしまいました。そして手を何度も握りしめ、お父様はなかなかKさんの手を放そうとしません。

しばし、手をにぎりしめ親子の再開を取りもってさしあげた奥様でした。この世にいないお父様の意識体ですが、こうして「いつまでもおまえを見守っているんだよ」ということを娘に伝えることはこの上ない喜びだったでしょう。おそらく、難聴で苦しむ娘をはげますために奥様に憑依したのだと思います。

 奥様はこのように、あの世に行かれた仏様の心を満たしてさしあげることができます。これが本当の意味での供養です。現世に存在していない仏様に対して本当の意味での供養ができるのは霊能者だけだということが、このような出来事からわかります。

 生まれた時から修行を積んで、高い位を得た僧侶がどれほどお経を唱えて供養しても、奥様のような霊能者の供養には追いつくことさえできません。そのことを真の僧侶であればわかっているはずだと私は思いたいです。

 この後、奥様はKさんに質問し、お父様が多少なりとも霊能力を持っていたということを知ります。

「お父様の能力が高いおかげで、私のからだにすとんと入ってこられたのだと思います。」と

状況を説明していましたが、それは謙遜であって、私は奥様の能力が日増しに上がっているからであると理解しています。なぜなら奥様は霊を憑依させながらも、奥様自体は意識を保ち、手を握って差し上げたりできているからです。能力が低けれ憑依された人は意識を保つことができません。

「そういえばT先生はトランスに入ることもなく、自分に霊を憑依させることもなく、霊と会話できるよね。多分、その能力に近づいてきていると思うよ。」と私が奥様に言うと、

「それはおそれおおすぎます」と謙遜していました。

私は奥様のこの能力がいずれは私の治療力を越える日が来ると確信しています。私の医療技術が奥様の補佐役になる日が来るでしょう。