医者をやめたくなったらこれを読む

はじめに

ここでは国民皆民保険である医療保険制度の矛盾を解説し、医師たち、患者たちが、診療現場で極めて理不尽と感じることにたびたび遭遇する理由を述べていきます。若い医師たち、そして患者たちは「なぜ理不尽なことをしなければならないのか?」の意味を知りません。それは保険制度の矛盾を知らないからです。若い医師と書きましたが、若いとは開業するまでを表し、年齢を表しているわけではありません。苦痛に悩む患者に治療ができない訳、大学で症状詳記を書かされる訳、診断書を毎月書く訳、経口薬ばかり出す訳などなどその真相を述べていきます。真相を知れば理不尽さに怒る前に対処ができる可能性が広がります。ここでは整形外科を例にとって話を進めていきますが、他の科にも共通しています。

大きな傘、大学所属をやめる時

大学は医療の最先端技術を学ぶ場所です。しかし、大学は会社組織と同じで自分のやりたいことができる場所ではなく、教授の命令により駒の一つになる場所です。運よく就いたポスト・仕事内容が自分の希望通りである人は少なく、年々医局員はやめていきます。そして最後まで残ると最高で助教授のポストがある世界です。つまり多くの医師が大学を辞めた後に「どう生きて行こう?」か悩みます。開業するにしても資金は莫大にかかり、倒産のリスクも背負い、そして極めて面倒な様々な手続きを行い、そして職員を雇う苦労、税金対策、物件の管理などに入り込まなければなりません。そうした障壁のせいで開業はたやすくありません。医師であれば誰もが将来的に大学を辞める時を考えなければなりません。それを若いうちから知っておくのと知らないのとでは、職務に対する姿勢や態度が全く変わります。大学でパート先の外来で「どうしてこんな理不尽なことをしなければならないんだ!」と怒りが湧いた時に、その理由を知っていれば怒らずに済むからです。だから保険制度の矛盾を知ることは医者にとって非常に重要なことです。そして患者側も知っておくと理不尽な治療を未然に防止出来たり、怒らずに済んだり、医療事故に遭わなくてすんだりします。

自由に診療ができない理由はお金にあり

開業して初めて知ることがあります。それは国家財政です。国が医療費(社会保障費)を減らすために国家レベルで治療費を抑えるための行政が存在することです。それは監査・指導・厳罰という3本柱であり、開業医に「患者に高額な治療をさせないようにする」ために様々な精神的ストレスをかけていく制度です。売り上げの高い病院・医院の上位8%にプレッシャーをかけ、そして平均点数(治療費)が多い病院・医院にプレッシャーをかける制度です。「売り上げが高い」「平均点数が高い」開業医、そして新規開業医は指導という精神的プレッシャーをかけられることが法律で制定されて決まっています。現在大学に所属している先生は「そんなことは俺には関係ない」と思っておられるでしょう。しかし、それが全ての間違いの元なのです。大学にいようと開業してようと、保険医であるわけですから、保険制度に監視されています。その監視の中で自由に診療しようとするから矛盾が生まれ、人間関係にトラブルが起こりクビにされることがあります。保険医であるからこそ、監視からは逃げられない訳であり、しかし大学病院では教授や地位の高い先生たちが我が物顔で勝手放題の診療を行います。その尻拭いを医局員がしなければならないので「余計な仕事」が増えていることを知らなければなりません。そして、教授や地位の高い先生のマネをして「自分も自由な診療をする!」と心に決めると、病院にとって迷惑な存在となり解雇される仕組みがあることを早いうちから知らなければなりません。この悪しき循環を作っているのが平均点制度です。
大学では監視が存在することを医局員に教えません。その理由は医局員たちに保険制度を無視した治療を自由に行わせ、教授たちが自分の業績を伸ばさなければならないからです。大学という大きな傘に住まわせ、国家レベルでの圧力を見えないようにし、好き放題の治療をする。その手伝いを医局員の先生方にさせなければならないのですから。保険制度を知ってしまうと、医局員の先生方は良心の呵責に耐えられなくなります。だから教えません。大学の中の医師は保険制度が見えないようにされた壁の中に住まわされます。だから壁の外に住んだ時に大きな矛盾を抱え、経営者とトラブルを起こすことになるのです。

平均点数制度の矛盾

厚生事務局は1か月に支払われる保険請求額を患者数で割った月一人当たりの平均点数が高くなることを抑止する政策をとっています。つまり平均点が高いと監査・指導・厳罰を行います。治療の良しあしではなく、点数が高いことが悪とされます。よって重症・難病の患者を多く抱えて必死に治療しようとする医師は、監査・指導の対象とされてしまいます。これにより「値段の高い治療材料を使わないでおこう」「治療回数を減らそう」と努力することになりますから治療の質が低下します。それよりも「外来人数を増やす」方が平均点数を下げることができます。薬だけ診療・リハビリだけ診療・相談だけ診療を増やせば監査・指導を免れます。そのよう軽症患者の奪い合いが開業医の間で繰り広げられます。このご時世では、重症患者をしっかり治療しようとする医師ほど監査・指導におびえながら医業に従事しなければなりません。患者一人一人に親身になる医師は損をするという仕組みがあります。

恐怖の返戻制度

保険請求は毎月厳正なる審査が行われ、「支払い拒否」を余儀なくされます。国保側がお金を支払ってくれません。そうやって請求書を戻されてしまうことを返戻といいます。返戻は1か月の保険請求点数が多いものが対象とされやすく、一生懸命治療した患者であればあるほど支払い拒否の対象とされやすいでしょう。大学にいる間はそういうことを何も考えずに治療に専念できましたが、一歩外に出ると返戻の嵐に巻き込まれるのです。国としては「医者に患者を全力で治療してもらっては困る」という本音があります。そこで全力治療をするのなら、治療の必要性を証明しなければなりません。それが「症状詳記」と呼ばれるものです。請求書に「高額な治療を何度も行った理由」を書き、その文章で審査員を納得させなさいという制度です。納得させることができなければ返戻となり、返戻を無視すると監査・指導・厳罰とされます。したがって全力治療をする医師は、医療という仕事以外に、「審査員を納得させる文章作り」を毎月何十・何百と書かなければならず、これが医療業務や研究に割かなければならない時間を浪費させてしまいます。症状詳記は医師にとってはもっともわずらわしい仕事であり大きなストレスになります。よって、このストレスを避けたいなら、患者の治療を「手を抜く」以外に方法がありません。私は手を抜くのがいやなので、患者に無料で治療を施します。そして患者のためになら症状詳記を全員に書く心構えです。しかし、若い医師にそんな精神はないでしょう。だからこそ、大学病院以外の場所で仕事をするとトラブルに巻き込まれるのです。

重症患者はありがたくない

開業医は平均点数を下げるために、軽症患者を歓迎します。重症患者は時間と労力を消費され、かつ返戻対象とされやすいので歓迎されません・・・と、現医療制度ではならざるを得ません。高齢になれば全員がいろいろな病気の重症患者になります。そうした高齢者を医者が全力で治療しないようにするために平均点数で監視するという方法を国がとっています。そうした国の制度は患者にとっては悪ですが、国家財政から考えると妥当とされます。治療は金勘定であるということを若い医師たちは知りませんが、真実です。向上心に燃える若い医師にとって、国家の医療制度は悪として映りますが、ない袖は振れないということを早期に理解する必要があります。医師の正しい姿勢として「重症患者に全力を尽くす」ことは歓迎されますが、保険医としてはそれが歓迎されていないということを知らなければなりません。もしもそれに立ち向かうのであれば、逆風がかなり厳しいものとなりますが、毎月症状詳記を鬼のように書き、そして監査・指導・厳罰を受けても構わないとする覚悟がいります。正義感の強い医師ほど逆風に耐えなければならないと言えます。

おいしい患者と調査書の仕組み

このような保険制度の中では「おいしい患者」と「迷惑な患者」に二分されます。迷惑な患者=重症患者であることは述べました。「おいしい患者」とは交通事故や労災の患者です。労災は点数1.5倍請求で、交通事故は点数2倍請求だからです。交通事故は国の平均点数制にも影響しませんから湯水のごとく高額な治療をしても精神的な抑圧を受けません。よってたとえば交通事故の患者は悪い言い方をすると「カモ」であり、レントゲン写真・CT・MRIなど「痛みを訴えた箇所全て」を撮影し、高額な医療費×2を請求できます。「カモ」という言い方が失礼かと思いましたが、実際に不必要な検査があらゆる医療機関で行われている現状を比喩すると、そう言わざるを得ません。国保で請求を制限されている恨みを晴らすかのように民間保険会社への請求が高額になってしまいます。酷い場合は1か月に40万円~50万円を請求しています。
さて、そのしわ寄せが医師たちに寄せられる仕組みがあります。民間の保険会社が交通事故患者の診察を長引かせないように、医師にプレッシャーをかけなければなりません。そうでなければ延々と湯水のごとく請求書を病院から送られ続けるからです。よって医師に診断書を毎月送り付けて記入させるという業務を与え、さらに調査員を派遣して医師の休憩時間を浪費させ、調査書も別途記入させ…と水面下のプレッシャーをかけます。「交通事故患者と長くかかわると面倒ですよ」ということを体に覚えさせるためです。
若いアルバイトドクターはそういう事情を知りませんから、診断書を書かなければならないわずらわしさに嫌気が差し、まんまと民間保険会社の術中に落ちて「患者の治療を中止する」ことを選びます。しかし、交通事故患者が「おいしい患者」であることを考えると、経営者にとっては宝であり、アルバイトドクターはそれを理解してあげると「なぜ診断書を毎月書かなければならないか?」の意味がわかるようになり、少しは苛立ちが治まります。
苛立って調査書記入を嫌がるほど、保険会社の策略にはまることを意味します。私はこれまで、調査書が送られてきた場合、「治療を続けなければならない理由」をしっかり記載し、逆に治療期間を延長させる努力をしました。これが本当の意味で民間保険会社の嫌がらせに対抗することです。嫌がったら負けです。患者のために頑張ってあげてください。

特殊な治療技術をふるえない現実

特殊な治療技術は保険点数が高い傾向があります。しかし、それらは保険医としては国家レベルで歓迎されていないという真実を知っておく必要があります。特に、元値が安く、医師の腕一つの技術料的な高額特殊技術ほど歓迎されておらず審査が厳しくなります。なぜなら医師側に利益率が高い治療となるので多くの医者が利潤を求めてそうした技術を軽症の患者に用い始めると国家予算はあっという間に食いつぶされてしまうからです。神経ブロックなどがそれにあてはまります。例えば頸部硬膜外ブロックは元値がただに近く、手技料が15000円もしますから軽症の患者に用いればかなりもうけられます。したがって、特殊な技術は「患者を極めて厳選する」ことを迫られ、なぜその患者にそこまでの治療をする必要があるのかを詳しく書いて提出しなければ却下されてしまいます。せっかく身に着けた特殊技術も簡単にはふるわせてもらえないのが現状です。世のため人のためにがんばる医師ほど監査の対象になります。

検査大国日本

もっとも手軽なX線検査からCT、MRIに至るまで、検査こそが高い点数をとることができ、そして医師の技術も不要。よって機械の初期投資をし、来院する患者に検査をすればするほどもうけることができます。胃カメラも大腸カメラも高額ですし、治すことよりも検査することでもうけられる仕組みがあります。これは国家財政の穴です。治療を制限しても検査で国家予算が著しく流出します。特に高額な大型機械を導入した施設はそれを元に採算を取りにこようとしますので不必要な検査を入れてくるでしょう。勤務医にも検査を入れることをノルマとしようとします。さらに雇われて院長になった医師は「必要のない検査を入れなければならないこと」を経営者から命じられ、首にならないために検査を多く入れ良心の呵責にさいなまれることになります。検査は高額な治療よりも査定されにくいので経営者にとっては「経営の柱」です。医師として患者を治療することよりも、商売人として必要のない検査をたくさん無理矢理入れることを強いられるわけで良心が強い医師ほどストレスを感じ辞職したくなるものです。経営を強いられる医師たちは、やがて検査を無理矢理入れることに罪悪感を抱かなくなり、患者の顔を見る度に検査を入れることが平気になります。高額な検査機器を入れてしまえば、そのリース料を稼がなければなりません。つまり、パート先の病院では「そういう経営業務」が歓迎されるという事情を知らなければなりません。そうでなければ「なぜこんな不要な検査をするんだ?」と思い、ストレスがたまるからです。

システマチックという必要悪

外来治療のほとんどが経口薬投与・理学療法という現状ですから、お金儲けをするには不要な検査をたくさん行うしかありません。しかし、さすがに医師は良心の呵責でストレスを感じます。そこで経営者は医師の機嫌をそこねないように検査をたくさん入れる方法を編み出します。それが検査のシステム化です。一つの疾患・一つの症状に検査の予定を3か月先までぎっしり入れておくことです。それを医師の指示で行うのではなく、まるで検診の受診項目のように何種類も、何週も先まで予約することをマニュアル化しておき、それを看護師サイドに管理させてしまうのです。医師の意志を介入させずに、この病気=この検査、というように病名で一括管理してしまい、医師がオーダーしなくても看護師が自動で全てオーダーしてしまいます。病院長と看護師長がタッグを組むことで「院長の指示で全ての検査を行っている」という建前になっています。そして検査後に医師たちに「俺はこんな検査を指示していない」と言わさないために、医師に検査の説明を義務化させます。悪質だと思われますが、世の中には保険行政の網の目をくぐって儲けるために、上記のように検査をマニュアル化している病院がたくさんあります。有名な病院ほどそうした悪事を働いているものです。診療のパック化です。

症状のない心配性の患者は大歓迎

症状もないのにテレビ番組を見て心配で来院しましたというような患者こそが現在の保険行政では最良の患者、つまり「カモ」です。医師としては「考えすぎ」であることを教え、検査が必要ではないことを説明するのが道義ですが、「商売」とするならばできるだけ恐怖心をあおって種々の検査を受けさせることが「経営努力」となります。検査こそが保険制度の抜け穴である限り、経営者は稼ぐために検査を入れまくります。そうした悪しき習慣に加担しなければならないのが雇われた医師の業務となります。良心のある医師、腕のある医師、患者のためを思う医師はそうした「経営努力」に嫌悪を覚えますが、業務に嫌悪を覚え、それに逆らおうとすると解雇されます。大学病院から派遣されている病院での勤務であれば解雇されることはまずありません。よって派遣病院ではパートの医師も大きな顔で「経営努力」をしなくても済みます。しかし、大学を離れてしまえば大きな顔はできませんので「経営努力」をするほど経営者にかわいがられます。経営業務に嫌悪を覚えるといずれ解雇される可能性があるということをしっかり認識しなければなりません。
 

 病院毎に査定内容が異なる理由

ある病院では鎮痛剤に抱き合わせの胃薬に「胃炎」などの保険病名を書かなければならない時があります。その理由は、その病院は保険請求の審査員に目をつけられているからなのです。国家行政の一環として「もうけている病院・クリニック」は監査という嫌がらせを受けなければならない義務があるのです。もうけている金額の大きい病院は、細かなことで「いいがかり」的な難癖をつけられることを避けられません。よって「他の病院では全く問題がなかった治療」が「この病院では症状詳記を添付しなければならない。傷病名をいくつも書かなければならない。」というような状況になります。勤務医はそれを理解しなければ、事務に怒りがわくでしょう。しかし、それは事務の問題ではなく、病院がもうけ過ぎていることによるものなのです。問題のある診療は返戻とされますが、「何が問題となる診療」になるのか?は病院の事情で変わるということを認識しておかなければなりません。

平均点を超えると目をつけられる

医師は患者を救うために精一杯治療をすることが正義ですが、保険行政ではそれは悪とみなされることを知っておかなければ苦労します。つまり一人一人の1か月の保険点数があまり高くなり過ぎないように調整する意志を持っておかないといけません。例えば、整形外科領域では、点数の高いものとしてパルクスの注射、骨粗鬆症治療薬(PTH系)、ヒアルロン酸、ブロック注射などがあり、保険適応が通っているからと言ってそれらを湯水のごとく使用すると目をつけられます。あまり儲かっていない病院なら平均点が低いので目をつけられませんが、儲かっている病院で一人当たりの請求額が高額になると、それだけで目をつけられ、保険請求の返戻が増え、経営者を困らせることになるということを考えておきます。最近の新薬は値段が高いものが多いので、それらを「薬屋が言うまま」に使っていると保険審査で目をつけられます。よって「薬屋との義理」よりも全体を見通して治療費がほどほどになるように調整しなければなりません。
医師として、国の金勘定に加担することはプライドが許さないと思いますが、保険医である限り免れないことだと知っておいた方が良いでしょう。もちろん、そうした事情を知らなくても医師をやっていけます。ただ、知らないとあまりに理不尽なことが多すぎて医者をやめたくなってしまいます。そして、本当に高額な治療を必要とした患者には、言われる前に自発的に症状詳記を書いてさしあげます。それが経営者を安心させます。詳記を書くことを面倒がらないことが自分の診療スタイルを貫く際に必要なスキルです。
 

 保険制度=平均である

行政はあなたが凄腕の医師であることとは無関係で、他の同業種の病院と異なることをすることを悪と考えます。つまり、他の病院とほぼ同じ請求点数であることが「優良」である条件となります。医師の腕が秀逸で、全国から難病の患者が集まり、特別な治療を行って請求点数が上がってしまうと、それは国にとっては「悪」であり指導を受ける対象になります。国は医師の治療力とは無関係に、平均的な金額で経営することを望んでいます。 開業医がなぜ「平均的な治療しかしない」のか?の理由はここにあります。特色を出して請求点数が上がると指導を受けるからです。売り上げの高い開業医の上位8%は「悪」とみなされ、指導を受ける仕組みです。こういう仕組みになっていることを勤務医の時代から知っておいた方がよいでしょう。

平均点を下げる工夫

行政から目をつけられないためには、「平均点を減らす工夫」をしなければなりません。そのためには治療を必要としない患者をたくさん通院させる必要があります。つまり、軽症の患者をたくさん通院させる仕組みです。大学に所属している医師が、外の病院にパートに行ったとき「通院する必要もないのに通院している患者が多い」ことに気づきます。そして通院する必要のない患者を診療する時は良心の呵責にさいなまれます。しかし、そうした良心は早々に捨て去らなければなりません。なぜなら、病院経営のために、平均点数を下げるために、軽症の患者を何度も通院させる必要があるからです。逆に言えば、高額な治療を必要とする患者をしっかり診療するために、軽症患者の頭数をそろえておかなければなりません。よって、診療する必要のない患者を毎月1回は通院させることが病院経営にとって極めて重要だとわかります。これが理解できれば「診療する必要のない患者を定期的に診療する」ことに強いストレスを感じなくて済むようになります。

あり得ない高点数の治療

整形外科を例にとると、捻挫に行うテーピング(絆創膏)固定という処置があります。この処置は点数が500点(5000円)と常識外れに高額です。常識外れというのは、たかがテーピングするだけで5000円という値段設定があり得ないからです。テーピングを3週間にわたって3回行えば、それだけで15000円の収入です。病院側にとってこれほどおいしい治療はありません。しかし、患者にとっては最悪です。テーピングをすれば皮膚が痒くなり、夏場は極めて臭くなります。風呂にも入れません。テーピングは患者に不自由をかけ皮膚かぶれも作りそして固定力が弱い。しかし、常識外れた高い点数がついているので開業医は積極的にテーピングをしたくなります。勤務医なら絶対にやらない治療ですが、開業医には進んでやりたい治療になります。患者に最善ではないとわかっていてもお金を稼ぐために劣る治療を行うことは医師として恥ずべき行為ですが、保険点数がそのように設定しているので仕方がありません。整形外科に限らず、こういう「点数の高い劣る治療」がいろいろとあります。それらを最初から見極めておかなければ、良心の呵責にさいなまれます。

あり得ない低点数の治療

上記とは逆に、労力がかかり効果も抜群であるのに、請求点数が極めて低いために行われない治療というものが非常にたくさん存在します。整形外科では腱鞘内注射が25点と上記の絆創膏固定の20分の1です。実はばね指などに用いられる腱鞘内注射は、想像以上に注射が難しく、しかも、この注射は極めて痛いので、痛くないように行うにはかなり高い注射技術を要します。それがたったの25点です。絆創膏固定はしろうとでもできますが、腱鞘内注射は「きちんと効果を発する」ためには長年の熟練した技術が必要です。もしも、正確に痛くなく注射を行うには時間もかけなければならず、整形外来で腱鞘内注射を行うことは実質的に大赤字になります。このような馬鹿げた保険点数の設定があるため、開業医は腱鞘内注射を嫌う傾向があります。よって整形外科医はばね指→手術、と安易に儲かる方向に流れてしまいます。
また、あり得ない程低いのが関節内注射です。身体じゅう、どこに行っても一律80点です。テーピングが500点ですからその6分の1以下です。関節内注射は膝に行うのであれば数十秒で行えるので、80点でも許されます。しかし、膝以外の関節内注射は極めて難易度が高く、うまく行うには高い技術が必要で、しかも時間がかかります。膝以外の関節であるなら500点でも低いくらいです。例えば脊椎の椎間関節や顎関節、股関節などは極めて難易度が高いものです。それを80点という安い値段で行うことは医師にとっては奉仕活動になってしまいます。高い給料をもらい、それなりのプライドを持って医業に携わり、そして80点の手技を時間をかけて行うとなると、どれほど自尊心が傷つくことでしょう。
当然ながら、膝以外の関節内注射をやろうとする医師は全国にほとんどいないため、膝以外の関節内に注射する技術を持っている医師が育ちません。よって、実質、関節内注射=膝関節内注射 のことを指示しているのみで、全ての関節内注射が一律80点というのは建て前です(誰も膝以外の関節内注射をしないから)。
こうしたあしき保険行政の点数設定のおかげで、膝以外の関節内注射が存在せず、痛みを抱えて生きている高齢者が大勢いることを考えると、これは行政のミスとしてよいでしょう。この高齢化社会ではいろんな箇所に的確に関節内注射をしていかなければならないというのに…それができる医師がいなくなってしまったのは、「一律80点」のせいです。こうした保険点数のせいで、適切な治療を受けられずに悪化する患者が全国に大勢います。例えば、化膿性膝関節炎では関節内洗浄をしなければなりませんが、関節内洗浄という保険項目はなく、関節内穿刺100点という低い点数しかとれないため、洗浄を行う医師がほとんど存在しなくなり、化膿性関節炎が酷くなる例があります。テーピングの500点と比較して、考えてみてください。

保険点数くそくらえ!

保険点数はあまりにも臨床現場にそぐわないため、保険で治せない病気がいろいろと出てしまいます。上記のような理不尽な点数設定は、整形外科だけではなくあらゆる科に存在しています。点数を下げることしか頭にないお役人たちの仕業です。時間と手間暇・精神的コストのかかる手技が1000円以下の料金であれば、医師はその処置ができません。医師は平均的に1時間に2万円から3万円を稼がなければ健全な経営が難しいものです。つまり、それ以下になる料金設定は「くそくらえ点数」となります。膝の洗浄に15分かけて1000円しかもらえない場合、15分で4~5000円の赤字です。赤字になる治療をすれば経営者に嫌われます。したがって勤務医はどういった治療が赤字になるのか?を早いうちから考えておかなければ解雇されるリスクが高くなります。それが保険医の宿命です。金勘定などしないのが医の道ですが、その道を外れ外道にならなければ経営が出来ないのも、現保険制度です。それに戦うのではなく理解することです。そうでなければ保険医として生きていけません。

保険医をやめるとき

保険医をやめてしまう方法があります。それは全て自費診療または大部分自費診療の開業医になることです。自分で好きな値段設定で治療をすればよいのです。保険医ではなくなるため自由です。しかし、自費診療を増やしていくためには「他の医師にできないこと」ができる必要があります。他の医師ができることであれば、患者は保険診療を行ってくれる医者にかかるからです。さて、ここからが本文のもっとも重要な点です。他の医師にできないことを自分だけができるようになる方法、があるのか?というところです。実はそれがあるのです。他の医師が嫌悪する治療こそが「他の医師がやらない治療」です。だから「医者がいやがること」ばかりを若いうちからどんどんやって修行していくとよいのです。
例えば私は他の医師が絶対にやらないであろう、顎関節内注射・股関節内注射・指関節内注射などが出来ます。高齢になると指が変形し痛みも伴い茶碗も持つのがつらくなりますが、私はそれらを指関節内注射で治すことが出来てしまいます。よって全国から指の変形を治したい患者が集まってきます(宣伝すれば)。もちろん自費です。また、高齢者の極めて変形の強い脊椎に硬膜外ブロックを行うことを、ペイン科の医師でも嫌がりますが、私はそれも訓練し、腕を磨いてきました。ですから、どんなに高度変形の背骨でもブロックが出来ます。その他、「私が開発した私にしかできない注射」もさまざまあります。今はまだ開業して間もないため「保険医くそくらえ」とは言えませんが、将来的には全て自費診療にするつもりでいます。それができるのは、若いころから他の医師が嫌がることを「奉仕活動として」患者たちに提供してきたからです。

国民皆民保険は崩壊しつつある

全ての国民が平等に医療を受けられる時代は間もなく終わります。国家財政が破綻しかかっているからです。そのときに生き残ることができる医師になるために、保険制度というものがどういうものかを若いうちに知っておくべきだと思います。保険制度は医師がどうあがこうとも、国のお金で動いているものですからどうにもなりません。理不尽であろうと医療費は削減されていきます。それに戦うと解雇されるだけです。それよりも保険制度の限界をしっかり見据え将来に備えましょう。

優秀な開業医を全国に育てる

私はこれまでに身に着けた特殊技術をおしげもなく全国の開業医たちに伝えていくつもりです。地域に絶対的に必要な医師になるための手助けをします。そして高齢化社会を、国を支えようと本気で考えています。また、現在勤務医で向上心のある先生には、開業を支援し、特殊技術を持つ開業医になっていただきたいと思っています。
私は今年の4月にペインクリニック整形外科を開業しましたが、銀行に借金をせず、800~900万円に初期費用を抑えました(X線室も新規設置、電子カルテも含む)。恐らく新規開業としては記録的な低額と思われますが、本気を出して節約すればこのくらいで東京都心(秋葉原から15分)に開業ができることを証明しました(地方ならもう少し安くできるでしょう)。人任せにして開業すれば5000万円くらいかかってしまうでしょう。現在、資金がなく悩んでいる勤務医には積極的に関わり、費用のかからない方法をアドバイスさしあげたいと思っています。勤務医の将来に不安を感じたら、ぜひ一度相談ください。

開業とアブラムシ

開業をすると初めてわかることがあります。それは開業医が国からお金を吸い取ることができる媒体であるということ。そして吸い上げたお金に様々な業者が集まり、開業医の稼いだ金銭を奪って行こうと争奪戦が始まるということ。そして開業を考えている医師はお金をばらまくカモであり、医療機械の会社から製薬会社、広告代理店まで、よってたかってお金を遣わせようとします。それはまるで、あなたは台地から養分をすいあげる草木で、あぶらむしがその茎や葉にしがみついて養分を吸い取っているかのようです。台地とは国家財政であり、アブラムシは業者たちです。業者たちは開業医のために動いてくれますが、その恩恵としてお金をばらまくことを求めてきます。開業医は保険制度を用いて公共のお金を吸い上げますが、気づくと吸い上げたお金を全て吸い取られてしまうことがあります。そのようにして開業医が倒産することもあるので、最近は銀行も開業資金を出し渋るところが増えています。周囲の業者にちやほやされていい気になっていると、気づけば大量にお金を遣っています。集まってくる業者をすべて無視し、自分の力で開業準備を進めれば、お金はほとんど流出しません。医師は世間知らずであることが多いので、とてもよいカモにされます。世間を知り、自分で動きましょう。それは労力のかかることですが、無理して稼がなくとも心にゆとりを持って開業できるようになります。

開業とファンド

最近はファンドの投資資金が行き場を失っています。それは良好な投資先が少ないからです。よってファンドはとりっぱぐれがない医療業界に進出してきています。彼らは莫大な資金があり、継承物件を買いまくり、そこに院長をやとって働かせて利潤を得るというやり方をします。継承物件を一度に10件も20件も同時に運営し、お金を生んでいこうとします。こうしたファンドが経営する病院の雇われ院長になると、あらゆる方法でお金を稼ぐことを強要されます。そしてたくさん稼いでも、多くをファンド側にもっていかれてしまい、結局「自分で開業した方がいい」となって院長を辞めることになります。ファンドが国家財政を吸い取ろうとしていることに違和感を覚えます。ご注意ください。

開業と税制

開業医が豊かに暮らせる理由は、税制が開業医に甘いからです。よって開業のメリットは税制の優遇にありと言っても過言ではありません。設備投資に高額なお金をかけなければ、開業は非常においしい話です。よって設備投資をほとんどしなくてもよい在宅医療専門の開業も最近では増えてきています。税制の優遇だけでも開業する価値があるということです。ただし、自費診療を行うと優遇税制が受けられないという極めて不利な税制でもあるので、日本では自費診療が歓迎されていないことも知ることになります。

まとめ

医療に従事していて「矛盾しているなあ」と感じる理由の多くは保険制度の矛盾に由来しています。保険制度を知れば、矛盾の理由がわかり、不必要にイライラすることがなくなります。解雇されずに済むことも多いでしょう。教授でさえ一生大学の加護の中で暮らすわけではありませんので、こうした保険制度を早期に知れば知るほど自分の身の置きようがあります。限られた財政で医療は動いていますから、考えずに済むことではありません。一番毛嫌いすることですが、嫌わずに受け止めてください。

医者をやめたくなったらこれを読む」への2件のフィードバック

  1. 私は63才男性です、2003年に変形性股関節症と診断されました。
    当初は医師の勧めと、このままだと近い将来寝たきりになりますよとの脅しにより人工関節置換を真剣に考え、5-10本の指に入る病院をネットで検索し受診しました。
    ある時、左右の関節の酷いといわれる側に痛みがないことに気付き民間治療に切り替えで仕事(自営)を休むことなく両手杖ではありますが続けています。
    そこで知ったのは、案外痛みについて医師は無知と言うことです。
    でも、やはり時には酷く痛むことがあり解放されない気持ちは続いています。
    私は、今まで行った治療のさらに上をいく医師、治療家をさがしていましたところ昨日、お世話になっている治療家の方からメールをいただきこのサイトを知りました。
    そちらで行っている治療に抵抗はありません。
    是非にと思っています。

    • 厳しい意見を言いますが、変形した関節で保存的に生きること=痛みとは解放されない人生、を自ら選んで歩むことを意味しています。痛みはあなたにとってもっとも信頼のおける教師であり、その教師とともに生きることを意味しています。痛みから解放されるとは「教師の信頼を裏切ること」です。そうした矛盾を真正面から受け入れる精神力が必要です。まずはご自身に、「教師と共に生きる覚悟があるか?」を問いただしてみてください。まあ、普通なら、手術を拒否した時点でその覚悟はあると考えます。その上での治療であるということをご理解いただくことがもっとも重要です。痛みと正しく付き合う道です。痛みは「取り除けばいい」ものではなく、正しく付き合うためのガイドラインです。

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