腰椎と布団の話(Bed rest症候群)

はじめに

高齢者が仰臥位で薄く平らな寝具の上で睡眠をとることで神経根が慢性的に損傷し、歩行困難にさせていくということは一般的にはほとんど知られていません。
ここでは実際に著者が仰臥位で腰椎のX線撮影を行い、薄い平らな布団の上に寝ていると神経根が損傷されるメカニズムを図解します。そして「薄く平らな布団で寝れば背骨によい」という俗説が誤りであり、この俗説が高齢化社会で甚大な実害になっていることを述べていきます。


ベッドレストの腰椎椎体の軸変化

椎体角度比較新

これは著者、当時46歳男性の腰椎側面XPです。左から立位・ベッドで下肢挙上・ベッドで仰臥位の写真です。
青のラインは椎体の水平を基準とした角度、赤のラインは椎間板の角度です。
ピンクで塗っているのが仙骨ですが、ベッド上伸展(ベッドレスト)では仙骨が27.5°と最も傾いてしまうことがわかります。
仙骨が傾くとL5/S1椎間板が当然ながら開きます。ベッドレストではL5/S1椎間板角度が18°と最大になります。
つまりベッドレストの体勢はL5/S1椎間板に大きなストレスをかけることがわかります。


ベッドレストで椎間孔が狭くなる

椎間孔比較

ベッドレストでは椎間孔のS1上関節突起が前方移動するため、椎間孔が極端に小さくなることが見て取れます。

椎間孔比較_神経根

L5の神経根の所在を黄色でマーキングしました(予想図)。ベッドレストではこの図のように神経根が圧迫を受けると思われます。


高齢者では仰臥位が致命傷

次に示すのは高齢者の変形した腰椎L4/5です。

アクティブ椎間孔

高齢者では普段何もしていなくても椎間孔が非常に狭くなっています。それに加えて腰椎伸展位(右図)では椎間孔が狭くなります。
もともと狭い椎間孔がさらに狭くなるのですから神経根は物理的な圧迫を受けることになります。
著者のXPよりわかるように、下肢を挙上したポジションとベッドレストのポジションではベッドレストの場合L4/5とL5/S1が伸展します。椎間孔も明らかに狭くなります。いかに仰臥位で平らな布団に寝ることが神経根を圧迫してしまうかが理解できます。


 

仰臥位で骨盤が傾く原理

仰臥位になると大腿四頭筋によって骨盤が足側に引っ張られます。すると骨盤は仙骨を支点として起き上がるような形になりL5/S1、L4/5間を伸展位にします。

骨場起き上がり


 

睡眠で歩行困難になる仕組み

薄く平らな布団や硬く平らなベッドの上で仰臥位になると、高齢者では神経根を強く圧迫してしまいます。しかも椎間板が壊れているほど椎間が不安定になり圧迫の度合いも強くなります。
長期の臥床では不可逆な神経根の障害が発生すると思われ、これが歩行困難を生みだす原因になりえます。
実際に高齢者が肺炎などで入院した後に歩行困難が出現し、以降寝たきりになってしまわれる方が全国に数え切れないほどいらっしゃいます。これは病院のベッドが平らで硬いために生じたBed rest症候群と推測されます。
内科疾患で入院したにもかかわらず、退院時には寝たきり(整形外科疾患)となる方が跡を絶たない現状ですが、それらの原因を「高齢による廃用症候群」とみなしているあたり、このBed rest症候群の概念が現医学に全くない証拠でしょう。
本当はベッドの不備による神経根損傷であるということに、早く医療機関側が気づいてくれないと被害者はこれからも続出します。


 

Bed rest症候群は社会問題

内科疾患で入院したにもかかわらず、歩けなくなって退院というのは本人にとっても家族にとっても計り知れない大きな不幸です。寝たきりが増えることは確実に日本の国力を経済力を落とすことにもなります。
しかしながら、硬いベッドで仰臥位が寝たきりを作るなどと誰も想像していないので何の対策もとられないまま入院→腰痛→無視され→歩行困難という状況が全国・全世界で普通に起こっています。
今、日本はかつてない超高齢化社会に突入しており、Bed rest症候群を見て見ぬふりをしている場合ではありません。まずは「薄く平らな布団で寝ると背骨によい」という俗説を払拭しなければなりません。


 

Bed rest症候群の予防法

高齢者の場合、仰臥位で寝る場合、下肢の挙上が必要になります。座布団を積み上げたりして工夫して寝るか、または柔軟性のあるマットレスを敷いて寝ることが最重要になります。
横向き(側臥位)ならよいのかと考えがちですが、実は側臥位では背骨が吊り橋のアーチのように側弯してしまいます。側弯も一方の椎間孔を狭くしますので危険なのです。
以下に側臥位でどのくらいに腰椎の軸が崩れるかを図示します。

側臥位正面XP比較

Aは著者の側臥位でとった腰椎正面写真、Bは普通に仰臥位でとった腰椎正面写真。
Aはまるで脊柱側弯症のように見えるほど曲がっています。曲がり方は重力通りに曲がります。Aは左側臥位で撮影(向かって右が左)。
このような側弯を防ぐには側腹部にバスタオルを丸めて置いてクッションにする必要があります。私は実際に患者にバスタオルでのクッション指導を行っています。


 

病院の対応

病院のベッドが硬いマットレスであると入院させるだけで歩行困難をつくることがある事実に、今後どう対応していくか、また、どう病院機関を指導していくかが課題となります。また、マスコミを使って、「薄い平らな布団が高齢者には最悪」であることを広めることも最重要となります。