疼痛伝達の神秘2

脊髄って随分細いなあ

  私はかなり以前から脊髄は異常なほどに細いなあと感じていました。まずはこの絵をご覧ください。
脊髄スケッチクリックで拡大
この絵はネッターと呼ばれる偉大な医者が描いた絵です。このわかりやすい写実的な絵は今でも世界中の多くの教科書に用いられています。ネッターはこのような絵を何万枚も描いています。さて、この絵は脊髄と神経の走行を写実的に描いたものですが、これを見てあまりにも不思議なことに気づきませんでしょうか?
たとえば坐骨神経の太さ…かなり太いですねえ。神経は頚椎8本×2、胸椎12本×2、腰椎5本×2、仙椎5本×2、で合計60本あります。1本の直径が3~4ミリはあるだろう太い神経が全部で60本あるわけです。これが長径が2センチにも満たない楕円形の脊髄の中を通ることなどできるはずがないのです。物理的にありえない構造です。もちろん、末梢では神経の外膜が強く丈夫になりますから、多少太くなるのは理解できます。しかし、それにしても末梢の神経が太すぎると思いませんか?
また、脳を考えてください。ここでは末梢神経よりももっともっと多くの神経がところ狭しとひしめきあっていて、そこで発生した情報を体に伝えるには脊髄はあまりにも細すぎる(狭すぎる)と思いませんか?理論上、神経線維が1対1対応であるなら、脊髄は握りこぶし以上の太さが必要となるでしょう。にもかかわらずなぜこんなに細い脊髄で私たちはことたりてしまうのでしょうか?これは大昔(学生時代)に私が抱いた疑問でした。

脊髄というボトルネック

脳からの情報、末梢からの感覚器からの情報などは脊髄を経由しなければ信号が届きません。しかし、莫大な電気信号を伝えるために脊髄はあまりに細すぎます。それはボトルネックです。まるでコンピューターとコンピューターをつなぐLAN回線のようです。
ただ言えることは「進化の過程で無駄なものはそぎ落とされていく」ということでしょう。太すぎる脊髄はその性能よりも損傷するリスクの方が高すぎて個体の生命を危険にさらしたのでしょう。そして、ある一定以上の太さは恐らく必要なかったのでしょう。
さて、脊髄がボトルネックであるという発想を持つことはこれからの医学の発展にとても重要なことなので敢えてここに記載させていただきました。まず脳からの信号は厳選されてから脊髄に伝えられます。厳選するための器官として小脳があります。小脳では大脳から発せられた様々な無駄な信号を統合し、速やかでなめらかな目的ある信号へと変換してから脊髄にその信号が伝わります。したがって小脳を鍛えることで信号の厳選と統一が行われ、巧みな運動ができるようになります。スポーツや芸術、習い事で巧みな技を発揮できるのも小脳のおかげです。
もしも脊髄がさまざまな信号を全て伝えられるだけの太さがあったなら、信号は統合されずに乱発され、かえってぎこちない運動しかできないようになるかもしれません。そういう意味で脊髄はボトルネックの状態で十分だったのでしょう。

末梢神経からの情報も選別される

私たちはスポーツに夢中になっているときには、「痛みを感じない」ということが起こります。また、逆に不安なことがあると少しの痛みも増幅されて感じるという場合もあります。このように末梢からの感覚情報は全てが脳に伝えられるわけではないということがわかります。触られたことを痛みとして感じるアロディニアがあったり、セックスの最中では叩かれるという痛覚が快感として伝わったりなど、末梢の刺激情報が変換されて脳に伝わるということさえ私たちは日常的に経験しています。
これらの末梢からの情報も、実は全てが脳に伝えられているのではなく「取捨選択」されていることに気付くはずです。なにせ脊髄はボトルネックであるので全ての情報を伝えられるほど太くありません。例えば100ある情報が脊髄ではマックス50にされて脳に伝わります。ならばどんな情報が捨てられ、どんな情報が選ばれ、どんなときにどんなふうに変換されて脳に伝わるのか?大変興味深いものです。

神経節で取捨選択・変換される

末梢からの信号が全て脊髄に伝えられるのなら、脊髄はあんな細い電線では無理です。末梢神経の数と太さを考えるとその合計は脊髄の太さをゆうに上回っています。これはつまり神経節で電気信号が取捨選択されたり信号の伝わる経路がポイント切り替えによって多様に切り替えられたりしている証拠だと私は考えています。

新ゲートコントロール理論

私はゲートコントロール理論の欠点を補う新たな新ゲートコントロール理論を提唱します。それはポイント切り替え論です。神経根には触・圧覚、温痛覚など様々な電気信号が無造作に次々と脊髄の方へと自動的に送られてきます。それはそうでしょう。単に座っている時でさえ、お尻が椅子に圧迫される感覚、下着が張り付いている感覚、足に物が当たっている感覚など、大量の情報が自動的に送られてきています。しかし、それらの情報は何かに夢中になっている時には全く感知することができません。ふとお尻に神経を集中させてはじめて「椅子にお尻があたっている感覚」を感じることができます。神経から信号が送られていても、その全てが脳に伝わって認識されているわけではありません。
私たちの生きている実感として、末梢神経が感じた信号は大部分が捨てられていることが理解できるでしょう。神経に伝わったどの信号が脳に伝わり、どの信号が捨てられているか?そしてどんな仕組みで信号が伝わったり増幅されたりするのか? その原理を説明できる新たな理論としてポイント切り替えがなされていると私は考えています。ポイントを切り替える部位は後根神経節をはじめとして、交感神経節、脊髄後角・前角、視床などです。
脊髄の断面積は全神経の合計断面積よりも驚くほど細いのですから、信号は取捨選択されポイント切り替えがなされているのは想像にたやすいでしょう。その切り替えは様々な神経伝達物質、神経刺激物質、脳内ホルモンの存在下でほぼ自動的(無意識的)に切り換えられると考えます。そのため例えば何かに集中しているときは痛みを忘れたり、マッサージされて気分がいいときは痛みを感じにくくなったりなどの「痛み信号の制御」が起こると推測されます。それは神経末梢から伝えられる情報の取捨選択による制御です。マッサージされると痛みが軽快するのはまさにこのポイント切り替えだと推測します。

後根神経節の炎症は恐ろしい

ゲートコントロール理論ではアロディニアについては全く説明がつきませんが、ポイント切り替え理論ではアロディニアをはじめ様々な情報伝達の謎がほとんど全て解決します。後根神経節にはいまや侵害受容器があることがわかり、この受容器の興奮により後根神経節に炎症状態を作り出すことができます。ここで作られた炎症伝達物質は中枢にも抹消にも輸送されようです。輸送された物質により、抹消にも中枢(脊髄後角)にもリアルな炎症が起こりえます。もともと抹消にも中枢にも炎症は起こっておらず、後根神経節のみの炎症なのに、炎症伝達物質が輸送されるおかげで炎症のないところに炎症が起こるということがあり得るでしょう。たとえば神経根に炎症が起こっているのに、その炎症が脊髄の後角に波及し、脊髄後角炎を起こし、脊髄後角部で作られた炎症伝達物質が、今度は延髄まで移動し延髄に炎症を起こす。さらに延髄の炎症は視床に炎症を起こす…と数珠繋ぎに炎症が脊髄全体に派生する可能性があります。
この逆も真なりで、脊髄視床路に起こっている炎症が抹消に伝わり、最終的に手の甲に腱鞘炎を起こすというような事例です。臨床的にはこういうことを実際に経験しますが、医者たちはこれらの現象を信じておらず、「脊髄の炎症で手が腫れる」などと言えばキ○ガイ扱いされてしまいます【2014年現在】。後根神経節というポイントの切り替え部分での炎症が起こると、神経細胞は痛みを最大限増幅しようという努力をするでしょう。そうなると、触る押すなどの情報が痛みへと変換されるだけでなく、筋肉を動かす、震動が伝わる、重力をかけるといったことでもそれらの情報が痛みへと変換されるでしょう。まさに何をやっても耐えがたい痛みとなるわけです。これをアロディニア(異痛症)といいますが、その仕組みは完全にはわかっていません。

痛み理論の整合性は今の医学では解明できない

これらの理論が正しいかどうかはあまり関係ありません。私は神経生理学者たちのような机上の空論家ではなく、臨床家です。実際に数多くの神経根近傍へのブロックで多くの痛みに悩める患者を社会復帰させました。その治療から生まれた私の導きだした結論であり、実際に治すことのできない「神経生理学者たち」の考えが私の思考内容に及ぶことはないでしょう。痛みの原因がどこにあるのか?は少なくとも「治すこと」でしか「まともな答え」は出ません。たとえば、私は副鼻腔炎で顔面痛がするという患者を頚部交感神経節ブロックで完治させ、完治させたことにより、「その痛みが副鼻腔炎由来ではない」ことを証明してみせます。どんな精密医療器械を用いても、痛みの原因はわかりませんが、「治すこと」によって痛みの原因が副鼻腔炎ではないことを証明できるのです。
しかし、副鼻腔炎ではないことがわかったとして、その正体が三叉神経痛だったとしても、頚部交感神経節ブロックで治ったことが三叉神経痛の証明にはなりません。原因を絞り込むことはできても、現医学レベルでは確証が持てません。よって、痛みの原因を何とでも言えるのが現医学の結論です。ただし、副鼻腔炎の手術をしても痛みが改善しない事例もかなり多く、患者は被害者となることを避けられません。副鼻腔炎の患者が私(整形外科医)と出会って私の治療を受けられる可能性は極めて低いのですから。
(未完)  

まとめ

末梢神経は後根神経節、後角、視床など、神経節部分でポイントを切り替える能力があると思われます。中でも後根神経節でポイント切り替えが行われるとする考え方はこれまでの医学理論を覆します。なぜなら、今でも多くの学者たちに、ほとんどの電気信号は後根神経節を素通りすると思われているからです。誰の理論が正しいかどうかは私には関係ありません。ただただ、後根神経節をブロックすれば、症状が軽快する例が多いことだけ述べておきます。単なる素通りのポイントであるならば、ここにブロックして症状が治癒するはずがない。と、臨床家の私は考えます。ただ、基礎医学者などはそういった臨床を知らないものだから、痛みは神経のどこをブロックしても軽くなるのは当たり前というような考え方をしているようです(実際に会談してそのことがわかった)。臨床家的な視野では、後根神経節にはポイント切り替えがあり、その切り替えが異常になっているのをブロックで修復することにより、症状が改善すると考えるのです。まあ、これらは仮説の域を出ません。疼痛の仕組みは今も尚、解明されていないのですから。

疼痛伝達の神秘2」への1件のフィードバック

  1. 大変勉強になりました。
    今まで謎としてわからなかったことが、先生の柔軟な発想からヒントを得ることができました。
    ありがとうございました。

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