子宮内膜症をブロック注射で根本的に治す方法

はじめに

子宮内膜症による腹痛・腰痛をブロックで根本的に治療するということは現時点で世界で行われていない。ブロックは痛みを一時的に抑えるための手段と考えられているため、「痛みを抑えても子宮内膜症の本態は治らない」と思われているからである。だから子宮内膜症に悩む女性がペインクリニックに通うことはほぼない。あったとしても、腰痛や坐骨神経痛がある女性に限られる。つまり「子宮内膜症を治そう」としてペイン科には行かない。 しかしながら近年、アメリカの線維筋痛症学会では「中枢感作によって生理痛が極めて強くなる」ことを述べている。私は以前から思春期の坐骨神経痛の女児に腰部硬膜外ブロックなどを行い、1度のブロックを行った後にかなり長期的に生理痛が軽くなることを経験していた。半年から1年以上である。よって子宮内膜症の本態は生理出血にあるのではなく、脊髄の中枢感作にあるのではないかと考えていた(全子宮内膜症患者の中に中枢感作の患者が何割いるのかは不明だが、私は少なくないと考えている)。
中枢感作で子宮内膜症による激痛が起こる理由は以下の通りである。脊髄レベルで疼痛信号を増幅するシステムが構築されていると、子宮内膜症による炎症と痛みが何倍にも増幅されて脳へ伝えられることになる。本来、子宮内膜症はあったとしても、倒れこむほどの激しい痛みではないはずなのに、痛み信号が脊髄で増幅されるために「生理で生じる子宮や腹腔内の炎症が耐え難い痛み」となっているのではないかと私は考えていた。そこで、こうした脊髄レベルの「疼痛増幅システム」を改善させてしまえば子宮内膜症による痛みは「耐えうる程度の痛み」に戻り、「生理を止める」というような治療をしなくてもよいはずであると推測していた(もちろん、極めて重症な子宮内膜症の場合はブロックのみでは良くならないと思われる)。そして子宮内膜症で苦しんでいる女性の大半は「子宮内膜症よりも脊髄の疼痛システムにより痛みが強くなっているのではないか」と推測する。 機会があれば(私を信じてくれる患者が現れれば)子宮内膜症にブロック治療を行い、私の理論を実証しようとうかがっていた。そしてようやく、私の理論を全面的に信じていただき、子宮内膜症を治療するためにブロック治療を受けてくださるという女性が現れた。そして硬膜外ブロックを行った結果、見事に(私の理論通りに!)、ほぼ完治に近い状態となった例を経験したので報告する。

症例 4■歳

学生時代から生理不順だった。生理痛は強かったが学校を休むほどではなかった。23歳時男児を経腟分娩で出産。その後26歳時低容量ピルを1年間服薬し避妊していた。その後、家族計画のためにピルを中止。しかし生理が不順のため、今度は不妊治療のために排卵誘発剤を服薬する。
しかし排卵誘発剤の副作用で腹水が貯留したため不妊治療を断念。28歳。そのころから生理がさらに不順となったため婦人科で経口薬を処方される(薬剤名は覚えていない)。3ヶ月間服薬すると生理不順が改善した。しかし29歳より生理痛が極めて強くなった(仕事が出来なくなり休暇をとるほど)。そして生理前後で消炎鎮痛薬を多量に使用するようになり、その状態が13年間続く。
42歳時、生理痛に耐えきれず、婦人科を受診。「子宮内膜症」の診断でルナベルを処方される。すると、生理痛は若干緩和される。しかし、NSAIDSを服用しないですむレベルにまでは軽くならなかった。同時に肌荒れが強くなりルナベル(新薬:超低容量ピル)による副作用と思われたが、使用を中止すると生理痛が強くなるのではという恐怖から、薬を止めることができなかった。46歳時、私を受診。婦人科から処方されている薬をすべて中止し、本格的に子宮内膜症根治療法としてH27.5.16.私のブロックを受けることになった。

治療経過

  • 1回目5/21(生理2日目) 症状:腰・下腹部・両殿部痛、市販薬の鎮痛薬が無効
  • 治療:胸部硬膜外ブロック T11/12より0.5%キシロカイン6cc
  • 結果:即座にすべての痛が消失し、以降、生理は4~5日続くが全く痛みが出現しなくなった。
  • 2回目6/11生理予定日4日前、痛み症状は全くないが予防的に上記と同様の硬膜外ブロックを行う。
  • 結果:生理初日はほぼ無痛、しかし生理2日目のみ比較的強い痛みが起こり消炎鎮痛薬を服薬。3日目以降は痛みがなかった。
  • 3回目7/21 生理6日目 今回は生理痛が全くなく生理が終了。PMSもなかった。ただし、腰痛が出現したためL1/2より腰部硬膜外ブロック(0.5%キシロカイン6cc)を行う。
  • 8/14 生理開始、痛みはほとんどなかったが、多少の下腹部痛があったのでNSAIDを1日1回かける3日間使用。しかし全体的にほとんど痛みは来なかったため、硬膜外ブロックは行わず、子宮内膜症の治療は前回で終了とした。

子宮内膜症・原発性月経困難症との境界線はない

子宮内膜症では子宮内膜が子宮内の筋層に存在する場合や、腹腔内に存在する場合、筋層内や腹腔内に生理出血が起こり、その結果周囲に炎症や癒着を起こす。その際の痛みが強烈な場合は社会生活が困難となる。そのような「真の子宮内膜症」の場合、硬膜外ブロックは根治術にはならない。しかしながら、子宮内膜症がないにもかかわらず、月経時に耐え難い痛みが起こる女性が少なくないことから、月経時の痛みは子宮内膜と相関があるとはいえない。つまり「子宮内膜症があっても月経痛が軽い」女性もいれば、「子宮内膜症がなくても耐え難い月経痛」の女性もいる。このような状況では月経痛は本当に子宮内膜症が原因なのか?という疑問が沸き起こる。月経痛という観点からすると子宮内膜症と原発性月経困難症の区別はないに等しい。

中枢感作による月経困難症という理論

私は痛みを専門に治療しているが、しばしば、中枢感作によって痛みが増幅されている例に出くわす。例えばテニス肘、例えば腱鞘炎、例えは膝の痛み・・・。これらの痛みは局所にブロック注射をしても一向によくならない。痛みが消失するのは数時間のみである。
そこでこれらの疾患に神経根ブロックや硬膜外ブロックを試しに行ってみる。すると痛みは劇的に軽快する。 さらに、1、局所のみのブロック、2、中枢(神経根)へのブロック、3、局所+中枢へのブロック、と3つの治療効果を比較する。すると見事に3→2→1の順となる。驚くべきことは、局所のみのブロックが「全くといっていいほど無効」な患者が少なくないことであった。
これらの結果から、腱鞘炎やテニス肘の患者で、「局所ブロックが無効」な患者では「局所の炎症よりも中枢で痛みの増幅システムが作動している」という結論に至った。もちろん、腱鞘炎は存在するのだが、その痛みは「本来耐えうる痛み」であるのに、中枢感作のせいで「耐え難い痛み」へと変換されていると推定した。 こうして私は、「他の医師たちが治すことのできない痛み」を次々と治すという実績を積み重ねた。 当然ながら、月経痛も中枢感作があると「耐えがたい痛み」になると思われ、中枢感作が月経困難の原因になっていることを推測していた。中枢感作を完治させることができれば、月経困難症はほぼ治る!と推測していた。そして今回それを実証してみせた。 ただし、問題は月経困難症の全患者の中に「中枢感作が主な原因」の患者が何割存在するのか?ということのみである。私はおそらく「大半」であると思っている。 事実、硬膜外ブロックで月経痛が劇的に軽くなり、その効果は持続している。つまり治癒している。ただし、根底に極めて治りにくい腰痛や坐骨神経痛があり、その一部として月経困難がある場合、ブロックを行っても即座に治ることは難しいと思われる。

中枢感作とはどこの病気?

中枢感作という言葉の定義は非常にあいまいであり、ここでは私独自の定義とさせていただく。局所の炎症による痛みは「抹消感作性疼痛」、それよりも上位である後根神経節レベル、脊髄の後角レベルより上位に痛みの製造システムがあって痛みが増強される場合を「中枢感作」と呼んでいる。後根神経節レベルの痛みも中枢ととらえるところが私の定義である。 さて、多くの中枢感作は脊髄後角か、後根神経節に傷み増幅回路が出来上がることで生じると考えてよい(例外はある)。つまり、子宮内膜症の痛みは 子宮体部運動神経(T4─T12)知覚神経(T10─L1)子宮頸部仙骨神経(運動・知覚)─S2, 3, 4が関与していると考える。通常の腰痛・坐骨神経痛がL3.4.5.S1が関与することを考えると、そのさらに頭側に中枢感作が起こっていると推測している。 つまり、月経困難症の本態はT4からL1までの広範囲の脊髄・後根神経節の中枢感作であると推定している。

子宮内膜症根治術としての硬膜外ブロック

本症例ではT11/12にブロックを行っている。硬膜外ブロックは注射部位の前後3~5椎体に有効範囲が及ぶのでT6からS1までの神経根に有効となり、上記の子宮の知覚神経をだいたい網羅できると考えたからである。T11/12で効果が少ない場合はさらに上方、T8/9あたりまでシフトさせていくことが望ましい。 腰痛を伴う場合は若干尾側にシフトさせるとよいと思われるが、L1/2よりも尾側にするべきではない。治療の本態は子宮内膜症(月経困難)であるので尾側にブロックすることは焦点がはずれている。

子宮内膜症へのブロック治療は常識を超えている

子宮内膜症による月経困難は、その原因が1、真に子宮内膜からの出血による炎症でのみ起こっている 2、それに中枢感作が加わっている 3、中枢感作のみが原因の月経困難の3種類がわると推測する。私は1がわずかであり、2、3が大半を占めると考えている。よって、子宮内膜症による月経困難は硬膜外ブロックで大半が完治に近い状態になると推測している。中枢感作は再発するが、再発したら再びブロックすればよい。よって生理を止める必要性は、ほとんどの患者においてないと思っている。
しかし、私の推測は常識を超えている。この推測が正しいかどうかを証明するには、実際に1000例以上の症例をブロックで完治に導き、患者の何割が本当に治るのか?を数字で出さなければならない。だが、私の理論は常識を超えているので患者が集まらないのである。しかも月経困難症に硬膜外ブロック治療は保険が通らないと予想される。いかに多くの症例を集められるか?に私の治療法が世に広まるかどうかの鍵がある。

子宮内膜症の治療でペイン科に来院する女性は皆無

現実的に考えよう。あなたの娘が月経困難で悩み、学業がおろそかになっていたとする。そのとき、何科の医師に診察してもらうだろう? それは婦人科である。月経困難はホルモン的なバランスの悪さが原因であると推測されている現医学レベルでは、月経困難をブロックで治療するという方法は異端すぎる。経口薬で治すものだとされている。12歳の女児が月経困難で苦しんでいた場合、硬膜外ブロックを受ける勇気が、本人に起こるはずがない。ブロックにはリスクがつきものであり、思春期の女児にブロックしてくれる医師も見当たらない。
実際問題、私の理論が正しくても、私の治療を受けに来る患者はいない。今回の症例も、「私の理論がただしければ治る!」という信用性の低い治療だった。よって治る可能性にかけて私のブロックを受ける患者が出現したことがまず奇蹟に近かった。本症例の彼女が私のブロックを受けることを決心した理由は、私がこれまでに、彼女の疼痛治療で何度も奇蹟を起こしたからである。最初は彼女の母親の三叉神経痛をブロックで完治させた。次に彼女の肩を一度の注射で動くようにし、次に彼女の長年の肩こりを一度のブロック注射で完治させ、最後にめまい、ふらつき、自律神経失調症を一度のブロック注射で治してしまった。このように、「他の医師が治せない症状」を次々と一度のブロックで完治させていったという前提があったために、その延長で「ブロックで子宮内膜症が治る」と説明したときに、素直に受け入れてもらった。しかも私の注射はほとんど痛みもリスクもないことを母親に聞いていて、さらに自分自身が私のブロックを数回経験しているからこそ、ブロック治療に二つ返事でトライしていただいた。
これほどの医師と患者の信頼関係がない限り、子宮内膜症にブロック注射をすることは、患者やその家族に受け入れてもらえない。特に生理痛というデリケートな問題だけに、それをブロック注射で治すという発想は常識を超えている。しかも、ブロック治療では痛みを一次的に抑えるだけだと思われているため、ブロックで根治となることは医師も患者も知らない。ブロックで根治するにしても、ブロックの箇所が胸椎であり、「どこにブロックすべきか?」はペインクリニック科の医師でさえわかっていない。そういう状況にあるがゆえに本症例は極めて貴重な1例なのである。「腰痛治療をしていたら偶然に月経痛が軽くなっていた」というのではなく、子宮内膜症と診断されて婦人科で内服治療中であった患者において、婦人科の治療をすべて中止し、その上で、子宮内膜症の根本治療を狙ってブロックを行っていることが大変貴重なのである。

子宮内膜症をブロック注射で根本的に治す方法」への4件のフィードバック

  1. 私は、二分脊椎もありブロックもできず、ドラッグテストもやりましたがうつ剤やてんかん剤も効かず今癌せい疼痛時に使う薬を飲んでいます。いろいろお聞きしたい次第です。

    • 聞きたいことはここでお願いします。個人的なやりとりは可能な限り行いません。ここは個人のためのサイトではなく、悩める多くの人々の参考になるために作ったサイトだからです。また、私は「難治性の疼痛」を治したくてうずうずしている奇人変人医者ではありません。難治性のものを治すには普通の治療の何倍もの精神力を消費し、かつ、時間当たりの治療費が安くなってしまい、極めて理不尽な思いをしいられます。そういう損な役割を買って出ているということをご理解いただけない患者には相談も治療も拒否させていただいています。難治性え現医学で治らないものを治すには、もっとも重要なものは患者の努力であり、私の指示に従う従順性も必要です。従順性がない方は治療をトライしても失敗に終わるため私は手をだしません。

      私は自分の命をすりへらしながら治療をしているというのに、従順でない患者を診療している暇はありません。他にも難治性の方々が大勢私の元へ来られるからです。よって患者の治療には優先順位を設けていますが、従順でない方の優先順位は極めて低いものとなります。何度も申し上げておりますが、私への敬意・謝意がないかたは、どうせ治せないのでご遠慮いただいています。

       どうせ医者不信のかたまりのような人生を歩まれていると思いますが、そうした不信を私に向けた時点で治療の成功率が極端に低下します。信じるか信じないかはあなたの自由ですが、信じない者の相手をしている暇は全くありません。このサイトに書かれている文章を、一度全部読んで見なさい。そしてこれだけの文章を書く人間を信じるか信じないかを自分の頭で考え、その上で、再度相談に来なさい。

  2. はじめまして。
    今、36歳で、子宮内膜症で苦しんでいる者です。
    最初は、婦人科でホルモン療法を勧められて、ホルモン療法をしましたが、私は精神科にも受診しており、鬱病もかかえています。
    ホルモン療法を始めてすぐに、その鬱病が悪化して、精神科の主治医と、ホルモン療法はストップする決定をしました。
    そうすると、次は子宮内膜症の痛みがひどくて、ほとんどベッドから出られません。食欲もなくなり、どうにか水分と、少しの食事で生活しています。
    痛み止めは、座薬もボルタレン25mgを、1日に最低10個使い、毎食後カロナールを3錠飲んでいます。
    それでも痛くて、どうにもならない時は、病院で痛み止めの点滴をしています。
    精神科の主治医のアドバイスで、ペインクリニックについて調べていて、この記事を読ませていただきました。
    この痛みをどうにかしたくて…
    何か、アドバイスをいただけないでしょうか?
    私は、三重県に住んでいます。

    • あなたがよくご存知のように痛み止めの薬も精神科薬も「脳に効く薬」の全ては脳に耐性を作りますから、数か月から半年も経たないうちに効果が少なくなります。
       耐性ができると、薬を減薬した時に症状が何倍にもなって襲ってくるため、減薬は地獄となります。この地獄を長期間味わうことは不可能に近いため減薬ができず一生薬漬けになる恐れがあります。医師はそのことを知っていて薬を処方していますが犯罪扱いはされません。その理由は医師には自殺を防ぐために薬を出すという大義名分があるからです。
       最近ではこの薬物依存を知らずに安易に「脳に効く薬」を処方してしまう医師が増えています。理由はいろいろとありますが。
       最初に症状が出たときに、原因を解決することをせずに安易に薬に逃げてしまったら、この薬物依存の地獄の連鎖に陥ります。地獄の連鎖はボタンの掛け違いと同様、努力だけではどうにもならないものです。
       一旦ボタンを全て外して、一つ目のボタンを正しい穴にかけてやらなければなりません。それではじめて原因である子宮内膜症の治療に戻ることができます。
       掛け違いを正す方法は皆無ではありませんが、ブロックでどうにかなるほど甘くありません。ボタンの掛け違いの根本原因は人生そのものに存在していることがありますから人生をやり直して「価値観自体を見直す」必要があります。それを行うにはゆるぎない信念が必要ですので簡単ではありません。しかし私たちは薬物依存に陥った方を復帰させた実績がありますとだけ申しておきます。

doctorf へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です