腰椎アライメント異常症という新たな概念

はじめに

腰椎を含む頚椎、胸椎など脊椎の軸(アライメント)異常の概念はこれまでかつて一度もまともに研究されていない。前後にずれるすべり症の計測法としてすべり距離の下位椎体上縁の距離との比率を求める方法、Slip angleなどがあるが、どれも本来の軸異常を計測する方法としては有用性が低いと私は感じている。そこで今回、本来のアライメント異常として正しい計測法を提示するとともに、これまであいまいだったすべり症の概念をクリアにした。本文ではその計測結果をもとに生体力学的な「ずれを生じるメカニズム」から、軸異常が身体に及ぼす悪影響までを考察していく。
 

アライメントの生体力学

腰椎のアライメントを考える前に脊椎の物理的なバランスを考えなければならない。誰もが胸椎が後彎で腰椎が前彎と知っているが、その物理的意味が研究されていないように思える。例えば胸椎は肺機能を保つために陰圧を作り出す胸郭を持っている。この陰圧に耐えうるために胸椎は後彎になっている必要がある(前弯では陰圧時にさらに前弯が強くなり、有効な肺活量を得られにくい)。こうした構造上の理由が胸椎が後弯である最大の理由であると推測する。
アライメント01 さて、次に脊椎の支点を考える。脊椎の支点(髄核の位置)は第8、9胸椎を境にして第2、3腰椎まで下位に行くほど前方に移動し続ける。この図はL1、L2、L3と重心が前に移動している様子を示す。さて、Th8以下、L3の椎体上縁まで前方に支点が移動し続けることで重力がかかると(筋力が働くと)T8からL3は自然と背屈する。重心が前に行くと椎体に背面への傾斜力がつく。これは椎体の上下に加わる位置が違うことにより回旋力が加わるせいである。 アライメント02
この背面へ傾く方向への回旋力が脊椎を起立させることに役立っていることは容易に察することができる。逆に言えば、支点がこのような配列になっていない場合、直立の際に自然な背屈は得られにくいため、筋力を強く働かせて直立にならざるを得ない。すると脊椎には重力と筋力の両方が加わるので椎間板が崩壊しやすくなることがわかる。つまり、腰椎がストレートの人、猫背の人は下位胸椎と上位腰椎の椎間板が壊れやすいという宿命を背負う。この逆も真なり。T8からは下位頸椎まで椎体が前方にシフトしていくが、胸椎がストレートな人(側彎のある人に多い)は上位胸椎まで後方シフトしている人がいる。すると椎体は健常人に比べてのけぞり回旋することになり、椎間関節へのストレスが増す宿命にある。
逆にL3を境にしてL4、L5と回旋力はおじぎする方向へと向かう。よって椎間板に加わる重力のストレスがL1,2とL3,4では真逆になる。Th12/L1、L1/2、L2/3の椎間板は後彎となりL3/4、L4/5、L5/Sでは椎間板が前彎となるストレスを受ける。このことを念頭に置くと、椎間板症(椎間板不安定症)の概念が理解できるようになる。すなわち、Th12/L1、L1/2では椎間板はわずかに後彎、L2/3ではほぼ平行。そしてL3/4からは前彎となるのが正常な椎間板力学であるということ。そのような形態を保っていない椎間板は崩壊しやすい宿命にある。

髄核の位置

髄核は若年者ではほぼ○の形状をしている。そして髄核は椎体の中心には位置していないことをほとんどの者が気付いていないだろう(MRIを見ればすぐわかることだが、誰も髄核の位置まで気にとめて見る者はいない)。髄核は椎体の後縁から3/7に位置する。そして髄核を中心としたてこの原理を考えると アライメント03 髄核の位置は1:3の位置にある。すなわち、髄核より前方で3、後方で1の配分で体重を支えている。背筋に10Kgの筋力が働くと、椎体の前方で30Kgの体重を支えるという構造をしている。これはほぼ全椎体において共通であるから、高齢化にともなう自然経過で起こる圧迫骨折では、全椎体(全椎体ということを特に強調する)において前方が圧縮されるのが原則となる。後方が潰れる際は、それなりの自然の力以外の外力アクシデントが起こっているということ。多くは魚椎変形するが、そのメカニズムが理解できたと思う。特に、後彎が通常である胸椎と、重心の前方移動の存在する上位腰椎の圧迫骨折では前方が潰れやすいということがわかる。椎体の重力を受ける仕組みが、そもそも前方にあるのだから当たり前。これも体の背面にある脊椎という柱で、体の前面にある内臓を支えて直立歩行する人間では当然のことである。  

腰椎は前方にすべる構造を持つ

アライメント異常を述べる前にそもそも各腰椎・椎間板にどのような力学があるのかを述べる。これは高校の物理・数学でベクトルを学んだことがある者なら理解できる。 アライメント04
これは最上部の青の矢印(ベクトル)がどのように伝わるのかを図示したものだ。青のベクトルは上から2番目の髄核にピンクのベクトルとして伝わる。3番目の髄核へはベクトルの向きが等しいのでそのままピンクのベクトルが伝わる。4番目の髄核へはオレンジのように伝わり、以下、黄色、緑、黒のベクトルのように重力が伝わっていく。
赤の矢印は椎間関節(下関節突起)にかかるベクトルを表す。このようにL2/3以下の椎間板には前方へシフトさせる力がかかる。椎間板にかかる力はすなわち椎体にかかる力なのでL2以下、L3、L4、L5の全てに前方すべりの力が加わっていることがわかる。そしてその力は下位に行くほど大きくなる(実際には椎体に筋肉がはりめぐらされ、前方すべりの反対方向への筋力によるベクトルがかかり、均衡を保つ)。
そして最下位にある仙椎には赤の矢印の反作用としての空色のベクトルと黒のベクトルが加わる。この2つのベクトルの和は最初の青のベクトルと等しい(椎体の重さは考慮していない)。これが腰椎の前方すべり症の原理の基本の「き」である。そしてこの前方への力によって関節や椎弓角度が変形すると実際に椎体がすべり出す。生活習慣で背骨にかかる負担が異なるが、下位腰椎には前方へのベクトルがかかる構造になっており、これが前方すべりのそもそもの原因となる。下位腰椎は高齢になればほぼ全員がすべる(数ミリ以上)と考えてよい。

前方すべりの生体力学

前方すべりは椎弓が変形、あるいは椎間関節が変形を起こさない限り絶対に起こらない! もしこれに異論のある者は椎体の模型をいじってみるといい。どうしようと何しようと椎間板を抜き取ろうが椎体をつぶそうが、何をやっても前方にすべることがありえない。つまり前方すべり症は椎弓または椎間関節の変形が必須となるということ。そして以下にすべりを起こしたときの重心の変化の生体力学を示す。 アライメント05
この図はL4が前方にずれたときのものだ。ある程度(5ミリ)以上にずれるためには椎弓の水平化が必須となる。薄茶色で示した椎弓が水平化した椎弓を意味する(椎体の長軸との角度差がほとんどない状態)。赤の矢印は下関節突起が寝てしまった状態を示している。その下のこげ茶色の上関節突起も変形を起こして前方に倒れてしまった状態を示す。前方すべり症はこういう現象が起こらない限り存在しえない(わずかなすべりは関節裂隙の狭小化でおこる)。
このようにずれるとL4/5の髄核はL4に対して後方に移動する。そして重心が前に移動しL4には前方傾斜の力が加わる。この軸捻力はL3/4の関節のかみ合いを深くするためL3/4から出てくるL4神経根を圧迫しやすくなる(すべっている椎間の一つ上から出ている神経根に被害が出るという概念はこれまでの脊椎学にはなかった発想であろう)。
また重心が前方に移動した分、1)骨盤を背面へ起こして重心を元に戻すか、2)上半身をのけぞらせるか(腰椎前弯を強くする)のどちらかを行うことになるが・・・1)の場合はL5/Sの椎間板に負担がかかり、2)の場合は椎間関節に負担がかかるようになる。
前方すべりが椎間板に与える影響 L4が前方に辷るとL4/5椎間板の髄核も当然ながら移動する。その移動が小さい場合と大きい場合で脊椎のアライメントに違いが出てくる。下の図はそれを示したものである。 すべり01 この図の上は髄核がほとんど動かなかった場合、下は髄核が前方に大きく動いた(崩壊した)場合である。髄核が動かない場合はL4がおじぎする。よって髄核が後方へ向かうように圧力がかかる。髄核が前方に動いた(崩壊した)場合、L5はおじぎする。よってL5/S椎間板の髄核は後方へ向かうように圧力がかかる。

L4がすべるとL5はすべりにくい

アライメント06 この図はL4前方すべりで、髄核がほとんど移動しなかった場合の図である。L4が前方にすべるとL3/4、L4/5、L5/Sの髄核が一直線に並ぶことがわかる。この異変は新たなるアライメント異常を発生させる。
  まずはL4がおじぎしやすくなるためにL3/4の髄核が前方に押し出される圧力がかかりだす。その結果L3/4の関節には今まで以上にストレスがかかるようになる。よってL4のすべりは新たなL3のすべりを発生原因になる。そこから下位へは重心が一直線であるため力学的エネルギーがまっすぐに伝わり(黄色のベクトル)、そのおかげでL4とL5の椎体は前方へシフトしようとする力が弱くなる。おかげで椎間関節に加わる負担が軽くなるが、今度はL5の椎体が後方へシフトしやすくなる。(空色の矢印)。
  これによりL5には後方すべりが発生しやすくなる。前方すべり症はすべっている箇所が神経根障害を多く引き起こすのではなく、むしろその下の椎間で髄節不安定性を生じさせ、神経根障害を引き起こす。前方すべりよりも後方すべりの方がはるかに椎間孔を狭小化させる。すべり症の問題はその椎間にあるのではなく、すべっている椎体の下で事件が起こる。

圧迫骨折によるアライメント補正

私たちの脊椎は知らず知らずの間に少しずつつぶれて行く自然の圧迫骨折と、外傷による圧迫骨折がある。微小な圧迫骨折がびまん性に全脊椎に存在するとかなり重症なアライメント異常を来すが、こうした脊椎全体を通して観察できるアライメント異常は整形外科医に認識されていない。たとえば一つの椎体で5度の変形を来す程度のものでも、それが5か所に存在すれば25度となり、アライメント異常の原因になる。
アライメント07 この図の左は正常なアライメントの胸・腰椎である。中はL1が圧迫骨折を起こし魚椎変形を来したもの。右も同様だ。
  人はこのような脊椎の変形が起こっても、全体のバランスを保つように重心を移動させて対処する。中の図は腰椎を後彎させ、骨盤を前方に移動させ重心を保っている。赤のラインが重心のラインである。右の図は腰椎を前彎させ骨盤を後方に移動させて重心を保っている。このどちらかの方法をとって背骨の屈曲によるバランス異常を補正する。それをカイロプラクティックではしばしば骨盤が歪むという表現をする。
  どちらの方法をとるか?は個人の生活スタイルや活動性に依存する。高齢者は主に2番目の図のように腰椎後彎をとることが多く、若い年代になると右の図のような補正のやり方をとることが多い。原則的に腰椎が後彎であると椎体には後方すべりの力学的エネルギーが働き、前彎であると前方すべりに働くことはベクトルで図解した通りである。
  また、右図のように前彎が強くなると椎間板に負荷がかかることは言うまでもない。しかも椎間板へのストレスは、髄核が崩壊しはじめた椎間板にのみ集中する仕組みになっている。 アライメント08 この図は髄核が正常な状態での椎体可動域を示したものである。椎体は図のように髄核を支点としたシーソーのような動きをする。左は伸展位。最大伸展時は前縦靭帯と強固な線維輪の張力が最大になり、これ以上伸展が不可能となる。前縦靭帯と線維輪の張力は絶大であり、これがどんどん伸びてさらに伸展することなどありえない。
Pinter FAらによると前縦靭帯を1.5㎜伸ばすためには約600N=61.2kg重必要であり、ゴムのようには伸びないことがわかる。前屈時には後縦靭帯、棘間靭帯、黄色靭帯、関節包、棘上靭帯が動きを制限し、その総和を1㎜伸ばすには300N以上を必要とする。右図は最大屈曲時。棘間靭帯と棘上靭帯の張力によりこれ以上の屈曲が制限される。
  しかし髄核が潰れると アライメント09 この図のように可動域が大幅に増す。まさにこれが不安定椎間となるわけだが、この不安定さおかげで腰椎を前後屈するときは必ずこの椎間が集中的に動くことになる。この激しい動きがさらに髄核を崩壊させ、線維輪は破れ脱出し、マクロファージに食されて消えてゆく。
このように髄核が崩壊し始めた椎間板は、その椎間にのみ可動域が広がる。椎体の圧迫骨折をした後に重心を補正するために人間は腰椎を前彎させたり後彎させたりするが、そのどちらの場合でも椎間板を崩壊させてゆく。つまり「一度壊れ始めた椎間板は集中的に壊れる仕組み」になっている。
この崩壊のせいで前方あるいわ後方すべりのストレスが増すことはいうまでもない。ただし前方すべりはすぐには起こらない。それは関節突起や椎弓の変形が起こるまでに年月が必要だからである。しかしながら後方すべりは即座に起こる。その理由は椎体が後方へすべることを防ぐための強固なシステムが人間には存在しないからだ。しかも後方すべりは前彎が消失した椎体・椎間に即座に起こる。
各種靭帯は屈曲制限には数トンもの力に耐えうるが、腰椎が伸展位をとった際には前縦靭帯以外の全ての靭帯の張力が緩む。したがって伸展位をとると後方すべりを制限するものは筋肉の張力以外何も存在しなくなる。つまり、腰椎伸展位では容易に後方すべりが起こる。すべり制限の最後の砦は椎間板の線維輪の張力であるが、髄核が崩壊しているわけだからそのストッパーもしっかり効かない。よって5ミリ程度の後方すべりを防ぐ手段は皆無に等しくなる。髄核の崩壊はすなわち後方すべりを即座に引き起こす。
そして全くと言ってよいほど認識されていないが、椎体の前彎消失は、思春期の頃から始まっている。したがって後方すべりは想像を絶するほど無数の患者に存在する。実際に私が調査したところ。腰痛を訴える患者の47%に2ミリを超えるすべりが存在した。実に腰痛患者の半数は後方すべりを持っている。

椎間板(髄核)不安定症は他の健常椎間板を屈曲(後彎)させる

アライメント10 髄核が変性し、線維輪が壊れると椎間板の内圧は低下する。そのようにして壊れた椎間板では弾性が失われ可動角度が大幅に増加することは前述した。
では弾性が失われると椎間板は前彎が強くなるようにその角度が急角度となる。それは空気の抜けたタイヤを考えれば理解できる。L4/5以外は空気がパンパンに入ったタイヤ。L4/5だけは空気が抜けている。そういう状態で弓なりに曲げればL4/5だけで強く屈曲することになる。この図ではL4/5の椎間板が変性し、前彎が強くなった状態を示している(真ん中の図)。左は正常を表す。
L4/5が急角度になると真ん中の青線(骨盤の傾き)で示したようにその他の椎間板では前彎角度が減少する。その理由は左の図を見ればわかる。もしもL4/5がこのように強く前彎がついているのに、他の椎間板の前彎がそのまま(右図の緑の線で示した)であったら、L5/S1の椎間板が強く後彎しなければバランスがとれなくなってしまう(右図)。
L5/S1の椎間板だけが後彎が強くなることはL4がすべれば起こり得る。つまり、右図のようなパターンはL4前方すべり症の際に発生する。だが、すべりはすぐには発生しないので通常はL4/5の前彎が強くなれば、他の椎間板で角度の減少が起こる(真ん中の図)。
さて、興味深いことは重心とL5/S1の髄核の位置関係である。骨盤の傾きによって髄核の位置が重心より前に移動したり後ろに移動したりする。真ん中の図は骨盤がお辞儀した状態で、右の図は骨盤がのけ反った状態。真ん中のように骨盤がお辞儀すると髄核は重心より前に行くのでL5/S1椎間板には前弯ストレスがかかり、逆に右図のように骨盤がお辞儀すると髄核が後方に移動して後弯ストレスがかかる。こうしたストレスの変化は、「どのように脊椎が壊れていくか」の予測学を考える上で重要なのでしっかり頭に入れておいてほしい。
前述したが後彎した椎間板には後方すべり運動が起こりやすくなる。つまりL4/5の椎間板が1箇所壊れるだけで、その上にある腰椎に後方すべりエネルギーが加わりやすくなることを理解する。ただし、髄核が健常であればほとんどすべらない。その理由は、後方すべりは腰椎の前屈で起こりやすく、伸展で起こりにくくなる(ベクトルがすべりの逆方向を向いているから)が、後方すべりが起こりやすいであろう屈曲時には前縦靭帯以外の靭帯の張力が高まるため、すべりにくい。伸展時は前縦靭帯以外の靭帯が緩むが、ベクトルが前方に向いているために後方にすべらない。つまり、髄核が健常であれば後方すべりは起こらない。
したがって、問題は2か所以上の椎間板に髄核崩壊が起こったときである。この際、二つの椎間板は不規則に屈伸する。しかも椎間板内圧が低く、線維輪のすべり防止機構も働かない。よって後方すべりを防ぐことができなくなる。ここで重要なことは、レントゲンですべっているかいないか?が問題ではないこと! 問題は姿勢の変化で椎体が後方にすべる時に神経根を傷つけてしまうことにある。単純XPで異常がなくても髄核が壊れていれば動作時に後方すべりが起こり神経根を損傷することを知ることである。

崩壊椎間板が複数の場合

実際には椎間板の変性はL3/4、L4/5、L5/S1の3か所で同時に起こっていることが多いことは腰痛患者のMRIでの椎間板画像からわかる。中でもL4/5とL5/S1の椎間板は壊れやすく、この2か所が同時につぶれている症例は日常茶飯事に見かける。L4/5とL5/S1が二つとも崩壊すると、この両方で椎間板の前彎角度が上昇し、他の健常椎間板で後彎が起こりやすくなる。つまりL1、L2、L3、L4が直線化し、L5とS1に強い前彎がつく。
もしもL3/4、L4/5、L5/S1の3か所に椎間板の崩壊が起こると、L1,L2,L3で直線化が起こり、L4、L5、S1で前彎が強くなるが、その角度の程度は、椎間板崩壊の程度に依存する。崩壊の強いところでは強く彎曲する。しかし、いかなる場合でも重心が変化しないように角度はトータルバランスで決定する。それは決して椎間関節の角度によって決まるわけではない。
椎間板が前彎するか後彎するかは、さらに椎体の角度によっても決まり、姿勢によっても決まり、限界を超えて変性した場合でもそれに応じて決まる。決してランダムに決まるわけではない。また、それによって生じる前方、後方すべりも、力学的なベクトルで決まり、単純に椎間板の狭小化や、椎間関節の重なり合いで決まるわけではない。したがって、後方にすべる、前方にすべる、椎間板の角度異常が起こるなどの個々の現象には必ず力学的な意味がある。その意味を今まで無視して我々は脊椎の治療を行ってきた。
誓って言うが、このことを念頭においてこれからの脊椎内科・外科の治療を進めていけば、必ず脊椎学が前進する。力学を考えない整形外科医など、エンジンの仕組みを知らないドライバーのようなものだ。

後方すべりの臨床的意味

後方すべりなど臨床的に意味がないとほとんどの整形外科医はそう思っている。それが証拠にいろんな教科書を調べてみても後方すべりの項目はなきに等しい(最近になってようやく後方すべりの項目が教科書にお目見えしているが)。もちろん、アライメント異常に関する項目は全くないに等しい。つまりこれまでアライメント異常学は世界的に空白だったといえる。さて、下のX線写真を見てもらおう。
  アライメント11 左右の写真は同一人物の同一像。右は着色処理をして椎間孔をわかりやすく示した。後方すべり自体は3.5ミリ程度でしかないがL4/5の椎間孔はL4の椎体の骨棘とL5の上関節突起の亜脱臼により椎間孔を著しく狭小化している。この椎間孔に外側型ヘルニアがあったとしてもそんなものは全く無関係に骨性にL5の神経根を圧迫していることが予想される。一見、この写真ではL3の前方すべりしか目に入らない。しかし重要なのはその下にある後方滑りであるということ。
 

バカバカしいすべり論

まずは次のイラストを見てほしい。 アライメント12 これはMacnab腰痛第3版からの転載だが、後方すべりが椎体が重なり合うことによって椎間関節の傾斜によって後方にすべると述べたものだ。こういうありえない思い込みはやめてほしいと正直思う。そして整形外科医にこういう理論を教えている腰椎の専門家がいることを残念に思う(まあやむを得ないが)。前述したが、すべりには生体力学的なベクトルが大きく関係しておりこんな単純な構造が原因でずれるのではない。しかも椎間関節はこのような傾きではなく、髄核を中心とした弧を描く運動に対してスムーズに動くような関節面となっている。人間の脊椎は超高性能なバランス機器であるからして、これほど単純な構造をしていない。このようなイラストは整形外科の脊椎構造学がまだまだ開発途上(後進)であることを如実に表している。
ただし、椎体間に正常限度を超えた前彎が生じると下関節突起の最下端を中心とする脱臼が発生し後方すべりのような状態になる。以下の図では赤丸を中心軸として前彎が起こり、後方にすべるように見える状態をイラストで示した。 アライメント13
 

 新たな軸異常計測法

これまでのすべり計測法 アライメント14 これらの方法では正確な軸異常を計測できない。なぜなら椎体はこのように長方形の形をしておらず、台形や三角形に近いものもある。椎間は後彎しているものもあれば前彎しているものもあり一定した値を計測することはこれらの方法では不可能である。
本来軸異常を計測するためには、仮に軸異常がなく正常であった場合にどのように椎体が重なり合うか?を推定し、そこから逆算して今あるズレの距離を計測しなければならない。aの方法では椎間板の角度によって計測値が変わり、しかも魚椎変形をきたしていればズレを正確に把握できない。bも同様である。さらに付け加えると、α角を測定することが臨床的に何の意味を持つのか?私には理解しがたい。椎間板が狭小化した末期ではα角など意味をなさない。なぜすべった箇所の椎間板が前傾を持つのか?の原理はすでに前述した。

どこを計測するのか?

アライメント15 上図のどこを計測すれば椎体間のズレを計測できるのか?まじめに考えよう。この計測方ではいい加減な何の意味もなさない距離を測っている。椎体の傾きを無視している。
アライメント16 アライメント異常を計測するためには、「もしこの椎体同士のアライメントが正常であったとしたら、この図の赤いラインがどこで交わるのかを考えなければならない。アライメントが正常であれば、椎間板の中心線上である青いライン上で赤いラインが互いに交わる。つまり黄色の点が交わる。よってすべり(ズレの距離)を測定するならば、黄色の点の距離を測定しなければならない。
アライメント17
今度は後彎の脊椎である。どこを測定する? アライメント18
アライメント19
  これらのイラストを見比べると、今までの測定法がいかにいい加減だったかがわかるだろう。アライメント異常を見つけるためには、もしも正しいアライメントだったらどうなっているか?を基本としてそこからのズレを測ることをしなければならない。さて、この方法できちんとアライメントを測定すると、今まで見えてこなかったものが驚くほど見えるようになる。実は世の中、すべり症の人が大勢存在し、アライメントが正常な人は一握りしかいないことがわかるようになる。執筆時間がないため、一旦ここで終了とする。もっとまじめにアライメント学が発展することを心から願っている。

腰椎アライメント異常症という新たな概念」への4件のフィードバック

  1. 私は医学の事は解りませんが、自身がすべり症の為、興味が湧き
    最後まで読ませて頂きました。
    何故L3が前方にそれによりL5が後方にすべるのかが解り、自身の症状を知る大切を教えて頂き有難うございました。もし今後、固定術をする場合はズレの正確な数値を知らないで行った場合は術後に痛み等の後遺症が残るのでは….と思いました。何も知らない無知な人間なので申し訳ありません。
    とても勉強になりました。

    • 固定術を行うと、アライメントが変化することと、固定した箇所の両端に必ず不安定性が起こります。また、現代整形外科学はアライメントに関する知識がゼロに等しいので手術の成功率が低い時代となっています。固定術が悪いわけではなく、運の要素が強くなるという意味です。勉強したところで、手術する整形外科医の知識が増えるわけもありません。まあ、どちらにしても背骨はまだまだ人間の立ち入ることのできないほど複雑だということでしょうか。

  2. 初めまして、私は埼玉と群馬県の県境に住む41才男性です。

     私は、6時前に追突事故を経験して以来、背中と首回り等の不調に悩んでおります。 

     6時前に赤信号停止中、後ろから中型トラックに突っ込まれ、無警戒だったこともありその時の衝撃の凄まじさを今でも鮮明に覚えております。
     また、それと時期を同じくて(6年前)から新しく鉄鋼関係の関係の会社で重労働を初めたこともあり、現在私が抱えている背中と首回りの不調は事故と仕事のどちらが原因となっているか、自分でも良く分からないまま原因に至っております。
     
     交通事故のムチ打ちの様な症状と、重労働(1日計10トンにもなる鉄の固まりを直接手に抱えて台の上に移動させるしごと)の体の筋肉が固くなり、体が重くなり、仕事終終わりなど披露で立ち上がることもできず、寝込んでしまうこともしばしばでした。

     原因究明と治療の為、整形外科、整骨などを転々とし、何度となくレントゲンやMR Iを撮って参りましたが異常は出たことはなく、原因も
    分からず、ただの肩コリなどで片付けられてしまうこともありませんでした。

     そんな中、半ば諦らめ半分で辛い状態の中仕事をしてまいりましたが、昨年の夏に更に追い打ちをかける様なできごとに遭遇してしまいました。
     仕事場の機械が壊れ、本来機械がやるべきはずの仕事を人力でやる(超重量物を人力で引っ張り続ける作業)こととなってしまい、上記作業を2ヶ月位続けていくうちに、弱っていた体が深刻なダメージを受けてしまったようです。
     
     今での背中と首に加えて、下半身の痛み、股関節痛と、ぎっくり腰の様な症状(特に朝の入浴後に出現)などがでてきてしまい、仕事も辞めざるを得なくなり、今年の5月より退職して療養をしておりますが、一向によくなりません。

     なお、今年6月の検査にて大学病院でペット検査を受ける機会を得て、検査の結果、仙腸骨に炎症反応を認められたのことで、強直性脊椎炎と診断されました。この病気の判断基準でもあるHLA-B27は陰性との事でした。
     また、血液検査では異常はなく、リウマチでも膠原病でもないとのことでした。
     
     春先位から、痛み止めのジクロフェナクナトリウムを1日2回、3ヶ月位飲んでいましたが効果がないのか痛みが引くことはなく、その旨を医師に伝えた所、ジクロフェナクナトリウムに加えて、アザルフィジンを1日2回追加され、2ヶ月位飲んでいましたが、殆ど痛みもひかず、
     今度はジクロフェナクナトリウムにかわり、プレドニゾロンを1日2回に加えて、漢方を二種類1日3回飲んでいますが、ほとんど効いたと言う感じはありません。

     現在は仕事は辞めて働けていないので、収入は全くありません。もう半年にもなります、加えて診断費や薬代はかさむ一方です。
     しかも、それらの薬は効かず、全く症状が軽減される事もありません。よって、何にも将来に巧妙が見い出すことができず、このままでは
    うつ病にまでなってしまいます。

     先生のレポートも拝見させて頂いており、薬の害や怖さも認識しております。
     初めのうちは私は嫌なので、処方された薬は飲んでいなかったのですが、やはり症状を進行させないようにと言われ、また自分でも痛みから逃れる為、薬を飲むことにしたのです。
     ですが、よりたくさんの薬、より強い薬とこの悪循環を断ち切りたいです。

     先生のレポートを見てたいへん勇気と希望をいただきました。先生が最後の希望だと思っております。先生の治療を受けさせてください、
     宜しくお願い致します!!

     最後に、長々と書いてしまいまして本当に失礼もうし上げます。私が現在抱えている症状をあげておきます。

     背中の痛み、首の痛み、喉が締め付けられる様な痛み、喉がスースーなる、喉が締め付けられ、呼吸が苦しくなる、呼吸が深い、食べ物が飲み込みづらい、両腕の痛み、股関節の痛み、
    時々の仙腸骨の痛み、両膝の裏の関節のいたみ、手の指の付け根が腫れぼったい、痛い、
    たまに足の指の関節、手首の関節痛、足首の関節痛、関節部の痛みは両腕、両ひじが1番強くモノが持てないほどです。
     両耳が最近ヒドイです。キーンと始終してます。難聴かもです。頻尿がひどい、不眠症もヒドイです。目が腫れる、ものもらいが頻繁におこる。
      肥満症で現在135キロ位あります、
    先生、宜しくお願いします。。

    • すでにお気づきでしょうが、135キロの肥満がすべての原因となっています。全ての・・・と言ったのは超肥満体ではブロック注射などが不可能に近くなることが「治療をしてもらえない大きな原因」になるからです。針を刺そうにも届かないのです。しかも針の位置決めは骨格を参考にするのですが、肥満体では骨格を指で感じることができないため、全てが勘となり、成功する保証もありません。そして、万一成功したとしても、それはまぐれで運任せであり、かつ莫大な治療時間と労力がかかるので実際に治療費が普通の患者の数倍かかります。しかし、あなたからは普通の金額しか請求できませんので、大きな赤字をくらいます。これらの理由から肥満体では「治療が出来ない」という現症がおこり、検査と飲み薬のみとならざるを得ません。医学の限界は患者自身の体型に左右されることを真剣に考えねばなりません。

       万一、運よくブロックが成功するとしても、それを行うと外来では周囲の患者に必ず迷惑をかけます。時間と手間が莫大にがかかるからです。治療を行う医師にだけ迷惑をかけるのではなく、そこに通院する全員に迷惑をかけることになります。その迷惑を料金換算すると、通常料金の5倍は請求しなければわりに会いませんので、結局最後はお金の問題もからんでいます。それだけの迷惑をかける治療となるのに、ダイエットを行うという努力を、本人が全く行わず、全て他人任せで迷惑治療をお願いします。と医師に希望することはあまりにも傍若無人なふるまいとなっています。

       治療を希望する前に、せめて病院やそこに来院する患者たちに迷惑をかけないように、ダイエットする努力をしなければ、ブロックを受ける権利さえ生まれません。また、体型が超肥満体であると、一般の人と立体的な構造が異なるため、ブロックで危険な状態になる確率が何百倍にも上がります。医師にはその責任まで負うわけですから、誰も手を出さないのは当たり前となります。ブロックに命をかけるなんてことは、医師も患者もやりたくありません。そうならないためにまず行わなければならないことは体重を100キロ以下にまで減らすことです。それができない限り、ブロックで治療するという選択肢がありません。

       ブロックをする医師は命がけで行います。しかも奉仕活動同然です。にもかかわらず、あなたは自分の症状を治す努力を全くしていないとなると、誰があなたに手をさしのべるでしょう? 人間としての再起をかけるわけですから、あなたが全力を尽くさないでどうするのですか? あなたの人生ですよ。自分の人生を他人任せにするのはやめなさい。自分の力で「ブロックが出来る体形にまで戻って来なさい。治療の話はそこからです。

       現代医学ではあなたのような超肥満体の関節痛を治せないことを早く理解しなさい。それが理解できれば「自分で自分の体を治す」ことに目を向けるようになれます。治せない現代医学にお金をいくらはらっても、それはドブに捨てるのと同じであることに早く気づきなさい。そしてお金がない現在、借金してでもお金をかけるべきところはフィットネスクラブです。そこには管理栄養士がいますので、食事制限の厳重な管理をしてくれます。お金はかかりますよ。運動ができないあなたを食事制限だけでやせさせるには、管理栄養士にも相当大きな迷惑をかけることがわかりきっているからです。

       そして最後に真実を述べますが、食事制限を急激に行うと、さらなる体調不良となります。あなたの場合、食事制限でさらに病状が悪化するリスクが一般人の何百倍も高いでしょう。その責任を他人になすりつけることだけは絶対に行ってはいけません。全て自分の責任で行なわなければなりません。一刻早く治したいがあまり、急激すぎるダイエットを行えば、病気になることはあまりにもわかりきっています。ですから、少しずつ行わなければなりません。それらのリスクを管理栄養士に責任をなすりつける可能性があれば、あなたを指導する栄養士は存在しなくなります。

       アメリカでは、そうした時にすぐに訴えられますから、最初から料金に賠償金が上乗せされています。だから超肥満体では何十倍もの料金を支払わなければなりません。日本では、訴えられないかわりに、何か不具合が起こった時に自ら責任をとることが課せられていると考えるべきです。100キロ以下になれたら再度連絡ください。そこからブロック治療が可能になると考えてください。人生を変えるのは自分自身です。

       ダイエット最中に、どうしようもないほどつらい症状が出た場合は、相談ください。

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