第四十三話　初めてのジストニア治療

　奥様の師である僧侶のO先生は、すでに加持＆祈祷で難病を治すことを行っており、私たちはその話も聞かされて知っていました。奥様は実際に祈祷・お祓いに同行した経験がありますから、O先生がどのようなやり方でご祈祷されるのか、ある程度知っていました。

　しかし、奥様はまだ生身の患者に対してご加持で治療したことはありません。私は奥様の治療能力を試すべく、難病の方々にご加持をすることを提案します。

　もちろん、誰にでもするというわけではありません。信頼関係が築かれている患者様限定です。私の片頭痛治療の2日後の金曜日。今日は腱引き師範のO先生と私のコラボ治療の日です。この日は特に重症な患者様が全国から治療にやって来られます。その中でも原因不明の重症ジストニアの27歳の患者は、その難病がゆえにO先生と私の協同で1年半前から治療を行っていました。来院時は首が前に曲がったままでしゃべることも眼球を動かすこともできず、手足の動きもロボットのようにぎこちなく、常に呼吸困難があり、死も避けられないだろうと言われるほどの重症さでした。

　この若き男性患者をブロックと腱引きの協同治療により、首の曲りを治し、歩行能力を向上させ、呼吸困難をかなり改善させ、言葉が少し出るレベルにまで改善させました。しかし、いまだに「健常者」のように行動することはできず、全身の筋肉は硬直傾向でまだ滑らかに動くまでには至っていません。しかし、大学病院でもお手上げの状態をここまで改善させたことは奇蹟であるということは、この患者のご両親がよく認識していることです。

　さて、今日は金曜日なのでO先生と協同治療の日なのですが、まず私の上頚神経節ブロックを患者の右頚部に打ちました。その後に私は奥様に提案します。

「このS君にご加持してあげたらどうだろう」

「わかりました。やってみます。」

そして奥様はS君を椅子に腰かけさせ、その場で私にやったようにご加持を始めました。特にその場では何も起こりませんでした。

　S君は次に腱引き治療をするために２階に移動します。

　奥様はその10分後にO先生との患者調整・報告のために2階に上がります。奥様がO先生が施術している部屋に入るやいなやO先生はこう言いました。

「今日はどうしたの？　何かした？」

奥様はO先生から「どうしたの？」なんて言われたことは今まで一度もなかったので、「私が何かやらかしたのか？」と不安になります。

「私がご加持してみたんですけど・・・」

「はあ～～それでか・・・今日は足首がぐにゃぐにゃでこんなの初めてなんだけど。部屋に入る時の歩き方から違ってたんだけどご加持のせいか。今まで治療してきたけど、こんなに足首が柔らかいのは初めてだよ。」

「えっ！？そうなんですか？」

びっくりしたのは奥様の方だった。自分のご加持で患者がこれほど激変するとは思いもよらなかったからです。

　ちなみに、奥様が「ご加持をした」と聞いて「はあ～～それでか・・・」と納得するのはO先生くらいのものです。なぜならばO先生はこの診療所に来る前から、奥様に超能力があることを予言者（T先生）から聞いていたからです。そしてT先生も同じように霊能力で患者を治療するのを知っているからでした。

　奥様は血相を変えて私のところに戻ってきて、質問します。

「S君に何か特別なことしました？」

「いや、特に何もしてないよ。いつもと同じようにブロックしただけだけど、何か？」

「O先生が、いつもより足首がぐにゃぐにゃだって・・・こんなの初めてって言われたんです」

「そうか、それはよかった。ご加持したからだと思うよ」

というと、奥様は満面の笑みを浮かべ

「うわあ～嬉しい。私もはじめてコラボ治療に参加できたあ。」

「そうだな。これが新たなコラボ治療だな。患者にも効果があることがはっきりわかったね。しかも筋肉の硬直がとれたという具体的な現れ方だから信憑性も高いし。第一O先生の診たてだから他覚所見として間違いないしね。すごいよ。」

　その後も全身衰弱＋慢性背部痛の65歳女性にご加持を施した後に腱引きにご案内すると・・・

「今日は筋肉のしなり具合が柔らかくてすごく施術がやりやすかったよ」と言われたそうです。

　奥様は立て続けにご加持後の変化を目の当たりにし「ご加持には筋の硬直を緩和させる効力があるんだ」と理解するようになります。

　ご加持のやり方も何も統一されていない初心者の初日に患者治療としてはあまりにも上出来でした。私は奥様の能力発達のスピードにただ驚くばかりです。何せ霊能力が芽生えてからまだ1年経っていないのですから。

　一通り診察が終えて、私は２階にかけ登りました。奥様のご加持治療後の患者の改善度の感想を聞きたかったからです。

「O先生、ご加持治療の効果はどうでした？」

「すごいよ。S君の足首のやわらかさには驚いたよ。Kさん（奥様）は本当にすごい。この３人が揃ったらすごいことになるよ。ここは秘密の館だねえ。」

O先生も奥様の能力開花に全身で喜んでくれました。言葉の張りや調子で、その声が感動から来ているということが伝わります。

　私はこの声を聞き、奥様の治療能力を確信しました。

私は西洋医学で治らないとされる患者のみを診療すると言う異端児医師ですが、それがゆえに私一人では治せない患者も出てきてしまいます。だからこそ腱引き師師範のO先生のような方と協同で治療を行っているわけですが、その難病奇病治療に奥様の霊的な治療力が加わると、その効果は計り知れません。険しい道のりですが楽しみです。奥様ありがとう。