第二十一話 はじめての曼荼羅

腱引きの師範の先生に「誕生日祝いに奥様に曼荼羅を送ります」と言われて約2週間が経ち、待ちに待った曼荼羅の絵が診療所に届きました。


段ボールを開けると90㎝×90㎝大の額がありそこには様々な仏の像が一面に敷き詰められた鮮やかな絵がありました。

 

それを見るなり奥様は

「なにこれ、すごい、手にビリビリ来る」と言い、曼荼羅に手を近づけるとピリピリ感電するような感覚がするようです。奥様は曼荼羅を見ていると目の奥に圧力を感じるので直視することもできません。

このピリピリが良いことなのか悪いことなのかさえもわかりません。


しかし奇妙なことはそれだけではありません。さっきからこの曼荼羅の額からミシミシ音がしていることが私にも聞こえます。

「さっきからこの額からミシミシ音がするんだけど・・・」と奥様が私に訊ねます。

「確かに聞こえるね。」

科学的に考えれば、湿度や温度で顎の木の枠のつなぎ部分で木と木が摩擦する音・・・なのですが、その音が段ボールを開けてからずっと数時間なりやみません。


季節は春。気温は院内と外で大きな差はありません。もちろん湿度も大差はありません。ですから科学的にはこれほど長時間ミシミシと音が鳴り続けることは奇妙なことでした。

奥様の波動と曼荼羅が共鳴しているとしか考えられません。


「曼荼羅がここに来て喜んでくれているみたい。」と奥様は言います。

「そうかもね」と私も同意しました。

5~6時間経ってようやくミシミシは消えました。

本当に喜んでいるのかどうかはわかりませんが、この曼荼羅には何かがあるようです。曼荼羅という絵になぜこんな奇妙な作用があるのだろうかと疑問に思いましたが、今の私たちにその理由がわかるはずもないので考えるのをやめました。


こうして曼荼羅は奥様の宝物の一つになりました。腱引き師範のO先生にとてもとても感謝です。おそらく高価なものだろうという想像はつきます。先生の机の後ろに飾ってあった曼荼羅だそうです。先生は物の価値を知る器の大きい方で、おそらくこの曼荼羅が奥様に力を与えるであろうことを想像し、自分のところにあるよりも奥様のところにあるほうが人のためになると考えてくださったに違いありません。言葉では言い尽くせない感謝です。


不思議なことですが、曼荼羅からピリピリした感覚が来たのはその日1日であり、次の日からはピリピリは来なくなりました。なぜ1日だけビリビリして、2日目はビリビリしないのか? その理由はわかりません。それが勘違いでないとすれば、曼荼羅に憑いている波動が1日でどっかに行ってしまったのでしょうか? 今の私たちには想像もつきません。曼荼羅が何を意味するのかさえも今の私たちには謎でした。しかし この曼荼羅の不思議な力に魅入られ、熱心に研究を続けている医師が高松にいることを後になって知ることになります。どうやら現代は科学者が絵に込められている不思議な力を研究する時代になっているようです。