第四十五 波動医学研修

 さて、明日はいよいよ波動で実際にがん治療をされているF先生のところに見学に行く日です。しかし、O先生との白熱した会話と多少飲み過ぎたワインのせいでホテルに帰った後、私はトイレで嘔吐するはめになります。体調が最悪です。

 翌朝F先生のクリニックに到着すると、なんと私が患者として治療を受ける予定になっていました。「そんなの聞いてない」

さて、波動医学とは何なのか? オカルト映画の話か?というと、一部オカルトですが科学的な考察による新しい医学概念です。波動と言えば波の動きですが、地球上にあるものは原子であろうと電子であろうと、光も音も色も温度も万物が波で形成されています。そしてこの考え方を広げると、意識でさえも波で形成されているということになります。また未知なる波動は距離の概念がなく時空も越える可能性があると量子力学では言われるようになってきました。

 波動医学は依然としてオカルトの領域がはるかに大きく、信じる者は信じるし、信じない者は信じない世界のものです。ですからいくらドイツやロシアで波動医学が進んでいると言われたところで、まだまだ医療への応用は難しい時代です。

 しかし、こんな時代でも波動で治療を行おうとするサムライはいるわけで、F先生はその一人と言えます。

さて、奥様は空海の書物や曼荼羅を見ると、そこから発せられている波動を感じ取る能力があります。地縛霊の波動を感じることも、人にしがみついている意識体の波動も読み取れます。このように波動は至る所に存在し、書物や絵・写真も波動を発します。奥様から見ればこの世に科学で解明されていない波動が存在することはあまりにも普通です。

F先生の波動治療は実は絵から採取した波動で癌を治療するというものです。おそらく奥様のヒーリング治療と根底は通ずるものがあります。

「絵から波動を採収する」と言ってもピンと来ませんが、絵とは密教で必須と言われている曼荼羅のことでした。波動測定器はドイツ製ですが、曼荼羅波動治療はF先生のオリジナルであり、特許を申請してもよいレベルのものです。詳しくはF先生の著書をお読みください。

 奥様と私はF先生の診察室に入ります。奥様は中待合の棚の前に行くと右の顔面が引きつり始めました。これはまさに高野山の霊宝館にあった胎蔵曼荼羅の前での反応と類似であり、待合の棚から不快な波動を感じます。

「あっ、その棚には曼荼羅からとったいろんな波動が入っているから反応したのかもしれません。」とF先生は言いました。まさに曼荼羅からの波動で奥様の顔はゆがんだことがという既往があるのですが、それと同じことがここで起こるということはここには高野山に展示してある曼荼羅と同じくらい強いレベルの波動があるということなのでしょうか? 私は驚いてしまいます。

私は診察室の椅子に腰かけると、金属のプレートを両手で挟むようにして持ち、私の体内の波動を調べてもらうことになりました。

すると「テロメアが低いですね。体の細胞が癌化しやすい状態です。」と言われました。まあ、私の家系は癌で早く両親が亡くなった家系だし、私も毎日無理して仕事をしているからテロメアが低くても納得。ちなみにテロメアとは遺伝子に含まれる側鎖の一つで、細胞の分裂数を決めているものとされています。細胞が分裂するほど鎖の長さは短くなり、テロメアが消失すると細胞は分裂できなくなり癌化が起こったり死亡したりします。つまりテロメアとは命のろうそくのようなもので、ろうそくが短ければ寿命も短いということを意味します。そして私はテロメアが短いと診断されてしまいます。おーまいがーっ!

 そこでF先生によると、体内に癌があるかもしれないので波動でそれを調べますとのこと。テロメアが極端に短い場所でタウジングロッドが回旋するという方式で私の体を探ります。すると右肺の中肺野でロッドが反応。F先生の診断では「右肺に検査では出ないレベルの小さな癌の芽がある」とのこと。

イメージです

 これはさすがにショッキングな話です。まさか、研修に来た先で癌を発見されるとは・・・癌が真実であれば、私はここに来て命拾いしたことになります。早期発見であれば早期治療が可能だからです。しかも痛みを伴わない波動治療で治してもらえるのですから最高です。もしこれが見当違いであったとしても、治療を受ける価値は十分あります。そして、私がここに来ることになったきっかけは奥様とO先生ですから、このおかげで癌の進行を防ぐことができたとすればそれこそ大感謝しなければなりません。

その信憑性に若干の疑問を持ちますが、O先生はF先生の治療でCA19-9という膵癌の腫瘍マーカーが、かなり高値だったのが正常値にもどったという前例があるので信用に値すると思います。

さて、F先生はどうやって治療用の波動を曼荼羅から採取するのか非常に気になります。まあ、そこは特許のようなものですから企業秘密でしょう。ですが、おおまかに説明するとイメージを利用しています。イメージとはF先生が視覚から取り入れた信号であり、そのイメージ信号と曼荼羅の部分部分から出ている波動信号を共鳴させてロッドが揺れることを利用して波動の種別を知り、絵を切り取って利用して波動をストックしておく。その波動と患者の体の波動を共鳴させて悪い部分を知り、その悪い部分に治療として共鳴する波動を選んでその波動を体に当てる。というような流れであると私なりに考えました。私なりにですので間違いがあるかもしれません(この治療法はF先生の考案したもので世界で唯一です)。波動は細胞に命令することが可能であり、癌化している細胞に死滅、あるいわ正常細胞へ戻る命令を下せると思われます。F先生の治療成績がまとまれば、ノーベル医学賞を受賞してもおかしくない偉業です。

この研修で学んだことは「イメージの大切さ」です。F先生が「治ること」、「完全な形になること」、「正常な細胞になること」などをイメージし、そのイメージと曼荼羅の波動を共鳴させることによって効果的な波動を探し出すそうです。共鳴波を調べるにはタウジングロッドを用います。共鳴するとロッドが動き出します。

イメージとは脳が作り出す感覚世界であり、その感覚にも波動があります。治る、完全化する、正常化するというようなイメージを作り出し、その波動を患者と共鳴させれば患部を治すことができるという仕組みのようです。とは言うものの原理は全くわかりません。ですが、タウジングロッドを用いて診断するという手法は道の波動を検出するという意味において霊能力と通じるところがあります。なぜなら奥様は波動共鳴を起こし、その結果回旋したり縦揺れしたりするからです。

奥様は自ら波動を出すことができるので曼荼羅から波動を採収する必要はありません。しかし、波動を作り出すときに奥様が大切なことは「治す」「完全化」「正常化」の具体的なイメージであり、それらのイメージを強く持ってご加持をすれば治療効果が格段に上がるに違いないと私は思いつきます。

 すると、普段の私の治療でも同じことが言えるかもしれません。患者自身が私の治療で治るというイメージを抱いた方が病気は治りやすいのだと。私たちを信じない患者では当然ながら治療効果が下がること。それは波動という「細胞に命令を行うエネルギー」の存在から見れば当たり前なのかもしれません。

 細胞に命令を行う者の存在について、「奥様は巫女」の本筋からは外れますが、少しだけ私におしゃべりさせてください。細胞に命令する微小化学物質のことをホルモンと言います。例えば、成長の止まった肉体に成長ホルモンを注入すれば、骨格が成長します(末端肥大症)。このような「細胞に命令できるもの」の存在を医学はいろいろと研究し、最近ではホルモン以外にも細胞間でタンパク質を用いて通信を行い、互いに命令しあっていることがわかってきました。

 ですが、それ以外にもさらに無線波動で通信している可能性を示したイギリスの学者がいます。ジョンジョー・マクファデンという分子遺伝学の教授です。脳細胞が無線波で通信し合っているという説を唱えています。

 波動医学は無線通信のことを意味していると私は考えています。その波動を操ることは細胞レベルで命令を操ることを意味し、手の届かない深い場所の細胞にさえ命令できてしまうでしょう。細胞間には極めて厳格な命令系が存在しているはずです。それは生死さえ決めてしまう命令です。命令は極めて不公平で従わない細胞は処刑されます。

奥様にはそうした細胞への命令を行える波動を出す能力が備わっていると私は考えています。ドイツの波動医学であろうと奥様のご加持であろうと同じです。

しかしながら、波動には危険な面が潜みます。不適切な波動を細胞に与えると、取り返しがつかない悪い病気を招くことがあるということです。

現在、波動の研究は様々な学者により行われており、規則性を発見した学者は有頂天になっています。発見自体は問題ありませんが、それを臨床応用する時は医の倫理が必要になります。「波動医学は切ったり注射したりするわけではないから安全である」と学者が考えるならば、それが大きな過ちを生む可能性があります。「波動の扱いに倫理が欠けると災いを招く」と私は思います。

 波動医学は科学者たちが考えているほど単純で安全なものではないと私は思います。そして奥様に、波動が害を及ぼす事件が、この後、起こるのでした。