第五十三話 ご加持のリスク

奥様は「患者の悪い波動を受けてそれを浄化することが功徳を積むこと」という言葉を信じ、我が身を挺してご加持を行うことを静かに決意しました。悪い波動を受けることは普通の人であればそれほど身の危険はありませんが、能力者にとっては「火のないところに煙を立たせる」(病気のない自分の体に病気を作る)こととなり、自ら進んで病気になっていくようなところがあります。邪悪な波動を受けた後は気分も健康も害し、かつ、それをすぐに払うことがなかなか難しいので本当に「捨て身」なのです。ですがそれが功徳を積むことであると信じ診療所に来る多くの患者様たちのご加持を無料で行うことにしました。奥様のテストパイロットです。

テストパイロットとはいえ、すでにそのパワーはかなり強力になりつつあり、実際に驚異的な効果を発揮していることは前に述べた通りです。

ただし、ご加持は困難を極めます。私の診療所には

1、大学病院などで治らなかった患者が、

2、鍼灸・漢方などを受けても改善せず、

3、最後に心霊療法や超能力の治療を受けるまでになり、

4、それでも治らない、

という人たちが全国から来院するからです。霊能治療はすでに受けていて、それでもダメであることがわかっているわけですから、奥様はこれまでの霊能者(超能力者)以上のパワーがなければ意味がないことになります。

 ただし、霊能者(超能力者)の治療と私たちの違いは、西洋医学とのコラボレーションを行うのでその診断力や治療力は1+1が3以上になるところでしょう。

私の診断力と奥様に起こる現象を比較分析することで「どこが悪いのか?」「何をどう治療すればよいのか?」を極めて綿密に出せるところです。それは科学的でありイカサマではありません。

奥様は自分の右手を患者様の頭のてっぺんに乗せると患者様の波動を自分の体にコピーすることができます。すると奥様の体には異変が起こります。縦に揺れたり、横に揺れたり、回旋したり・・・、また、手がしびれたり、手や背中が熱くなったり、汗をかいたり、目の奥が締め付けられたり、胸が苦しくなったり、お腹が痛くなったり・・・します。

それはつまり、患者の状態を自分のからだにコピーすることを意味します。

今日はパニック障害の女性患者が訪れます。奥様は私の診察の前にその患者のご加持を行います。すると奥様は縦に揺れ始めます。目の奥にしめつけ感が出現、それから徐々に背中、気管支がしめつけられて苦しくなり、やがて心臓がしめつけられて狭心症の発作が出た時のように奥様が苦しみ出しました。奥様はあまりの苦しさに声も出せず、ご加持を途中でやめてしまいます。

「何か胸に病気をわずらっていませんか?」と奥様が質問すると

「昔から気管支が弱くてよく苦しくなるんです」と

そんなことは問診票にも書いてありませんでした。おそらく気管支の炎症は慢性的であり、この女性は慣れてしまっているのでしょう。しかし、その波動はかなり悪性を示しており、奥様にコピーされた時には極めて苦しい状態を再現してしまいました。

このように本人はあまり気になっていない場合でも、細胞レベルでは悲鳴を上げる窮状となっていることがあります。奥様はそうした細胞レベルの救命信号を感じることができるのです。

特に、薬で症状をごまかしている場合、細胞は死にかかって「助けてほしい」という信号を目いっぱい発しているのに、それを本人が症状として受け取りませんから、知らぬ間に病気がどんどん進行している場合があります。奥様は患者の症状をコピーするのではなく、細胞から出ている波動をキャッチしてコピーしますので、今日のように「患者は平気なのに奥様が極度に苦しむ」というような「症状の温度差」」ができてしまうのだと推測します。

 そして奥様からの情報を私が分析し、患者に質問しました。

「あの揺れ方から考えると、病気の本態は延髄にあると思います。食べ物を飲み込みにくいとか、疲労しやすいというような症状がありませんか?」

「はい、あります。」

この女性は問診票にはパニック障害としか書いておらず、慢性疲労や嚥下困難のことは私たちに知らせていませんでした。しかし、私と奥様がコラボで診断すると、ここまでわかってしまうわけです。

これらの症状は私が「ALS様症状」と呼んでいるもので、延髄に障害があると起こる症状と推測しています。それはかなり根が深い病気であり、パニック障害という単独の病気では決してありません。気管・食道・心臓系にも障害がある可能性もあり、かなり腰を据えて治療しなければ改善が難しいでしょう。

と、次に奥様はご加持の第2弾です。今度は奥様から患者様に波動を送り「症状が改善するイメージ」を送りこみます。これを行うと奥様の上半身が熱くなり、そして同時に患者様も熱くなります。

そして最後の仕上げに私の上頚神経節ブロック注射を行います。

「これまで霊能(超能力)治療を受けたことがありますか?」

「はい、何度も何度も受けました。かなり長い期間、ヒーリングをいろんな人にしてもらいました。」

「治りましたか?」

「いえ、治りませんでした。」

「ヒーリングって1回いくらくらいかかるんですか?」

「2~3万円です。」

「えっ、そんなにするんですか、うちは無料ですから」

「そんなのいけません。お金をとってください。」

「いいんです。今は修業中ですから。」

と、まあ、手をかざしただけで2~3万円とはぼったくりというイメージがあるかもしれませんが、相場は高いものではありません。実力のある霊能者の祈祷は5万円以下ということはありません。祈祷により悪い波動を祈祷する側が受けますから、安い治療費ではわりに合いません。ただ治すのではなく自分にも患者の病気がコピーされてしまう(飛び火する)ので大変危険です。その危険手当としてお値段が高くなります。

この女性はおそらくこれまでヒーリングに大金をはたいてきたと思われますが、それでも治すことができた霊能者(超能力者)は一人もいなかったわけです。それもそのはず、彼女は根が深い。ヒーリングも朝から晩まで毎日続ければ治せるかもしれませんが、そんなことをすれば数百万円のお金がかかるでしょう。いや、そんな大金を支払っても、本当に治るのなら支払う価値は十分にあるかもしれません。

さて、奥様は毎日ぐんぐんとヒーリングの実力を上げていますが、本日、こんな話がありました。私は奥様に「俺にもご加持をしてほしい」と頼みます。もちろん快諾ですが、夕食を食べ過ぎて胃もたれしていました。そんな状態で奥様にご加持をしてもらうと、ご加持をした奥様に胃のもたれと左下腹部の痛みがコピーされてしまい、奥様が苦しみだしました。

すぐにご加持を中止しましたが、このように、奥様は体を壊しやすいのです。ご加持は本当に身を切る施術だったのでした。

そして私は科学者として、このコピー能力の意味を考えるようになりました。もしかして、この能力は霊能者だけにある能力ではなく、普通の人にも多少はあるのではないかと。ならば病気は波動を通して他人にうつるのではないかと考え始めました。この考えの真偽はこの後、ご加持治療を重ねていく上で明らかになっていくのでした。