第四十七話 バッハ

 奥様はご加持だけの能力があるわけではなく、霊(意識体)に自分の体を貸してあげることもできることは宣告ご承知でしょう。

 今日は難聴の患者様49歳男性をご加持していたのですが、いつもとは様子が異なりご加持中に奥様の上半身が回旋しはじめました。回旋は波動が第7チャクラを通して奥様に流入しているサインであり、しかも旋回の大きさ=波動の強さなので、この患者から奥様に流入する波動はかなり強いようでした。

 奥様はこういう場合、二つの選択肢があります。そのまま流入を許し、意識体に自分の体を貸してあげるか、流入を拒絶するかです。どちらもできます。今は診療中(仕事中)であり、意識体を流入させると仕事に支障が出ます。ですから、拒絶を選ぶことが正解です。

「あなたに何かついてきていますね。おそらくご先祖様だと思います。」

と患者に話をして、一旦患者様を待合室に誘導します。

そしてお会計のために受付の椅子に奥様が座り、その患者を呼ぶと、奥様がさらに旋回しはじめます。この患者についてきている霊(意識体)が何かを伝えたいときにこのような現象が起こります。

「ご先祖様が来ていると思いますが、何か心当たりがありますか?」

こう質問するとほぼ必ず心当たりがあるものなのです。

「実は今朝、おやじの供養に行かなきゃなあと妻と二人で話をしていたんです。」

「しっかり供養されているんですか?」奥様の回旋はまだまだ止まりません。

「いやあ、忙しくてまともに供養もできていないんです。」

「何か、お父様に関して気がかりなことはなかったですか?」

と問いかけたときに、奥様の脳裏にCDケースが浮かび上がります。

「ラジカセとかCDに関係しているかもしれません」

「そう言えば、おやじがなくなる2週間前に老健施設からCDラジカセを持ち帰ってきたんですよ。意識がしっかりしていないので必要ないと思って。それがおやじにとってはとてもつらかったのかなあ。寂しかったのかもしれません。」

「そのラジカセを持ってお墓の前で音楽を聞かしてさしあげればいいかもしれませんよ。どんな音楽が好きだったんですか?」

「クラッシックが好きで、家に山ほどLPがあるんですよ。モーツァルトかなあ・・・それともバッハかなあ・・・」

するとその時、奥様の口から「バッハ」という肉声が突然出てきました。その一瞬だけ奥様はお父様の意識体に乗っ取られ、「バッハ」としゃべらされたのです。

「バッハって言ってます」

「バッハは僕が大好きなんです。おやじが好きと言うよりも僕が一番好きなんですよ。」

「それはお父様がバッハを聴いて心を休めなさいとあなたのことを案じてのことだと思います。」

患者様はこの話を聞いていっきに涙を流します。

「バッハのLPは部屋に埋もれていて、プレーヤーもほこりをかぶっています。娘に部屋をとられて、僕の部屋はなく、そういえば音楽もろくに聴いていなかった。」

「そのお部屋を片付けて、もう一度プレーヤーでバッハを聴けるようにすることがお父様の本当の供養になると思います。」

耳が聞こえなくなって悩んで不安な時だからこそ、お父様がバッハを聴けと伝えたかったということでしょう。耳のケア―ばかりに気を取られるのではなく、心のリラックスをすることが真に治療への道となることをお父様が示してくれているようです。

こんなふうにご加持の途中で先祖の霊(意識体)の供養になってしまうことがたまにあります。このお父様は息子のことを本当に心配し、奥様の体を使ってそれを息子に伝えようとしたようです。いいお話です。そして、こういういい話を作ることができる奥様は素晴らしいと思います。患者を治すことと真の先祖供養を両立させているのですから。

さて、その4日後、この患者様が治療に来られた時、奥様の体にぞわぞわっとした感触が走ったのでした。しかし、興味深いことに、それは奥様だけの感覚ではなく、この患者も全く同時に同じ感触を受けたのでした。患者様と奥様は顔を見合わせ「あなた様にも私と同じ感覚が起こったんですね。このサインはお父様の感謝の気持ちだと思います。」

こうした不思議体験は普通は奥様だけに起こることですが、二人が共有することもあるわけです。あの世に旅立つとこの世で傍若無人だった方も礼儀正しくなることが多いようです。こんな風にあの世の方は奥様に感謝の意を示すのでした。