医学書では学べない高等診断技術

はじめに

まず千年後の医学書を想像する。するとほぼ全ての内容が刷新されていて現在(千年前の)医学書が使い物にならないだろうと予想される。千年後も変わらないのは解剖学や生化学などの基礎の分野のみで、それらでさえ新たな発見が多数加わっているだろう。内科や外科学などのような臨床の医学書の千年後は内容が著しく変わっている。現在、真実とされている診断学が全く誤りであったなどという箇所が次々と発見されては改訂されるからだ。医道に誠実な医師は「医学書が真実を述べていない」ことを直視するが、不誠実な医師は国家試験を受けて医師の免許を習得したことを大上段に構え、己の高い地位を傘に「現医学の正当性」を主張する。
だが真実は一つしかない。医学書の診断学は典型的な症例にしかあてはまらない。複数の疾患が重なるだけで診断学は藻屑と化す。そして例外も想像以上に多い。現診断学で診断できない症例と毎日のように遭遇する。つまり医学書の内容は一部の患者には通用しないというのが真実である。さて、ここでは驚愕の事実が待っている。先ほど「医学書の内容は一部の患者には通用しない」と述べたが、一部ではない。医に誠実であればあるほど大半が通用しないことを知る。特に高齢者の症状は現医学では言い表すことができないものばかりである。
では医学書に掲載されていない診断学をどうすれば築き上げられるだろうか? どうすれば真実の診断に近付けるだろうか? それは「患者から学ぶ」以外に方法がない。誠実な医師は毎日の診療において「医学書に掲載されていない診断学」を患者から学ぼうと日夜努力する。そして数々の真実にたどりつく。だが残念なことに、そうした真実には「エビデンスがない」という理由で世間には広まらない。しかし、そうであっては医学は進歩しない。患者から学んだ診断学を、仮説と限定しつつも広めていかなければ患者は救われない。現医学で証明がつかないのなら仮説で構わない。その仮説を誠実な医師の間で共有しようではないか。

仮説の共有の思いつき

私はある日の外来でこんな訴えをする患者に出会った。「副鼻腔炎の治療の為に抗生剤をのんだんですが、その日から顔がむくんで全身が痒くて痒くて辛抱できなくなったんです。そのことを耳鼻科の先生に相談したら、「痒いのなら蕁麻疹が出ているはずだが、あなたの体にはどこにも蕁麻疹らしきものが出ていない。だから薬のせいではない。私は国家試験を通って勉強もしている医者なのだよ。私のいうことを信用できないのですか?」と言われて怒鳴られたんです。でも、副鼻腔炎がよくなって、薬をやめたら痒みもむくみも収まったんです。」と彼女は私に訴えた。
私はこう答えた。「皮疹が全く出ない蕁麻疹があることをその医者が知らないだけです。そういったことは医学書には載っていないので患者から学ぶしかないんです。その医者は患者から学ぼうという姿勢のない医者ですよ。困ったものです。あなたの痒みは間違いなく薬剤アレルギーです。」
私が「皮疹が全く出ない蕁麻疹」があることをなぜ認識するようになったかというと、実際に私がそのような蕁麻疹を経験したことがあるからだ。皮疹が出ていないのだから蕁麻疹という現医学の表現にはあてはまらない。あてはまらないから病気として認めない→患者のたわごと→病気ではないので私の言う通り抗生剤を続けなさい、という間違った治療となる。
私は皮疹のないかゆみに3カ月間苦しみ、その後自分でレスタミンカルシウムを2度ほど静脈注射し完治させた経験を持つ。このとき、皮疹が全く出ない蕁麻疹が存在することを知った。レスタミンカルシウムを注射するとその直後に体中の痒みが瞬間的にブレーカーを落としたかのように消失することを体験し、この痒みがヒスタミン由来であることを確信したのだった。
こういった話は、患者から学ぶ以外に習得する術がない。そして学ぼうとする姿勢がないかぎり、患者が訴えた貴重な医学情報は「たわごと」として馬耳東風となる。医師が患者から知識を学ぼうとするかしないか?それによって診断学と治療技術は医師間で格段の差が出てしまう。教科書から学び、臨床から学ぼうとしない医師ははっきり言って将来開業した際につかいものにならなくなる。
専門バカ的な医師になるのならそれでも通用するであろうが、多くの医師が将来的には開業し家庭医となる現状を考えると、専門バカ的な医師が家庭医になると社会迷惑である。 患者から得た貴重な臨床情報を家庭医で共有することが急務であろう。ここでは私が患者から得た情報を箇条書きに羅列しておく。整然としないが、家庭医学が進展するきっかけとなることを祈る。

疱疹のない帯状疱疹

帯状疱疹に潜伏期があることを多くの医師は認識しているが、痛みやヒリヒリ感のみが出現する特殊な潜伏期があることを知る医師は少ない。つまり疱疹が出ていないのに症状だけが先行する場合がある。しかも疱疹が出る前に帯状疱疹が軽快してしまうこともあり、この場合帯状疱疹と診断することは現医学では不可能となる。おそらく抗体価を測定することが唯一の診断となるが、抗体はあくまで典型的な帯状疱疹の患者からとったデータであるので、抗体価の上昇さえもあてにできないのが真実である。私の場合、疱疹のない帯状疱疹を数々看破してきた。つまり、疱疹の出ていない時期に「帯状疱疹」と患者に伝え、診察後3~4日経過してから疱疹が出始めたという症例を多数経験している。
(誤診)疱疹のない初期帯状疱疹では関節痛や筋肉痛と誤解される。その理由は体動と共に痛みが誘発されるというまぎらわしい臨床症状が現れるからだ。患者の多くは浅いところに痛みを感じるが、筋肉や関節の痛みと誤認することもしばしばある。整形外科には痛みを訴えた患者が多数来院するので、そういった誤認がマレではないことを臨床上経験した。そして私の診察後、数日して疱疹が出始めるのである。
(治療)毛穴の隆起?程度の丘疹を発見したときは疱疹の初期であると推定し、採血、および抗ウイルス薬を処方する。患者には推定であることをムンテラした上での処方である。そして私の推定はかつて一度も誤診であったことがない。初期帯状疱疹との診断には経験が必要である。

10代から始まる更年期症状

顔の発赤、発汗異常、悪心、めまい、耳鳴り、心拍数増加、頭痛、倦怠感、むくみなどの自律神経異常症様の症状は中高年の女性では一律「更年期症」と言われる。女性ホルモン低下によると推測されているからだ。しかし、更年期症は診断基準も原因もほとんど全てが不明瞭であり、解明されていないというのが真実である。
この更年期症と言われる症状は交通事故後の頸椎捻挫でも全く同じ症状が出現する。ここでは「全く同じ」ということを強調しておく。私は頸椎捻挫の患者の過去をていねいに訊き出すという作業をしているが、現在、頸椎捻挫で症状が遷延している者は、ほとんどが10代の頃から肩こり頭痛などを経験しており、耳鳴りやめまいも短時間起こり、顔の発赤や発汗異常も経験していることが少なくないことをつかんでいる。
いわゆる自律神経失調症状がすでに10代から始まっている。そして現在、更年期症に苦しんでいるご婦人も、非常にていねいに問診すると10代の頃からごく軽い自律神経失調症があったことがわかる場合が多い。更年期症は10代の男児にも起こるが、それを問診で訊き出せる医師は皆無である。なぜなら、そもそもそういう疾患がこの年代の児童にも存在するという認識がゼロだからだ。
(誤診)敢えて言うが、更年期症というものがあるかどうか?その存在を疑わなければならない。もし、本当に女性ホルモンのバランスで起こる更年期症があるのなら、それは頸椎由来の自律神経失調症と厳密に区別すべきである。女性ホルモンの投薬で完治しないのなら、それはそもそも更年期症ではないと判断する方が、どちらかというと誠実である。
私は更年期症と診断されている女性のほとんどが頸椎由来であろうと推測する。本当に更年期症がホルモンバランスによるものなら、完治させることのできる治療薬ができても不思議ではない。それがないのと、頸椎捻挫で全く同様の症状が出ることから、ほとんどが頸椎由来とした根拠である。女性ホルモンのバランス悪化による更年期症がないと言っているわけではない。誤診が多すぎると述べているにすぎない。
(治療)上頚神経根ブロックで完治させうる。すでに肩こり・頭痛に随伴する耳鳴り・めまい・悪心…などの症状は、頚神経根ブロックで多数完治させている(更年期の女性も含めて)。今後、治療症例数を重ねて誠実に報告する。

胸郭出口(斜角筋)症候群と梨状筋症候群による神経痛

上肢や下肢の長軸にそった痛みがあると胸郭出口(斜角筋)症候群と梨状筋症候群による神経痛と診断する整形外科医を散見する。両者とも筋肉、靭帯、骨などによる末梢神経の圧迫による症状と理解しているが、実際は末梢神経をその幹部で圧迫しても痛みは出現しにくい。痛みは痛みの受容体が存在する場所を刺激することで痛み刺激が中枢へ送られる。胸郭出口付近や梨状筋付近に痛みの受容体はそもそも存在しない。
末梢神経の幹部が圧迫されると痛みよりもしびれや筋力低下が主症状となることは、肘部管症候群や手根管症候群、腓骨神経麻痺などから明らかになっており、痛みがメインというその病態生理の考え方がそもそも違うのではないかと思わせる。が、教科書的にはそう理解されていない。
(誤診) Wright testなどを行い、脈拍の消失を確認して胸郭出口症候群と診断する誤った手法が今でも行われている。脈拍の消失が痛みとを直接関連付けるのは滑稽でさえある。梨状筋症候群でも同様、股関節内旋で痛みが来るのは神経根に張力がかかるなどの他の理由があるのではと想像してしまう。痛みがメインの神経絞扼症状を私は信じていない。この種の疾患では誤診がとても多いと思える・・・が、整形外科医は誤診と思われる病気を積極的に手術している。私には防ぎようがない。
(治療)胸郭出口症候群と誤診された患者をもうすでに頚神経根ブロックで多数完治に導いている。基本的に誤診された者全てが頚神経根症であった。このような「見えない・触れない箇所」での神経絞扼性疾患は、そもそもその存在自体を疑問視すべきであろう。

前立腺肥大症と誤診される過活動性膀胱

私は腰部・仙骨部神経根の浮腫を軽減させる目的でステロイドを使うことがあるが、その際は男性に「前立腺肥大はありますか?」という質問を必ず行う。ステロイドの副作用を考慮してのことである。驚いたことに「あります。治療しています。」と回答する患者が壮年から高年層では過半数を占めることである。しかし、それが本当に前立腺の治療なのか、単に過活動性膀胱の治療なのか?によってステロイド使用の有無が分かれる。過活動性膀胱の治療なら、ステロイドを使用できる。
だが、驚いたことに患者たちは、ほぼ全員、自分がどちらの病名で治療を受けているのかを医師から教えられていないということである。悪意にとるならば、泌尿器科医がすでにそれらを混同して治療をしているということである。そして区別して治療することに必要を感じていないというずさんな在り方を推測する。
私はすでに硬膜外ブロックを繰り返し行うことによって、過活動性膀胱を数え切れないほど治療し、数え切れないほどの症例を完治に近い状態にまで導いている。頻尿の真の原因が前立腺肥大であるなら、硬膜外ブロックで頻尿が治るはずがない。硬膜外ブロックで頻尿が治るということが、過活動性膀胱の原因が前立腺ではなく、仙髄由来であることの根拠となっている。
そして硬膜外ブロックを行っても頻尿が治らなかったという男性症例には、いまだ数例しかおらず、真に前立腺肥大症による頻尿はそう多くないと推測する。脊椎由来の過活動性膀胱(S2-4由来)の仕組みは全く解明されていない。よってブロックでなぜ治るのか?は不明である。が、私は膀胱からの求心性シグナルが抑性を受け制御される機能の障害により、低い閾値で膀胱の緊張感が脳に伝わると推測している。硬膜外ブロックでS2-4の血流を改善することで、抑性機能が正常化し、膀胱緊張感の閾値が上昇することで改善すると推測している。
(誤診)頻尿を訴える患者たちは、その原因を全員が「前立腺肥大」であると私に申告した。そしてその患者のたちのこれまたほぼ全員を腰部・仙骨部硬膜外ブロックで改善させた。つまり、ほとんどが誤診である。もちろん、前立腺肥大は中高年男性ではほぼ必発であるから、全て誤診と述べているわけではない。ただ、過活動性膀胱と前立腺肥大症を区別しないで診療している泌尿器科医たちに強い違和感を覚える。区別しているのなら、患者にきちんとムンテラしておくべきではなかろうか。誤診というより、混同を避けていただきたい。
(治療)前述したようにほとんどの頻尿は硬膜外ブロックで劇的に改善する。だが、患者は整形外科医やペイン科の医師の前で、頻尿を告白しない。ブロックを専門としない泌尿器科医の前で頻尿を申告するため、結局前立腺肥大と混同して扱われることになり治らないままに抗コリン薬を処方される。この現状を修復するには各学会レベルでの一騒動を覚悟しなければならない。

頸椎症由来の耳石性めまい

神経に何らかの異常があると抑性が効かなくなり、求心性シグナルの閾値が低下することがあることは過活動性膀胱のところで述べた。頭を傾けるとめまいが起こる耳石性めまいも本当のところ、過活動性膀胱のように、神経の異常で三半規管の信号が過敏に伝わっている可能性がある。そう考え始めたのは、実際に耳石性めまいと診断されている症例を上頚神経節ブロックで何名も改善させているからだ。
つまり、耳石性めまいも他のめまいと同様、頚髄が下方に引っ張られることにより、延髄・脳幹部の緊張が高まり、脳神経核に血行不良を起こすことが原因だと私は考えている。その根拠は、私は上頚神経節ブロックにより耳鼻科医が治療しえなかった様々なめまいを改善させているからである。この頚髄の牽引とめまいの関係は、現在MRIで調査・研究を行っている。結果は近い将来発表する。
(誤診)めまいの原因については現医学では解明に至っていない。だから医師たち各自がそれぞれ自論を展開している。
(治療)めまいは上頚神経節ブロックで改善する。現在、数十例の症例でめまいが改善することを確認しているので、今後症例数がまとまった時点で公表する。上頚神経節ブロックでめまいが治癒したとしても、「めまいは頚髄の緊張症によるものだ」と短絡的に結びつけるというような乱暴なことはしない。今後、MRIなどで徹底的に頚髄を調査し、めまいとの関連を発見していく予定。

他にも数え切れないほどある

ここに羅列するときりがないほど、誤診や見当違いな治療が存在する。しかし、本当に羅列しきれない。よって、今後は家庭医にこの場を預け、誠実な医療を検討していってもらいたいと思っている。私の発言がそのきっかけになればよいのだが…。  

医学書では学べない高等診断技術」への2件のフィードバック

  1. 初めまして、私は産まれ時から軽い脳性マヒです元々難聴が有りますが、二年前くらいにかぜをひいて、其れから耳が変になり耳鼻科に行った所、滲出性中耳炎と言わました。其れから切開しましたが、先生は良くなっていると言いましたが、今度耳鳴りだんだん強く鳴り出しました。自分の声頭の中で繰り返して聞こえ雑音物凄く聴こえます。耳鼻科の先生に聞いたところ、もう年だから治らないと言われました。63さんですが本当にもう治らないのですか?毎日ゆううつでしかたないのですが、どうにか成らないのでしょうか?教えて下さい。

    • がんばって文章を入力されているのだということがわかります。耳鳴りのつらさは本人以外には絶対にわかりません。難聴と同じくらいつらいものですが、耳鳴りを積極的に治そうとする医師はあまりいません。その理由は耳鳴りは辛抱できる病気であると医師側が思っているからです。辛抱できる病気にリスクのあるブロックを積極的にすると、何か起これば責任を負わされるという強迫観念があるからです。よって、耳鳴りはそれ単独では医師は治そうとはせず、肩こりや、難聴治療のついでに、あわよくば治るかもしれないという姿勢で接するのが普通です。私は現在、多くの患者に耳鳴り単独治療を行っています。完治はなかなか難しいのですが、軽くさせることを目的とするのであれば、95%の確率で軽くさせることができています。しかしながら、ブロックを行っても、「全く改善しない」方がまれにいます。歳だから治らないということはありません。ただし、耳鳴り治療は何度も通院が必要ですので、私の診療所が東京ですので、通院ができるかどうかがカギです。耳鳴り治療ができる医師を全国に輩出していきたいとは思っていますが、もう少し時間がかかりそうです。PS:メールが届きませんでした。

ちばひろこ へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です