第三話 映像が引き起こす世界

奥様はこうしたトランス状態をきっかけに自分に起こっているものが何であるかを必死に探ろうとしました。当然でしょう。普通ならそのまま精神病院へ行って診察してもらうレベルのことなのですから。
私は医師ですが、普通の医師ではなく「西洋医学ではありえないとされる難病・奇病を専門」とする特殊な医師なので、こうしたトランス現象も「起こりうること」としてとらえていましたので別に精神異常とは思いませんでした。彼女の感性は特殊であることは以前からわかっていたことなのですんなり受け入れています。
ただ、トランスの意味はこの時点では全くわかりませんでした。
そして新春元旦の夜の出来事です。私は夕方、用事で出かけていたのですが、「今から帰るね」の電話を入れた時に奥様に異変が起こっていることがわかりました。電話に出た声が泣き叫ぶような意味不明な叫びだったからです。
「どうした?! 何かあったのか??」 「△×〇◎&#?」 とにかく言葉にならない悲鳴のような言葉が返ってくるのみでした。
「わかった。今すぐ帰る。10分くらいで帰るから!」 と返事して電話を切り、急いでうちに帰りました。 家に帰るとダイニングの椅子に座った状態で上半身を時計回りにぐるぐると回し続けている姿がありました。
「どうした???」「・・・△×〇、止まらない・・・◎&#・・・」
私は力いっぱい彼女の腕・頭を押さえて回転を止めようとします。が、なかなか止まりません。そのまま布団に引きずり寝かしにかかります。医師でありながら何もできない自分にいらだちとあせりが出ます。そのうちに吐きそう・・」といって床に倒れこみます。それはそうでしょう。横になり過呼吸ぎみに息も荒げています。
過呼吸の応急処置をしようにも体がいうことを効かなく鼻や口に触るのも嫌がります。まだ彼女の体が自分の意思とは関係なく暴れて動くので押さえつけていると少しずつ動きが小さくなってきました。なにやら手もなにかを現したようにあるカタチに固まっています。

私は無理やりその手をなおそうとしますが、 「お願いだから、そのままにして」 と彼女がやっと普通の言葉を話せるようになり動きがおさまりました。
「一体何があったんだ?」 「お正月にお寺に行きたかったけど行けなかったからインターネットでお寺のHPの護摩焚きの炎を見たら急にドン!という衝撃が体に走って・・・それから椅子に座ったまま体が急に前後に揺れ始めて髪が静電気おびたように逆立ってきて・・・それが徐々に大きくなってぐるぐると回転するようになってずーと止まらなくなったの・・・」
「それどのくらいの時間回転してたんだ?」 「1時間以上、ずっと。ずっと回り続けて・・・目が回って・・・携帯もうまくとれなくて・・・ろれつも回らなかった・・・最後は気分が悪くなって息が早くなって苦しくなって、、、で」 「そうなのか・・・」 「でも体はきつくても不思議と嫌ではないの」 と、一通り話すと安心したのか眠りに入りました。  

奥様はあの八千枚供養以来、確かになにか変化していました。自分でもあのときのお寺の護摩の炎が忘れられなくなったようで、つい見たくなって見てしまったそうです。しかし、ネットの画像を見ただけでそんな現象におちいるとは、、、まったく理解不能です。
ドン!という衝撃とは波動のようなものでしょうか。仮に波動が練りこまれている音声・映像・文字があったとします、それにどのような経路で反応して衝撃を受けるのか?私は映画「リング」を思い出しました。映像を見た者に次々と呪いがかかりその者たちを殺していくという物語。そんな作り話のホラー映画の物語が、身近で起こっていると感じました。
  とにかく科学では解明できない世界が存在していることを科学者の私が目の前で見させられるようになりました。信じる・信じないではなく自分の目の前で起こっていることなのです。