上頚交感神経節ブロックで嗅覚障害が治癒した例

症例 24歳女性

1年前に交通事故(自転車乗車中に乗用車と接触)。その直後から嗅覚障害が発生し、外傷性くも膜下出血・脳挫傷の診断で某都立病院の脳外科に2週間入院。嗅覚障害の明らかな原因が判明しないまま嗅覚障害が治癒しないまま退院。その後下記のような主訴で接骨院に通院。同都立病院の整形外科に事故後半年後に来院するも「通院の必要なし」と断られる。事故後1年、担当保険会社に診療打ち切りを言われ、同都立病院受診するが後遺症診断書作成などを含め診療を断られる。その結果、紹介状持参で私の外来を初診(事故後1年経過)。
私は経過を一切知らないので診断書などを書く義務はなく、診察を断ってもよかったが、本人が気の毒であったので診療を引き受けた。


主訴

臭いがわからない(1年以上続いている) 肩こり、背部痛、腰痛、頭痛(本人は全身痛と訴える)、起立時のめまい、倦怠感、不眠、ときおり顔面紅潮などの自律神経失調症様の訴え


現症

両上下肢に知覚異常なし、スパーリングテスト(-) 上下肢DTR(正常)、所見に乏しく主訴のみが強い、メチコバールと漢方薬を近医耳鼻科から処方されているが、起立時のめまいは軽減しない
初診直後に保険会社より後遺症診断書、神経学的所見の診断書、治療推移についての診断書の3通が届けられ、この件で生命保険会社と何らかのトラブルが発生していることが伺えた


初診時からの経過

私は自律神経失調症やめまい、頭痛や腰痛などをブロック注射で治せることを告げたが、患者と家族(特に父親)は医者不信に陥っており、ブロックによる診療を拒否された。
私は「このまま症状に変化がなければ後遺症と認定され、以降保険会社から診療費を支払ってもらえなくなる」ことを本人に伝え、だからこそ症状を改善させるためにブロックで治療していくことを強く勧めたが本人は拒否した。そして物療だけを受けに通院するという状態を1か月続けた。


初診時から4週経過時、本人から「ブロックについて説明してほしい」と言われたのでリスクやリバウンドなどについて説明したが、本症例では彼女の父親がクレーマーであるとの情報を受け、「本人がOKしても、両親がOKしなければブロックはしない」と今度は私がブロック治療を拒否した。
初診後3か月経過し、ようやく本人と家族がブロックを受けることを決心したので、この時初めて上頚交感神経節ブロックを行う。


ブロック療法

  1. 頭痛、めまい、嗅覚障害、不眠、顔面紅潮に対して第二頚神経根の前方にある上頸交感神経節近傍へ左右両側へ1%キシロカイン2ccを注射
  2. 肩こりに関しては第6頚神経根ブロック(1%キシロカイン2cc)を左右両側へ注射
  3. 背部痛については胸部硬膜外ブロック(0.5%キシロカイン10cc)
  4. 腰痛について腰部硬膜外ブロック(0.5%キシロカイン10cc)

治療経過

腰痛はブロック1回で完治、背部痛は3週後に再発→胸部硬膜外ブロック
1)と2)の治療は週に2回の頻度で合計6回行う


治療成果

頭痛消失、めまい消失、睡眠障害は完全に解消(具体的には入眠時間の短縮、途中覚醒の消失)嗅覚がかなり戻る(食べ物のにおいがわかるようになる)。ブロック注射をして2日間はかすかなにおいも自覚できる。
肩こりは左側がほぼ解消、右は半分以下になる


その後

仕事復帰するためウィークデイの通院は不可能との連絡を受け、やむなく治療を中断した。というのも、嗅覚障害の治療は週に1度のブロックでも不十分と思われるのに、不定期に来院するのであれば治療効果は望めないからだ。
彼女にはやっと笑顔がもどり、初診時のように私を斜め視線で見下すようなことはなくなった。


上頚神経節ブロックについ