第一話 巫女覚醒

お話をする前に巫女って何?っていう方がほとんどでしょう。私も知りませんでした。巫女は神様に使える霊能者で、神を自分の体に降ろし、神の言葉を伝える使命を負った女性のことを言います。邪馬台国の卑弥呼はおそらく巫女の能力を持っていたと思われます。が、うちの奥様はまだまだ初心者の見習い中です。奥様の能力はある尼僧の方との出会いによって、引き出されてしまったようでした。
私の診療所は実は普通ではなく、「他の医師に治すことのできない症状」を治すという一般世間の医学常識から極めて外れたクリニックです。それはもう難病奇病の動物園と言ってよいほど、医学で解明されない症状をお持ちの方が全国から来られます。
私は西洋医学の医師ですから、そういう患者をおまじないや祈祷で治すのではなく、れっきとした神経ブロックという西洋医学の注射で治します。実例を挙げますと、かの有名な総理大臣である田中角栄首相の顔面神経麻痺をブロックで治した若杉先生の話がありますが、私もそのようなことをやっている医師だということです。
開業して約1年半が経った頃、腰痛に悩む真言宗の尼僧の方が来院されました。真言の信者様からのご紹介だったのですが、信者様からなにやらすごい能力があるという話をきいていたものですから、治療中に尼僧の先生になにげなくお話をしました。
尼僧の先生:「私も難治性の方を何度も治していますよ」私:「えっーー、本当ですか? どんな風に治療されているのですか?」尼僧の先生「私はご祈祷して精神疾患の方や癌患者さんを治療しています。腫瘍が小さくなった人もいます」私:「先生のお力をぜひ借りたいです。私のところには本当に治らない難病の方ばかり集まって来ますので・・・治るものであればどんな手段を使ってでも治して差し上げたいんです。」尼僧の先生:「いいですよ」
と、後から考えれば随分失礼なことを口に出したものだと、その先生の凄さを知って行くと後悔することになるのですが、こんな会話をした日の尼僧の先生がクリニックを出る時に私の奥様と衝撃的な出会いがあったのです(奥様であることは内緒でしたが)。信者様(患者様)から尼僧の先生は高位の修行僧であるということは聞いていましたので奥様は先生を玄関先にお送りしました。その尼僧が心を見通せる方であると奥様は察知したようですが、尼僧も奥様の苦労が何も語らなくとも察知したようで、2人は自然と診療所の今までの経緯話になったそうです。
尼僧:「院長さんとご一緒に頑張られてすごいですね。1人で何役もされてあなたがすべて支えているのね。立ち上げも大変でしたでしょう。毎日過酷な診察に追われてご苦労もおありの様子です。」奥様:「診療所には連日本当に難病の方ばかりが来られます。必死の思いで頼られてご来院される患者さまを支えることに全力を尽くさせていただいております」尼僧がうんうんとうなずきます。「ですが、実はここ最近、診療所の空気がギスギスしてて2人の体力や気力が限界に達することが多くなってきているんです。連日の緊張感とストレスもあるようで、、、」尼僧がまた再びうんうんとうなずきます。「そのせいか私が望まぬ勘違いやスレ違い、2人のケンカも多くなってきてしまっててて・・・」(自然と涙ぐむ)とポロリと弱音を吐いてしまったといいます。
すると先生はまるで全てを知っているかのようにうなずき、何も言わずにがっと奥さまの手を両手で握りしめたそうです。後からわかったことですが、難病の方々は様々な悪い気を背負っていることもあり、その気が治療者に移ってしまい、治療者を病気にさせてしまうこともあるそうなんです。奥様は人一倍、気を受けやすく、悪い気が何重にもおおいかぶさっていたと先生はいいます。その邪気払いのために手を握ってくださったのでした。先生はさらにお経を唱え奥様の腰の方から背中に向かって手で強くさすってくださりました。すると奥様は異変を感じて驚愕します。

五臓六腑がふつふつと勝手に動き出すような感覚が起こり、体の中に稲妻のような電流が走り、最後に脳天から強烈な何かが突き抜けたような衝撃を覚えたそうです。この時、奥様は尼僧の先生が能力者であることを実感したと言います。
思わず驚きの声を上げ、涙がつぎつぎと溢れ、何度も何度も「ありがとうございます」御礼を述べて尼僧に何度も何度も頭を下げてお見送りしたとのこと。それを見た尼僧は、「とても良い子ですね」と奥様のことを紹介した信者さんに後からそっと伝えたそうです。
尼僧をお見送りした後、奥さまは体に電流が走ったようだけどもともとあるちょっとした左腰の鈍い痛みはとれていなかったから、「体の痛みをとったわけではない?あの電流はなんだったのだろう?」と私に不思議な体験を伝えた後、何度も考えていました。そして、その時はこの人生初のとてつもない不思議な体験のご祈祷の本当の意味が奥さまはわかっていなかったのです。しかし、これが彼女の巫女能力を解き放ったということはその2週間後になってわかりました。
暮れも押し迫ってきた師走の日、尼僧の先生が私のところに治療に来られました。注射をしたことで記憶力がかなりよくなってお経を唱えやすくなったと感激のお声をいただきました。私のブロック注射は耳の下あたりの交感神経節に打つのですが、片方を打って5分休憩し、副作用が出ていないか確認します。その休憩中に先生が左手を怪しげに動かしているのを私はちらっとみたものですから、副作用が出たのかと思い訊ねました。
私:「先生、どうかなさいましたか?」尼僧の先生:「何か感じます」私:「はっ???」全く意味不明な手の動きをされているので心配になっていたのですが、その時うちの奥様が先生の近くを通りました。尼僧の先生:「わかった。Aさんね。」私:「「Aがどうかしましたか?」尼僧の先生:「手の先にビリビリ感じていた原因がAさんだとわかりました。すごく強いですね」私:「はああ???」

何とも答えようがなかったのですが、実はうちの奥様・・・何かの気?波動?を発するようになったらしいのです。そう、2週間前に尼僧の先生が奥様の体に触れて以来、奥様は特殊な波動?を発する能力が芽生えてしまったようなのです。
A:「え??私ですか?」とAが私と尼僧に振り向きます。そして、A:「わ!わ!なにかふわ~ふわ~と温かいものがきます!!」と何かを感じたようにとても驚いています。尼僧:「そうでしょう(笑)」私:「??わからない」
なんと尼僧の手がゆっくり動く度にその手から温かい気?が奥様めがけてきているというのです。このとき私は「ビリビリ」の意味を全く理解できませんでした。共鳴し合っている2人にしかわからない感覚のようです。尼僧は驚いて近づいてきたAにこう質問したそうです。
尼僧:「ご不動さまの背中には炎があります。その炎を感じているんでしょう。Aさんの生まれ故郷はどこですか?お生まれになったときの様子はどんな感じでしたか?」A:「私は九州生まれです。実は私は体重2000グラムしかない未熟児で生まれました。とても難産だったそうです。その当時の未熟児ですから病院の施設もあまり発達していなく、それはそれはハレものでも触るように大切に育てられたそうです」尼僧:「それだわ。そのときのご親族やご両親の願掛けがとても強かったのでしょう。九州の神様はとても力強いのよ。不動明王さまもそのお力に反応しています」A:「え?そうなんですか??私は医師からこの先大病するかもしれないし、大きくなっても健康に育つかどうかもわからないといわれたそうです。退院後も飲ませるミルクがとても高い特殊なミルクだったそうで、祖父母や両親はとても神経つかって全員マスクをかけなければ私を抱けないほどだったそうです。実家は春日神社のすぐ近くで、小さいころからその神社でよく遊んで育ちました」尼僧:「それですね。その時の神様がAさんを強く守ってくれていますよ。近いうちでいいので、御礼参りされたほうがいいですね」
なんと、奥様の誕生話しにまでなってきたのです。そして、驚くことにその後になって奇妙な現象が次々と起こるようになってしまったのです。