神経痛マップ ~神経根レベル高位診断マップ~

痛みやしびれの原因を診断する方法

膝が痛ければ膝が悪い。肩が痛くて挙げるのが困難なられば肩が悪い。股関節が痛いなら股関節が悪い。と、ほとんどの人はそう思っているでしょう。しかし、それが正しいとは限りません。
  •  「痛みを訴える患者の2割から3割は神経痛である」
膝が痛い、股関節が痛い、肩が痛いと訴える人の2割から3割が、実際は関節が痛いのではなく神経が炎症を起こしているようなのです。私は膝・肩・腰の痛みが「どこの医者にかかっても治らない」という患者を専門に治療してきました。そういう患者たちは関節に注射しても痛みが完全にとれきれませんでしたが神経根ブロックを併用すると見事に「完治に近い状態」となっています。そういう患者が全体の2割から3割に存在します。高齢者に限定すればこのような神経痛合併の割合は4割。「どこへ行っても治らなかった」という患者に限定すれば5割以上に存在していました。神経痛合併患者ではその神経支配領域の「痛覚過敏」が起こるために、関節の痛みが数倍になって脳に伝わるようなのです。ですから関節に注射しても痛みは半分くらいとれるのですが、根本的に治療するためには神経根への治療が必要だでした。ただし、痛みに対応する神経根の高位を診断することはたやすいことではありません。ここでは「どこが痛ければどこの神経が悪いのか?」を調べる新たな方法について述べていきたいと思います。
 

脊髄分節マップは使いものにならない

「ここがしびれるのなら第6頚神経が悪い」などと医者であれば症状の出ている場所と障害されている神経の高位との関連性を認識しているとみなさんは思っていることでしょう。しかし、その認識は間違っています。私は教科書(医学書)に掲載されている脊髄の分節マップを頼りに今まで「どの神経が障害されているか?」を必死に考えてきましたが、まじめに診察すればするほど医学書に記載されている分節マップが使い物にならず、非現実的であることがわかってきました。なぜ非現実的か?その理由はいくつもあります。
 

知覚異常の場所を患者は認識できない

一言で知覚と言っても、痛い、しびれる、かゆい、ちくちくする、重い、だるいなど様々な知覚があります。これらの知覚神経は単純に一種類からできているのではなく、Aα、Aβ、Aγ、Aδ、B、Cなど多種多様な神経線維の中を走行しています。その組み合わせによってしびれの感じ方は何百、何全通りとあり、言葉で言い表すこと自体が不可能です。神経根が障害されてしびれが出る場合、障害される神経のパターンは実に様々で、しびれの出現する場所(深さ)、しびれ方などが想像以上にバラエティに富みます。例えばAαなどの運動神経にも知覚神経が含まれ、交換神経の中にも知覚神経が含まれ、それらの数種類の神経の組み合わせでしびれ感が出現するためパターンが一定しません。知覚神経はほとんど全ての末梢神経に含まれています。これらの神経のどこを介しての知覚異常なのか? 患者は全く持って自覚することは不可能です。
  神経支配領域(分節)は皮膚表面と筋肉内と骨膜とではそれぞれ別々です。医学書に掲載されているような「大根を横に切ったような」神経支配領域にはなりません。ですから例えば「痛い」という感覚が肘の外側にあるからC8が悪いなんてことはいえないのです。皮膚が痛いのか?筋肉が痛いのか?骨膜が痛いのか?その場所によってどの神経が障害を受けているのか?が微妙に異なります。患者にはその痛みがどこから来ているのか?皮膚からか?筋肉からか?骨膜からか?は表現することはできません。それどころか医者でさえも肘の内側の骨膜が痛い場合に、それがどこの神経支配領域なのか?知っている人はほとんどいません。例えば肘の内側の皮膚の痛みならTh1かC8ですが、骨膜の痛みならC7となります。このことを既知の医者は非常に少ないのです。 map01
  • 脊髄のレベルと皮膚分節
こんな風に皮膚分節が区分けされているが臨床的にはほとんど役に立たない。

しびれは解析が極めて困難

あなたは正座した後に足がしびれているとき、そのしびれはどこにある?と表現できますか? しびれは足の皮膚表面から足の芯まで全てしびれているわけですが、「足がしびれている」と表現する人はいても「足の皮膚と筋肉と骨がしびれている」と表現する人はいません。同様に足の指がしびれると訴える人に「そのしびれは皮膚がしびれているのか?指の筋肉がしびれているのか?骨膜がしびれているのか?」を言える人はいません。しかし実際は皮膚なのか筋なのか骨膜なのか?で微妙に神経支配領域が異なります。患者がそれを正確に言えないのだからしびれの領域を患者から訊きだしても、どこの神経が悪いか?は推測することが非常に困難なのです。しかも、しびれの守備範囲は非常に広範囲です。「重いような、引っ張られるような、何だか苦しい、砂を踏んでいるよう、じんじんする、ぴりぴりする、ひりひり痛い」などありとあらゆる感覚異常を患者は「しびれている」と表現します。
  運動神経であるAα神経が圧迫されると重苦しい感じになることは既知の事実ですが、そういった運動神経異常でさえ患者はしびれと言います。まさに深部知覚と表在知覚の全てがごちゃまぜになった状態の表現なのでしびれの部位から障害されている神経の高位を診断することは不可能に近く、まずはこのことを認識する必要があります。多くの医師は上に掲載したようなあんちょこな分節マップを用いて「ここがしびれるのなら何番の神経が悪いんですよ」と答えてしまいます。このことは私たち医者が大反省せねばならないところでしょう。私はしびれという症状から神経高位を探り当てることが困難であることを知り、自らその分節マップを考案します(すみませんまだ完成していません)。
 

既存の体表マップは信用できる?

次に一般的な皮膚分節を示した体表マップを3枚並べて掲載します。この3枚はどこの誰が書いたのか?の制作者が全てあいまいです。つまり誰が作ったマップなのか?責任者がわかりません。どれがオリジナルなのかもわかりません。そして三つのイラストはどれも細かな部分が一致していません。上肢の図はある程度一致していますが、下肢はかなり相違があります。私にはこの3枚の図のどれがもっとも正解に近いのか?まったくわかりません。ただし、何度も言うようにイラストが美しければ人はそれを正しいと思いこむ習性があります。3枚目のイラストはNetterという高名な医師の書いたもので美しく見栄えもいいので、これがもっとも信用が置けるものと人は勝手に信じてしまう習性があります。私は何度も警告しておりますが、イラストを描く能力と医学を追究する能力は別次元のものであり、イラストの美しさが医学の事実を捻じ曲げて伝えることもあることをここでもう一度述べておきます。   map01 map02 map03
 

手袋・靴下型のしびれは末梢型という間違い

私たち医師は「手袋・靴下型のしびれは末梢型」と教わり、患者が「手のひら全体がしびれます、足全体がしびれます」と訴えた瞬間に治療を断念するという悪しき習慣がついています。末梢型は糖尿病や膠原病などで起こるものなので整形外科的に脊髄へのアプローチをしても無駄だと誰もが思っているからです。
  •  これが嘘だという証拠を示します。
肘頭管症候群では肘のフレクションサインを診ますが、正常な人でも長時間肘を曲げた状態にすると尺骨神経領域にしびれや鈍痛が起こることはご存知でしょう。一度ご自分で長時間肘を曲げてみてください。するとどこがしびれるか?しびれの領域を自覚できます。すると小指側だけでなく親指側にもわずかにしびれが来ることがわかります。さらに長時間行うと手全体がしびれてきます(示指はあまりしびれない)。これは長時間曲げることによる血行不良のせいだと反論する方がいらっしゃるでしょう。しかし血行不良であるならば肘から抹消の全てがしびれますので手首から下にしびれが集中することを説明できません。つまり尺骨神経単独の障害でも患者のしびれの訴えが手袋型になる場合もあるということがいいたいのです(母指や示指にもわずかにしびれるため患者は手全体がしびれると表現する)。さらに尺骨神経障害に手根管症候群を合併して手袋型のしびれになる場合もあります。
  そう考えればわかりますが、手の内在筋には尺骨神経由来のものが手全体に存在します。筋肉内にももちろん知覚神経が通っています。ですから尺骨神経の障害で手全体がしびれても不思議はありません。しかし、これを不思議としてしまう理由は、我々医師が既存の皮膚分節マップを信じきっておりこれが正しいと頑固に思っているせいでしょう。分節マップはあくまで皮膚の表面のものであり、筋肉や骨への分布を示しているものではありません。尺骨神経の筋への支配は指全体に渡るということ。そして筋肉のしびれを感じれば手全体がしびれるということ。これは当たり前ですが、この当たり前のことが誤解されているということの証拠をお見せしましょう。
 

誰もが誤解している分節マップ

map04 この図は最新整形外科学体系に掲載されているもの。aの図は後根神経節が損傷すると右手の親指側に全感覚型の知覚神経障害が起こるということを示している。ちなみにこのエリアはC6のエリア。つまり第6頚神経の後根が損傷を受けると右手の親指側に知覚異常が起こるといいたいわけです。これのどこが誤解なのか?普通に医学教育を受けた者には全く分からないものです。
  何度も言がこのエリアが知覚異常を起こすのは皮膚の表面だけのはずなのです。なぜならこれは皮膚の分節マップだからです。筋肉や骨膜のこのエリアが知覚異常を起こすわけではありません。ですが「全感覚障害」と書かれています。全感覚とは皮膚の表面だけではなく深部感覚の異常を含めた感覚障害を意味します。しかし、C6の単独障害で筋肉や骨膜も含めた深部感覚異常が右手の親指側だけに起こるとするのは明らかな誤解です。
  C6が支配する筋肉はもっともっと広範囲に存在し、筋肉から脊髄に向かう知覚神経もまた後根を通ります。したがってこの図は分節マップが「あくまで皮膚表面の知覚マップ」であることを執筆者が理解していないことの証拠となるわけです。もちろん理解していないのは執筆者だけではありません。私も以前は理解していなかったですし、このことに疑問さえ覚えませんでした。なにせ教科書がこんな状態なのだから…。本来このような分節マップには「あくまで皮膚表面の知覚異常ですよ」との記載が必要なのですが、マップを作製した偉い先生方があえてそう書かなかったことでこのような誤解を招いています。そしてその誤解は現医学では修正されることはないでしょう。
 

骨膜への分節マップ

私は常々、骨膜への神経分布がどうなっているのか?に興味を持っていました。それは明らかに「皮膚への分布様式とは相当異なる」ことが予想されているからです。その分布がわかれば「体の芯の痛み」「骨を圧迫した時の痛み」がどの神経根由来なのか判明します。これは神経根ブロック治療を多用する私にとって大変役立つ情報となります。しかし、骨膜への知覚神経の分布をどうやったら調べることができるというのでしょう?骨膜を露出させた患者に神経根ブロックを行い「痛いか痛くないか?」を全ての骨にはりを刺しながら行うというのでしょうか?そんな拷問人体実験をできるはずもありません。以下の資料は今から100年以上も前(第一次世界大戦頃)の資料であり、どうやって調べたものかわかりませんし、どこまで信用していいのかもわかりません。ただ、骨膜への分節がどのようなものか?想像するには役立ちます。
  骨格への脊髄神経分布(Djerine S:Semoidologie du System Nerveux,Masson,Paris,1914) map05
  • ペインクリニックに必要な局所解剖学 文光堂より
 
皮膚の神経分節という研究しやすいものでさえ見解の相違があるというのに、骨膜への神経分布が100年以上も前に研究されていてそれが信用に値するものとは到底思えません。しかし、これを研究した学者はこのマップにおそらく医者生命をかけたのだと思います。それがせめてもの信用に値するものと考え、私は以降、このマップをほどほどに引用させていただきます。これをご覧になるとわかるように、皮膚分節とかなり異なっています。わかりやすくいうと、骨への分節は皮膚への分節よりも全体的に下(尾側)にさがっています。たとえば皮膚分節マップでL1のエリアが骨分節マップではL3エリアとなっており、およそ2椎体分尾側にずれているようです。もっとわかりやすく言うと、たとえば腰骨のあたりが痛いという場合、皮膚(表面)が痛いのならL1の神経由来、骨(奥の方)が痛い場合はL3由来となるということです。この尾側にずれるという概念はとても重要なので最後まで記憶に留めておいて下さい。
 

痛みの場所から神経根の炎症を推定する

「肩がこる、肩甲骨も痛い」という患者の訴えを聞き、頚椎への神経根ブロックを行おうと考える医者はなかなかいません。こりの原因が神経痛であるという通念が一般的な医師にも患者にもありませんし、こりの原因がどの神経根が由来なのかを推測できないからです。しかし私は実際に「どこに行っても治らない肩こり」を神経根ブロックで治療してきました。そしてわかったことは「がんこな肩こりの原因のほとんどが神経根由来」だったということです。まあ、なかなか信じてもらえないとは思いますが…。
  たとえば「肩甲骨の下の方が痛い」と訴える患者の痛みの原因を神経根由来だと考えると、さきほどの骨膜マップではC6に相当します。つまり第6頚神経の神経根炎でこの痛みが生じている可能性を考えます。骨膜の痛みは筋肉を動かすたびに骨膜へのストレスが痛みとなって患者を襲いますから、患者は「筋肉が痛い」と感じます。患者はこの肩甲骨の痛みに対してここをマッサージしてもらったり電気をあててもらったりしますが、原因は神経根なので根本的には治癒しません。私はこういう患者に実際に神経根へのブロック注射を行い、ほとんどの患者を完治に向かわせました。その際にどうやって原因の神経根をつきとめるかといいますと、実際に神経根部を指圧し、患者が強く痛みを感じる場所を「原因箇所」と同定するやり方です。そうして同定する私のやり方で判断すると、この骨膜分布図はそこそこ信憑性があると感じています。従来の皮膚分節マップからでは痛みの位置からどの神経根の炎症か?を割り出すことは全く不可能です。それに比べてこの骨膜マップは私の臨床データとかなり一致しています。
 

 麻酔科医の圧痛マップ

麻酔科医でペインクリニックを専門としている医者は疼痛治癒の達人です。患者の疼痛を手術することなく取り除いてあげようとするアグレッシブな精神は整形外科医のはるか上を行きます。実際、整形外科医は外科医なのでブロックには消極的です。彼らは自ら圧痛点と神経根支配領域の関連を研究しているようです。つまりここが痛いのならこの神経根由来であるというマップを持っています(たいへんおおざっぱですが…)。それがこの図です。   map06
  • ペインクリニックに必要な解剖学 文光堂より
 
頚椎の神経根でもっとも損傷を受けやすいのは第6頚神経(C6)であるのでC4とC5の圧痛点では非実用的に思いますが…どうしてC6がないのでしょう? それから、この図では肩こりがC4由来であるような書き方になっていますが、私の経験上、C5やC6でも起こります。ちなみに一般的な皮膚分節マップとこの圧痛点を重ねますと…   map07   緑が皮膚のC5分節帯、赤がC4の分節帯です。圧痛点とずれていてあまり重なっていないことがわかります。これらは完全に信頼おけるものではありませんが、傷害を受けている神経根を推測する一助になるでしょう。重要なことは皮膚への分布、筋肉への分布、骨膜への分布はそれぞれ異なるので、どれか一つをとりあげてかたよった知識で判断しないことです。
 

最新分節マップ

私が分節マップを作るにあたってもっとも重要視したのは疼痛です。しびれを基準にしようと思っても、しびれほどあいまいな概念はなく、しびれ感を頼りに傷害を受けている神経根を同定することが困難だからです。それでもしびれ感から神経根を同定したいのなら、表面のしびれなら皮膚分節マップを頼りに同定、深い部分のしびれ感ならその部分を走る筋肉の支配神経を参考にするとよいでしょう。そして私は主に疼痛を頼りに神経根の高位を診断しますが、その理由は痛みがあるときはそのエリアを担当する神経根に炎症があることがほとんどで、痛覚過敏状態になっています。この時に神経根を指圧すると強い痛みが生じるというサインが出現しやすいからです。また指圧により疼痛を感じている部位に放散痛が生じる場合もあり、この場合はほぼ確定となります。このように指圧する場所と痛みのある場所をすり合わせて行くことにより疼痛マップを作成…疼痛マップを作成する時間がなく、まだ研究途上です。申し訳ございません。(未完)

神経痛マップ ~神経根レベル高位診断マップ~」への3件のフィードバック

  1. 初めて「神経痛マップ」を読ませて頂きました。とても参考になりました。愛読させて頂きます。ありがとうございます。

  2. 現時点でもっとも正確なデルマトームは、ペインクリニック草分け的な存在である伊藤樹史先生が作成したデルマトームがあります。あまり世の中に出回っていませんが・・・。

    既存のデルマトームに疑問を感じた、伊藤先生が数多くの帯状疱疹患者のデータをもとに作成されたようです。

    • 貴重な情報をありがとうございます。私は今ではデルマトームを研究する暇がなく、研究は進んでいませんが、最近は知覚異常が延髄よりも中枢レベルに存在する「極めて難しい知覚異常」の研究をする段階に入りました。末梢神経由来と考えられているものの中に、中枢由来のものがかなり高率に潜んでいることをこれからの医師たちに伝えてまいりたいと思います。

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