腰部脊柱管狭窄症手術に必要な真の解剖学

はじめに

小児科ではもう常識になりつつある言葉だが「子供は大人の縮小版ではない」というものがある。これは小児専用の知識を学ばなければ小児治療にあたることはできないとする医師たちへの戒めの言葉である。このことはそっくりそのまま高齢者にも同じことがいえる。「高齢者は大人の拡大版ではない」というものだ。高齢者の生理や解剖は明らかに通常の大人とはあまりにもかけはなれている。にもかかわらず多くの医師は高齢者に対し、大人にするのと同じように治療を行い数々の失敗を繰り返しても反省も戒めも少ない。それは余命があまりないからというどこか投げやりな深層心理状態が影響しているように思える。
ここでは腰部脊柱管狭窄症のことについて述べるが、もともと腰部脊柱管狭窄症は長生きすれば100人中100人がわずらう病気。つまり高齢者病の典型であるが、その解剖生理の研究は進んでいない。そこでもっとも基本的な解剖生理を解説することにする。何度も言うが高齢者の脊椎は大人の脊椎とは全く異なる。以下に記載することが「そんなことは当たり前、偉そうに改まって…」と言われるのならこんなうれしいことはない。

高齢者の腰椎変形の基本形

長年重力を受けてきた脊椎はその重力の垂直方向にたいてい変形する。つまり椎間板は壊れて薄くなり、椎体は正方形に近かったものが長方形に変わる。また圧迫骨折によって背骨の前湾が強くなり、椎体の棘が前後左右に張り出してくる。 SK01 fig01左81歳女性、右19歳女性の腰椎単純XP
fig01からわかるように明らかに椎体が重なり合い、そして椎間関節(関節突起)も著しく重なり合う。矢印はその重なり合いをわかりやすく示すためのもので左のXPでは中心にある棘突起がぶつかりあってこれ以上重なり合うことは不可能というところまで辿り着いている。注目すべきは青丸(椎弓根)に黄色の突起(上関節突起)が突き刺さっているところである。椎弓根は関節突起と衝突するところまで来るとストッパーの役割をするのでこれ以上は脊椎が短縮することはない。ただし、さらに年月が過ぎると関節突起がつぶれ、椎弓根が凹み、あと何ミリかは短縮する。高齢者の脊椎は全員が例外なくこの形に向かいながら変形していく。
19歳女性の棘突起間には隙間(空間)が開いており、ここに針を刺して腰部硬膜外ブロックなどの注射治療を行うことがたやすいが、左の81歳女性の場合、空間が開いておらずブロックをしようと思っても困難であることがわかる。また、一般的な教育を受けた医師は棘突起間から注射針を進めるアプローチ法で腰部硬膜外ブロックを行うが、左の女性の背骨では棘突起間がゼロなので不可能だということがわかる。
高齢者の腰椎は多かれ少なかれこのようになっているため、一般的な技術では腰部硬膜外ブロックは不可能。そこで仙骨裂孔硬膜外ブロックを多用する傾向があるが、これでは狭窄部位まで薬が届きにくいので効果が少ない。したがって高齢者をしっかり治療しようとすれば傍正中アプローチ法による腰部硬膜外ブロックを行う必要がある。

椎間孔狭窄が脊柱管狭窄症の最多原因

多くの医師は脊柱管狭窄症といえば背骨の中心管が狭くなっているために症状が起こると安易に考える。しかし実際はMRIで強度の脊柱管の狭窄がある高齢者でも無症状で暮らしているということにしばしば遭遇する。それはなぜか?脊柱管狭窄症の主原因が中心管ではないからだという思考を回す必要がある。答えは神経根の出口である椎間孔にあり。 SK02 fig02 横から見た椎間孔の大きさ比較
fig02は先ほどの症例の側面XPで、椎間孔を黒く塗って示してある。左の写真では上から3番目(L4)の椎間孔を除いて椎間孔がかなり狭くなっている。椎間孔は実際は20~30度前方に傾いているので側面像では孔の大きさが正確ではないが、それにしてもおおよその狭窄の状態が分かる。この狭さは後根神経節の太さよりも狭く、何もしていない安静状態で神経根は絞扼されていて血行不良が起こっていることが想像できる。この女性が立位になれば、重力でさらに椎間孔は狭くなるので神経根に血液は流れにくくなり、しびれや痛みが出現して足が動かなくなることは普通だろうということがわかる。
高齢者の腰椎単純XP側面ではこれほどしっかりと椎間孔の情報を得られるのだがここを読影する医師はなかなかいない(左右が重なり合うため正確には読めないが、しっかり読めば左右の重なりも判別できて個別に読むことができるが、しっかり読むには5分くらいフィルムとにらめっこが必要で外来では誰もやらないのが通例である)。
私は椎間孔の縮小による神経根障害の患者を多数治療してきたが、そのほとんどが複数から多数の神経根障害を持つ症例で、脊柱管内で馬尾全体が絞扼されて症状が出ていると考えられる症例は非常に少なかった。これは後ほど述べる手術の方式に関して重要な意味を持つので覚えておいてほしい。しかし多くの医師はいまだに脊柱管狭窄症では馬尾がまとめて絞扼されていると考えており、神経根が一つ一つが個別に多数にわたって圧迫されていると考える医師は非常に少ない。この誤解が今の脊椎の手術全体に悪しき失敗例を重ねさせているのだと推測する。なぜ誤解があるのかについては「世界の脊椎外科学会をゆるがす大間違い」のところで詳しく説明する。

腰椎すべり症の誤解

今回の81歳女性の症例ではL4が前方にすべっていることがわかる。 SK03 fig03 左の症例では赤いラインより前に出ている
このすべりの状態を患者に説明するときに「背骨がずれているから痛いんだ」と、とても???なあり得ない解説をしていないだろうか? すべりがあると脊柱管の中心がS字に歪むのでそういう発想を持つようだが、あとで解説するがS字に歪んだくらいで馬尾症状は出ない。その理由はすべりが起こる高さの後方のスペースは想像以上に広いからだ。むしろ脊柱管の狭窄は上下関節突起の変形と肥厚により起こる(後述する)。
この症例のL4椎間孔はもっとも広いことがわかるだろう。つまりすべりがあるほうが椎間孔は広がり神経根、特に後根神経節が圧迫されない。高齢者ではすべっているほうが脊椎が安定し神経根障害が起こりにくくなる。ところが数十年前はこのすべりを矯正して固定する手術が行われていた(今も行われている)。そんなことをされた患者は椎間孔が狭まり術後激痛を訴えて七転八倒する場合もあるだろう。脊椎外科の過ちであるが、いまだにその当時の発想を持っている医師がいるかもしれないことに恐怖を覚える。すべりがあるから痛くなるのだと解説する医師はその発想のままかもしれないからだ。

高齢者の狭窄症は椎間関節の重なりで起こる

そもそも脊柱管が狭くなる根本原因は上下の椎間関節突起が重なり合うことに大きな意味がある。ずれること、椎体の骨棘、黄色靭帯の肥厚、椎間板ヘルニアなどは、関節突起の重なり合いと比べるとそれほど影響が大きくない。 SK04 fig04 関節突起の変形比較
なぜ脊柱管が狭くなるのか?その原因は単純XPでこそよくわかる(MRIではわかりにくい)。いわゆるスコッチテリアの耳の部分(矢印で示している部分)は左のXPでは全て前方に折れ曲がっている。一方右の若年女性のXPでは後方にぴんと立っている。
人は加齢がすすむと大なり小なり全員がこのような変形を起こす。この変形のおかげで関節突起は肥厚し脊柱管の内前方へと骨が成長する。そしてこれが脊柱管を狭くするが、同時に椎間孔が極端に狭くなっていく。黄色靭帯の肥厚やヘルニア、椎体のずれなどは、この変化に比べれば影響が大きくない(後述する)。

高齢者椎間関節の肥厚

それほど椎間関節が肥厚しているか?は腰部脊柱管狭窄症の手術をするのであればその術前評価は極めて重要であるが、多くの外科医はこの点をほぼスルーしている。 SK05 fig05 椎間関節肥厚のイメージ
この図は腰部単純XP正面写真で、関節突起が重なり合っている部分だけを赤く塗った図である。重なっている部分の全てが関節面ではないがどの程度関節が肥厚しているのかのイメージの手助けにはなる。左の高齢者の関節はかくのごとく上下に密集し中心距離も短い。矢印が脊柱管の広さを表しているが実際は関節の変形は手前から奥の方へと立体的に発達していくから立体的な脊柱管の狭窄具合はこの矢印よりももっと厳しい(写真はあくまで平面なので正面像ではあまり狭窄がないように見える)。
しかし、それよりも重要なことはこの赤で塗った部分の面積の広さで、これは脊柱管の上下に広がっている。上下には椎間孔が位置しており、すなわち神経根が椎間孔で強く圧迫されていることが予想される。こういった症例にどういう手術を施せばいいのか考えてみてほしい。

椎弓切除は不完全手術

腰部脊柱管狭窄症の症例に対して手術を行う際にどういう術式をとるか? 多くはいまだにヘルニア摘出に拡大開窓、よくても椎弓切除という徐圧のみ。一歩進んでPLIFといった状況(PLIF以外では椎間孔は広がらない、ただし棘突起間にスペーサーを嵌める方法がある)。脊柱管を徐圧したところで椎間孔を広げる処置をしなければそれは根本治療になっていない。どんなに馬尾がゆったりしても、神経根はその出口の椎間孔で絞扼されるわけだから症状が残ってしまう。
辛口に言わせてもらえば、本来、椎間孔での後根神経節(神経根)の圧迫で症状が出ているものに対して、的を射ていない手術を行い、ただし手術したおかげで安静を保てたせいで症状が軽くなったのではないかと私に突っ込まれても弁解できないような手術が多い。次に脊柱管の徐圧をするだけではいかに不十分かということを示す。
SK06 fig06 左は椎弓切除のイメージ 右の赤い部分は取り残された狭窄部分
左は椎弓を切除して開窓したところだが、この状態では肥厚した関節突起はそのまま残っている。L3、L4、L5の左右6か所の椎間孔は全く狭いままである。もしも椎間孔を広げてやるには右の図の赤く示した部分まで関節を切除しなければならない。
しかし、関節を切除するには卓越した技術と労力を必要とする。しかもこの症例では全部で6か所も削る部分がある。それを成し遂げる魂の強さが外科医にあるだろうか? こういう処置をしてこそ根治手術であり、それ以外の手術は椎弓切除術も含めて全て姑息的な手術と言わざるを得ない。そして今でも全国では姑息的な手術が行われている。術後の患者のXPを見て、根治的に手術が行われていた患者に出くわしたことはほとんどないというほどに現在の手術レベルは低いと感じる(まあ少しずつは進歩しているのだろう)。以下に立体模型を用いて脊柱管狭窄症の原理をもう少しわかりやすく解説する。

椎間板ヘルニア手術の矛盾

脊柱管内に突出した椎間板が教科書で語られているほど痛みの原因にならないことは臨床経験が豊富な整形外科医ならうすうす感じている。それよりもむしろ後根神経節が炎症を起こすことで、神経にテンションがかかると痛みを覚えるという考え方が主流になりつつあると私は信じたい。(ヘルニア塊はテンションを高める要因として存在しており、ヘルニア塊自体が神経を押して痛みを出現させているのではないという考え方、ヘルニアは痛みの間接的な原因とする考え方)。
つまり、後根神経節の炎症を鎮静化させればヘルニアはあっても症状は出なくなるとするものだ。protrusion程度のヘルニアなら尚のこと、後根神経節へのブロック等のアプローチですむし、extrusionタイプのヘルニアであるなら、待てばヘルニア自体も消失する。だから徹底して神経根(後根神経節)へのブロックをし、安静化させればヘルニアの手術の適応自体がかなり縮小されるはずだろう。そして8割を超えるヘルニア患者が、手術を行わずとも痛みが自制内となることはよく知られている。しかし中には外側型ヘルニア(椎間孔に出るヘルニア)では神経根が圧迫されて症状が激烈で、手術しか方法がないと考える人もいる。
SK07 fig07 椎間孔に出たいわゆる外側型ヘルニア
しかし、立体模型で外側型ヘルニアを作ってみると、以外にもヘルニアが神経根を圧迫しないことがわかる。なぜなら椎間孔は縦上方に長く大きく、ヘルニアが出るスペースよりも上方にいくらでも神経の逃げ場があるからだ。しかも矢印のように神経根はまだまだ余裕がある。ただし関節突起が変形し、肥厚すればヘルニアが神経根を強く圧迫するだろう。
製薬会社から配られている椎間板ヘルニアの模型では、椎間孔に出たヘルニアが神経根を圧迫している模型が私の診療所の机の上にも置いてある。しかし、これは笑い話に近い。椎間孔は上方にいくらでもスペースがあるのに、神経根がわざわざ下方の小さな溝にはまりこんでヘルニアから圧迫をうけて固定されているという状況を作っているからだ。これはサイコロ4つを投げて全部が1の目が出るというくらいにあり得ない。
あり得ないだろうと良識ある人なら理解できるだろうにどうしてそんな無理な模型を作るしかなかったのだろう。それはそもそもヘルニアが直接神経根を圧迫して症状を出すとする理論に無理があるからと私は考えている(このことについては別の章に詳しく述べている)。
私がいいたいことは、ヘルニアによる症状は一過性なのでレーザー(内視鏡)手術も含めて、摘出術を軽々しく行うべきではないということだ(社会的に治療に急を要する場合は別)。摘出した箇所は必ず椎間関節が重なり合い、変形を起こし、将来の脊柱管狭窄症の原因となるからである。

椎間不安定という概念

椎間板を摘出した椎間は当然ながら加齢とともに少しずつ狭くなる。その狭くなるスピードは健常な椎間よりもはるかに速い。この事実を無視して多くの外科医はヘルニアの手術を行っている。
髄核を摘出した椎間はわれわれが想像しているよりもはるかに不安定になる。なぜならば手術した箇所で弾性が極端に低下し、元に戻ろうとする復元力が失われて行くからだ。これは釣り竿と同じ原理。釣り竿は弾力があるからこそ元のまっすぐなさおに戻ろうとする。それが途中で折れてしまうとどうなるだろう。折れた部分は弾性力がゼロになるため、釣り竿はその折れた部分でのみ屈曲をするようになり、しならなくなる。腰椎も同じことで、髄核を摘出するとその部分の弾性が低下し、以降その椎間でのみ腰がパカパカ曲がり、他の椎場所がしならなくなる。摘出箇所は曲がりやすくなるだけでなく前後左右にずり滑る動作も加わる。これが椎間不安定という状態だ。
SK08 fig08 椎間が前後に動き椎間関節が離れる図
椎間不安定が起こると椎体は前後に揺れるようになるため、それまでかかることが少なかった水平方向の外力が椎間関節にかかるようになる。椎間関節は体重を支える荷重関節ではないため、この外力は著しい変形の原因となる。どのように変形するかはすでに前述している。前方に揺れ動く場合は関節でストップするが後方に揺れる場合にはストッパーは棘間靭帯や筋肉などの軟部組織しかない。しかし、椎間が接近したせいで椎間を固定する靭帯の張力が低下しており、後方へも椎体が揺れ動く。この後方へのすべりを防ぐ強靭な組織は存在しない。椎間が不安定になる前は棘間靭帯などが後方へのすべりを抑止していたが、椎間が狭小化すると後方へのすべりを抑止できる靭帯が存在しなくなる。
fig08の左下図のように後方にずれたときに椎間孔は狭くなり後根神経節(神経根)は上関節突起と椎体によって挟まれることになる。このようにして髄核摘出術が神経根障害を作り出す原因となる。後方にずれたときに関節面は右下の図のように隙間が開く。関節裂隙は陰圧なので開くことを防ぐ方向に力が働くが瞬間的な大きな力を防ぐほどの力はない。隙間が開いているときにXPをとるとバキューム現象により裂隙に黒い線状の影が映ることがある。

椎間不安定から脊柱管狭窄症へ

髄核摘出術などを行って、椎間が不安定になると、その椎間ばかりが屈伸を担当するため椎体にくり返しのストレスがかかり骨棘も出現するようになる。
SK09 fig09 骨棘の模型
先ほど述べたように上関節突起には前方への荷重が行われるようになり、関節突起が前方に傾きそして関節突起にも骨棘が出現する。
SK10 fig10 椎間孔が矢印方向の骨棘によって狭窄する図
これらの骨棘は不幸にも必ず神経根を損傷する方向に成長する。 SK11 fig11 椎間孔狭小化の最終形。黄色い○は後根神経節の大きさ。
そして上関節突起がfig11のように椎弓根とぶつかったところで椎間孔の上下幅はこれ以上狭くならない。しかしこの時点ですでに後根神経節の太さよりも椎間孔のほうが狭くなっていて、安静時でさえも神経根障害が出る状態となる。立位や歩行でこの部分は不安定に揺れ動くので神経根がさらに損傷を起こす。一方椎間が狭くなることは全ての靭帯をたるませる。特に黄色靭帯は激しくたるみ脊柱管を狭くする原因の一つとなる(実際はたるむのではなく、棘間が消失することによって前方(脊柱管内)に黄色靭帯が押し出されるのであって、肥厚するわけではない。この辺の考え方が整形外科の教科書が間違っている)
SK12 fig12 たるんで押し出された黄色靭帯とその位置関係。青い色は肥厚した関節包。
fig12の左上図のように上方から見ると相当脊柱管が狭くなっている。しかし黄色靭帯が存在している位置は右下図の赤い矢印程度しかなく、黄色靭帯ゾーンはことのほか狭い。しかもこの靭帯は前傾姿勢で非薄化することと、やわらかい組織であることのためMRI上きわめて厳しい狭窄であるように見えても、前傾をとると厚みが薄くなるので無症状の場合が少なくない。現MRI検査では前傾での状態が撮影できないので狭窄が誇張されて映る。
黄色靭帯や椎弓を切除しただけで脊柱管狭窄が改善されると単純に考えている方は、こういうことを科学者としてもう少し考えてみてほしい。それにも増して椎間の不安定が脊柱管狭窄症を作ってしまうということを肝に銘じる必要があるのではないだろうか。椎間の不安定は自然にも起こりうるが、髄核摘出術を行った場合はそれが決定打となる。つまり医源性の脊柱管狭窄症の元となる。髄核摘出術を施行した患者を10年以上フォローすればその因果関係が鮮明となるだろう。私は脊椎外科医は気安くヘルニアの手術を行うべきではないと考えている。各自がそういう方向で症例を集め、過去を反省し新たな治療方針を築いていくことを切に望んでいる。

脊柱管狭窄症手術へのアプローチ

脊柱管を狭くする物体でもっとも重要なものはすべり症でもヘルニアでもない。椎間の不安定による関節突起の変形・肥厚である。fig14は椎間関節の肥厚が脊柱管を狭くしていることを表した立体模型である。ピンク色に突出しているのが関節突起。そして黄色が黄色靭帯。高齢者の脊椎では大なり小なりこのような狭窄が起こる。 SK13 fig14 脊柱管狭窄症を真上からみた図
  この模型は脊柱管狭窄症の手術において椎弓切除だけでは不十分であることを示している。ピンク色の関節突起を削りとらなければ根治術にはならない。
SK15 fig15 椎弓切除後の脊柱管狭窄症模型
fig15は椎弓を切除した図である。赤く塗ってある部分は切断面。そしてその切断面の奥に左右から張り出しているのが関節突起。この関節突起を削らなければ治療にならない。というのも正面から見れば椎弓が外れて脊柱管が広々と見えるが、斜めから椎間孔を覗いてみると椎間孔が小さいままで全く広がっていないことがわかるfig16。これがまさに手術失敗の例。せっかく脊柱管を開放しても肝心の神経根の出口がせまいのでは症状が改善するはずもなかろう。
SK16 fig16 ピンクが肥厚した下関節突起、黄色が肥厚した上関節突起、黄○が後根神経節の太さ、椎弓を開放しても椎間孔は狭いまま
このような椎弓切除手術では症状がすぐに再燃する。というよりも症状が改善しない。したがってまじめに脊柱管狭窄症の手術をしようと考えるのなら肥厚した椎間関節をどうするか?を徹底的に吟味する必要がある。この作業が少々技術的に困難だからといっても省略するべきではないし、無視するべきでもない。無視をすると手術をしても治らない患者が激増する。
SK17 fig17 下関節突起を切除したところ。赤いラインは切断面
SK18 fig18 上下関節突起を切除したところ。赤いラインは切断面。黄○は後根神経節の太さ
fig17,18と関節突起を切除したところを模型で表した。fig18を見ればわかるように、ここまで関節突起を切除してはじめて椎間孔が広くなる。関節突起を切断する技術は簡単ではないが、椎間孔の方にほじくり返す必要はない。新たに骨棘として肥厚した部分のみを切断するだけで十分に椎間孔が広がる。ここまで行ってはじめて脊柱管狭窄症の根治手術といえる。これは狭窄した椎間孔全てに行うべきであり手術は技術的にも体力的にも困難を極める。ここでは関節突起の部分切除後の不安定性については述べない。肥厚した部分のみを切除すれば大問題にはならないと思うが否定的な意見もある。どの論文を信じるかは術者次第ではなかろうか。

脊椎外科医にあえて苦言を言う

今もなお脊柱管狭窄症の手術は全国で毎日のように無秩序に行われている。それはそうだろう、高齢者なら誰でもなりうる病気なのだから。そして術後に「よくならない」「痛みが再発している」「今は歩けない」という話に枚挙にいとまがない。それを患者のせいや高齢のせいにしてはいけない。私が見る限り、脊柱管狭窄症の手術を受けた患者できちんと椎間孔まで開通するように関節突起を切除している症例はほとんどみない。ひどい場合はLove法しか行っていない。脊柱管狭窄症の主座は関節突起で起こっているのであって椎弓が原因ではない。にもかかわらず関節突起への処置は手つかず…。いったい脊椎外科医は何をしているのだろう? PLIFは椎間関節の重なり合いが減少し、椎間孔が縦に広がることから有効と思う。ただしPLIFにも問題はあるが。
心臓外科の分野などでは日進月歩で手術技術が進化している。心臓は失敗が許されない。しかし脊椎外科は違う。失敗しても死に至らない。だから気を許して手抜き工事で満足しているのではないか?と苦言を述べる。確かに脊柱管狭窄症の根治手術は複雑で困難である。だが心臓外科医は困難だから根治手術をしないなんて言うだろうか。もちろん、脊椎外科医にも神の手を持つサムライ医師がいることは知っている。しかし、そうじゃない医者でも、メスを持つ以上自己満足の手術を行ってもらってほしくないと思う。私は現在、手術しようか悩んでいる患者がいると、「やめておいたほうがいい」と言わざるを得ない。根治術をしてくれない医者に患者を任すことはできない。この文章を読んだ医師が一人でも奮起してくれることを望んでいる。そうでなければこの高齢化社会は浮かばれない。

最後に

本文章を書いたのは4年前の2011年頃なので、現在はもう少し外科手術が進歩していると思われる。私は手術には興味がなく、整形外科学会も退会しているので、現在の技術の進歩を知らない。椎体にレーザーで穴を開けて陥没させて椎間孔を広げる手術法が開発されている。異論もあると思われるが私の述べることは物理的な形態学的な真実なので野良犬のたわごとだと無視せず、手術技術精進の材料にしていただけるとありがたい。

腰部脊柱管狭窄症手術に必要な真の解剖学」への5件のフィードバック

  1. 3-4,4-5,間の片側進入両側じょ圧の内視鏡手術を1/6に実施した。両脚全部の痺れ゛硬直は良くなりません゜。同一個所にすべり症があり、固定術と神経根周辺のじょ圧の再手術を聞いています。コメントいただければ幸いです。75歳

    • これだけのお話から、どうアドバイスしてよいのかわかりません。両足の痺れと硬直には血管性のもの、腰椎由来のもの、それ以外の脊椎由来のものなどがあります。 腰椎由来のものであれば、固定術と椎間孔の除圧は有効であると思います。しかし、腰椎以外の脊椎が原因でしびれや硬直が来ていることがあります。その場合は再手術でも改善しにくいでしょう。しかし、その確率は高くないとは思います。もしもあなたが私の親族であるなら、胸椎にも硬膜外ブロックを行い、症状が改善するかしないかを確かめます。胸椎にブロックをして改善するのであれば、原因は腰椎ではなく胸椎なので、手術を中止させます。詳しくは「二次ニューロン性腰痛の発見」をご覧ください。私の考え方ですが・・・「適所にブロックを行っても全く改善しない場合は手術を行っても改善しない」というものがあります。よって、私ならば腰椎に徹底的にブロックを行い、しびれや硬直がたとえ短時間でも改善するかどうかをまず確かめます。私の元へ来られますか?

  2. 73才の女性です。昨年の8月に東京の某大学付属病院でL4(圧迫骨折あり)の椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症両方を後方除圧法で手術を受けました。数か月は良好でしたが、半年後あたりから立姿勢時や歩行時に左下肢、上肢部にかけて強い痺れと共に臀部に絞扼されるような痛みが強く、家事や歩行などに支障をきたしています。主治医の所見では、この病態は「椎間孔狭窄症」と思われるので、もし、希望なら再手術をしてみては?という見解でした。術前からこの所見が存在していたか否かを質問したところ、画像にはあったが、はっきりとは確認出来なかったとのこと。経口疼痛薬の使用やフェントステープを試行しましたが、私は、胃切除歴があり、現在も慢性膵炎の治療中で副作用が強く、これらの治療継続は難渋しております。今は、都内の某総合病院のペインクリニック科にて、2週間の入院で計画的な各種ブロックを受けようと思いますが、結果的に手術が必要になった場合の術者の選択に悩んでいます。そんな時、偶然にも、私の術前・術後の病態に合点できる先生の文献を拝見しました。再手術は慎重に考えるべきでしょうか?疼痛治療を模索しながら対処していくべきでしょうか?
    是非、ご指導頂ければと願っております。
    宜しくお願い致します。

    再手術が必要になった場合に、どのような術者を選択したら良いかと思考中にこの文献に出会い、納得しました。

    • 主治医に「術前からこの所見が存在していたか否かを質問」とは、なかなか勇気のある方ですね。主治医のもっとも「触れられたくない」点だと思います。本来ならば手術の前に予備知識を収集しておくべきでしたが、私の文献にたどりつく可能性はあまり高くないですので、やむを得ないと思います。

      ペインクリニックでの治療がもっとも確実であり、それを行っているとのことでベストを尽くされていると思います。その上、ブロックが成功しなかったときのことも考えておられるとは・・・参りました。患者たちがあなたのように思考を尽くすことを行ってくれれば、外科医たちはもっとまじめに手術を考えるようになることでしょう。

      さて、椎間孔を拡大させる技術は、かなり高度なものなので名医を探さなければなりません。現在の椎間孔拡大手術の主流は椎間孔を広げるのではなく、椎体の方に孔をあけるものです。ネット検索すれば名医たちを探し当てることができると思います。また、この分野では整形外科医ではなく、脳外科医に優秀な医師がいるとも聞きます。名医がみつかったとしても、手術が難しいことにはかわりありませんので、その手術をしてくださる先生に敬意を払うことをお忘れなく。日本の外科医は技術が高くても給与が同じですので、大変理不尽な目に遭わされています。よって難しい手術をする医師はサムライですので、そのことを忘れてはいけません。

  3. 貴重なアドバイスを頂き有難うございました。疼痛でQOLが落ちているような混沌とした日々を過ごしていただけに、心身とも一歩先に踏み込めたように感じ、ご相談して良かったと思います。腰部の術後に合併症で痺れや疼痛で悩んでいる方が多々いることを耳にします。様々なケースがあるようですが、私の場合は主治医から「椎間孔狭窄症」との病名を聞かされたことは幸運と捉えています。最近、テレビの医療番組でも、この種の疼痛は脳神経外科医の先生が症状緩和に力を入れておられるのを見ます。高齢で、消化器や呼吸器の疾患もありますので、再手術が必要とする場合には、先生からのご助言を参考にさせて頂き、この種の手術の経験豊富な脳神経外科の専門医を探し、担当して頂く先生には、病態の詳細を丁寧に説明し、心から、敬意を表してこの難しい手術をお願いしたいことを伝えようと思います。
    本当に有難うございました。
    いつの日か、症状が緩和されました!というご報告ができますことを願っております。

doctorf にコメントする コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です